ザ・グレート・展開予測ショー

#挿絵企画SS『変わったバレンタイン』


投稿者名:G-A-JUN
投稿日時:(04/ 2/14)

2月14日―――早朝

珍しく横島先生の方からサンポに誘ってくれた。すごくうれしくて、たまらず横島先生を抱きしめた。
自分の気持ちをめいいっぱい伝える。
普段なら、すぐに拙者のことを離そうとしてくるけど、今日は違った。

「先生?・・・」

優しく抱きとめてくれた。温かい腕の中で、そっと見上げると、笑顔を見せてくれながら優しく頭を撫でてくれた。

そして・・・

「え!?・・・よ、横島先生!?」


そこで、ハッと目が覚めた。目の前にはさっきまで見ていた横島の顔がある。

「わあぁぁぁーーー!!!」

慌てて飛び起きると、1枚の薄い紙の中にいる横島は風を受け飛び上がり、宙を舞うと、ヒラヒラと自分の布団の上に落ちた。

いつも枕元に置いている、大切な横島先生の写真だった。
とっくに、さっきまでの出来事が夢だったことには気づいたけど、写真に写っている横島先生の顔を見ただけで、夢の内容を思い出してしまい顔が真っ赤になる。


「朝っぱらから、なに騒いでるのよ、バカ犬」

声がした方を振り向くと、上半身だけを起こして冷たい視線で、こちらをにらんでいるタマモがいる。

「朝っぱらからずいぶん騒いでくれたけど、気はすんだ?」
「う、タマモ、起こしてすまないでござる・・・」

今回ばかりは自分に非があるため言い返すことができない。
シロが黙っていると、タマモはタマモで、もっと言いたいことはたくさんあったのだろうけど、突然起こされて全然寝たりないと、寝ることを最優先に決め込んだ。背中を向けて布団に潜り込む。

「ホントすまんでござるよ・・・」
申し訳なさそうに、あまり音を立てないように着替えていると、また写真が視界に入り夢の出来事を思い出してしまい暴れそうになるが、なんとか心を静める。
視線をタマモの方にずらす。―――どうやらタマモは、本格的に眠り始めているようだ。

今度タマモを起こしたら何されるかわからないでござる。
早くサンポに行くでござる。

別のことを考えて気を紛らわそうとする―――けど、できない。
自分の顔が紅くなっているのがよくわかる。

いつも以上に慎重に階段を降りる。その後も、今度はおキヌちゃんを起こさないように足跡を忍ばせて玄関のドアを静かに開ける。
一歩踏み出し外に出ると、一気に気が軽くなった。少し寒いけど吹いてくる風や太陽の光がすごく心地良い。
横島先生は学校だから今日は一人だけのサンポ。少し寂しいけど、良かったかもしれない。
今は横島先生と顔を合わせることができそうもない。できたとしても何を話したらいいかわからない。
うっかりすると、夢のことを話してしまい、横島先生に笑われそうだと思う。

いつものサンポコースを手早く駆け抜けた。
そして、途中で横島先生と休憩する公園で一息。
走ったり、いっぱい考えたりして、心もだいぶ落ち着いた。でもその分、夢だったことが、少しずつ残念になってくる。

―――サンポに誘ってくれたこと
   抱きしめてくれたこと
   そして………もう少しで先生と―――

「はぁ・・・」

なんで、もう少し目を覚ますのを遅らせれなかったんだろう?
すごく恥ずかしかったけど、あとほんの少し恥ずかしいのをがまんしていれば・・・
せめて夢の中だけでも先生にもっと好かれたい。
横島先生がいない分、いつもよりも多く周れるけど、あまり気が乗らない。
どんなときでも、やっぱり横島先生がいないとサンポは楽しい気がしない。
適当に切り上げて事務所に帰ることにした。


朝食を食べたあと、おキヌちゃんは、再び台所で何かを作っているようだった。
もうお昼ご飯? と、思ったけどなんだか違うようだった。
台所から何か甘いにおいがする。
入ってみると、思った通りおキヌちゃんが何かを作っていた。

「あら? シロちゃん、どうしたの?」

台所の前で不思議そうに眺めているシロに気づき、料理をしていた手を止めた。

「何をしているんでござるか?」
「今日はバレンタインデーだから、横島さんにあげるチョコレートを作っていたのよ」
「ばれんたいんでー? 何でござるか?」

ばれんたいんでーとチョコレート? 何の関係があるんだろう?

「バレンタインデーって言うのはね―――」

―――おキヌちゃんから一通りの説明を受けた―――

「そうなんでござるか・・・」

説明してもらったけど、あまりよくわからなかった。でも、好きな人にプレゼントをする日、と言うことはわかった。

「! 拙者、出かけてくるでござる!!」

シロは横島にプレゼントをすること思いつくとすぐに事務所を飛び出していった。


一方、横島は横島で望んだわけでもないのに囲まれていた。

「俺が何をしたっていうんだぁーーー!!!」

別に横島が何か悪事をしたというわけでもない、ただ横島の靴箱の中に再びチョコレートが置かれていただけだ。
しかも、今回は1つ増えて2つ。
またしても混乱が起こり、校内が慌てふためいている。
今回は責任が半分だけある1つ目のチョコレートを送った人物である愛子は、この学校で自分以外にも横島クンのことを・・・と青春に燃えていた。
そして、自分のライバルを見つけだそうと周りを見渡していると一人の人物を見た瞬間、ハッと思い出した。

―――昨日の夜、この学校を訪れた人物がいたことを―――

自分の視線に気づいていないその人物に心の中で訴えかける。
あなたもなの?
あなたも横島クンのことが・・・
負けない………
絶対負けないわよ!
私が勝ってみせる!!

愛子が完全に自分の世界に入り青春を感じている。その脇の方では、「俺じゃない!!」とか、「そこまで落ちぶれていない!!」と必死に喚き続けている一人の青年の声は耳には届いていない。
結局横島は、今回も自分の仕業だと決め付けられてしまった。

「何でみんなわかってくれないんだ・・・本当に俺じゃないのに・・・」

一人寂しく呟きながらの帰り道。どこかというか、ものすごく落ち込んでいる。
アパートに着き、ドアを開ける。―――玄関にクツが一足並んでいた。

「誰のだ? って考えるまでもないか」
「横島先生! お帰りなさいでござる!!」

思ったとおりシロが飛び出してきた。そのまま、抱きつかれ顔を舐めまわされる。
最近では毎日の様にされているため、これでもシロの扱いにも慣れているつもりだ。
少しの間、コイツのしたいようにさせて、少し落ち着き始めてから、引き離せば―――・・・離れない。
いつも以上に強く抱きついてきている。ならば、こっちも強く引き離すだけだ。

「いいかげん、離れろ!!」
「ク〜ン・・・ひどいでござるよ、横島先生。拙者ずっと待ってたんでござるよ!」

ずっと正座をして自分の帰りを待ち続けていたらしい。
それなのに、いきなり引き離されて、少し不満だったため、腕を組むようにして抱きついてくる。
話が進まないからそれぐらいは許してやる。

「・・・で、何しに来たんだ?」

なんとなく予想はしている。
今日は朝のサンポに付き合ってやらなかったから、今しようと言うに違いない。
元々だが、いつもより気が乗らない・・・
だが、予想していたこととは違っていた。

「とりあえず、早く上がってくだされ!」

腕を引かれるままに部屋の中に誘われる。部屋に入ると、何故かシロの手料理が作られていた。テーブルの上にはたくさん皿が並べられている。

「・・・どうしたんだ? コレ」

料理を指差しながら、シロに聞いてみる。

「今日は、ばれんたいんでーでござる!!」

早速、今日覚えた単語で答える。
横島にしてみれば、ものすごく見当違いの答えになっているだろう。

「いや、それはわかるんだが」

しかも、いらない誤解をされて―――いかん、また泣けてきた。
それにしても・・・なぜ肉料理?

「バレンタインならチョコレートじゃないのか?」

思ったことを口に出したが、途端にシロの表情が少し暗くなった気がした。

「・・・横島先生は、チョコレートの方が良かったでござるか?」

明らかに少し落ち込んでいる。

「いや!! 全然そんなことはないぞ!!」

たんぱく質が不足している時にシロの手料理は本当にうれしい・・・偏ってるけど。
何度も首を横に振りながら答えたが、あまり効果はないようだ。

「ムリしなくてもいいでござるよ・・・」

イカン、本気で落ち込んでる。こうなると食うに食えん。

「こっち来いよ。撫でてやるから」
「・・・いいでござるよ」

一瞬ピクリと反応したが断られた。

ったく、こういう時はどうすればいいんだ?
少し考えてみる
   ・
   ・
   ・
   ・
イヤ、これはマズイだろ…って俺は何を考えているんだ!?

他にもっとマシな方法があるはずなのに、必死に考えてもこれしか浮かばない。
しかたない。と実行を決意する。
少なくとも効果的であることは間違いないから。

「なぁ。頼むから、ちょっとだけこっちに来てくれよ」
「・・・わかったでござるよ」

恐る恐るだが、少しずつ近づいてきてくれた。

別に怒るわけでもないのに・・・まぁいいや。
・・・で、こっからどうしよう?
来てくれるまではいいが、いきなり浮かんだことを実行するわけにもいかない。
とりあえず適当に話すしかないか。

はぁ。と溜め息をつく。そして話し始めた。

「あのさぁ、シロ。俺はただ、バレンタインなのに、お前が肉料理を作っていたから驚いただけなんだぞ」
「え?」

呆けた顔になる。

「・・・やっぱり誤解してやがったな。俺は・・・いいや。いちいち説明するのも面倒だ。とりあえず、ありがたく頂くけど、ホントにいいのか?」
「横島先生のために作ったんでござるから、当たり前でござるよ!!」

食べてもらえるなら、うれしいでござる。と、抱きついてきた。
今度は突き放さずに、優しく抱きとめてやる。

「わっ!?」

慌てて離れようとしたが、夢のことを思い出した。
このまま離れなければきっと横島先生は・・・
いきなり声を出すから、離れるかと思ったら、まだ抱きついている。

「お〜い。シロ〜。いつまでこうしていればいいんだ〜」

ずっとこうしていれば横島先生が夢の中ではできなかったことをしてくれると思って、恥ずかしいのをガマンしていたのに、夢の時とは全然違う反応をされた。
やっぱり夢のようにはいかないけど、それでもすごくうれしい。

「横島先生が離してくれないから、ずっとこのままでござるよ♪」
「じゃ、いいかげん離れろ。お前が作ってくれたメシが食えん」

正直そろそろガマンの限界だった。こうして、いつまでも抱き合っていると気がおかしくなりそうだ。
シロは、すごく名残惜しそうに離れた。

「あとでまたしてくれるでござるか?」
「二度とやらん!!」

即答されて、残念そうにしているシロを無視して、テーブルに着きシロの料理を勢いよく食べまくる。
無視しないと間がもたない。

「おいしいでござるか?」

食べることに夢中になっている横島に問いかける。

「ん? ああ、うまいよ。ただ、いくらなんでも俺一人だと食いきれんぞ」
「ちょっと張り切りすぎちゃったでござるな」

どうしようと真剣に悩んでいる。

「一緒に食べないか? と誘ったつもりだったんだが」
「え!? でも横島先生のために作ったんでござるよ?」
「別に俺にくれたんなら、どうしようと構わないだろ? お前だって腹ぐらい減ってるだろ?」
「う、それは・・・」

作るのに夢中で昼食は抜きだったから、実はすごく減っている。聞かれたら恥ずかしいから音が鳴らないように気をつけているけど。

「食べ終わったから事務所までの道のりだけなら、サンポに付き合ってやるから、食べておかないと動けないぞ」
「ホントでござるか!!」

サンポという単語に反応し、すぐに横島と向き合って座る。

「あ、ああ。今日のお礼も含めてな・・・」

少し早まった気がする。
まぁ、うっかり言ってしまったのは仕方ないけど、シロの喜ぶ顔が見れるならいいか。

シロも加わって食事を再開する。
二人で食べるにしたら、この量ぐらいなら、なんとか・・・

「なあ、シロ。張り切るのはいいけど、次からはもう少し作る量を考えような」
「そうするでござる・・・」

シロと目の前の皿を少しずつきれいにしていく。


「よし。そろそろ行くか。」
「横島先生、早く! 早く!!」

素早く外に出て、横島を待つ。

「あぁ。今行く」

階段を降りて、外にいるシロに追いつく。

「じゃ、行くか」
「うん!!」

サンポの距離は短いけど、横島先生が側にいてくれるだけど、本当にうれしい。
朝の時とは全然違って、すごく楽しい。
やっぱり、サンポは横島先生と一緒じゃないと、あまり楽しめない。


シロのサンポで全力疾走を覚悟していたが、いつまでも走ろうとはしないで、ただ腕を組まされて歩き続けている。

「なぁ。シロ、お前いつから、趣向変えをしたんだ?」
「別に変えてないでござるよ? ただ今日は距離が短いから、ゆっくり歩いた方が横島先生と一緒にいられる時間が長くなるからでござる!」
「そういうもんなのか? ま、こっちとしては助かるけど」

横島が適当に感想を述べている横では、シロがうれしそうに歩いている。

今日の朝に見ていた夢が本当に起きた。
抱きしめてもくれたし、今こうして横島先生から誘ってくれたサンポを楽しんでいる。
本当はもう一つだけ、夢の中ではできなかったけど、してもらいたいことがある。
でも、今は言えないことはよくわかっている。すごく恥ずかしいし、そんなことを言える勇気もないから心の中に閉まっておく。
いつかは勇気を出して言えることを信じているから。
だから今は横島先生の傍にいられるだけで十分・・・でも、できれるだけ少しでも長く一緒にいることができるようがんばらないと。

明日はちゃんと朝のサンポに付き合ってもらうでござるよ。横島先生♪


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