ザ・グレート・展開予測ショー

#挿絵企画SS『へにゃ…』


投稿者名:BOM
投稿日時:(04/ 2/14)


その日、家に帰るとシロがいた。
多分シロが掃除したんだろう、いつの間にかキレイになった部屋の真ん中にちょこんと座っていた。

「せんせ、おかえりでござる♪」
「・・・シロ?何やってんだ?」

ドアを開けた時、思わず目が点になった横島だったが、取り敢えずシロに聞いてみる。

「何って、先生を待ってたんでござるよ」
「俺を?」

横島は何故だろうかといった表情を浮かべてシロの前に座った。

「そんなことより先生!コレを受け取って欲しいでござる!」
「へっ?コレは・・・?」

シロが横島に差し出したのは、赤い包装紙に包まれた四角い箱。
丁寧にリボンも巻かれ、『先生へ  シロより』と書かれたカードも添えられている。
一体何なのだろうかと思った横島は取り敢えずシロに聞いてみた。

「シロ、何だコレ?」

横島にそう聞かれたシロはにんまりと笑って、

「何を言ってるんでござるか、先生?今日は『ばれんたいんでー』でござろう?
 女が男に『ちょこれーと』と共に愛を伝える日ではござらぬか」

シロは元気にそう言った。
そして今日がバレンタインである事をやっと理解した、というか思い出してしまった横島。
思い出してしまった、というのは今日学校で起こった事が原因だ。
学校の中は朝っぱらからチョコを渡すつもりの女子でいっぱい。それにピートが貰うならまだしも、
あのタイガーまで、

「横島サーン!ワシも魔理さんからチョコもらえたんジャーッ!!」

と嬉し泣きする始末。一個も貰えていない横島がひがむのは当然。更に何故か愛子が、

「横島クン・・・コレあげる!」
「マ、マジ!?俺にっ!?」

とチョコを渡してくれたのは良かったのだが、周りの男共に

『そんなバカなことがあるか!』『横島にチョコを渡すなんて自殺行為だぞ!』『考え直せ、愛子!』

等と騒がれて煮えたぎった湯につけられそうになってしまったのだ。
もはや苦笑するしかない横島。シロの真心もムダにはできないし。
そしてそんな横島にシロはこう言葉をつなげた。

「・・・ところで先生は他にチョコを貰ったんでござるか?」
「え?あ、ああ。一応な」

横島はポケットからそのチョコを取り出す。ピンクの包装紙に包まれていかにも手作りっぽい雰囲気だ。
シロはそれを見た時、ちょっとだけ表情を曇らせた。

「・・・先生、それだけでござるか?」
「わ、悪かったな」
「それが今日初めて貰ったチョコでござるか?」
「え?いや、まぁそうだが・・・」

横島がそう言うやいなや、何を思ったかシロはいきなり横島に向かって突進した。
横島の手の中にあったそのチョコを素早く取る。横島が気づいた時、チョコはシロの手の中にあった。

「あれ?って、おい、シロ!?」
「ダメでござる!先生に一番最初にチョコを渡すのは拙者でござる!こんなもの・・・!?」

そこまで言ってシロは突然言葉を詰まらせた。

(何か、何か匂う?)

シロはそう思った。何だかわからない匂い。でも決して悪くはない匂い。シロはくんくんと匂いを嗅ぎ、
その匂いが手に持っているソレ――チョコから発せられるものだと気づいた。

(一体何なんでござる?)

そう思ったシロはチョコを顔の前に持ってきてくんくんと匂いを嗅ぐ。
そんなことをしている内に横島がシロに詰め寄った。

「おいっ!シロ!?」

横島がシロの手からチョコを奪い取ろうとしたその時、
ポロッ・・・
シロの手からチョコが転がり落ちた。それと共にシロが横島にもたれかかる。

「シ、シロ?」
「へにゃ・・・♪」
「・・・へにゃ?」
「んふふふ・・・せんせーっ♪」
「どわあっ!」

シロがいきなり横島に抱きついた。不意をつかれて後方へと倒れる横島。
横島がシロに乗っかられている状態だ。

「シロ?どーしたんだ?」
「へにゃははは♪せーんせ♪」

横島の問いにも答えず、ただ嬉しそうに抱きついてくるシロ。しっぽなんかいつも以上にぶんぶん
振っている。ほのかに頬が紅く、目もうつろだ。それにちょっと・・・酒くさい。

「コイツ・・・酔ってるっ!?でも何で・・・あっ」

そこまで考えた横島の思考は簡単に答えに辿り着いた。

「あのチョコ・・・!」

さっきシロが落としたチョコに手を伸ばす。やっとの事でそれを手に取り、顔の前に持ってきた。
そして一言。

「ウ、ウイスキーボンボン・・・しかもけっこう匂いキツイ・・・まさか、匂いで?」

一瞬横島は自分の考えを疑った。いや、しかしあり得なくもない。
酒の匂いだけで酔っぱらう人もいるのだ。ましてやシロの嗅覚は人を遥かに上回る。汗とタバコと
コーヒーの匂いを一発で嗅ぎ分けた事もある・・・十分にあり得ることだ。

「ふにゃ・・・せんせぇ、シロは酔ってなんかないでござるよ♪・・・ヒック!」
「しっかりと酔ってるじゃねーかっ!というか一旦離れろー!」

だけどもシロは離さない。顔をペロペロと舐めながら逆に両腕両足にもっと力を込めて抱きついてくる。
横島はそれをふりほどこうとするのだがガッチリと固められていて身動きが取れない。
ジタバタともがく横島に、シロはやっぱり目をうつろにしながらこう言った。

「せんせぇ、何で拙者から離れようとするんでござるか〜?こんなに先生の事が好きなのに〜?」
「いや、好き嫌いとかじゃなくてだな、苦しいから・・・」
「へにゃ?拙者は苦しくないでござるよ♪」
「お前じゃねーっ!」

必死になってそう言う横島なのだが悲しいかな、今のシロに何を言ってもムダらしい。
もういいや、と横島が半ば諦めていた時、急にシロが抱きつく力を弱めた。驚いてシロを見る横島。

「せんせぇ・・・ヒック!」

そう言うシロの表情は、先程の笑顔とは全然違う。悲しげな表情、目にはうっすらと涙。その涙が横島の顔に
ぽとりと落ちる。さっきとは打って変わったその顔に、横島は一瞬戸惑った。

「せんせぇは・・・ヒック!・・・先生はシロが嫌いなんでござるか?」
「はい?」
「拙者はこんなに先生が好きなのに・・・ヒック!・・・先生がシロを嫌いなら意味がないでござる!」
「・・・ばかたれ・・・」

横島はそう言ってシロの頭を抱き寄せて優しく撫でた。壊れ物を扱うよりも優しく、触っただけで割れて
しまうシャボン玉を掌に乗せるより優しく。

「バカだな、シロ。俺がお前を嫌いな訳ないだろ?」
「せんせぇ?・・・ふぁ・・・へにゃ・・・」
「俺がお前の事キライになったら、誰がお前を散歩に連れて行くんだよ?・・・って、」

横島が優しくシロにそう言うのに、シロからはなんの返事もない。
肩に感じる、規則的な上下の動き。更に聞こえる、こんな音。

「すぴー・・・すぴー・・・」
「寝てやがる・・・」

たははっ、と苦笑しながら横島はシロの頭を撫で続ける。
ふとさっきの赤い箱が横島の目に入った。それはシロが持ってきてくれたチョコの箱だった。
































「ふにゅ・・・大好きでござるよ〜、先生〜♪・・・あれ、ココは・・・?」

シロが目を覚ますとそこにはいつもの見慣れた風景が見えた。
事務所の屋根裏部屋、その天井。窓の外から入ってくる夕陽で天井が紅く染まっている。
ふと気づけば自分には毛布がちゃんと掛けられていた。

「・・・先生?どこでござるか?」

シロは不思議に思って部屋を見回す。さっきまで横島の部屋にいたはずなのに。
キョロキョロしているうち、自分の枕の傍らに赤い箱が置かれているのを見つけた。横島へのチョコを
入れていた箱が置いてあるのを。その上に、白いカードが置かれていた。まさか、夢?
不思議に思ったシロはそれを手に取り、寝ぼけ眼をさすってからそれを見た。

「え〜と、何々・・・シロへ。さっきのチョコは・・・


『シロへ。

 さっきのチョコは本当に美味かった。お前が酔っぱらって寝ちまったから目の前で食べてやることが

 できなかったけど、ちゃんと食べさせてもらったからな。・・・なぁ、シロ。

 お前、『ホワイトデー』って、知ってるか?     横島   』

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