ザ・グレート・展開予測ショー

長編・GS信長 極楽天下布武!!(1)


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 2/13)

人生は
重き荷を背負いて
長き道を行くが如し















信長達の記憶が入れ替わってから四日目。
妙神山修行場。
勝竜姫とタツリオは,縁側で茶をしばいていた。
「ムラマサ,帰っちゃったでちゅねえ」
「ええ……まあ,別にもう会えないと言う訳でもないですし」
「そうでちゅねえ」
「そうですよ」
「『がっこう』とか言う所には,絶対遅刻したでちょうねえ」
「……そうですねえ」
「猿は如何したんでちゅか?」
「老師は,神界に用が有ると言って,今朝早く出かけましたよ」
「そうなんでちゅか」
「そうなんです」
「……」
「……」
「ズズ……」
「ぷはぁ〜」
雲海を見据え,ナゴナゴなお二人。
……しかし,そんな雰囲気をぶち壊す,招かれざる来訪者が来ていたのに,二人は気付いていなかった。

ドオォン!!
「!?」
「何です!?」
突然,修行場の奥で爆音が聞こえた。
同時に,鬼門の二人が走ってくる。
「何事です!?」
「そ,それが,我々にも……」
「っ!勝竜姫様,危ないッ!」
「!」
斬!
勝竜姫の神剣が,“何か”を斬った。
それは,間違いなく“人間”であった。
「な……何時の間に!?」
「気付かなかっただろう?所詮お前等,その程度の器だと言う事さ。勝竜姫様?」
「何……!?」
不意に掛けられた聞き慣れぬ声に顔を上げると,其処には十数人にも及ぶ黒ずくめの集団が居た。
「あ,貴方達,如何やって此処に!?」
勝竜姫の問いに,人間達が口々に答える。
「ふ。我々は“人間”ですよ。貴女方神族や魔族に比べ,力が無い分,頭が回る」
「人間は知恵を使う事によって,他の獣達を淘汰し,神や物の怪から身を守ってきた……」
「それは結界技術においても然り。俗界の結界は,神界のそれに比べ遙かに勝っている!」
「この程度の結界,我々の化学力を持ってすれば,破る事は訳無い」
「序でに,貴女達の目を誤魔化すのもね」
「……!何が目的です?」
再び,勝竜姫が問う。
「答える必要は有りませんね。今頃は隊長が,“目的”を果たしているでしょうから」
「何ですって……!?」
「……勝竜姫様」
激昂する勝竜姫の前に,勝家が進み出た。
「勝家……?」
「相手は人間とは言え,多勢に無勢です。……此処は私に任せて,ひとまず,お逃げ下さい」
「なっ……!何を言ってるんです!私も戦います!」
「……相手は人間ですよ」
「……っ!?」
「勝竜姫様に,人間が斬れるのですか?」
「――それは……!」
「……勝竜姫様は,人間を“護る対象”としか見ていない。対等の存在とみてはいないのです。そんな心持ちで戦う等,相手にとって失礼極まりない……。それを払拭出来ぬ限り,貴女は戦うべきではない……」
「……」
「信盛。勝竜姫様とタツリオを頼んだぞ」
「え?お,応。任せておけ!」
「……うむ」
勝家は,少し頼りない相棒に向かって,しかし信頼を込めて頷いた。相変わらずの仏頂面だったが。
「逃げる迄の時間なれば,私が稼いでやる……!」



「……あれ?」
妙神山の中腹。
下山途中の藤吉郎は,妙な胸騒ぎを覚え,来た道を振り返った。
「何だろう……?何か,とてつもなく不味い事が起こってる様な……」
それは,藤吉郎の優れた霊感のなせる業であったのだろうか。
「……戻らなきゃ……!」
自分の中の“何か”に突き動かされ,藤吉郎は再び山を登り始めた。



「……?」
“彼女”が仕事を終えて戻ってきた時,何故か部下達の気配は無かった。
「一体,何が……」
そう呟いて縁側迄やって来た彼女が見たものは……

一人残らず倒れ込んでいる部下達と,
                 その真ん中に立つ,一匹の“鬼”だった。


「これは……」
「……」
“鬼”――勝家が,女の方を向いた。
「……貴様が“隊長”か……?」
「……そうよ」
女は,理知的だが,それでいて何か危ういものを感じさせる,不吉な美女だった。年の頃は分からない。年齢不詳と言った感じのルックスで,落ち着いた目元や悪くはないプロポーションは三十代と言っても通るし,しかし何処となく幼い顔立ちは未だ十代の少女にも見える。
「何が目的でこんな事を……?」
まさか簡単に答えてくれるとは思わなかったが,一応問うてみる。
「日本国内で,神界とチャンネルが繋がっているのは此処だけ……。つまり,此処を潰してしまえば,国内で何が有ったとしても,神界は当分の間何も出来ないって訳よ。……ま,俗界のいざこざに神様がしゃしゃり出て来る事もないと思うけど,一応,保険をかけとくに越した事はないでしょう?」
……したら,あっさりと答えてくれた。
「……」
「嘘じゃないわよ。……もう,目的は果たしたんだもの。話してしまったって問題無いわ」
「それは如何かな……?」
「如何言う意味かしら?」
「此処でお前を捕えれば,その発言にも価値が出てくるのではないか?」
「……へえ。面白い。部下達とやりあったその身体で,更に私とやろうって言うの?」
「馬鹿にするな……。まあ,お前の霊力が並ではないのは認めるがな」
「あら,有り難う。でも,私も門番鬼如きに負けるつもりは無いわ」
そう言うと,女は霊気を練り上げて武器を作り始めた。
やがて,霊気は大鎌の形を成した。
「序でに名乗っておきましょうか。……如何せ顔を見られてしまったのですしね。我が名は,ゴーストスイーパー・植椙景勝(うえすぎ・かげかつ)」
「……妙神山修行場・右の鬼門“勝家”。いざ,参る!」


ギイン!
「――」
「……!」
三合程打ち合い,二人は間合いを取った。
「成程……!素手で私の霊気の鎌と打ち合うとは。凄まじい力と,そして体術ですね。この上なくシンプルだが,しかしそれ故に強い……。流石,部下達を倒してしまっただけの事は有りますね。部下達も,あれでそれなりの手練れ揃いだった筈なのですが」
「ふ,確かに手強かったがな。……貴様も,降参するなら今の内だ。言っておくが私は,人間だろうが女だろうが,手を抜くつもりはない」
「まあ,恐い。ですけど,ご忠告には従えませんわ」
「そうか。ならば,力ずくで聞かせるのみ!食らえ,『瓶割り』!!」
勝家渾身の右ストレートが景勝に迫る。
「くっ……!」
余りのスピードに避ける事も出来ず,景勝は霊気の鎌でそれを受け止めた。
「う,おおぉぉぉ……!」
「く……あぁぁ……」
駄目だ,受けきれない……!
ドゴォ!
幾分勢いを殺されたものの,盾代わりとなっていた霊気の鎌を破壊した勝家の拳は,見事景勝の顔面にヒットした。
「がはっ……!」
口から血を吐いて倒れて行く景勝。
そんな彼女に勝家が追い打ちを掛けようとしたその瞬間,
ズバン!
「な……!?」
勝家の身体が,傾き十字に切り裂かれた。
「何だと……?」
「……貴方が次の攻撃に移る瞬間,その瞬間だけは,貴方の身体も少しばかり緩む。その少しが有れば,私にとっては十分……」
倒れる寸前で踏み止まった景勝が,そう解説する。
そう。勝家のパンチにより真っ二つに割られた霊気の鎌は,景勝の手を離れた後,それぞれが又た鎌の形を成し,勝家を切り裂いたのだ。
「この鎌は私の霊力で出来てるのよ?割れたからって攻撃力が減る訳じゃない。そして,当然,私の思う通りに動かせるのよ……!」
そう言うと,膝をついた勝家に向かい,景勝は無数の霊波の弾――小さな鎌の形をした霊波弾を勝家に向け放った。
「ぐわあああ!」
無数の刃は勝家に降り注ぎ,その内の幾つかは体内に押し込まれ内蔵に迄もダメージを与えた。
「ぐう……っ!」
「止めよッ!」
景勝は再び巨大鎌を作り上げると,俯せに倒れている勝家の背中に思い切り突き立てた。
ドスゥ!
「ぐっう……!」
「未だ意識を失わないの?何てタフな鬼なのかしら。……でも,其処迄やったらもう指一本動かせないでしょう」
実際景勝は,自分でも嫌になる位に徹底的にやった。そうしなければ負けていたのは此方だったのだから。真剣勝負で手を抜く等,自殺行為でしかない。……彼女の中のサディストな部分が,少しばかり疼いていた事も否定は出来ないが。
「ぐっ……!舐め,るな……っ!」
だが勝家は,未だ闘志を失わぬ目で景勝を見上げている。
「ふ,馬鹿な。この期に及んで何をそんな――」
言いかけた景勝の顔が恐怖で引きつった。
なんと,勝家の首が身体から外れ,此方へ飛んで来るではないか。
「な……!」
“身体と首を切り離せる”。鬼門の特性の一つである。
ガキャッ!
ブシイィィ!
吹き上がる血の噴水。勝家は,景勝の頸動脈を噛み切った。
「首だけでも,貴様を殺すのには十分だ!!」
――と思ったが……
「何……!」
勝家が殺したのは景勝ではなく,倒れていた“隊員”達の一人であった。
「部下を盾に……!?」
「そう言う事っ!」
ザンッ!
「がはあっ!」
その隊員の遺体毎,勝家の頭は景勝の鎌に斬られた。
「ぐ,う……」
「やっと落ちたか。それとも,死んじゃったかしらね」
景勝は,勝家を見下ろしながら言った。
鬼門が頭と胴体を切り離している間は,命令機関と神経機関が離れ,完全に神通力のみで自らを動かす事となる。当然,動きは鈍くなる訳であり,そのタイムラグの間に,景勝は咄嗟で身代わりを用意したのであった。
「妙神山襲撃作戦。取り敢えず,犠牲者一名……か」
勝家の頭を見下ろしたまま,景勝はそう呟いた。



「な……!?」
息を切らし修行場迄戻ってきた藤吉郎が見たものは。
廃墟と化した道場。
胴と首の離れた勝家。
そして,廃墟の中央に佇む,大鎌を携えた女の姿だった。
「ご,権六様!?あんた,一体何を――」
藤吉郎は,女――景勝に向かって叫んだ。
「見て分からない?この鬼に,止めを刺そうとしてるのよ」
景勝は冷たい調子で返す。
「な,何でこんな事……」
景勝は,勝家に伸された部下達を叩き起こし,妙神山から撤収させたばかりだった。自分の事を知った(と言うか,自分で教えたのだが)勝家に止めを刺したら,自分も早い所帰ろう……と思っていた所だった。
又た,ややこしい事になった……。そう思いつつ,景勝は藤吉郎の問いに答えた。
「顔を見られちゃったから……。そう,残念だけど,貴方もね?」
背筋が凍る様な冷たい視線で,景勝は藤吉郎を一瞥した。
「な,顔見られたからって,そんな……!大体あんた,何なんだよ!?此処で一体,何してたんだ!?」
藤吉郎は混乱していた。嫌な予感がしていたとは言え,それが如何言う類のものかは分かっていなかった。そうしたら,つい数十分前に自分が居た建物が廃墟と化し,知り合いが倒れて(藤吉郎の目からは,首が飛んでいる事から見て既に死んでいると見えるのだが,目の前の女の口振りからすると,未だ死んではいないらしい)いたのだから。
そんな,混乱の極地にある藤吉郎に,景勝が口を開いた。
「此処は国内唯一の神界の出張所。此処の“トビラ”を潰せば,日本国内での神界へのアクセスは途絶える。“私達”が地上で何をやろうと,神界は暫くの間,手を出せないって訳よ。そして私は,“組織”から妙神山攻撃を任された,その名もゴーストスイーパー・植椙景勝!!」
「いや,誰も其処迄聞いてないし」
「はっ!しまった,又たやってしまったぁ!」
普段の景勝は,酷く無口である。その反動か,戦闘中の彼女は必要以上に饒舌になり,余計な事を喋ってしまった事も,これで初めてではなかった。
「くっ……!名前迄知られてしまったのなら,尚の事,生かしてはおけないわ!」
景勝が霊気の鎌を振りかぶる。
「いや,一寸待って!あんた,勝手に喋ったんじゃないかッ!そ,そうだ,此処で見た事は誰にも言わないし,あんたの事も黙ってるからあ!」
必死に命乞いを始める藤吉郎だったが,それが通じる相手じゃない。
「問答無用よッ!」
景勝は,地面を蹴って跳躍すると,藤吉郎に向け霊気の鎌を袈裟懸けに振り下ろした。
「うわああぁぁぁぁ〜〜〜〜!?」
見苦しく叫びながらも,藤吉郎の中の冷静な部分は,如何したらこの状況を抜け出せるか,その方法を模索していた。
――あの動きは避けられない。
とすれば,受け止めるしかない。
霊波刀は駄目だ。出している時間が無い。
先程,さりげなく出した文珠。これで何かするしかない。
と言っても,相手の実力も能力も分からないままに長期戦を挑むのは避けたい。
ならば,先手必勝。いや違う,出鼻を挫く。
そうだ。別に自分は彼女を倒さなければいけない訳じゃない。ならば,相手から退いてくれる様にし向ければ良い。
相手に此方の能力が知られない内に,ガツンと一発食らわして相手に不利だと思わせる。……上手くいけば,それで退いてくれるだろう。
例えば何だ。
『護』。
駄目だ,受け身過ぎる。力比べになった時,勝てる保障は無い。寧ろ,負ける可能性の方が高い。
『空』。
駄目だ。あの霊気の鎌を消した所で,次の技が来るだけ。大体,自分は腕っ節に丸で自信がない。相手が女とは言え,もし殴り合いになった時,勝てる保障はない。
じゃあ,如何する?
それなら……
「これしかないッ!」
「!?」
藤吉郎は,文珠に呪を込め,斬り掛かってくる景勝に向けた。
その文珠に刻まれた文字は,

『返』

ズバシュゥッ!
「ぐあ……っ!?」
突如,景勝を斬撃が遅い,彼女の白い肌を切り裂いた。
「なっ……?」
傷口から,真っ赤な鮮血がボタボタと吹き出してくる。
「……」
そう。藤吉郎の文珠が,景勝の攻撃を彼女自身にそっくり『返』したのである。
「くっ……!“文珠使い”……!?そうか,思い出したぞ。その顔,何かで見た事がある。確かお前は,豊臣秀吉とか言う,ゴーストスイーパー……」
景勝は,顔を上げ,藤吉郎をキッと睨んだ。
勝家の『瓶割り』をかなりクリーンヒットに近い形で受けた上,一撃必殺の心持ちで放った自らの斬撃をそのまま返されたのだ。悔しいが,身体的なコンディションから見て,これ以上の戦闘行為は不可能だ。
まして,相手はあの伝説の“文珠”を使う,業界きっての若手実力ナンバー1スイーパーなのだ。
……此処は,退く他に道は無い。
「……豊臣秀吉!覚えておいでよ!?この借りは,絶対に返してやるからねッ!!」
「え!?ちょっと,待っ……」
藤吉郎が制止する間も無く,間違い無く重傷だと言うのに驚く程の速さと軽快さで,景勝は逃げ去って行った。
「お,おいっ!」
藤吉郎は,追うべきか一瞬迷ったが,考え直して勝家の元へ向かった。
そして,文珠を生成すると,『治』の文字を刻んだ。



それから数時間後。
京都伏見,二条城。
その,普段は誰も入れぬ筈の天守閣に,幾人かの人影が見える。
締め切った窓から僅かに漏れた日光が,その内の一人の顔を,暗く照らし出す。
その顔は,
「……」
紛れもなく,植椙景勝であった。

二条城の天守閣に詰める十人に少し多い位の数の人影。
景勝も含めた彼等が,景勝の所属する“組織”の幹部達である。何れも,一流所と言えるゴーストスイーパーか,それに準ずる力を持つ霊能者だ。
「景勝……」
その中の一人――リーダー格と思われる小太りの男が,跪いた景勝に声を掛ける。
「……」
「……景勝」
「……」
「景勝!」
「……はい」
「全く,聞いておるのか!?……それで,報告は確かなのだろうな?」
「……」
「二人にお前の存在を知られ,しかもその一人は東京の一流ゴーストスイーパー!この報告に,間違いは無いのだな!?」
「……はい」
「失態だな」
「……」
「おい……!」
「……申し訳ありません」
「……っ!」
景勝の態度は,リーダー格の男の不興を買ったらしい。
だが,景勝は別段意識してからかったと言う訳ではない。
前述したとおり,彼女は酷く無口なのだ。戦闘時にはそれが豹変するのだが,彼女の無口っぷりは,無愛想を通り越して,周りの人間に口が利けないのではないかと思わせる程だ。
先程の様に,催促をされてやっと,思い出したかの様にぼそっと一言二言を発するのだ。
表情も,これ又た戦闘中の彼女とは同一人物と思えない程に無表情を崩さない。
そして彼女は,その整った容姿と,得意とする霊波鎌『兼続』も掛けられ,“死神人形”(デス・マリオネット)なる異名を持っていた。
……彼女の職業は,一応,ゴーストスイーパーなのだが。
「糞ッ!もう良い!それで,他は大丈夫なんだろうな!?」
リーダー格の男は,傍らの男に視線を移し,怒鳴り散らした。
「……はい。京都の四方を固める霊穴は,既に我等が手中にあります。この京が我等が魔都となるも,最早時間の問題かと」
「ふふふ,そうか。そして私が,この国の王に!」
「いえ,それは無理ですが」
報告をした男は,リーダーの誇大妄想をさらりと受け流すと,話を続けた。
「されど我々の宿願は,果たされる時もそう遠くはないものと……。邪魔が入らなければ,ですが」
「うむ。遂に,我等の力を愚民等に見せつける時が来たと言う事だ!ふふふ……はーっはっはっは!!」
「……」
この男は,この中で最も霊力が高い。そして何より,彼はこの“計画”の要だ。
だから,彼がリーダーで有る事に今更異存は無い。
異存は無いが……
「……」
彼以外のメンバー達は,こんな時,ふと思ってしまうのだ。

此奴が頭で,本当に大丈夫か……?と。

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