ザ・グレート・展開予測ショー

キスマーク(前編)


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 2/12)

「はぁ〜」

タマモは鏡に映る自分の顔を見ながらため息をつく。
室内なのに不自然にまいているマフラーを取ると洗面台の横に置く。
そしておもむろに視線を首に向けるとだいぶ消えかかっているが、
思いっきり目立つ赤いキスマークがある。
しかも一つではなくタマモが何時も着ているシャツから見えるだけでも4箇所ほど。

「くぅ〜自業自得とはいえ消えない・・」

本来タマモは妖弧なので傷や痣の治りは人より早い
この程度の内出血なら1日で消えるはずなのである。
しかしこのキスマークはすでに2週間はタマモについている。

「美神たちには言えない・・・どうしよう」

自慢の9個に別れたポニーテールも力なくたれている。

「タマモー おーい タマモどこだー」

びく、一瞬タマモは心臓が飛び上がるほど驚く。
自分を呼んでいるのは誰だか判っている。
でも返事をするのを迷う。
ていうか逃げたい、でもどうがんばっても自分は逃げられないのも判っている。
気分的にも物理的にもだ、声の主が本気になればタマモぐらいなら問題なく
捕まえるだろうしそれ以前に逃げようと思う気持ちが本気で起こらない。

やばい・・・本気でそう思う

「はぁ〜」

再びため息をつくと横に置いたマフラーを取る、どうせ必要になるのだ
今から持って行っても問題は無いだろう。

そして声の主である横島へと歩き出す。









その日タマモははっきり言って暇だった。
おキヌは学校に出かけたので夕方まで戻らないし
美神は昨日仕入れた道具に問題があったとかで厄珍堂に出掛けた。
シロは横島が学校に行ってしまったため夕方まで横島と行くための散歩の下見
とか言いながら出掛けていった。
下見とか言いながら散歩に行ってるのだから横島と行く必要がどこにあるのか
疑問だったが、シロに言わせると横島と行かないのは散歩ではないらしい。
理解に苦しむがまあシロらしいのでほっとく事にする。
横島は学校なので夕方までは来ないはずだ。
そんなわけで、タマモは夕方まで事務所にひとりとなってしまった。
元々めんどくさがりのタマモは今や自分の巣とかした美神の事務所でボーとしていた。

「ん〜暇ね〜。やる事無いのもそれなりにつらいものね」

事務所には昨日届いた道具が部屋の端にそのまま放置されたままだったが部屋自体は
毎日おキヌによって掃除されているためごみ一つ落ちていないほど綺麗にされていた。
時計を見上げるとそろそろお昼になろうとしていた。

「きつねうどんでも食べよ」

台所に向かうと自分用にと隠してある、カップうどんを棚から取り出す。
電気ポットの中に十分のお湯があるのを確認して電源を抜き、
カップうどん数個と電気ポットを持って事務所へと引き返していく。

後々になってもタマモは思う、何であの時台所で食べなかったのかと。

事務所の長椅子に戻るとカップうどんにお湯を注ぐために蓋を開け
粉末スープをカップに入れる。
あとはお湯を注いで5分待つだけとなりカップを持つ。

「ちわ〜美神さんただいま戻りました〜」

「誰も待ってないわよ」

タマモはバイトにやってきた横島に即座に切り返す。

「お、タマモ。ほかのみんなは?」

「美神は厄珍堂に行ったわ、昨日あんたが持ってきた荷物で手違いがあったとかでね
シロは散歩の下見、おキヌは学校」

「そっか、まあ電話番でもしてるか。」

肩に担いでいたバックを部屋の脇に置くとタマモの正面に座る。

「横島学校じゃなかったの?」

「あ〜だるいから自主休校にしてきた。」

「ふ〜ん」

横島の学校の単位などには興味も無いので適当に流すと手に持ったままの
きつねうどんにお湯を注ぐ。

「美味そうだな。給料前で昨日の夜ここで食ったきりなんだ一つくれないか?」

「い・や」

タマモは残りのきつねうどんを脇に抱え込む。そして横島を威嚇する。

「なんだよ。いいじゃね〜か一つぐらい」

横島はやれやれといったふうに乗り出していた体をソファーに戻す。

「七水のきつねうどん!」

「へ?」

「だから給料が出たら七水のきつねうどんを奢ってくれるなら1個あげる。」

七水とは駅前にあるうどん屋で昼前には行列が出来るぐらいに人気がある。
味のほうもなかなかで人気だけという訳じゃない店だ。
ちなみにタマモのお気に入りである。

「お前カップうどんで七水のうどんかよ」

「なによいいじゃない。私にはこのカップうどんだって
大事な大事なうどんなんだから。」

横島が苦笑しながらタマモの頭を乱暴に撫でてくる。
なんだかむずがゆいので頭を振って抵抗をしてみる。

「わかったわかった、給料出たら連れてってやるよ。」

「ほんと、ならしょうがないから1個上げるわ。あ、でも油揚げは半分もらうわよ。」

「まったくしょうがねえな」

横島は文句を言いながらも決していやな顔をせず笑いかけてくる。
そしてタマモからカップうどんを受け取ると粉末スープをカップに入れる準備をする。
カップにお湯を入れながら横島はふと気がついたように

「タマモ七味あるか?」

タマモも横島もうどんに七味を入れる派なのでカップうどんにも使うときがある。
まあタマモとしては入れなくても十分美味しいと思うのだが、入ったら入ったらで
また違う美味しさがあるので気分によって使い分けている。
よく事務所で食事をすることもあるので醤油などが、事務所の端に置いてあるのだが
置いてあった七味は昨日使い切った覚えがある。

「台所からとってくる。」

「おう、すまんな」

タマモはソファーから立ち上がると台所へとつながるドアの前に向かう。
向かう途中に調味用具入れがあるのだがふと見ると、
入れ物が置いてある棚の端に見た事のない小瓶が置いてある。
半透明の瓶の中に目の粗い赤い粉末が入っている。
蓋が赤いので七味の入れ物に見えない事もない。
タマモは近寄り手にとって見ると粉末のほかに黒いゴマみたいな物も入っているので
ますます七味に見える。
入れ物変えたのかなとタマモは思い、中身を確かめてみようと蓋を開ける。

「おーい、タマモ七味あったか?」

中身を手のひらに乗せようと瓶を傾けていたところなのでびくっとする。
まあいいかと思いタマモは瓶の蓋を閉める。

「ええ、あったわよ」

タマモはソファーに戻ると横島の正面の位置に戻り机の上に小瓶を置く。

「ずいぶん変わった七味の入れ物だな。」

「うるさいわね、文句あるの?」

「いや、文句はないけどよ」

いい加減タマモのカップうどんは5分たったので蓋を開けて食べ始める。
先ほど持ってきた七味をうどんに1振り掛けると大好物の油揚げをいったん端に寄せる
大好物は後で食べるほうなのだ。
横島も蓋を開けうどんに七味を1振り掛けて食べ始める。

「ん、あまり七味の味しないな」

横島は七味を取るとうどんの中に4振り追加する。

「横島そんなに掛けるとうどんの味が分からなくなるわよ」

「ん〜いやなんかいまいち味が変わらなくてさ」

実際タマモも七味の味がぜんぜんしなかったが、まさか今更持ってきたのが
七味じゃないかもなんて言い出せないので黙っておく事にした。

食べ終わるころになると体が少し熱っぽい気がする。
体の奥に火がついたようにじわじわと熱が出てきて、落ち着かなくなってくる。
なによりおかしいのは横島の顔がまともに見られなくなっている。
先ほどから横島がこちらの顔をじっと見つめてくるのだが、目が会うと顔から
火が出るんじゃないかと思うほど熱くなるのが分かり、どうしても恥ずかしくて顔を
背けてしまう。

「タマモ」

「な、なに」

思わずドキッとして顔を上げると横島がすぐ近く、
30センチぐらいまで顔を近づけている。
思わずタマモは後ろに体を引くが、
すぐソファーの背もたれに行き当たり下がれなくなる。

「どうした? 熱でもあるのか?」

「なんでもない、別に熱なんて無いわよ。食べてすぐだったから熱くなってるだけ」

タマモは自分でも不自然と思うぐらいにむきになって否定する。

「そうか、まあ風邪とかには気をつけろよ。ごみ捨ててくるよそっちのも渡せ」

「悪いわね。おねがい」

空になったカップうどんの入れ物を横島に渡す。
受け取った横島は事務所から出て行った。
台所にあるごみ入れに捨てに行ったのであろう。

「ふう、おかしいわ。そら横島は良い奴だし助けてもらった恩もあるから
ほかの人間よりかはましだと思ってたけど、こんなに意識する奴じゃなかったはず。」

先ほどからの自分を思うとおかしい事だらけである。
そして原因を考えると、どうしてもテーブルの上にある小瓶にしか思い当たらない。

・・・・・・・もしかしてミスった?

「ほてりが治まらないわ。横島はどうなのかしら?」

タマモが呟くと同時にドアが開く

「ん、俺がどうしたって?」

「い、いえなんでも無いのよ。気にしないで」

タマモは慌てながらパタパタと手を振る。

「ふーん、まあいいけどな」

横島はそう言いながらタマモの横に座る。
何気なくタマモの後ろの背もたれに手を乗せながらだ。
真正面から見るとタマモの肩に横島が手を乗せているように見えるはずである。

ひぃ〜〜なんで横に座るのよ。しかも手はなにその手は!
横島の行動にびっくりすると同時に、
さらに自分がそれを少しも不愉快に感じていないことにさらにびっくりする。
横にいる横島からわずかに漂ってくる、ほんの少し汗臭いような男の匂いや
広げられた手から伝わる圧迫感も、不安になるどころか安心する自分が居た。

「なあタマモ」

「な、なによ」

どうしても落ち着かず声が上ずるのを感じるが、
心臓の高鳴りが抑えきれずにいるタマモには、もはやどうしようも無かった。

「タマモって今好きな奴とか居るのか?」

「何でそんなこといきなり聞くのよ。」

横島をにらもうと顔を上げるが、じっとこちらを見つめる横島の目と視線が
重なったと同時に、にらむ事も目をそらす事も出来なくなってしまった。
何時もやさしげに笑う横島の目が、今はタマモだけを見つめる。
しかも言葉よりもずっと目が気持ちを伝えてくるのだ。
愛しいのだと放したくないのだと、まだ何も言っていないのに気持ちだけは
伝わってくる。

「いやほら、前に小学生の男の子と知り合いになったとか言ってたじゃないか。
その後どうなのかなってな」

「あ、あの子は大事な友達よ。別に恋愛感情とじゃ無くて、大事な親友と
思っているもの」

「そっか、良かった」

横島が本当にうれしそうに笑う。
裏表の無い自然体の横島だけが持つ魅力と言うのか、気持ちがストレートに
現れるその笑顔にタマモの胸はさらに高鳴る。

ずるい、そんな顔をされたら逃げられない。

本当は何とかしてこの場を逃げたいタマモであったのだが、横島との結末が出るまで
もはや一歩も動けない事を自覚する。

横島の手がそっとタマモの頬に添えられる。

タマモは自分の意識がボーとしだしたのを感じる。
宙に浮くような感じになり何も考えられなくなってくる。

「タマモ、俺お前の事が好きだ・・。見かけの年は合わないしタマモにとっては
迷惑かもしれないけど、この気持ちは抑えられないよ。好きだよタマモ」

意識が遠のいていく、ほんとにうれしくて涙が出そうになるのだがもはや体が
思うように動いてくれない。
がんばってたった一言を言おうと力を振り絞る。

「私も好きよ横島・・」

横島の顔が近づいてくる。
ああキスをするのだと感じてそっと目をつぶる。

そして意識は暗闇へと落ちていく。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa