ザ・グレート・展開予測ショー

狂乱の宴


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 2/11)

彼のアシュタロスの乱から二年。
横島は,美神のアシスタントを卒業し,フリーのゴーストスイーパーとして働いていた。

生まれ持った遺伝子の情報は一生変わる事はないが,身体を形作る細胞の一つ一つは日々刻々と生まれ変わり入れ替わっている。或いは衝撃により死滅し,或いは垢となって剥がれ落ちる。
そしてそれは,霊基においても例外ではない。
横島の体内に注ぎ込まれたルシオラの霊基も,本人が予告した様に,日が経つに連れて徐々に横島の体の中から抜けていった。
だが。あれから二年,横島の霊体に最後に残ったルシオラの霊基が,ある重大な事件を引き起こしていたのである。




【狂乱の宴】




「……で,君の考えは如何なんです,横島君」
「放っといて下さい」
「……とは?」
「言葉通りの意味です」
「そう言う訳にもいきません。悪いが私も仕事なのでね」
横島にそう諭す男。……人ではない。純白の双翼を背に生やしたその姿は正に――天使。
と言うか,モノホンの天使だ,彼は。
「流石に偉い神様だけあって,あんたは話が分かる方だと思うんですけど」
「――カトリックが,皆狂信者と言う訳ではない」
「て事は,狂信者も沢山居るって事でしょ?しかも,デタント反対派の神様なんてその比じゃない位居るんでしょ?」
「……否定出来ませんね。私も,正直デタント賛成かと聞かれれば,如何答えるべきか判りませんし」
「そんな恐ろしい所に行けってんですか?問答無用で殺されるかも知れないじゃないっすか」
「それは……かも知れませんが……」
「大体,貴方の部下のミスが元凶でしょ?ねえ,大天使長ミカエル様」
「……そうですね。申し訳ない,貴方にはお詫びの言葉もない。しかし,神界へ来なければ君の命が危ないかもしれない事も事実」
「飽くまで『かも』でしょ?」
「……。言っておくが,俗界の技術では如何する事も出来ないですよ」
「はい」
「ならば,死中に活を求める事も必要なのでは?」
「すいません。根が臆病な者で」
「その所為で,周りの者に迷惑が掛かるかも知れないのですよ」
「……」
「……」
黙り込む両者。
今,この場には横島とミカエルしか居ない。“事件”が起こってから,今迄数回,神界からの使者が横島の前に現れたが,横島以外は誰もその事を知らない。
「あのですね。ミカエル様」
「何ですか?」
「文珠って,飲み込むと作用する力が強くなるって知ってました?」
例えばグーラーの時。彼女が一度死ぬ迄効力を発揮し続けた,『恋』の文珠。そして,一度バラバラになった霊基構造を再構成し,その形で完全に固定してしまうと言う荒技をやってのけた『蘇』の文珠。
「!まさか……」
「そう言う事です。ミカエル様は,証人になって下さい」
そう言うと,横島は両手に持った文珠を発動させた。二文字位なら,横島の霊力で十分扱える。
それに刻まれた文字は,

『分』『離』

そして横島は,それを飲み込んだ。



一ヶ月後,美神除霊事務所。
「おキヌちゃん,明日の依頼は?言っとくけど,最低でも報酬二千万は無いとお断りよ」
「はい。えっと,では……」
横島が居なくなってから,事務所は火が消えた様になってしまっていた。
が,キヌはこれで良かったと思っていた。
「あれから,二人とも無理をしてた。美神さんも横島さんも,“自分”を演じて前の関係を取り戻そうとしてた。でもあのままじゃ,屹度何時か壊れちゃってた。……私は,美神さんも横島さんも好きだから,二人が壊れるのなんて見たくない――」
思えば,美智恵や唐巣もそんな事情をくんで,横島の独立を勧めたのかも知れない。美神と横島の事(より深刻な横島の比率が多かったが)を二人に相談した事もある。
正直,キヌも横島とは離れ難かったが,このままではいけないと分かっていたので横島の独立には素直にエールを送った。……まあ,別に何処か遠くに行ってしまう訳でもないのだ。手を伸ばせば,届く位置にいる。

「そう言えば……」
「何?おキヌちゃん」
横島が独立した当初は,四六時中不機嫌で周り(主にシロ)に当たり散らして大変だった美神も,最近はいい加減落ち着いて来ている。
まあ,理不尽だと思っていた横島の独立も,良く良く考えれば当然の事であり,反対した所で,問われて答えられるその理由さえ無かった。……何より,キヌに其処迄心配させた事が,美神と横島の態度を神妙にさせた。
「最近,横島さんの事,見ませんね?」
「そう言えばねえ。まあ,横島の奴も商売繁盛してるって事よ」
「そうですね」
「うう〜〜〜〜〜,先生〜〜〜〜〜……」
「五月蠅いわよ,シロ」
「キャイン」
「はは……」
シロちゃんは,ずっと美神さんに八つ当たりされてて悲しむ暇も無かったんだから良いじゃないですか。とキヌは心の中で呟いてみる。後でシロちゃんにフォロー入れとかないと……。
「あ,横島なら……」
「タマモちゃん?」
「横島なら,私,昨日見たよ?」
「何処で?」
「いや,町で。仕事に来てたんだってさ。助手を連れてた」
「助手ぅ!?あいつ,助手なんて雇ったの?」
「ええ。最近,ずっと連れ歩いてるらしいわよ」
「うう……先生。助手なら拙者がやって差し上げますものを……」
「でも,良かったじゃないですか。助手を雇える余裕が出てきたって事ですよ」
まさか,時給が二百五十円と言う事もなかろうし。と,心の中で付け加えるキヌ。
「ふーん。で?どんな女なのよ」
「……って,女じゃないわよ?」
「ええっ!?」
「いや,そんな驚かなくても……」
タマモの中では,横島=女好きと言う公式は成り立っていなかった。そう言う場面に立ち会う機械が少なかったし,有ったとしても,猿芝居にしか見えなかった。美神と横島による,本人達の為だけの茶番。それに,雄が雌を求めるのは当然の事ではないか。……大体,本当に女好きなんだったら,キヌと自宅で二人きりで何もしない訳ないだろう(と,タマモは思っていた)。
「男の子よ。十歳位の」
「はあ〜。男の子でござるか」
「横島さん,子供のお世話は好きですもんね」
「まさか彼奴,そっちの道に目覚めたんじゃあ……」
「そんな,まさか……」
彼の大戦以来,煩悩が少なくなって(=霊力の量が減って)横島が困っていたのは確かだが。
「……で,何て子なの?」
「名前?えーと,確か……」


「芦 優太郎」


「……」
約二名,絶句した。
「芦殿でござるか。此処は一つ,姉弟子としてビシッと一言……」
「あ,芦優太郎ですってぇ!?」
「え,ええ……」
「ちょっ……詳しく話しなさい!」
「う,うん。……何か,親を亡くした帰化人の子供を引き取ったとか言ってたけど……」
「髪の色は!?後,身体的特徴ッ!」
「えっと,髪の色はライトパープル……だったかな?それと,顔に何か入れ墨みたいのが付いてて,後何か頭に……角?」
「ライトパープル……」
「ど,如何言う事でしょうか,美神さん」
「さあね……」
「?如何したでござるか,二人共」
「……?」
「いや,何でもないわ……」



同じ頃,横島の自宅。
……流石に少しましなマンションに引っ越している。小鳩が静かに涙しながら,舌打ちもしたのは秘密。
「アシュー。夕飯何が食いたい?」
「……何でも構わん」
「そう言うのが,一番困るんだよなあ〜」
「馬鹿な。他人に転嫁して,考える事を放棄するんじゃない」
「へいへい」
今,この家に住んでいるのは二名。
家主の横島忠夫。と,
横島の助手である,芦 優太郎(十一歳)。
                   ……こと,魔王アシュタロスである。
「しっかし,お前もこうなっちまうと可愛いもんだなあ,魔王様?」
「……五月蠅い」
「ははは……」
「……」



二ヶ月程前,アシュタロスの魂を,転生させる作戦が始まった。
本人の望み通り,再び魔王として転生する事を防ぐ為,アシュタロスの魂は幾つもに分解され,念入りに浄化されて地上へと放たれた。
大天使ガブリエルの指揮の元に行われたこの作戦だが,手違いで浄化しないままの魂が地上へ送られてしまい,それは,ルシオラの霊基構造を僅かに残す横島に惹かれ……彼の中へと入り込んだ。
ルシオラは元々アシュタロスから作られたのだから,アシュタロスの魂の欠片がそれに惹かれるのも無理はない。だが,それが横島の中に取り込まれたと言う事は,彼の身が危ないと言う事である。
神界の使者が横島の元を訪れた時には,既に横島の霊基に馴染んでいるルシオラの霊基を壁にして,横島の魂とアシュタロスの魂は混ざり合っていなかったが,何時そうなっても可笑しくなかったし,何れそうなるだろう事は目に見えていた。そして,そうなった場合,横島は半妖となるのか魔王として覚醒するのか,それとも壊れてしまうのか……,見当が付いていなかった。
其処で,使者は――と言うか神界は,神界へ行って手術を受ける様に勧めたのだが,横島は断った。神は傲慢にして横暴,その傾向は地位が高い程に激しい――とは,各国の神話等から知れる,人類の神様に対するスタンダートなイメージだろう。横島もそのイメージは当然持っていたし,神様が聖人では無い事は十分すぎる程に知っている。特に,一神教の神様は,日本人である横島には付いていけない所が多々ある(使者は天使隊の隊員だった)。アシュタロスの魂を欠片とは言え宿して神界になんて行ったら,どんな目に遭わされるか知り得たものではない。
とは言え,周りに迷惑を掛ける訳にもいかない。其処で横島が出した解決案が,『文珠での分離』だった。アシュタロスの魂とは言え,所詮幾つもに分割された内の一つである。横島の力なら何程の事もないだろう。
そしてそれは,大天使長ミカエルを見届け人として行われた。


結果は……巧くいった。
アシュタロスの魂の欠片は,横島の体外へ出た。
其処でその魂を捕獲出来ればそれで終わり,だったのだが。
ルシオラの霊基に共鳴でもしたのか,それとも,横島の特殊なエネルギーの為せる業なのか。体外へ出たアシュタロスの魂の欠片は一体の魔族の形を為し,此処に,目出度く魔王アシュタロス復活と相成ったのである。



「アシュ,飯出来たってば。冷めない内に早く食えよ」
「分かっている。子供扱いするんじゃない」
「思いっくそ,ガキじゃねーか」
「……私が君の何倍を生きていると思うのだ?」
「でも,今はガキだろ?」
「いや,それはそうだが……」
「良いから,早く食いに来いよ」
「……」
再び魔族の形を為したアシュタロスの魂だったが,所詮は欠片である。記憶こそアシュタロスのものだったが,その魔力量は,シロレベルに迄,削られていた。
それと比例して,肉体的,及び精神的年齢も,パピリオと同じ位に迄,下がっていた。
そんな彼は,今,横島に引き取られ,彼の助手として暮らしていた。GS協会には,横島が騙しすかしてアシュタロス――もとい芦優太郎を,助手と認めさせたらしい。何処からか,戸籍迄持ってきて。……まあ,最終的に金を積んだのだが。此処等辺は,やはり美神の弟子と言った所か。

「……一つ,聞いても良いか。小僧」
「何?」
夕飯のカレー(昨日の残り)を食べながら,アシュタロスが横島に問う。
「何故,私を養っている?」
「え。って,そりゃあ……神界や魔界に渡したりしたら,如何されるか分かったもんじゃねーだろ?GS協会やオカG(オカルトGメン)も然り。したら,寝覚め悪いかんな。かっつって,見てくれ所か精神年齢迄ガキになってるお前じゃ,野良妖怪としてやってけないと思って。そしたら,俺が引き取るしか無ムじゃん?一応,当事者だし」
「……だが,私は嘗て,君の敵だったではないか」
「別に今は敵じゃねーじゃん」
「いや,それはそうだが」
「じゃあ,良いじゃん」
「しかし……憎くはないのか?」
「何が」
「ルシオラの事だよ」
「……!」
「……」
「……いや,そりゃ……憎いけど。だからって,お前に当たったって,ルシオラが生き返る訳じゃないだろ?」
「……そうか」
「うん……」
まあ,正直な所,もしアシュタロスの容姿があの時のまんまだったら,仮に魔力がナイトメアより低くても,横島は山にでも追い出しただろう。……ワンダーフォーゲル部辺りに預けて来たかも知れない。あの,変態一歩手前の濃ゆい面した腐れマッチョに四六時中自分の視界に居られては,いかな横島でも流石に気が狂うというものだ。
しかし横島は,美男は嫌いだが子供は好きだ。自宅が,美智恵に託児所代わりに使われる程に。まあ,元・魔王とは言え,今は子供だしな。と言う訳である。中身(記憶,性格)は兎も角,見てくれは。
魔族は長命であり,基本的に成長も人間より遅い。何かの間違いでアシュタロスが覚醒し,本来の力を取り戻す様な事が有ったとしても,それは横島が生きている内ではないだろう。彼自身は自ら全く何の野望も持っていないと言い(いや,ハーレムとかそう言うのは抜きにして),もし仮に少しでも不振な行動に出れば,容赦なく詰問して良いと言っているので,取り敢えずアシュタロスを横島に預けると言う案に,神界もOKを出した。
「ま,そうだな。お前に一言,言わせてもらうなら……」
「何だ?」
「何で逆天号には洗濯機が付いて無かったんだ?」
「は……?」
「洗濯機も掃除機も,物干し竿さえ積んでなかったじゃないか!俺みたいな現代っ子に,洗濯板が使えると思ってるのか!?」
「……知るか」



ガチャ……
ダダダダダ……
バン!
「横島ぁぁー!!!」
「美神さん!?」
突然,横島宅に美神が押し掛けてきた。
「ふんっ!」
「どべっ!?」
バキィ!
ジオ・インパクト!って感じで殴り飛ばされ,横島はフローリングの床に沈んだ。それはもう,めり込む程に。
「あー,スッとした」
しかし,次の次のコマ(!?)には生き返っているのが横島なのだが。
「何すか,美神さん。急に……。てか,鍵掛けてた筈だけど……?」
「ギクッ!」
前に来た時に鍵の型を取っておいていて,それで合い鍵を作ったとは言えない。
「そ,そんな事より!」
「はあ。何か用ですか?こんな時間に。……はっ!もしかして,夜這いしに来てくれたんすか!?ああっ!遂に……」
「んな訳,有るかぁーーーー!!」
バキャ!
横島の顔面に,美神のエルボーが綺麗に決まる。
「……相変わらずだな,メフィスト」
師弟のじゃれ合いにすっかり存在を無視されたアシュタロスが,牛乳を冷蔵庫に片付けながら言った。
「!メフィストってあんた……やっぱり,アシュタロスなの!?」
「……まあ,そうだが」
「正確には,その残りカスっす」
「……如何言う事よ,横島君。私に黙って,こんな――」
「え?いや,その……」
「洗いざらい,喋ってもらうわよ?」
「……はい」
「じゃあ,酒でも飲みながら話を聞きましょうか。……勿論,横島君の奢りでね?」
「げぇっ!マジっすかぁ?」
いかに師弟とは言え,雇用関係ではないのだから命令を聞く必要はないのだが,横島の辞書に,『美神さんに逆らう』の文字は無かった(そんな単語も慣用句も,普通辞書には載ってないが)。



一時間後,美神行きつけのバー。
「……と,そう言う訳っす」
「成程ね……」
「今迄黙ってたのは……その,みんなに迷惑掛けたくなかったから……」
「ま,“みんな”は兎も角ね」
「はい」
「私は仮にもあんたの師匠なのよ?……こう言う時位,頼りなさいよね……」
「……はい。すんませんした……」
「……」
「……」
「……分かった。許してあげるわよ」
「すいません」
「で,これは如何するの?」
「これって……」
美神が指し示す横島の隣には,酒瓶片手に号泣する,アシュタロスの姿が有った。
「わ,私だってなぁ〜,エントロピーだの陰陽だのの問題が有る事は分かっているのだ。しかし,それとこれとは別問題だろう!?おい,聞いてるのか,小僧〜」
「き,聞いてるよ……」
「泣き上戸だったのか,此奴……」
「何か,少し土愚羅に似てんな。流石,親子……」
「……如何すんのよ,これ……」
「飲ましたのは美神さんじゃないすか。俺は,子供に酒飲ましたら不味いんじゃないすかって言いましたよ!?」
「うるっさいわねえ!大体,あんたも未だ,未成年でしょう!?」
「それとこれとは関係無い……てか,飲みに行こうっつったのは美神さん……」
「何よ?」
「いえ……」
「大体,魔王等と言っても,単に魔力が高いだけではないか。強い力を持つ者は,それに相応する責任を負うとでも言いたいのか〜!……う〜,小僧!もう一本」
「だああ!もう,やめとけって!洒落んなってねぇぞ。もうへべれけじゃねーか,お前。魔族の身体が如何なってるか知らんが,それ以上は毒だぜ。第一,俺の財布がもうやべーよ」
「うるさぁい!ルシオラの情夫が偉そうに〜」
「おい……良い加減,怒るぞ……?」
「……もう,魔王の威厳の欠片も無いわね〜。大粒の涙を流す美少年てのは,一寸可愛いけど」
「う〜ん……」
「まあ,いくら美少年でも,中身がアシュタロスじゃねえ」
「精神年齢はガキなんすけどね……」
「身体は子供,頭脳は大人」
「でも,心は子供」
「笑えないわねえ……」
「ベスパがこれ見たら,何て言うかなあ……」
「畜生〜〜〜〜〜〜〜〜!」



狂乱の宴は,アシュタロスが潰れる迄続いたと言う。

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