ザ・グレート・展開予測ショー

続々々・GS信長 極楽天下布武!!【午後の部】


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 2/10)

正午を回った。
「昼飯……良いよねえ?」
「さっき食べたばっかじゃない」
「うん。……何か,覗いてみたけど偉い高そうだったしね」
「まあ,こういう所ってそんなもんらしいわよ?」
「休日だし,みんな奮発して来てるから,その程度の事じゃ気になんない訳だ。考えたもんだねえ」
「……せこくない?」
「何言ってんの。こういうアイデアが大事なんだよ」
「ふーん。まあ,私には関係ないけど」
大体デジャヴーランドの敷地内を一周した藤吉郎とヒナタは,もう出ようかとしていた。
「しっかし,わざわざ来てアトラクションにも乗らずに妖怪退治だけして帰ってくなんて,私達位なもんでしょうね」
「まあ,良いじゃん。雰囲気は楽しめたし。わざわざ金落としてくのも馬鹿らしいでしょ?」
「そうねえ……」
同意してしまう,庶民なヒナタ。
「……御免ね?お金無くて」
「え,いや。別に……」
こういう時,此奴には勝てないなあ……,とヒナタは思う。
そう言えば自分は,此奴の何処に惚れたのだろう。
良く知りもしない頃……,会ったその日の内から,自分はやけに此奴に拘っていた。……と言うか,あからさまに恋をしていただろう。
……何で?
初めてまともに話をした男の子だったから……。それだけか?
……解らない。解るかそんなの。自分の事なんて,自分が一番解らないもんだ。それにほら,私って馬鹿だし。
「……ヒナタ?」
「あ,御免。何でもないわ。行きましょ」
「お,応……」



そんな訳で。デジャヴーランドを後にし,まあ,行く当てがある訳で無し,適当に其処等のショッピングセンターをぶらつく事にした二人。
「……何か欲しい物ある?ヒナタ」
「……何が何だかさっぱり分からないわ」
「確かに……,四百五十年か。そんだけ経つと,やっぱり色々変わるもんだね」
「ええ。それに私,字ぃ読めないし」
「そう言えば,そうだったね……」
時空を越えたお上りさん達がそんな会話をしていると,後ろから声を掛けられた。良く良く町中で,知り合いから声を掛けられる男である。これも,天下を統べる予定だった藤吉郎の人徳――人間的魅力であろうか。
「よウ。秀吉にヒカリじゃ無ぇカ」
「あ,小六様!?……のそっくりさんすか?」
「小六?誰だ,そりャ」
「いや,あの。俺等,記憶喪失で……」
この説明も,この三日間で何度した事だろうか。
まあ,取り敢えず,かくかくしかじか。
「……ほウ。成る程ナ。俺は蜂 須賀(中国人)。オカルトグッズの卸売りをしてる,『蜂須賀堂』の主ダ」
「はあ。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「応,今後ともよろしく頼むゼ。……所で,今,暇カ?」
「え?」
「いや,暇ならちっと頼みたい事が有んだがヨ」
「ええ,構いませんよ?暇ですし」
「て,暇じゃないでしょーーーーーーーッッ!!!!」
ヒナタの強烈な突っ込みが入った。
「ぶふぅ!?」
「……暇じゃ無いのカ?」
「暇じゃ有りませんッ!」
「何言ってんの,ヒナタ。暇だから,こんな所ぶらついてるんじゃない」
「あのね……ッ!」
完璧な理屈だ。それが尚更むかつく。
分かってる。こういう奴だって事は。こういう所も好きな所なんだから。
此奴は親切だ。……勿論,生きる為には人を殺めたりもするし,必要なら他人を嵌めて破滅させる事に躊躇いも無いだろう。
だが,基本的に此奴はお人好しだ。頼まれたら嫌と言えないタイプ。……特に,自分を認めてくれる者には弱い。その時は,どんな障害が有ろうとも必ず完遂するだろう。例え,身を削る事となろうとも。利用されていると,自分は使い捨ての駒に過ぎないと分かっている時でも。
此奴は,そう言う奴だ。
「で,頼みって何です?」
「あ,あア。実は“妙神山”にお使いに行って欲しいんだヨ」
「妙神山?」
「今日,妙神山に納品する予定の商品が有るんだが,ちと手違いが有ってナ。詳しい事情は端折るが,一っ走り妙神山迄品物を届けて欲しいんダ」
「……妙神山て,何処すか?」
「……そっか,記憶喪失なんだっけナ。妙神山は,世界でも有数の霊格の高い山ダ。俗界における神様の出張所みたいなもんが其処に有んのヨ」
「はあ」
「其処には修行場も有ってナ。力量の有る人間に,力を授けると言う事もやってるんダ。で,今回は其処に言って欲しい訳だナ」
「はあ……で,何処なんすか?」
「……分かっタ。地図書いてやるかラ」
「如何も,すんません」


「……あのさあ,小六様?」
「ア?小六ってな俺カ?」
「そうそう」
「何だよ,ヒカリ」
「ヒナタよ。それ良か」
「?」
「なーんで,デートお邪魔すんのよーう!」
「オ?デート中だったんカ。そりゃ悪かったナ」
「悪かったなって……,見りゃ判るでしょー?」
「つっても……,お前等既に殆ど恋人同士みたいなモンじゃねーカ。一緒に歩いてるなんて,しょっちゅうだロ」
「え。恋人同士って,私と日吉の事!?もーっ,やだなあっ小六様!!もっと言ってよ!!」
「……やっぱ,変わったナ。お前」
「……まー,ヒカリは性格良いからねぇ」
「何か……色々大変そうだナ」
「……まあねえ」



さて。
愛知から東京迄を,重治に引きずられてとは言え三時間で走破した藤吉郎である。日が落ちた頃には,もう妙神山へ辿り着いていた。
「ほえ〜,此処が妙神山かあ」
中国風の大門には『妙神山修行場』と書かれた額が掲げられ,右の扉には何やら文字の入ったプレートが見える。
「えっと,何々……?」

『この門をくぐる者
 汝 一切の望みを捨てよ
      管理人   』

「……。ま,俺には関係ないよな。届け物をしに来ただけだし……」
まあ,藤吉郎のレベルなら妙神山の修行もさ程恐れるものでもないのだが(と言うか,『秀吉』は既にクリア済みである),それでもこの雰囲気でこれを見ればビビるものである。“管理人”と言うのが少しばかり迫力に欠けるが。
そんな藤吉郎に声を掛ける,二つの影。
「お前,何者だ?」
「此処で何をしている!」
「うわ,びっくりした!」
いきなり声を掛けられ,驚く藤吉郎。彼の見たものは……
「……御家老様達!――の,そっくりさんですね」
藤吉郎も,良い加減もう驚き等しない。
「?何の事だ」
「確かに我ら,この妙神山修行場の門番にして家老!」
「右の鬼門“勝家”!と」
「左の鬼門“信盛”!じゃが……」
「はあ,如何も。わざわざ自己紹介,有り難う御座います。権六様,佐久間様」
二鬼(二柱?)は,嘗て信長の元で天下布武の為働いた家老,柴田勝家と佐久間信盛に良く似ていた。
「と……」
「何じゃ,良く見れば織田の所の小僧ではないか。又た,何用じゃ?」
「あ,はい。小六様……蜂さんに頼まれて,商品のお届けに使い走られたんすけど……」
「……そうか」
「では,お取り次ぎ致そう。ちと,中で待っておれ」
ギィィィィ……
如何言う仕掛けか門が勝手に開き,藤吉郎は修行場の中に通された。


「……」
藤吉郎は,須賀から預かった商品を持ったまま,“客間”へ通された。
「何だかなー……」
こちとら,神様と言えば家康位しか知らない。……どんなもんなんだろう。結構,人間とそう変わらないのかも知れない。
バタバタバタ……
そんな取り留めもない事を考えていると,廊下から子供が走っている様な足音が聞こえてきた。
「?」
怪訝に思っていれば,その足音はどんどん此方へ近づいてくる。
そして。
「ムラマサーーーーーーーーっっっ!!!!!」
ドギャーン!!
「ごふう!?」
年は二桁に届くか否かと言う位の,入れ墨(?)をした女の子が,その青い髪を振り乱し,藤吉郎に突撃……飛びついてきた。
「久しぶりでちゅね,ムラマサ。会いたかったでちゅよ〜〜〜」
「え,あ?あの……???」
「?如何したんでちゅか,ムラマサ」
「こらこら,タツリオ。豊臣さんは記憶を無くされてしまってるのですから。いけませんよ,そんな事をしては」
と,その後ろから今度は妙齢の女性が現れた。少々子供っぽい顔立ちだが,美人の部類に入るだろう。頭に何やら角の様な物が生えている気がするが。
「……?」
この人も,どっかで見たこと有る様な……?
「申し訳ありません,豊臣さん」
「あ,いえ……」
そうだ,勝三郎様(池田恒興)だ。この人(?),勝三郎様に似てるんだ。あの方,元々童顔だったから気付かなかったよ。……て,無理に似てる方を探す必要も無いけど。そんなのは,付き合っていく上で障害にしかならないんだから。
「初めまして……と言うのも可笑しいですね。でも,取り敢えず。私はこの妙神山修行場の管理人,勝竜姫です。此方は,……何と言うか,ウチで預かっている魔族の子で,蝶の化身タツリオと言います」
「よろしくでちゅ,ムラマサ」
「ムラマサ……?」
「いえ……,気にしないで下さい」
「はあ」
「ムラマサ,記憶喪失ってほんとでちゅか?タツリオの事も忘れちゃったんでちゅか?」
「……御免……」
「じゃあ……」
「タツリオ!」
「!」
突然,勝竜姫がタツリオを一喝した。
「……その話は」
「……はい。御免でちゅ……」
「……?」
「いえ。気にしないで下さい,豊臣さん」
「はあ……?」
「……それより,品物を」
「あ,はい。此方です」
「……と。はい,確かに。この勝竜姫の名において,お受け取り致しました」
「はあ。如何も」
「代金は既に支払い済みですので……。あ,判子が入りますね」
「ムラマサ!今日は泊まってけるんでちゅよね!?」
「え。でも,明日は学校も有るし……」
「ええ〜!?」
「でも,もう外は暗いですし,これから山を下りるのは危険ですよ。タツリオも遊んで欲しい様ですし,泊まって行ったら如何ですか?織田さんには,私から連絡入れときますから」
「はあ,そうっすか。じゃあ,お言葉に甘えて……」
「はい!是非そうして下さい!」
何故か喜色満面となる勝竜姫。
「……魂胆丸見えじゃぞ,勝竜姫」
それに,何時の間にか現れた男が突っ込みを入れた。人民服の様な物を着た,髭面の小男である。
「うひゃっ!」
「全く。龍神族の姫ともあろう者が,俗界の小僧に現を抜かすとはのう」
「ろ,老師。何を……」
「まあ,それが悪い事とは言わんがな」
「わっ……私はそんな……っ」
「ムラマサはタツリオのでちゅよー!」
「えと,勝竜姫様?此方は……」
「あ,申し訳ありません,豊臣さん。此方は,この妙神山の主である,ハヌマン(猿神)豊国大明神様です」
「豊国大明神……?」
て言うか,此奴……
「秀吉……」
「え?」
「日野秀吉……だよな?」
「豊臣さん,何を?」
「ムラマサ……?」
「お主……」
「お,俺だよ!日吉!……あー,木下藤吉郎だ!お前の,時限違いの双子の弟とか言う……」
「……?何を言って……。……マジかよ」
「マジだよ!」
「……参ったな。死んで四百年以上経って,お前に会うとはな」
「はは……。そりゃこっちの台詞だぜ」
「ふん……」
「あの,老師?」
「猿もムラマサも,如何したんでちゅか……?」
「……何でもない。飯の前に風呂にするかの,勝竜姫」
「は?はい!すぐに用意させます」


妙神山修行場,男子浴場。
この立派な露天風呂に,二人の男が浸かっていた。……いや,勿体ぶる必要も無いのだが。言わずと知れた秀吉ブラザーズ――我等が木下藤吉郎こと豊臣秀吉君と,豊臣秀吉こと豊国大明神様である。……ややこしい。
「……て,訳なんだ」
「ふうん……」
「如何してこんな事が起こったか解る?」
「さあな。……神様っつっても万能じゃ無ムんだ。単に,俗界の人間に対して“神界に住む者達”と言うニュアンスで考えた方が良い」
「そんなもんなのか」
「そんなもんよ。しかし,不思議な事も有るもんだな」
「だなあ。お前が神様になったってのも不思議だよ」
「へっ。俺は初の全国統一を成し遂げた男だぜ?祀られて当然だろ」
「ん,でもさ」
「……ま,神族になるかならないかってのは,正直迷ったがよ」
「やっぱり」
「ふん……」
藤吉郎と二人きりの為,秀吉の口調も昔に戻っている。神界屈指の実力の持ち主とは俄に信じ難いフランクさである。
「たく,お前は……。カッコつけて一人で上様を助けて,挙げ句の果てにどっか行っちまいやがって」
「はは。あれは,仕方なかったんだよ」
「なぁーに気取ってんだよっ」
「何だよー」
「へっ」
「まあ,なる様になったんだし……さ」
「はっ!そりゃ,なる様にはなるだろうさ」
「そりゃそうか。ははは……」
藤吉郎と秀吉は,例えるならヒナタとヒカゲの様な関係である。互いの欠点を補い合える,最高のパートナーなのだ。歴史に“If”は無いと良く言われるが,もし藤吉郎が戦国時代に留まっていたなら,秀吉の天下統一はもっと早くなっていただろうし,もしかすれば信長が自分の天下を拝む事も出来たかも知れない。
それは兎も角,性格の正反対な者同士が親友になると言うのは,良くある話であり,この二人にも当て嵌った。まあ,彼等の場合,“親友”と言うより“兄弟の様”だと形容するのが正しいかも知れないが。自分に無い部分を持ち,それを補完してくれるお互いは,彼等にとって,この上無く愛しいものなのだ。過去の確執を忘れる程に。そして,今現在それによって得られる物質的,又たは直接的な益が無いとしても。
「家康と五右衛門には,会ったか……?」
「家康って……ああ,竹千代様?ああ,会ったよ。序でに,天回にもね」
「……へえ,天回ね。余っ程縁が有るんだな?」
「はは。あんま嬉しくも無いけどね」
「違ぇねぇ」
「……でもさ」
「何?」
「他の人は……似てるだけだよね?ほら,道三様とか加江様とか」
「多分な……」
「……何か,やりにくくない?見知らぬ事で感謝されるのだけでもキツイのに……」
「だろうな……。でも,そう言う意味じゃ俺のが辛いぜ」
「そうなのか?」
「ああ――例えば,池田恒興は俺と家康の戦で,家康に嵌められて死んだ」
「勝三郎様が?」
「ああ。勿論奴の責任だが,家康相手にあんなせこい手でいこうなんて言う彼奴に,ゴーサインを出しちまった俺にも,油断が無かったとは言わねえ」
もし,そん時お前が居れば,奴も少しは長生きできたかもな?と冗談めかして付け加え,秀吉は続けた。
「柴田勝家に至っては,正真正銘,俺が攻め滅ぼしたんだもんな。その事について良心の呵責は無ぇが,俺だって全知全能じゃあるまいし罪の意識が無いとは言えねぇ。それが,俺の巣の門番と同じ顔だってんだから……」
「うひゃ〜。きっついなあ,それ」
「全くだぜ。お前がさっさと逃げちまうから,俺がしんどい思いしなきゃなんなくなっちまったんだぜ?」
「御免……。いや,ほんと」
「ま,済んじまった事をグチャグチャ言っても始まらねーけどよ……」
「あ,そう言えば竹千代様は未だ修行中とかだってのに,お前は何でもうそんな偉くなってんの?」
「ああ。俺はほら,生前霊力高かったろ。だから,神様んなった時の“神通力”も強かったのよ。神族とか……魔族もそうなんだが,人間と違って,基本的に生まれ持った神通力(若しくは魔力)の量で人生(?)が殆ど決まっちまうのよ。ま,野蛮っちゃあそうなんだが……あからさまにそう言う事言うなよ?」
「で,竹千代様は未だ実力不足だから修行中,と?」
「あー,別に神族になれない訳じゃなくて,低級神で一生過ごすのが嫌なんだそうだがな。で,その為の修行らしい」
「ふーん……」


「ムラマサ〜〜〜!ゲームステーションやろー!」
風呂から上がった藤吉郎の所に,タツリオが家庭用ゲーム機を持って走って来た。
「いけません,タツリオ殿。食事が先ですよ」
「ぶ〜。右鬼は厳し過ぎでちゅよぅ」
「……既に用意が出来ておるのです。冷めてしまわぬ内に,お早く」
「仕方ないでちゅねえ」
「権六様……いえ,勝家さんが食事作ったんですか?」
ちょっとびっくり。いや,そんな不自然な事ではないが。
「いや,今宵の食事は勝竜姫様御自ら腕をお振るいになられた。有り難く頂くが良い」
「はあ,そうっすか。いや何か,すんません」
「謝られても,困るが……」
「勝竜姫がご飯作るなんて,滅多にない事なんでちゅよ」
「へぇ〜。そりゃついてる」
「いや……じゃなくて,ムラマサが居るからなんでちゅが……」
「え,もしかして客が来てるからって事?参ったなあ。使いに来ただけなのに」
「そう言う事じゃなくて……いや,まあ良いでちゅけどね」
「……」
藤吉郎とて,勝竜姫(とタツリオも)が自分に好意を寄せていて,恐らくはそれ以上の感情も抱いているだろう事は判っている。元来,人心の機微を見るに聡い男だ。
だがしかし,その好意,若しくはそれ以上の感情を向けられているのは,あくまで“自分”ではない。仕方が無いとは言え,他人の築いたその“徳”の上に胡座をかいて良い訳はないし,大体畜生働きの盗人の様で気分が悪い。
……まあ,彼自身大してポジティブな性格ではない。他人の変わりにその役割を果たせと言われて,たった三日で割り切れるものではないだろう。恨みのぶつけ所が無いと言うのも,それに拍車を掛けている。……即ち,内に溜めるしか無いのだ。それに押し潰される様な,弱い男ではないが。
とは言え,子供の世話は嫌いじゃない。タツリオと遊んでやる位なら,問題も無いだろう。

「あ,老師様もお早く。お食事の用意が出来ております」
「うむ……」
「あの子供と,随分長い間話し込んでおられましたな」
「ああ……」
「……何を?」
「いや……神族魔族は一夫多妻――いや,むしろ多夫多妻が一般的じゃから,勝竜姫の奴は焦ってはおらぬ様じゃな」
「は……?」
「しかし,愚かよの。彼奴は人間だと言う事を,すっかり失念しておるわ」
「老師様,何の話を……?」
「惚けるな。解っておるじゃろう?」
「……」
勝竜姫は,悪い奴ではないが近眼に過ぎる。
敵か味方かでしかものを考えられないし,はっきり言って視野も度量も狭い。師として,何れ何とかしなければと思っていたが,そのチャンスは案外早く巡ってきた様だ。
そうだ。彼奴は,そんな奴が大嫌いではないか。いや,大嫌いと迄はいかなくとも,少なくとも尊敬,そして思慕する対象ではない筈だ。
「それに気付き,改める事が出来ねば,敗北の憂き目を見る迄よの……」
自分としては,彼奴には矢っ張りねねとくっついて欲しいのだが。いや。しかし,みすみす家康の思惑通りに事が運ぶと言うのも気に食わない。
「まあ,儂の事ではないしのう……」



そんなこんなで更けていく。
霊峰・妙神山の,夜。

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