ザ・グレート・展開予測ショー

幻の夢心地


投稿者名:えび団子
投稿日時:(04/ 2/ 7)


 
 横島史夫。彼が彼女を失いその悲しさ切なさからどう乗り越えたのか?
表面には見せない深い傷を負ってしまったのではないだろうか?
生きているのに存在しない。耐え難い現実をどう見たのか?
もう逢えないかもしれないと不安に駆られる中で彷徨う彼のお話です。








私はいつも変わることなく貴方の心の中にいますよ。
貴方が瞳を閉じてそっと思い出してみてください、私はきっといます。
そのまま夜の幻にゆっくりと静かに身を任せてください、私はきっといます。
そして最後にゆっくりと閉じた瞳に光を受けてください、私は貴方の心の中に溶け込みます。




『彼女が彼女の記憶を失ったあの日から』




最近になって人の大切さを実感してきた。これもこの冬の寒さのせいだろうか?
彼女の姿を見なくなって、声を聴かなくなって幾つ夜空を眺めたろう。
日に日に増して寂しさは募るばかりで、有るべき居るべき存在の儚さにやっと気づいた。今まで何気なく思ってた感情がこんな形で押し寄せて来るなんて・・・


『逢いたい』

彼女に。

『逢いたい』

彼女に。


繰り返される想い。堂々巡りに辿り着かない想い。
彼女はこの世から形を亡くした訳ではない、唯あの頃の『彼女』はもういない。今は。宙に浮かびふよふよと漂い、優しい言葉で励ましてくれ、温かい目で見守ってくれ、傍で寄り添い癒してくれた。そんな彼女はもういない。今は。




『彼女を失ってからの俺は』




毎日、空を眺めて一日を過ごしていた。あの向こうには必ずいるはずだ!
天高く舞い上がり限りなく高いところに彼女はいるはずなんだ!と淡い期待をもって。実際にあるものは途切れ途切れに泳ぐ真っ白な雲と眩しい夕日だけ。
優しく頬を撫でる風が彼女の細く白い指先かと勘違いしたのも束の間、天気雪と言わんばかりに寒さも未だ厳しい冬の夕暮れに小さな牡丹雪が舞い降りてきた。そっと掌に触れると瞬く間に溶けてしまう。

こんなものだ。

胸が痛んだ、締め付けられるような・・・。




『オレンジの幻』




涙が頬を伝わった。一粒が一筋に変わるまでさほど時間は掛からなかった。
両目が紅くなるまで泣いていた。水道の蛇口を思いっきり捻ったように溢れ出てきた。止めどなく流れる涙は全てを洗い流してくれるのだろうか?この気持ちを忘れさせてくれるのだろうか

・・・?

−−−−忘れないでください−−−−

不意に声がした。それも耳で聴いた感じではなく、頭の芯に響くような。


−−−−忘れないでください−−−−


もう一度響いた。湖の水が波紋を広げるようにリズム的に。




−−−−貴方には、元気でいてもらいたいですから−−−−




彼には誰の声か直ぐに分かった。それは今最も逢いたいと心から願っている女性の声。傍にいるのが当たり前で、そこに彼女の空間を存在を持っていた女性。


「お・・・おキヌちゃん!!」


夕暮れの丘、オレンジの逆光で彼女の顔がはっきりとは見えないが確かにそうだ。
緑の草が足下に生い茂り揺らいでいて進みにくかった。一歩一歩彼女に近付く。


「なあ、そうだよな?おキヌちゃんだよな・・・」


手を伸ばすと届く距離に彼女がいる。もう歩くのすらもどかしい、彼は思いっきり両腕を彼女の背中に

回し掴もうとしたその時だった。




−−−−私はいつも横島さんの心の中にいます−−−−




手には何の感触もなく単に空を抱いただけだった。驚きと虚しさが込み上げてきた。彼の両腕が彼女の背中に回され両手が彼女に触れようとした時に眼前に見えていたものは白い結晶となり輝きながら一つずつ消えていった。






ガタッ






窓辺の机でうたた寝してるのに右肘が落ち気がついた。窓には夕日が反射して教室は朱色に染まっている。自分以外には誰も居ず、放課後の静寂に満ちた教室だった。


「あっ、そういや俺・・・何してたんだっけ・・・」


空の席を見渡しながら彼はそう呟いた。黒板には明日の予定が箇条書きに2,3個書かれていた。


「まあ、いいや・・・帰ろうっと!」


彼は何も覚えてないという。勿論自分が教室にいた意味も、頬を湿らす跡も。
不思議に思いつつも帰り支度を始めた。けど、一つだけ覚えていることがあるという。


『彼女に逢った気がした。』


根拠はないのだけど、無性にそう思ったのだ。
柔らかな空気と優しい薫りが彼の立ち去った後に残っていた。




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