ザ・グレート・展開予測ショー

流れ往く蛇 鳴の章 次話


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(04/ 2/ 6)

 彼の脳裏には先ほど己が口にした台詞が、ほんのりと苦く広がっていた。

  ――今の私には無力感しかない――

  ――何もできないならなんでこんな能力を!?――

 何故こんなことを言ってしまったのだろうか?自分の信仰が揺らいでいるだって?神に身を、心を、それ以上の全てを捧げたのではないのか?全なる父に全てを捧げてこその信頼、信仰・・・何が神父だ!?何がゴーストスイーパーなんだって言うんだ!?
 
 そして彼は直後に叩き込まれる鈍痛に、闇沌とした深淵の中へと足を踏み入れた。
 その一瞬チラリと垣間見せた仮面の男の表情は・・・ひょっとしたら失望の色を滲ませていたんじゃないのか?自分だけは・・・自分だけにはそういって欲しくなかったんじゃないのか?

 彼は・・・唐巣は自分自身を責めた。

 脳裏に一人の女性が掠める。

(テレパシーで脳に直接暗示をぶち込んだんだ・・・!起きろ・・・!!)

 唐巣は己に言い聞かせる。こんなんじゃ神どころか・・・彼女にもその身を晒すことができない。

 そう・・・GSは――

  ――GSは――勝たなきゃいけないのよ!!

 重い目を精魂込めて開かせる。光が刺すかのように目を貫く・・・リヴィングの蛍光だ。いまいちふらつく焦点では見えづらい・・・が、何とか起きてしまえば問題は無い。後はいまだ眠いなんて我侭を言うこの頭さえ覚醒させてしまえば・・・唐巣は食器棚へとおぼつかない足をずるずると引きずらせながら向かう。
 棚には数種類の調味料や香辛料の類があるはずだ。その内からの一つ、唐巣は唐辛子を掴んだ。

 ―ええい、ままよ!!―

 覚醒を促す強烈な衝撃、だが――

 ――神の名を語って私を出し抜こうだなんて、甘いぞ、公彦君!!――

 目の前で光る光沢を、殆ど反射的に掴んだ彼は、そう心の中で叫んだ。





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 部屋は激しく鳴動を始め、吹き荒れる風はまるで鎌鼬。
 そんな中で、微動だにしないほどの力強さを持った唐巣は、一歩、また一歩と公彦達へと近づいていく。

「何をしようと言うんだ?公彦君」

 目つきも鋭く、唐巣はそう低く唸った。

「神―教会を引き合いに出したのは失礼だと思いましたが・・・この身を悪魔に引き渡す・・・僕はチューブラー・ベルと一体になるッ!!」

 公彦は声を大にしてそう叫んだ。
 こいつは・・・馬鹿か?魔族にその体を渡してどうするってんだ?人間とあたしら魔族との精神力の違いってやつがわからないのか?むしろ自分の体を支配されるに決まって・・・・・・ッ!!
 あたしはそこまで考えてから、公彦が何をしようとしているのかが、解った。

「唐巣!!公彦は自分の体にチューブラー・ベルを寄生させるつもりだ!!」
「どういうことだ!?」

 唐巣が意味もわからないように、叫び返す。

「やつは美智恵を助けるって言ってた。だから多分美智恵から自分の体に移植するつもりだ!!」

 何で気が付かなかったんだ!?あたしは。さっき感じたあの魔の気質だって、あの時には既にこの男がチューブラー・ベルの奴の移植作業を始めてたから感じることができたんじゃないのか!?
 もし移植なんかに成功すれば・・・術者の生死を問わなければ、まず美智恵は助かるだろう。まぁ体内にチューブラー・ベルの対組織の内いくつかは残るだろうけど、魔物の持つ『意志』とでも言うのか、そう言ったもんは全部公彦のほうへと移植されるだろうね。多分あいつの感応力ならそれくらいは出来ると思う。
 ただ、問題は移植に成功したあとの公彦だ。
 当然精神観念で言えば、人間なんかじゃ魔族には到底かなわない、とそう断言する。いや、例外・・・というか詐欺まがいな奴らも人間の中にはいるさ。ウン、というか美神家の奴らとか。
 でも人間皆が皆そんな奴らってわけでもない。この公彦って奴はけっこうナイーヴな面もあるんだと、そう推測できる。なんにせよ、『勝つ』気で自分を押し出せるような奴でなければ、魔族の精神を抑えられるわけはないだろ?
 
 その先はまぁ、奴:チューブラー・ベルに人格をのっとられる。つまり、吾妻公彦という人物の死を意味してるわけだ。

「グゥゥゥゥゥ・・・」
 
 公彦が低く唸った。その口の端から僅かに見て取れる犬歯は、明らかに人間のもんじゃない。より大きく、肥大していくそれは、魔族の力が作用し始めていることを意味している。顔中に通常じゃぁ見られないような大きさの血管が浮かんできている様は、なかなかに喜劇的な光景だ。
 でも、ひしひしと感じる不気味な威圧感は、窓から入ってくる風をさらに冷たく感じさせてくれる。
 そんな中、公彦の慟哭にも似た声色だけが、あたしの耳朶を弱弱しく打つ。

「い、今だ・・・神父。僕を殺せ・・・この悪魔と一緒に!!」

 風が・・・一層強くなった気がした。あたしの心を強く、強く叩きつける。
 何で・・・なんでこいつは自分の命と引き換えにしてまでも、美智恵を助けようとするんだ?そりゃあたしにとっても元の時代へと帰る、唯一の手段を持った重要な人物、ではあるさ、そりゃ。でもだからといって命と換えるような、間抜けなマネはしないさ。
 
「今僕を殺せば、奴の意識も一緒に死ぬ。そうなれば美神さんの中には奴の力だけが残り・・・彼女が自分の一部に吸収できるはずだ・・・」

 唇を噛んで、公彦は唸った。
 あたしはその様を見詰め、声を出すこともできなかった。魔族であるこのあたしを飲み込むような迫力。何でだ?あたしはこいつを見て、勝てる自信が湧かない。なぜか、負けたような気がした。
 だから・・・くそっ、なんだって言うんだ、さっきから。
 あたしは妙な苛立ちを持って、唐巣へと向きやった。
 
「そんなことを考えていたのか・・・君は。だが、私が、神が殺しなどを認めるわけはないだろう」

 深い葛藤を滲ませた瞳で、何とかといった感じで、公彦が言葉を吐き出す。
 どこかその様は思い悩んだ結果・・・そんな印象をあたしに与える。

 でも――

「その手にぶら下げたもんは何さ?」

 あたしは半ば呆れながら、唐巣に振った。

「何を――・・・え?」

 唐巣の時が止まった・・・それも一瞬だけ。あたしの目の先に捉えられていたものは、キラリと銀の光を反射する鋭角、あたしが一応とでも理由をつけて探していたもの。

 ・・・包丁だ。

「わぁぁぁ!?いつの間に私はこんなものを!?」

 包丁がうっすらを光を煌かせる。仰天する唐巣の腕は、自身の意思に反してするりと包丁を正面へと向けた。そして、加速を開始する。その正面には、今だ低く唸る公彦が膝を立てている。

「ああァァァあッ!?体が勝手に!?」
「殺人にはならないさ・・・除霊中の事故だ。全て僕の策略なんだからね」

 にっと唇の端を、公彦は吊り上げた。でもそれは笑顔には間違っても見えない。あえて言うなら・・・決意・・・か?諦めにも似た・・・あたしがこの手にかけてきた奴らがたまに浮かべてきた表情、まちがっても似つかないけど、なんかそんな雰囲気がある。

 クソ、なんか・・・このままでいいのか?

「は、ハクミ君、私を止めろォッ!!」
「言われなくってもねぇッ!!」

 あたしはすぐにも公彦へと横手から接近、抱きつくように体当たりする。直後に来る圧力、衝撃、あたしは左手を思いっきり伸ばして、包丁を持つ腕を掴み上げた。

「うあァァァァァ!!」

 そのまま壁際まで唐巣を押し突き通す。

「とりあえず、眠っとけ」

 さらに鳩尾に叩き込む拳。確実に捕らえたとあたしの拳に教えてくれる、確かな手ごたえ。唐巣は思いっきり苦痛に顔を歪め、体をくの字に曲げた。

「な・・・何もここまでやらなくても・・・」

 そういい残し、唐巣は倒れる。
 まぁ、あたしに頼んだのが悪いってことで、許せ。

「さぁ、次はおまえの番だぞ」
「なんですか、僕の番って!」

 公彦の体は次第にその変動を遂げ、顔に回った太い血管は、今はもう全身にまで転移している。チューブラー・ベルの移植はもう殆ど終えている証拠だ。

「さっさとやめないとおまえの命に関わるぞ、それは。人間なんかの精神で魔族にかなうと思ってるのか?」

 これを聞き入れなかったら、、奴を殺すしかないだろうね。いわば最後通告って奴さ。あたしは唐巣が持っていた包丁を拾い上げると、力強く握り締めた。
 今チューブラー・ベルなんかに出てこられると、力のないあたしにとっては厄介なことこの上ない。やっぱり公彦は死んでもらうしかない・・・か・・・?

「いいんだ・・・いや、むしろその包丁で僕を刺してくれるほうがいい」

 公彦は、そんなあたしにゆっくりと笑みを浮かべた。

「僕は――生きているのが辛い。他人のちょっとした罪のない思考がどれほど僕を傷つけ苦しめるか解りますか?
 もう・・・ずっと僕は死に場所を探していたんだ」

 あたしはハッとなって、公彦を凝視する。
 
 ―死に場所を・・・探していただって!?―

 あたしは拳を思いっきり握り締めた。

「今ここでなら・・・意味のある死を迎えられる」

 あたしは――耐え切れない思いがせり上がって来た様な気がした。



「・・・―――ふざけるな!!!」

 公彦はあたしの声に驚いたように、身をすくめた。一体今奴の目にはどんなあたしが写っているのだろう。多分めっちゃくちゃ怒り狂ったあたしがいるに違いない。

「ふざけるんじゃないよ!!死ぬ死ぬって言ってさ、死ぬってどういうことかわかってんの?まともに戦ったこともないような平和ボケのオマエが、気安く死ぬなんていうな!!」
「でも・・・こうしなければ、実際美神さんは・・・」
「それはこっちで何とかするって、言ってるだろ!?結局はそれは他人を救う、なんてことと自分の利害を一致させた代理満足に過ぎないだろ!!?それを当然見たいにいうな!!」

 自分で言うのもなんだけど、けっこうむちゃくちゃなことを言っている自覚はあるさ、そりゃ。でも、死ぬなんていうのはそう簡単に言える事じゃないんだよね。実際死ぬような目にあえばわかるさ。あたしみたいな戦争屋は『生』って言うものを、敏感に感じてるもんさ。だから、平和に暮らしているような奴にはわからないだろうさ、生きてるって言うことが。

「だけど・・・それでも僕は、助けたいんだ・・・」

 それでも公彦は決意を鈍らせやしない。クソ、こんなことしている内にチューブラー・ベルの奴が人格支配しちまうかもしんないだろ?何ためらってるんだ?あたし。今手に持っている包丁で突き刺す。簡単なことだろう?たったそれだけであたしの安全も、美智恵のことだって、全部解決さ。簡単なことだ。
 あたしはため息を吐き出し、覚悟を決めた。何で今まで躊躇っていたのか、それすらバカバカしい。

「わかったよ。そうまで言うんならね。けどあとで痛いなんていうんじゃないよ」
「ええ、お願いします」

 公彦は安堵に似た表情であたしを見詰めた。
 あたしは切っ先を腰溜めに構える。狙いはきっちりと公彦の心臓を向いている。一歩、また一歩と近づく今のあたしは、まるで死神か何かか?まぁ、せめてもの情けって奴で、なるべく苦しまないようにやってやるさ。

「覚悟は・・・いいよな」
「え・・・ええ、は、やくしてくだ、さい。もう、抑えられそうも、ありません」

 苦しそうな公彦の声。この声を皮切りに、空気が微妙に狂いだした。
 不意に公彦の眼が、欄と光りだす。

「なんだ・・・?」

 そして公彦の雰囲気が一変する。なんていうか、魔族の放つオーラとでも言おうか、言うなれば魔力。そして人間では不可能な速度で、ガクガクと激しく震えだし、血管はさらに膨張をし始める。

 ―ついに乗っ取られたか!!

 あたしの心を焦燥感だけが駆け抜けていく。すぐにも始末しないと、いろいろとヤバイ。
 あたしは包丁の切っ先をすぐに立てて、公彦だったものに勢いよく滑らせる。滑らかな軌道を描く切っ先は、求めるべき獲物へと肉迫、返るべき血飛沫を巻き散らかせるはずだった。



 ―だが・・・



『いきなり何すんだよ?お仲間相手によ?』

 血の代わりに帰ってきたのは、そんな下卑た声だった。
 包丁を持ったあたしの腕は、奴の野太い腕にガッチリと捕まれ、まったく動かすこともできない。
 あたしは奴に向かって、獰猛な笑みを送ってやった。

「誰がお前なんかと仲間になったんだって?面白いことは自分の顔を見てから言いな」

 あたしの腕を掴んだ奴―さっきまで公彦だった奴は、あたしの言葉に意外そうに顔をすくめた。

『違うのかよ?同じ魔族だろ。まさかとは思うが、人間なんかに組する気ってわけじゃないだろ?』

 下卑た笑い声と一緒に、奴はそうあたしに言った。
 頭に二本の角を生やし、シャツは膨張した筋肉で今はズタズタに裂け、耳元まで裂けた口、長い爪の指、鋭角化した肩、どこからどうとっても人間のものなんかじゃない。魔族に体を乗っ取られるって事は、こういうことだ。
 あたしはいつでも最大速度で動けるように、全身の筋肉を撓める。

「まさか、人間なんかと一緒にいつまでもいてやる気なんかはないさ。だけどお前と同類に扱われるのもイヤだね」

 あたしの言葉に、奴―チューブラー・ベルは納得いかないような視線であたしを見詰めたけど、不意にニッと唇を吊り上げる。

『そうかよ、だがこんな所に相反する意志を持った魔族が集まればどうなるか、わかるよなァァ』

 そう言いつつ・・・突如奴の腕が掻き消える。あたしは慌てて半歩ほど、後ろへと飛び跳ねた。その一瞬あと、さっきまであたしのいた床が小さく弾ける。抉れた木材が、小さく弾け飛んだ。と同時に聞こえる沸いた破砕音。

「威嚇・・・なんていうような威力じゃないね」

 あたしの頬を生暖かい汗が流れ落ちる。はっきり言って、奴の攻撃が殆ど見えなかった。やられる確立90%を優に超えてる。

『よく避けたなぁ?実戦経験はこの俺よりは上・・・か』
「当然だろ、他人に寄生してぬくぬくと育ってきたような奴じゃ、まともな実力なんて得りゃしないさ」

 奴の感心したような言葉に、あたしは開き捨てるように言ってやった。だけど、奴はそんなあたしを見るのがさも面白そうにニヤニヤと笑っている。なんかムカつく・・・

『確かに俺はオマエよりも実力はないさ。だが今お前、力を消費して実は殆ど空っぽなんだろ?それに対して俺はさっきまでそこの霊能力者の中にいて、十分に力を取り戻しているんだゼェェ』

 言いながら、奴はベッドで未だに眠っている美智恵を指差した。

『どんな手を使ってでも。結局は勝てばいいんだよぉ!幸い、美智恵の奴は暗示で眠りこけているし、神父だってオマエがぶったおした。自分で墓穴掘ってる様なやつじゃぁ、どんなに強かろうが結局は負けるに決まってんだろうがよおォォ!!』

 このヤロウは・・・あたし自身ちょっとは気にしてること言いやがって・・・絶対にぶちのめす!あたしは拳をグッと握り締めた。
 
『まぁ、そんなにイキがってんじゃねぇよ。これからちょっとした面白い催しでもしてやろうと思ってんのによ』
「面白い催し?」

 言いながら、奴は下卑た笑みを浮かべる。自分の優位を信じて疑っていないみたいだ。でもどうせ奴の考えるもんだ、悪趣味な奴に決まってんだろ?

『オマエと交信(シンクロ)したときにちょっと言ってやったろ?』

 やっぱりあの夢はこいつの仕業かよ。魔族同士の微量な霊波の波長を合わせたんだろ?まぁそんなことはどうでもいい。奴は寝ている美智恵を抱きかかえると、ニッと笑った。なんか・・・ものすッごい嫌な予感がする。

『こいつを殺す様を見せてやるってなァァァ!!』

 いうが早いか、奴は窓ガラスを思いっきりその腕で叩き割った。パリィン、という乾いた音と共に、ガラス戸は弾け飛び、奴はその割れた戸から外へと身を躍らせる。

「何をする気だい!?」
『しれたことかよ!!人間どもがバカみてーに建てたビルから、こいつをバンジーさせんのよ。ケケケケ、ロープは持ってねーから命の保障なんてできねーけどなァァ!!きっとオモシレーぜェェェ!!』
「ふざけるな!!あたしがさせると思ってるのかい!?」

 あたしは包丁を握り締めて、跳躍した。奴の気色の悪い血管へと、まっすぐに切っ先を叩き込めるべく、包丁を諸手で構え、一気に振り下ろす。

 ガキィ――!!

「・・・え?」

 しかし返ってきたのは固い感触、切っ先は――『どこにも』刺さっていない!?中空でプルプルと悲しく震えているだけ。

『力を無くしたような奴に、この俺が殺せるかよッ!馬鹿が!!』

 直後に来る衝撃――包丁の切っ先はばらばらに崩れ去り、あたし自身も壁に叩きつけられる。全身をものすごい痛みが襲う。くそ、こんな奴に手も足も出ないだなんて。あたしは体を丸めた。
 奴は自分の腕を、納得いかなそうに見詰めてから呟く。

『殺すつもりは無かったが・・・にしても妙に威力が弱いな。まだ素体になれていないってことか?それとも奴自身なんかに守られている、とでも?』
 
 聞こえるっての。奴は、まぁいいと、一区切りをつけて窓から半身を乗り出した。」

『テメーはまだ殺さないでおいてやるよ。自分のバカさ加減を知ってから、その時になったらゆっくりと殺してやるからなぁ。ケケケケ』

 そして、タン、ッと何かを蹴るような音が聞こえてから、次第に奴と美智恵の気配は遠ざかっていった。





 クソ、ちくしょう、何でこんなことになっちまったんだ?ゆっくりと体を起こしつつ、あたしは心の中で毒を吐き出す。心の中だけが焦りを発して、体がそれについていけない。
 早く奴を追わないと。美智恵が殺されちまう。でもどこに行ったのかわかりゃしない。

 なんにせよ・・・
  
「おらぁ!!起きろっ!!起きるんだこのハゲェッ!!!」

 ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!

「オウ?オウ?オウ?オウ?」

 あたしは唐巣をゲシゲシと蹴り上げた。そらもう起きるまで。
 そんなあたしの献身的な行動で、すぐにも唐巣は目を覚ます。既にふらふらな状態にも見えるけど。

「気のせいか、服が思いのほかズタボロのような気が・・・それに微妙に体中が痛いぞ」
「気のせいだろ?」
「気のせいか!?」

 と、唐巣はここで違和感があるように部屋中を見渡す。

「と、そうだ。公彦君は?それに美智恵君もいないじゃないか!?」
「さらわれちまったよ」

 あたしはそう短く告げると、驚く暇も与えない内に唐巣の顔を、両手で挟み込んだ。そして顔をあたしのほうにググッて向かせる。

「これから美智恵を助けに行く。で、お前の力を借りたいんだ。というか、かせ」
「め、命令?」
「ってゆーか拒否権は無いから、そのつもりで」

 唐巣はハハハハと乾いた笑みを浮かべる。なんだよ、文句でもあるのか?
 あたしの不満げな顔でも通じたのか?唐巣は首を振って立ち上がった。

「言われなくとも、美智恵君の救出はやるさ」

 唐巣もすぐに立ち直ると、短くあたしに告げる。なんだよ、結局は賛成するんじゃないか。
 あたしはなぜかそんな唐巣を見て、どこかしら満足感を覚えているのだった。


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