ザ・グレート・展開予測ショー

夕焼けと虫けら(後編)


投稿者名:SooMighty
投稿日時:(04/ 1/29)


相変わらず街灯の下でもがいている虫けら。

ただ、その虫けらはどことなく悔いがなさそうに見えた。

私にもその姿は今ならなんとなく理解できる。

歩いている道の先に何も無くても、私たちはもがいて強く強く焼き付けるのだ。

それは誰にも否定することはできない。

あの輝く、少ししか表に出れない夕焼けのように・・・












夕焼けと虫けら(後編)













外に出た私とポチはとりあえず、異空間の潜伏装置を
応急処置だけでもしとくことにした。

こいつを治せばとりあえずは事なきを得られる。
今の状態で敵とまともにやりあうのは明らかに愚策だ。
もはや、この戦いは負け戦だ。
どうあがいても私たちに勝ち目はない。
そうとわかっているなら、もはやこれ以上被害を出さない
ように退散するだけだ


しかし周りの強風と霧のせいで作業が思うように進まない。

私は作業位置をやりやすい場所に移すために立ち上がった。

その瞬間、船が物凄く揺れて私は足を滑らせた。


ーーーしまったーーー

外に放り出され、吸い込まれそうになった。
もう、これはまず助からないだろう。



足を滑らせて死ぬなんて随分間抜けな最期ね。
でも、もうこの世に未練はさほどないから構わないか・・・
虫けらには相応しい死に方かもね・・・


唯一の心残りは夕焼けが見れないのと妹たちね。
でもあの子たちなら私がいなくても・・・







最後に私も女の子の青春を味わってみたかったわ。









走馬灯のように色々と頭の中に浮かんできたが
いつまでたっても死の瞬間はこなかった。

妙だと思って眼を開けてみると、ポチが足を掴んでいた。


ただその表情は『しまった』って顔をしていて
実際に手を離そうかどうか迷っていた。


でも、なぜか、



ポチは悔しそうな顔をして私を引き戻した。




はっきりいってこいつのやった事が全く理解できなかった。
ポチはあの女の仲間だ。
したがって私は倒すべき敵だ。
それなのになぜ私を助けたのか・・・


「おまえ・・・バカなの? 一瞬迷ったんでしょ?
 なのになんで・・・?」
つい尋ねてしまった。

「・・・夕焼け好きだって言ってたろ? あれが最後じゃあ悲しすぎるよ。」
下を向きながらポチはそれだけを言って押し黙った。



なんなのだ、一体・・・
あんなどうでもいい会話が気になって私を殺せなかったのか?

こいつは間違いなくバカだ。
でも、そう思ってるのとは裏腹に私の中で燃えるような
感情がメラメラと沸き立ってきた。

この感情は一体?
プログラムされているものにも無い感情だった。



突然、叫び声が聞こえ、私は我に帰った。

「そうだったのかーー!!」

とかなんとかいいながら、急いで艦首室に戻っていた。


もう、本当に今日はなんなのよ・・・
色々なことが起こりすぎだわ。


そう思いながら私も彼に続いた。








「なんだと、後ろを向いて退避しろだと!?
 そんなことしたら、後方にモロに直撃してしまうぞ!!」

「そーじゃないんです。最初から敵なんかいなかったんですよ!
 俺たちが相手していたのは、時間軸のズレタ、俺たち自身
 だったんです。自分の攻撃で死ぬところだったんですよ。」


そうか! 思い出した。
あの女は時間移動リストに載っていた女だったんだ。

「そうと判ればすぐに撤退しましょう。」

「待って、ベスパちゃんが・・・あの女だけでも
 ぶっ殺すってでていっちゃたでちゅ。」

やばい、それは非常にまずいわ!

これだけの作戦を立てる相手だ。私たちが飛び出してきても
対策を立てている筈だ。
そんなところに単独で飛び込んでいったら
いいようにあしらわれるのがオチだ。

「なんで止めなかったのよ! このチンポ口!」

「チ・・・チンポ!?」

とりあえず土偶羅様に怒りをぶつけた
土偶羅様は物凄いショックを受けていたが、今は
それどころじゃない。
ベスパを助けることが先決だ。

「俺が行きます。」

ポチがいきなりそんなことを口にした。

「な、危険よ! あんたが行ってもどうにもなんないわよ!」
あれほどの相手にポチがどうこうできるとも思えない。
それに・・・ポチには死んで欲しくなかった。
まだまだこいつには言っておきたいことが山ほどあるのだ。


「大丈夫ですよ。いくらあの人でも俺が加勢することまでは
 予想してないと思います。 それにあのおばはんに
 言っておきたいこともありますし。」

情けない、でもどこか頼もしいと感じさせる笑顔でそう言った。

「パピリオ様、援護お願いします。」

「わ、わかったでちゅ。」

「じゃあ、行ってきます。」

あいつは駆け足で出口に向かっていった。





「本当に大丈夫なのか・・・あいつは?」
土偶羅様は不安でしょうがないって顔をしている。

「わからないけど、あいつならなんとかしてくれそうな
 気がします。」

私は根拠の無い自信からか、そんな言葉が自然と口から漏れていた。







ーーー生きて帰ってきてね  ポチ・・・−−−


















私の願いが通じたのか全員無事で帰ってきた。
みんな疲れきった顔をしていた。

人間とは恐ろしい生き物だとことごとく実感した。

「人間の方が神族なんかよりよっぽど手強いじゃないか。」
土偶羅様がそんなことを口にしてたが、全くもって同感だ。

でもみんな無事だったから、もうそんなことはどうでもいい。



・・・ただポチと話がしたかった。


「ポチ、ちょっと話があるからベランダまで来て。」
私はそう言って、早々に上に上がっていた。


10分ぐらいしてポチもやってきた。


「あの〜 話ってなんでせう?」
なぜか彼は怯えながら喋っていた。

「お前人間の名前はなんていうの?」

「え!? 横島ですけど・・・」

「そう・・・ねぇ、ヨコシマ。聞きたいことが
 あるんだけど。」

「な、なんでせう?」

「『何のために生きてるか』って考えたことある?」

「へっ!?」
私の質問がよっぽど予想外なのか、かなり面食らった表情をしていた。

「まあ、そりゃああることはありますが・・・でもなんで急にそんなことを?」

「・・・私たち姉妹が1年しか生きられないっていうのは前話したわよね?」

「はい・・・」

「生まれて間もないときはそういうもんだって思って生きてきたわ。」

「・・・」

「でも、ここ最近はそんな状況に苛立っている自分がいるの。
 ただアシュ様のいいなりになってアシュ様の目的の為だけに
 生きている。そんな機械のような人生。
 自分の為に泣き笑うことも、他の普通の女の子みたいな
 青春を味わうこともできない。努力することすら許されない。
 これじゃあ本当に何のために生まれてきたのかわからないわよ。」

「・・・」
ヨコシマはただ真面目な顔をして聞いていた。

「よくさぁ、街灯の熱にあてられて死んでる虫を見ない?」

「はぁ、確かにそれはよく見ますけど・・・」

「あの虫けらたちはね、本当は太陽を目指し飛んで行ってるんだけどね、
 結局は小さな羽じゃあ辿り着けなくて街灯の光に群がって
 死んじゃうのよ。」

「・・・そうだったんですか。」

「その虫けらの人生って一体なんだったのかしらね。
 バカみたいだわ。でも・・・私と同じね。
 なんの感情も無く太陽と街灯の見分けもつかないで
 死んでいく。 本当にわけのわからないアシュ様の
 理想かなんかの為に死を余儀なくされてる私と同じだわ。」


本当に言葉にすると悔しかった。やるせなかった。
だから思わずヨコシマに怒鳴り散らしてしまった。
「ねぇ、教えてよ! 私は一体何のために生きてるの!?
 何の為に生まれてきたのよ!?」

息を切らしながら叫んだ。
生まれて初めてここまで感情を表に出した。

なんとなく目の前の男は全てを受け入れてくれそうな気がしたから。


そう思っているとヨコシマが覆いかぶさって私を抱きしめた。

「別にいいじゃないか。それでも。
 生きることに目的なんか無くても。
 生きることの答えなんてどこにも無いんだよ。」

「それにルシオラもその虫けらもちゃんと生きていると思うんだ。
 うまくは言えないけど、その虫けらは少なくともルシオラの心には
 強く焼きついたんだろ? だったらそれだけでも意味が無いなんて
 俺は思えないよ。 ルシオラだって・・・」

「ルシオラだって、今青春を味わってるじゃないか。」

いつの間にかヨコシマは敬語では無く普通に話していた。
それは私も大して気にしなかった。
むしろそっちのほうが自然体な気がした。

私は下をうつむいて噛み締めるように聞いていた。

「青春ってさ、夢を追い、夢に傷ついて、その傷を抱きしめて
 乗り越えて行くものだと思うんだよな・・・な〜んて
 なんかどっかで会った変な奴が言ってた受け売りなんだけど。
 まあ、ちょっとだけ変えてあるんだけど・・・」

抱きしめていた手を離し、距離をとりながら
「だからさ。そんなに考え込まないでさ、もっと気楽にさ。ネ?」

そういって私に笑いかけた。
いつも見ている情けない笑顔ではなく心からの笑顔で。


私もついつられて笑ってしまった。

「人間てさ、答えも目的も何も無いってわかってても、がんばっちゃう生き物
 なんだよなー。みんな何かを残したいって思ってさ。」

「・・・そうなのかもね。」
なんとなくこいつの事が理解できた気がした。

「バカな思い込みでも信じて馬鹿げた
 青春や夢を追っかけてるんだよ。俺も同じさ。
 でもそんなちっぽけな俺たちを誰にも止められないさ。」


今までの最高の笑顔でそう言った。



「ヨコシマ・・・お前は強いわね。」

「そうか? 大してあんたと変わんねぇよ。
 俺だってそんなに器用に生きてるわけじゃないし。
 この道が正しいかなんて全然わからないさ。
 ただ開き直ってるだけさ。」

「ふふ、それでも強いわよ。
 ヨコシマ・・・ありがとう。
 私もまだ、うまくは言えないけど
 それでも、開き直れる強さぐらいは
 分けてもらえたわ。」

ひとつ間を空けてヨコシマの胸をうずめた。

「敵でもいい。また一緒に夕焼けを見て。
 ヨコシマ。」






色んなことがあった日だった。
でも私にもようやく目指すべき太陽が見つかったのかもしれない。























今、私たちは新幹線で隠れアジトに向かっている。
人族の連中を欺く為に逆天号を元の姿に戻し、
普段の戦闘用の服から人間たちが好む服に替えてある。

これならどう考えても連中には見つからないだろう。
ヨコシマは「反則だろ・・・」なんて呟いていたが。







アジトは緑が多く、静かで落ち着く場所にある。
もともと虫科の私たちにはそっちの方が都合がいいし
土地も安いので一鳥二石だ。

ヨコシマは納得がいかないらしく、また色々と
つっこんでいたが。
ヨコシマのいうようなイメージは偏見だろう。
そう言いたくなる気持ちはわかるが、私たち魔族
だって、節約していい結果が得られるなら
そうする。戦わないで済むなら話し合うぐらいの
気持ちは当然ある。



だから土偶羅様も私たちもヨコシマと行動を共に
している事を何も疑問と思ってないのだ。



とりあえず食料がこのアジトには無いため、
それらを調達しなければならない。

この辺には本当に田舎で近くには店がないので
車をださないといけない。
丁度いいのでヨコシマを誘ってドライブを楽しみながら
行くことに決めた。

「ポチ、一緒に来て。」

「あ、はい。ルシオラ様。」

ベスパたちの前では一応昔の呼び方で通すことにしている。
怪しまれたら面倒だしね。



ヨコシマは車の運転ができないみたいなので、私が運転することになった。


店ではそれぞれに必要な栄養分を買い込み、すぐに立ち去った。
ここに来ることが目的じゃあないしね。
必要な物だけ買ったら、長居は無用だ。

それにしても私が色々買っている間、ヨコシマはなぜかずっと苦しそうに
もがいていた。
なんでそんなに苦しそうにしているのか聞きたかったが、
ヨコシマの出す雰囲気のせいで聞くのはためらわれた。







帰り道に一緒に夕日を見ようと思ってヨコシマを誘った。
だけど、車の中ではお互いに無言だった。
私はこういう恋愛経験が無いため、こういう時
どうしたらいいのかわからなかった。
ヨコシマもなんとなく気まずそうにしている。

「楽しいわけないわよね・・・私とドライブしたって。」

「えっ?」
急に話しかけられヨコシマはビックリしていた。

「バカね。私。
 よく考えたらこっちは東側だから夕日が見れるわけないのに・・・
 下級魔族はホレッぽいのよ。知識と図体の割りに
 経験が不足していてアンバランスなのよ・・・」

彼には申し訳ないことをしたと思っている。
私のわがままに強引につき合わせて。

「お前の迷惑も考えないで・・・」

私の言葉を聞いていたヨコシマはずっと
押し黙っていたが突然

「ルシオラ一緒に逃げよう!!」

と大声をあげた。
私はそのセリフが信じられなく、
思わず急ブレーキしてしまった。

その際にヨコシマは思いっきり正面のガラスに
顔をぶつけ鼻血を大量に出していた。

「な、何言ってるのよ。いきなり・・・」
本当に信じられなかった。

「アシュタロスはあんたらを使い捨てるつもり
 なんだろう!? そんなやつの手下やってる
 こと無いって。」

こんな私にそんなことを言ってくれるなんて・・・

「俺たちのところにくれば、神族と魔族がついてるんだ!
 寿命の問題だって絶対なんとかなる。
 夕焼けなんか何百回でも一緒に見てやるよ!」

「本気で言ってくれてるの?」

「おおマジよ! 最近美神さんも露出が減ってるしな!
 可愛い子なら大歓迎だ!」

なんか今のはよく意味がわからないわね・・・
てか美神さんって誰?


でも・・・



とても嬉しかった。



2ヶ月しか生きてないけど、それでも今までの生きていて
一番嬉しかった。


「だから・・・ネ?」

そう笑顔で言うヨコシマに私は抱きついた。


「お前、優しすぎるよ。」

でも、私にはできない。
それはできない。

「でもゴメンネ。それだけはできないの。」

「な!? どうして!?」

「私にも事情があるのよ。」

そう、事情があるのだ。
私がここで一緒に逃げても、すぐにつかまる。
私はともかく、ヨコシマは間違いなく殺される。

それだけは耐えられない。
この戦いに彼を巻き込みたくなかった。
私だって好きな男の1人ぐらいは守る。
ヨコシマはどうあっても死なせたくなかった。

「安心して、お前は後で必ず逃がしてあげるから。
 ・・・でも今夜はいて。」

私は1つの決心をした。
ヨコシマの心に『私』を強く焼き付けるために。

「お前の思い出になりたいから、今夜お前の部屋に
 行くわ・・・。」

そう、有り体にいえば抱いてください、ということだ。
そういった瞬間にヨコシマは耳と鼻から大量に血を噴出させた。
そのまま白目を向いて倒れてしまった。

「あら、ちょっとヤダ、ヨコシマ。」
まさかこんな風になるなんて思わなかった。
刺激が強すぎたかしら・・・



でも、私の心には何の迷いもなかった。
私たちはアシュ様のプログラムで人間と寝るのは禁止されてる。
それを破ればもちろん待っているのは死だ。


例え力尽きてもなんの悔いも無い。
それにどうせヨコシマに一度拾われた命だ。
このままじっとしていても10ヶ月経てばどの道終わる。
だったらホレタ男と結ばれて終わるのも悪くない。

















空が赤く赤くメラメラと燃えていた。








振り返ってみれば短い人生だった。
1年どころか2ヶ月でその生を終えるなんて
生まれた時は考えもしなかった。


でもあいつが・・・ヨコシマが私の前に現れた時から
私は既に飛べていたのだ。

この小さな羽で。

あいつと過ごした時期は非常に短かかった。
それでも本当に楽しかったと心から思える。


















ーーーあの夕焼けのような赤く燃える青春が自分にも味わえたから。ーーー




















すいません、もうちっとだけ続きます。









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