ザ・グレート・展開予測ショー

続・GS信長 極楽大作戦!!【午後の部】


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 1/28)

私は,負けた事が無かった。
そう,彼に出会う迄。

家は陰陽師の名家。私はその跡取り。
嘗ては六道家に比肩していたと言う我が家の隆盛を取り戻すべく,父は私に霊能のスパルタ教育を施した。
才能は有ったと思う。努力もした。そして,やる気も有った。
敵地にして日本霊能教育の最高峰,六道女学院。私は其処に,霊能試験主席で合格した。
そして3年後,主席で卒業。ゴーストスイーパー試験もトップ合格した。
私はその間も,そしてその後も腕を磨き続けた。
式神の扱い,霊刀の扱い。何れをとっても,国内有数の腕前だと思っていた。自分に敵う者等,そうはいないと……。
そう,彼に会う迄は。

実力は付いた……。
そう思った私は,六道家に勝負を申し込んだ。
式神使いの家に,代々伝わるしたきり。両家の惣領が戦い,負けた方は式神を相手に差し出す……。
負ける筈ない。
そう思った。才能に胡座をかき,碌々修行もしないあの女には……。
しかし,あの女は……六道の跡取り,吉乃はこう言った。

「この子に勝てたら,勝負してあげますわ〜」

既に没落している我が家の立場は弱い。条件は飲まざるを得なかった。
しかし“この子”,吉乃が指したのは見学に来ていた見習いGSだった。聞けば,スイーパー試験に合格したばかり,しかも霊能に目覚めたばかりの素人だと言う。
まあ,前座には丁度良い……。
そう,思っていた。


結果は……私の完敗だった。
霊力,技術,知識,どれを取っても私の方が勝っていた。しかし,彼は実力の差を気転と行動力で埋め勝利をもぎ取った。彼の出鱈目な戦法に,私は何故負けたかさえ理解出来なかった。
……彼に負けた私は勿論吉乃と戦う事も出来ず,何故か母校六道女学院の霊能科に教師として就職する事となった。吉乃と戦わせてやると言う条件で。
勿論,それには“彼”を倒さねばならない。私はこれ迄以上に修行を積んだ。しかし,才能の差か,それとも単に年による成長率の差か。彼は私を遙かに上回るスピードでその力を増していき,リターンマッチを挑む私を悉く返り討ちにした。
──何時の間にか,吉乃に挑戦する為にではなく,彼と戦う事自体が目的となっていた。
必死に修行をこなすのも,彼に置いて行かれぬ為……。
そんな自分に戸惑う。だが,悪い気分ではない。
そして私は,今日も彼の元へ向かう。
“彼”──豊臣秀吉君の元へ。
今日こそは,勝ってみせる。

                 六道女学院霊能科2年B組担任教師,鬼道加江



学校から帰った藤吉郎は,一旦アパートに帰っていた。
今日の除霊は夜の10時から。9時に事務所に集合との事だ。
暇を持て余した藤吉郎は,浅野家にお呼ばれして夕食を頂いていた。
「どや,日吉にーちゃん。ねねの飯は美味いやろ」
「ええ,そうっすね。竹……権現様」
「ねねと夫婦になったら,こんなん毎日食えんで」
「はあ……」
「そんな,貧ちゃんたら……!」
赤くなりつつも,ねねは嫌がってはいない様だ。と言うか,寧ろ嬉しげだ。
「そう言えばねねちゃん,お母さんと2人暮らしって聞いたけど……?」
「あ,母はパートです。お陰様で体力も付いてきて。今日は外で済ますって。だから,気にしないで下さい」
「そうなんだ……でも有り難うねねちゃん。俺なんかの為にわざわざ……」
「い,いえ……。私がやりたくてやっている事ですし……」
「……」
でも,この娘の中の俺は俺じゃない……。
「……有り難う……ね……」
「い,いえ。そんな……」
「全くだぜ。小谷もこん位作れりゃなあ……」
「!?」
「な……長政はん!」
何時の間にか,ちゃぶ台を囲む人数が1人増えていた。
「い,何時の間に……」
「?……誰?」
「はあ!?おい,豊臣。誰は無えだろ!?嬢ちゃんでさえ覚えててくれてるってのに」
「は,はあ……。すんません。記憶喪失(?)なもので……」
「記憶喪失……?ったく仕様が無えな……。俺は人呼んで浅井長政だ。職業はゴーストスイーパー。魔装術を使う」
「浅井……さん?」
「長政で良いぜ」
「……ちょいと長政はん」
「あん?何だよ貧乏神」
「折角ねねとにーちゃんがええ感じになったんちゅーんに,あんさんは……!」
「あ?ああ,すまねえ。ま,良く有るこった。気にすんなよ,あはははは……」
「くっ……!あんさんなんか,信長にーちゃんに杯にされたらえーんや……!」
「???」
「何言ってるの,貧ちゃん……」

「……やっぱ,こんな方法じゃ生温い……。もっとガツンと行くべきやな……」


「……っと」
未だ集合時間迄間は有ったが,夕食後,藤吉郎は腹ごなしも兼ねて徒歩で事務所へと向かった。まあ,電車代をケチると言うのもあるが,この世界の風景は藤吉郎にとっては珍しく,好奇心を刺激するものばかりだった。
……と歩いていると,後ろから声を掛けられた。
「おーっ!小僧ではないか」
「御家老様!?」
「ノー。豊臣・さん。ドクター・ヒラテ・です」
「一益様迄!?」
「ノー。カズマス・では・なく・フカン・です」
「フカン……!?ああっ!良く見たら胸が有る!てか,髭が無いっ!も,もしかしてあんた,女の子!?」
「正確には・女性型・アンドロイド・です」
「アンドロイド……?」
「機械人形の事じゃよ。そう言えばお主,記憶を失ったのであったな。儂等の事を覚えておらんか」
「はあ,すいません」
「うむ。儂は彼の天才錬金術師,ドクターヒラテじゃ」
「フカン・です」
「は,はあ……」
平手家老そっくりのお爺さんに,一益様似の女の子ロボット……。また,変なのが出てきたなあ……。
等と思っていると,更に又た後ろから声を掛けられた。
「見つけたわ,豊臣君」
「加江様!?」
松下加江(のそっくりさん?)。又たも,藤吉郎には見知った顔だ。
「さあっ!勝負よ!」
「しょ,勝負って!?何なんすか一体!?」
「……何なのじゃ?フカン」
「データ・検索・中。……出ました。ミス・鬼道,豊臣・さん・に勝てば,ミス・六道・と戦える……」
「……だそうだ,小僧。付き合ってやれ」
「そ,そんなあ〜」
「さあっ!行くぞ」
「か,加江様あ〜!?」
「又たの,小僧」
「グッ・ナイ・豊臣・さん」
藤吉郎は,加江に引きずられ何処かへと消えた。
「ぐうっ!胸があっ」
「ゴ・カロウ・サマ〜」


「……此処なら思う存分戦えるわね」
加江に拉致された藤吉郎は,近くの空き地に連れ込まれた。
「な,何か知んないすけど,加江様っ!や,止めましょうよ。真剣勝負なんて……」
「何を言ってるの!今更そんな訳にはいかないわ」
「い,今更ったって,俺,記憶喪失で……」
「……その手には乗らないわ!」
「ええ〜!?」
「出てきなさい!我が鬼道に伝わりし“式神”……」
加江がそう言うと,彼女の影の中から式神が現れた。
「……て,五右衛門!?」
「あん……?」
そう,その式神はあの忍者・石川五右衛門だった。
「んだよ……?」
「お,俺だよ,俺!藤吉郎」
「藤吉郎……?秀吉じゃなくて……?」
「あ,ああ。何か知らないけど,殿やヒカゲと一緒にタイムゲートに入って気が付いたらこいつ(秀吉)と入れ替わってて……」
「へえ……。ホントにあの日吉かよ」
「お,お前こそ如何したんだよ。五右衛門」
「俺はあれから30年程後の時代に飛ばされたんだが……ちっと処刑されちまってよ。そんで,怨霊になってたんだが,其処を此奴の先祖に捕まっちまってよ。それから400年ちょい,此奴ん家に式神として飼われてる訳さ」
「ふ〜ん,お前がねえ……」
「この石川五右衛門様も,捕まっちゃそれ迄って訳よ」
「……五右衛門?何の話をしているの?」
「加江……。此奴は記憶喪失なんだろ?じゃ,ハンデだ。今回の勝負,俺の使用は無しだ」
「!……良いわ」
「OK」
「ちょっ,ちょっとお!」
「男らしくねえな……覚悟決めな,日吉。付き合ってやれ」
「いや,でも……」
「始めっ!」
「ええ〜?」

「……行くわよ……っ!」
加江は,霊刀“之綱”を抜いた。
「い,行くわよって,それ真剣じゃないすかっ!」
「……勿論よ。如何な霊刀と言えど,抜刀しなければその威力は半減するもの」
「て,言うか……」
「問答無用ッ!」
「わーっ!」
加江は霊力を刀身に込め,袈裟掛けに藤吉郎に斬りかかった。
「!」
藤吉郎は寸での所で避ける。
「ちっ!」
間を置かず逆袈裟に刀を振るう加江だが,これも藤吉郎は避ける。同時に,観念して文珠を出し『剣』の字を浮かび上がらせる。
「くっ……!」
加江は,流れる様な動きで次々と藤吉郎に斬りかかるが,何れも紙一重で避けられている。勿論,藤吉郎が避けているのであるが,2人の霊力が反発しあっていると言うのもある。
「……凶器の一番はじっこにくっついてる殺気の固まり……」
「?」
「何処迄それになりきれるか……!」
凄まじい殺気を発し,藤吉郎は強引に加江に斬りかかった。
「……!」
「勝負有り!其処迄ッ!」
寸止めしたその一振りで,藤吉郎の勝ちは決まった。
「……」
「……あ〜あ,又た負けちゃった……」
そう言いつつも,加江は何だか嬉しそうだった。

「……人を斬る覚悟の無い加江と,曲がりなりにもあの戦国の世を生き抜いてきた日吉じゃ,まあこんなもんだよな。でも……」
「でも?」
「“恋の鞘当て”には,少し有利な材料かな……?加江は年齢の分,只でさえ不利なんだから」
「なっ,何言ってるのよ五右衛門。もう……!」
「はは……」


p.m.09;20,織田除霊事務所。
「先生ーーーーーーっ!」
「おっせーぞ,猿」
「何処で油売ってたのよ,日吉」
藤吉郎は,重治の熱烈な歓迎(飛びついて顔を舐め回す)と,それなりに不快そうな顔の信長,そして思いっ切りジト目のヒナタに迎えられた。
「いや,ちょっと野暮用で。ははは……」
「ふぅ〜ん?」
「な,何だよ。ヒナタ……」
「……別に……」
「?」
まあ,誤魔化したのは賢明な判断だろう。
「んな事よりお前ー等。もうすぐ依頼人が来るぜ」
「依頼人?どんな人っすか」
「I.C.P.O.の超常犯罪科……通称“オカルトGメン”の人達よ。この国では民間スイーパーの力が強いからね。人材不足のGメンが,依頼をしに来る事も偶に有るのよ」
藤吉郎の問いに,考高が答える。信長達の“人格”が変わって以来──詰まり昨日から,事務仕事は全て彼女に任されていた。面倒な事は嫌いな彼女だが,誰もやる者がいない(重治に任す等は論外だ)以上やむを得なかった。
「……っていうか,オダのお父さんよ」
「俺の親父!?」
「ええ。それとその部下の西条さん。オダの愛人の1人ね」
「愛人……」
「……と。噂をすれば影ね」
ガチャ
「おーっ!信長。記憶喪失だって?見舞いに仕事持ってきてやったぞ」
「親父……」
「今晩わ,信ちゃん」
「おなべ……」
オカルトGメンの織田信秀隊長(向こうの世界の信長の父,信秀とは寸分違わぬ容姿である)と,西条鍋子捜査官(こちらも,信長の側室おなべの方にそっくりだ)が事務所に姿を見せた。
信秀は今でこそ初孫に弱いふにゃけたお爺ちゃんだが,若い頃は相当なプレイボーイで,織田家の跡取りである信長以外にも多くの子女を持つ。浅井長政の恋人,市小谷もその1人である。下半身でGS界を席巻しようとしていると言う噂が立つ程だ。信長がその血を引いている事は言う迄もない。
まあ,彼が本当にそんな事を考えていたかは定かではないが,織田家の勢力拡大に熱心な人物だと言う事は確かだ。
……今はそんな彼も初孫べったりの爺さんなのだが。こんな時間に迄未だ赤ん坊の初孫を連れているのだから,相当なものだろう。
「に〜に,に〜に……」
「おお。如何した,淀」
「豊臣先生に抱いて貰いたい様でござるな」
「……と」
藤吉郎は,信秀から赤ん坊──信長の庶兄,津田信広の娘・淀──を受け取る。淀は,幸せそうな顔で藤吉郎の胸に顔を埋めた。
「淀は豊臣君がお気に入りだな。如何だ,淀を貰う気はないかね」
「な,何言ってるんすか。相手は赤ん坊っすよ?」
「何,17年かそこらの年の差なんて大した事有るまい。世界で唯一の文珠使いである君なら,淀の相手として申し分ない」
「あのね……」
思わぬ強敵の登場に,ヒナタと重治の視線が険しくなる。考高の視線も,心なしか何時もより鋭い感じだ。
「……勝手に息子の家来口説いてんじゃねーよ,親父。んな事よっか,依頼があんだろ?」
「っと,そうだった。西条君」
「はい。現場は戦前の陸軍秘密研究施設。其処に住み着いている強力な悪霊を退治して頂きたい」
「強力な悪霊ねえ……」
「意識は未だかなり有る模様……兎に角相当強い悪霊で,今迄何人ものスイーパーが除霊に失敗しています」
「へっ……そう言う事なら,GS天下一を目指す俺達に絶好の獲物だな」
「……報酬は二千万」
「毎度!任せときな」
織田除霊事務所,出動!!


「食らうでござる!」
「鬱陶しいわねっ!」
重治の霊波刀と考高の狐火が,雑霊達を薙払っていく。
「是非に及ばず!」
信長の一撃で,その場にいた全ての雑霊は天に昇った。
「ふう……こんなもんか」
「ええ,雑魚はもう居ないわね」
「残りは親玉だけでござるなっ!」
「……は,良いんだけどさあ〜」
「ん?」
「何で女の子が荷物持ちなの〜?信長様!?」
……藤吉郎とヒナタは,荷物持ちをさせられていた。
「お前ー,役に立たないんだから,そん位やんのは当然だろ?」
そう,ヒナタは未だネクロマンサーの笛を吹けないのだった。“人格”が変化したのが昨日の今日で使いこなせないのは有る意味当然だが,実力・効率重視の信長配下ではこうなるのは当然と言える。
「くっ……!如何せあたしは特殊能力だけのヒロインもどきよ……!」
「人気無いのは,人の努力無駄にするからじゃ無いかなあ……」
藤吉郎が小声で突っ込む。
「んな事より……」
「ええ」
「来たでござるな」
「……何これ……?」
「親玉か……!?」
皆の背筋に寒気が走り,遂にターゲットの悪霊が姿を現した。
「くっくっく………。又たゴーストスイーパーとやらか……。全く,懲りない奴等よ……」
「へっ。そりゃ如何かな,俺達は……って……」
「ええっ!?」
「あんたは……!」
「ぬうっ!お前達は……信長に秀吉,それにヒナタ!?」
「天回!」
悪霊の正体は,“あの”天回だった。
「お,お前達,こんな時代で何を……」
「そりゃ,こっちの台詞だぜ。お前こそ……」
信長の顔が,一瞬引きつり,すぐに笑った。
「殿……?」
「……吸引っ!」
「うおっ!?」
思わぬ邂逅に無防備になっていた天回の霊は,呆気なく封魔札に吸い込まれてしまった。
「殿……?一体何を……」
「ふっ……思えば此奴には,色々と世話になったしなあ……」
「?」
「だから,ウチに就職させてやんのさ!」
「ええ!?」
「日給30円で,扱き使ってやるぜッ!」



その日,織田除霊事務所に新しいメンバーが加わった。
……誰も望まなかったかも知れないが。

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