ザ・グレート・展開予測ショー

唯一の失敗


投稿者名:香味
投稿日時:(04/ 1/26)

(有)椎名百貨店(超) GSホームズ極楽大作戦!!読後推奨です。尚、オリジナル設定(大家の名前等)もあるので注意してください。

それではどうぞ!!



「カオッさん、カオッさん、いないならいないで返事しな」

なかなかに無茶なことを言いつつ、「ヨーロッパの魔王」の部屋のドアをノックする老女がいた。
老女はふっと虚空を振り向くと、

「老女とは誰のことだい?ここにいるのは妙齢の婦人だよ」(怒)

地文を読まないで下さい、大家さん。

「うっさいね。カオッさんが飢え死にしてるんじゃないかと様子を見に来たいい女に失礼じゃないか」

ごほん、…では。




「カオスさん、カオスさん、御座いましたらお返事をお願いします」

「カオスさん」の安否を確かめつつ、ドアを柔らかくノックする見目麗しく、のりのりの御婦人がいた。
先程とは違い今度は返答があった。

「ドクターは・アルバイト中・です・ミセス・オタネ。鍵は・空いて・いますので・どうぞ」

「嬢ちゃんはいるのかい?じゃ、失礼するよ」

ずかずかと入り込んだ大家の目に入ったのは、もはや見慣れた少女の姿だった。



「いつもなら玄関までくるのに、調子でも悪いのかい?」

椅子に腰掛け、本をめくる以外は体をピクリとも動かそうとしないマリアは病に臥せているように見えなくも無い。

「すいません・ミセス・オタネ。充電中・でした」

すまなそうなマリアにオタネのほうが恐縮したように話しかけた。

「いや、いいんだよ、嬢ちゃんは悪くないさ。ところで…」

「?」

「その本はなんだい?随分と大事そうにしてたけど」

大家の興味の視線はマリアが読んでいた本に止まった。十年二十年ではきかない時間の流れを感じさせるその本には、何度も読んだあとがあり、マリアが大事に扱ってきたことが窺える。

「ミスター・ホームズの・「黄色い顔」・です」」

「?。聞いたことが無いね…。ようはシャーロック・ホームズの事件簿だろ」

「イエス・ミセス・オタネ」

不思議そうな顔をするオタネ。日本でも有名だったシャーロック・ホームズの事件簿はオタネも知っている。
しかし、「黄色い顔」という題には憶えが無かった。

十九世紀に活躍したシャーロック・ホームズ、これを事件簿としてまとめたのがDr.ワトソンであり、広く知られる私立探偵シャーロック・ホームズの事件簿である。有名な事件としては「踊る人形」や「赤毛連盟」等があるが「黄色い顔」は大きな事件では無いこともあり、オタネが忘れていたこともさして不思議ではない。



「なんでその本がそんなにお気に入りなんだい、嬢ちゃん?」

「長く・なりますが・よろしいですか…・ミセス・オタネ」

「かまやしないよ。どうせカオッさんが戻ってくるまでは暇なんだから」
そういってぱたぱたと手を振るオタネにマリアはどこか懐かしそうに話し始める。







ベイカー街 とある下宿

「なあ、ホームズ」

資料を片手に書き物をしていたちょび髭の男が傍らでパイプを片手に考え事をする神経質そうな男に話しかける。

「なんだね、ワトソン君。この前の事件はレストレード警部に任せておけば大丈夫だよ」

そう投げ遣りに言い放つと今度は拳銃を磨きにかかるホームズ。この私立探偵、頭脳明晰・運動神経抜群であり無能とは程遠いがその能力を何時・何処で使うかは本人次第、気が向かなければ良き隣人であるワトソンであっても碌に相手もしないという困った人である。そのためにワトソンは仲介役として苦労をするわけだが…。

「いや、あれはいいんだ」

「ん?」

ようやく、聞く気になったのかワトソンに向き直るホームズ。

「実は…」

「どの事件を纏めていたんだい?ワトソン君」

「なんでわかったんだい、ホームズ」

話そうとしたワトソンを遮るように話の内容を当てるホームズ。思索の時を邪魔されたことに対するささやかな仕返しといった所だろう。

「極めて初歩的な推理だよ、ワトソン君。君が資料片手に書き物をするなんて医者の仕事をしているか例のものをまとめているときだろう?そして医者の仕事ならカルテも無しにどうする気だったのかね。見たところドイツ語が書かれていないようだから論文をまとめているわけでもなさそうだ。となれば消去法で…」

ホームズの推理をワトソンが続ける。

「君の事件を纏めている、というわけか」

「ま、さすがに僕といえども君がふと思いついたことまでは推理できないよ。で、どの事件かな?」

「黄色い顔の事件さ」

この事件は完全にホームズの勘違いであり、ホームズの唯一の敗北ともいえる事件である(ルパンVSホームズは除く)。その為、ホームズ自身「僕が自惚れているようだったら「黄色い顔」といってくれたまえ」と戒めとしている。己の戒めとしたといっても失敗した話をされ、途端に機嫌を損ねるホームズ。

「君もなかなか意地が悪くなったね、ワトソン君」

「すまない、ホームズ。ただ君にしては随分迂闊というか、慌てていたというか…」

「あれは僕の慢心のなさしめたものだ」

「それ以外にも、推理を間違えたのか理由があるんじゃないかと思ってね」

「そ、そんなものはない」

「なんでどもっているんだい?単に不思議だな…と」

推理を間違えた理由について考えようとワトソンのとなりでみょ〜に焦っているホームズ。
散々首をひねっていたが、ふとなにか思い当たったのかワトソン君、推理を始めた。

「そういえば、あの「黄色い顔」の女性…」

(ドキン)

急に不整脈になるホームズ。

「顔や髪の色は全然違うものの、雰囲気がどことなく…」

(だらだらだら)

不整脈の上に発汗が止まらなくなるホームズ。隣ではそれに気づかないワトソンが推理を続ける。

「マリアに似てるような…、なんて♪」

(ズキューン)

誰かに狙撃されてしまったホームズ。心臓を綺麗に打ち抜かれたらしく瀕死だ。滅多にしない推理をして嬉しそうなワトソン君が振り返ってみたものは、イイ感じで走馬灯を見ているホームズの姿だった。

「大丈夫か、ホームズ」

「い、いや大丈夫だ。それより…」

なんとか復活したホームズ。

「それより?」

「しゅ、出版するのか?」

「なにか問題でも?マリアに偶然似てたってだけで、ホームズもたまには失敗するってだけだろ?」

「そうなんだが」

「じゃ、問題ないね」

わざとらしいまでに朗らかなワトソン。一方でホームズの内心は「じゃ、問題ないね」どころではなかった。
ちらっと問題の記述を盗み見たところ、見る人が見れば(マリア本人・ドクターカオス)マリアにそっくりだなあと思う程度に女性の容姿・振る舞いが記されていた。

(マズイ、ひっじょーにマズイ。マリアの慰めになればと思っていたが、今回の事件が出版されるということは…)

そう、「あなたに似た人だったので気になって推理間違えちゃいました(はぁと)」という内容の本が全国、いや人気が出てきているから全世界に配布されるのだ。おまけに、なまじっか私立探偵としての能力が高いばかりに失敗した事件は余計に目立つ。ホームズは宿敵モリアーティ教授を超える最大のピンチを迎えていた。

「あ、マリアの方にも送っとこうか?手紙付きで」

「………ぐっ」

ホームズ君、ワトソン君にKO負け








「ーーと・ミスター・ワトソンからの・手紙に・ありました」

そう締めくくるとマリアは本に挟んであった手紙を見せた。

「ふふっ、読めないから大事にしまっときな。そうかい、あんたもあのホームズを振り回すなんて悪い女だね」

「マリア・悪い女・ですか?マリア・困り・ます」

オタネの言い回しがわからず、困ったようにうつむくマリア。

「いい女は悪い女なのさ」

「マリア・わかり・ません」

「まあ、いい恋をしたってことさ。少なくともそいつのことを考えると嬉しいんだろ」

「イエス・ミセス・オタネ。この・メモリーを・再生すると・温かい・です」

感慨深げにうなづくオタネ。答えるマリアにはあの時の微笑が浮かんでいた。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa