ザ・グレート・展開予測ショー

B&B!!(21)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(04/ 1/23)




「私はお前達に投降する。だから、攻撃を止めるでちゅ。」



様々な表情で全ての視線がパピリオに集中した。
パピリオはゆっくりと歩を進め俺達の所へ向かって来た。

「何だよ、それ・・・バカな事、言ってんじゃねえぞ・・・・!」

「・・・・・自分が犠牲になってみんなを救おう、とでも考えているのですか?」

言葉を投げたのは、何とか膝をついて起き上がりかけた小竜姫。その言葉に横島が反応した―――。

「止めろ、パピリオ!お前が消えて喜ぶ奴なんて―ー奴ら以外、どこにもいないんだぞ!!」

「その通りです。分からないのですか!?その様な自己満足の犠牲で何一つ事態は解決しません!私達だって貴方を
罰したいが為だけに探し回ってたのではありません・・そして、雪之丞さん達だって・・・その想いや行動を全て無にする
事だと言うのが・・分からないのですか!?」

「いざと言う時の覚悟はしておけ・・・そう、おじいちゃんに言われていたでちゅ。・・・あしらい切れない時は、自分の身と
引き換えにしてでも人間達の安全を優先する事・・・それが私に出来ると示す事。その覚悟は出来てるでちゅ。
それに・・・・。」

俺達の前でパピリオは足を止めた。
ふと、この投降宣言に快哉を上げても良さそうなラケリエルと白鷺野郎があまり喜んでいない―何か、呆然とした表情で
こちらを凝視している―のに気付いた。・・考えてみれば、奴らは常に俺達に「パピリオを見捨てる」事を要求して来た。
・・普通は先にパピリオへ投降を要求する筈だが・・・・一度もしていない。
・・・一体、何故?

「それに・・・・友達が出来たんでちゅ。・・・メ・・・とこよがわしょーがっこ4ねん2くみみなづきりさ・・・ゆーか、まい、なおこ、
まなみ・・・みんな霊力とか何も無い、本当にただの人間の子供なんでちゅ・・なのに・・・私の事を守るって・・私は友達
だからって・・・今日会ったばかりの・・・一日遊んだだけの私を・・・・・・ヨコシマ。」

「・・・・・・何だよ?」

「人間はこんなに一生懸命に生きるものなんでちゅか?こんなに出会った他人を大切に思うものなんでちゅか?
・・・・だから、ルシオラちゃんは・・・・。」

「―――――――!」

「―――だからって、君がここで姉さんと同じ運命を辿る道理にはならないぞ!!」

唐巣が一般客の位置から険しい顔でパピリオに呼びかける。

「忘れたのか?彼女がいなくなってどれだけ横島君が苦しみ悲しんだか、・・・君自身、どれだけ悲しい思いをしたのか、
忘れたのかね?君がやろうとしている事は、その子達や私達・・雪之丞君達に同じ思いを味合わせる事でしかない!!」


「・・・・・・違うでちゅ。」

パピリオはかぶりを振った。顔を上げ――いつもの様にニマッと笑っていた。


「犠牲になろうなんて、これっぽちも思ってないでちゅよ。・・・今の私にはこんなに仲間が・・・非常識な程にどんな苦難も
乗り越えてしまう仲間がいる。だから最後には何とかなるって思ってるだけなんでちゅ。・・・だから今は、私は自分の
するべき事をする・・・この場を安全にして・・・人間達を・・・友達を守るでちゅ。」

再び鋭くラケリエルを見据え、呼びかける。

「私を連れて早くここから消えるでちゅ。お前達はここには場違い過ぎる・・・ユキ。」

「・・・・・・?」

「良く分かんなかったけど・・・つまり、お前のママは色んな大きなモノと戦って、『コード7』・・『10コマンド』の運命から
お前を救出しに来たんでちゅね?・・・・何かそれって・・ヨコシマみたいだなーと思いまちた。」

「・・パピリオ・・・・・・・・っ!」


「後で、ちゃんと迎えに来てくだちゃいね。・・・・お前のママがそうした様に。」


パピリオは踵を返すと静かにラケリエルと白鷺野郎に向かって歩いて行った。
横島がパピリオと小竜姫を交互に見ながら叫ぶ。

「パピリオ!止めるんだ・・・奴らはお前でメギドフレイムの威力を・・・・!
小竜姫様!アイツを止めてやって下さい・・!」

小竜姫は顔を伏せたまま横に振り、押し殺した声で返した。

「横島さんっ・・・!実際の所、あの子の言う通りなんです・・・!
今、ここにいる人達の安全を確保するには、もうこれしか・・・。」


残っている―それでも大勢いる―教団員達が距離を置いてパピリオを取り囲んだ。
その向こうにいるラケリエルの様子がおかしい。・・・うつむきながら両手で頭を抱え、何かブツブツ言ってやがる。

「どういう事なのだ・・・魔族が・・・人間どもの為・・自らを犠牲にする・・だと・・?友人を救おうとし、信頼を寄せる・・だと?
・・・馬鹿なっ!?奴らは自分の欲望を満たす為に破壊し奪う事が全てである筈だ・・そう生まれ付いている筈だ・・
ありえない・・・・ありえないぞ・・・!」


奴等が一度もパピリオに投降を呼び掛けなかった理由・・・・その可能性を全然考えていなかったから。
なるほど・・・パピリオの取った行動は奴等の世界観の容量を大きくオーバーしてたって訳だ。
ラケリエルの剣や身体中から小さく押さえ切れない様にメギドフレイムが噴出し始めた。白鷺野郎が慌てた様子で叫ぶ。

「ラケリエル様・・・お気を確かに!!疑いの念は、メギドフレイムの制御を・・・!・・・何かの謀に決まっております!!
奴めはあの様に人間や異端どもを誑かし、扇動する。それだけでございます!かくなる上は迅速に奴めを確保し移動して
次の状況へと進みましょう。」

「おお・・・・すみません、七角水帰白鷺尊。・・そうです。我らは勝利し、任務を一つ達成したのです。
・・・忠実なる者達と共に異界を抜け、予定の場所へこの忌まわしきものを移送しましょう。」

ラケリエルの全身の炎が中へ引っ込む様にして消えた。パピリオを取り囲んだ教団員達は恐る恐るその輪を縮めて行き、
最後に取り押さえた。パピリオは一切、抵抗しなかった。
陰念達がエミを抱えたまま地面に降り立つ。陰念はラケリエルにガンを飛ばしながら文句を言う。

「・・・ったく、油断もスキもありゃしねえな、てめえらは。・・・マジで俺様ごと焼こうとしてただろ?
・・まあいい。この女はこっちで持ってくからな?」

「それは後で決める事です・・・・お前達にも取り敢えず来てもらうぞ。当初の話通りにな。」

「フンッ、望む所だ。・・・雪之丞、てめえ、絶対に俺らを探し出して・・来い。その時こそケリ着けてやるからな。」



陰念達、ラケリエル、白鷺野郎、そして教団員達とパピリオは、
一斉に姿を透き通らせ、風景に溶け込む様に消えた。



取り残された俺達はしばらく―長い様にも短い様にも感じられた―奴らとパピリオの消えた辺りをボーッと見つめていた。

最初に動き出したのは客達の避難を再開したオカルトGメンと機動隊。続いて救急隊が駆け付け、火傷を負った弓と重傷の
タイガー、そしてガスを浴びた信者達を運び出して行った。唐巣とピートがその手伝いを・・・吸血鬼化させた、あるいはノビて
いる教団員はそのまま連行されて行った。横島が小竜姫に話し掛けている。

「一刻も早く奴らの居場所を見つけ出し、パピリオを救出しましょう!こっちにはヒャクメもいる・・異界だろうが海底だろうが
すぐ見つけられる・・・広範囲の人質さえなければ楽勝っすよ!」

「そうですね・・・・・でも、その前に・・・・・・。」


結局、最後まで呆けていたのは俺だった。目の前の状況は分かってるんだけど、それについて何かを考えたり、思ったり
って事がイマイチ上手く出来ねえんだ。――頭の中をパピリオの最後の言葉がぐるぐると回っていた。




「私は・・・・・・友達を守るでちゅ。」

ドチビのくせにカッコつけやがって・・・ナマイキでワガママで言う事もする事も滅茶苦茶なクソチビのくせに
・・・カッコイイじゃねえか。・・・・こーゆーの俺的に何て言うんだっけな・・・?
そうだ・・・・「ママみたいだ。」っつうんだ。

「お前のママは・・・・・・ヨコシマみたいだなーと・・・」

ああ、そう言われてみれば、そう言う事だな。さすがに奴を「ママに似ている」とか思った事はねえが。

「仲間がいる。だから最後には何とかなるって・・」

そう思えるって強さだよな・・・・だって、そう思えたからお前、あんな決断が出来たんだろ?
俺だってそれを理解するには随分とかかったってのによ・・・?

「後からちゃんと迎えに来てくだちゃいね。」

ああ、行くぜ。ちゃんと・・今度は俺がカッコつける番だ・・・迎えに行ってやる・・・行けるさ。俺はママの子なんだから。



「―――『迎えに』ですか?・・・貴方は行けませんよ。」


地面を踏みしめる音。顔を上げると目の前に小竜姫が立っていた。表情を消し、強く俺を見据えている。
―――強く・・冷たく。

「―妙神山監視指定の魔族の脱走行為を幇助し、我々に虚偽の報告を行ない、結果、人間界に混乱と騒乱を持ち込む―
貴方の行動は数多くの重大な違反事項に該当しています。お分かりですね?」

「小竜姫様!だけど、それは――。」


―ちゃっっ。


小竜姫は口を挟もうとした横島に剣を突き付けて制すると、次に俺の眼前にその切っ先を向けて来た。


「老師様と貴方との間で何かお話があったらしいとも聞きましたが、妙神山守護管理として正式な通達は何一つ受けて
おりませんし、一切関知しておりません。この事態において私が行なうべき事は一つ、です。

――――伊達雪之丞。妙神山規約及び神界協定に基づき、貴方をA級犯罪人として今より身柄拘束します。」



 + + + + + + +



左右を鬼門の二人に、その周囲を門下生である竜族や魔界正規軍の兵士に固められ先頭をゴーレム、後尾をカトラス
・・と言った顔ぶれで俺は妙神山の奥にある洞窟・・一直線にどこまでも伸びている・・の中を進んでいた。

「ここだ。」

右の鬼門が立ち止まるとボソッと言い放つ。そこは巨大な岩盤に塞がれた行き止まりだった。岩盤には至る所に何の
機能かも定かじゃない古代の札が貼られ、全体から底知れぬ霊圧を放っていた。

「・・・これはかつて斉天大聖様が全ての仏族に挑まれ、釈迦如来の前に屈された時、三蔵法師殿の到来までの
500年、その身を封ぜられた霊岩山である。断末魔砲の直撃にも耐え残ったのだ。天地に響く堅固さである。
・・・お主をここに封じよとの小竜姫様の御命令だ。」

「俺に猿並みの封印なんて必要なのかよ・・?・・マジでおめーらも知らねえのか、猿がどこ行ってんだか。」

「うむ・・・所用としか・・・恐らくは小竜姫様もご存知ではあるまい・・・。」




妙神山へ連行された俺を、横島と二十分後にあの場へ現れた美神令子とが追って来た。

「・・・・やっぱり納得行かないっすよ、こんなの・・・!元はと言えば猿が始めた事じゃないっすか?
・・雪之丞に落ち度が無いとは言えなくとも、肝心の猿はどこ行ってんですか!?」

「・・・納得行かなければ、どうするのです・・・?私と妙神山を向こうに回しますか・・・?老師様は所用にて出掛けて
いらっしゃいます。・・・・それに・・貴方も、この者もさっきから猿猿猿と・・・我らの主を気安く呼ぶでないっっっ!!
我ら神族に対する敬意が足りないのではないですか!?」

「――っ!何を今更っ!そんなラケリエルみたいな事言って誤魔化すつもりですか?」

「・・・何か変、よね・・・。小竜姫、あんたがお堅いのなんて相変わらずなんだけど・・それにしても、「らしく」ないのよ。
・・・・あんた、一体何を隠しているの?」

「美神さんまで、何が言いたいんですか・・・・?」

「あんた、ラケリエルの所に来て真っ先にパピリオの事じゃなくて、メギドフレイムとかやらの話をしたって言うじゃない?
その流出の事とか過激派組織の事とか詳しく調べた上でね・・・前もって老師同様に、奴らの動きを押さえてたんじゃ
ないの?・・組織や事件のしっぽを掴む為に。それえ、何も関知してないと、本当に言えるのかしら・・?」

「・・そうか!奴らを炙り出す為に泳がせて・・妙神山の立場に泥が付きそうになったら全部雪之丞にかぶせて尻尾切り
・・・!俺がそう言うの一番嫌いだって、分かってますよね・・・・!?」

「だから・・・・嫌いだったらどうするのです?」

「忠夫っ!あんたも落ち着きなさい!」

「・・・そうだ。落ち着けよ・・美神の大将もな。・・・元からこーゆー話だったんだからよ。覚悟は出来てるぜ。」

「・・・それは良い事です、伊達雪之丞。・・・行きますよ。」

「・・・・熱くなるのも良いけど内輪もめじゃなく、もっと有意義にエネルギー使ってくれよな?
俺もこんなだし、お前らが頼りなんだ・・・。」

「・・・・雪之丞・・・・・・。」

「・・・・相変わらず・・・・・バカよね、あの男も・・・・・・・。」






鬼門の二人が真呪を唱えると岩肌にぽっかりと穴が開いた。真っ黒な・・・・・とても深い闇への入口。

「・・・・入れ。」

ごくっと唾を飲み込む。一歩足を踏み入れると掃除機の様に俺の全身が吸い込まれた。闇の中で上下左右の感覚も
・・・身体があるって感覚さえない・・・霊体ごとコンクリ詰めにされたような感じだ―そうか、ここは普通の空間じゃない
―岩の中だ。自分の入ってきた所・・・光の穴が収縮して消えるのを感じた。――あとはただ闇だけ。音さえ存在しない


・・・・時間さえ存在しない漆黒だけ。



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 Bodyguard & Butterfly !!
 (続く)
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