ザ・グレート・展開予測ショー

唐巣受難曲(5)


投稿者名:浪速のペガサス
投稿日時:(04/ 1/20)



キィー、バタン。

唐巣神父たちが部屋から出てきた、その顔に苦しみを交えながら。

ドアを開く音が聞こえたのだろう、先度神父たちを案内した女性が近寄ってきた。


「神父様、娘は!?
娘はどうなったのですか?除霊は成功したのですか!?」


その顔には苦しみと期待が入り混じった複雑な表情が浮かんでいた。

その顔を見て唐巣神父は下唇をかみながら俯く。

言えない、言える訳が無いのだ、まさか除霊する事ができないだなんて。

しかしそんな神父の苦しみなんぞ何処吹く風、師は女性に近づくと二カっと笑い、話し始めた。


「もう心配要りません、あなたの御息女は無事に除霊ができますよ。
ただ、チョットばっかし面倒なことがあるのでそう…、三日!三日以内に何とか出来ます。
なんにも心配は要りません、神はあなたのすぐ側にいらっしゃるのですから…。」


おまけに片目を瞑って、ウインクまでするおまけもつけて。

女性は跪き、神と、そして唐巣神父達に対し祈り始めた。

涙を流しながら、ただ一心に感謝を込めひたすらに。

唐巣神父は俯いていた顔を上げ、驚きと困惑の表情で師を見つめていた。

何を言ってるんだあなたは、そう言っているように。

自分に向けられている視線を知ってか知らずか、師はそんなこと気にも留めずに話し続ける。


「それと、二、三お聞きしたいことがございまして、もう暫らくココに厄介になりたいのですが。
どうでしょう、よろしいでしょうか?
あぁそれと、我々はチョット準備をしますのでまた娘さんの部屋に入らせて頂きます。
これもまたよろしいでしょうか?」


母親は師の申し出を快く承諾し、自分はならば準備をしますと、パタパタと何処かに行った。

それを見て師はまた母親に向けて二カッと笑い、いってらっしゃいと手まで振る始末。

そして暫らくして母親が見えなくなると師は、唐巣神父に向けて指をクイクイしてきた。

どうやら一緒に部屋に入ることを強要しているらしい。


「和宏、お前も来い。
色々手伝ってもらわなくちゃいけないんだしよ。」


あくまで余裕のある態度は変わらなかったが。





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   唐巣受難曲


        第五楽章


            『我は喜びて十字架を負わん』
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「よし!これからやってもらうことなんだが…、簡単だ、ここに結界を作る、それだけだ!
ただし、精霊石と俺達の霊力を複合させた強力なやつだ。
この子のベッドを中心に、それぞれ十字架状に石をこんな風に配置しろ。」



―――――――――――――――――――――――――――――――
                   ○(精霊石)

               _________
              |         |
              |         |
          ○   |         |  ○
          (精霊石)|         | (精霊石)
              |         |
              |   ベッド   |
              |         |
              |_________|
                   ○(精霊石)
――――――――――――――――――――――――――――――――



それだけ言うと師はポケットの中から精霊石を取り出して、二つを唐巣神父に手渡そうとした。

そしてその頃になって彼は気づいた、唐巣神父が怒っていることに。

唐巣神父は無言で精霊石を受け取ると、これまた無言で結界をはる準備をする。

先ほど悪魔が出したものとは別の嫌な空気があたりを支配している。

と、唐突に唐巣神父が怒気を含めた声で師に向かって話し掛けた。


「いったいどういうつもりなんですか、あの親御さんに嘘をついて!?
この子にとり憑いている悪魔は除霊するのは不可能なんですよ、我々では出来ないんです!
しかも三日で!?冗談じゃありませんよ!
なのにあんな事を言って…!見ましたか、あの女性のあの嬉しそうな顔を!!
俺には…、先生のやっている事が分からない!!
………正直言いますとね、少々先生には落胆しましたよ……。」


叫んだ、と言った方が良かったかもしれないその口調。

唐巣神父は明らかに己の師匠に対して不信感を出していた。

しかし師はそんな事に動じず、逆に諭すように静かに唐巣神父に向けて話し始めた。


「言ったからには三日でなんとしても除霊する、なんとしてもだ。
忘れたか和宏、俺達は神の僕であり、そしてGSなんだ。
たとえどんな状況だろうとも諦めてはいけないんだ。
確かに今のままでは全く俺達には手がつけられない、だがそれがどうした?
だから俺たちは諦めるってのか?冗談じゃねぇ。
今の状態で除霊できないんだったらなんとしても見つけ出し、実行に移すべきだろ。
その為の時間稼ぎだ、その為の自分に対する時間と言う名の制約をつけるんだ。
俺たちはなぁ、なんとしてもこの子を救うんだよ、悪魔に勝つんだよ。
GSはなぁ…、勝たなくちゃいけないんだよ!!」


言葉が続くほどに師は語気を強めていき、最後の一言には怒りを含めた声で叫んだ。

その時になって唐巣神父は気づいた、師が本当は苦しんでいた事を。

冷静さの裏に隠された、自分を超えるほどの怒りと、救出の念が込められていたことを。

淡々とした口調のその横では、握り締めすぎた手が血を流していたことを。

自分はなんて浅はかなんだ、唐巣神父は痛烈にそのことを痛感していた。

力だけを伸ばし、肝心の心の部分はまだまだ未熟、そう思うと自分に対して憤りを感じる。

自然唐巣神父は、意識する訳でもないのに心と共に顔がどんどんと暗くなっていった。

それを見た師は、子供を慰めるように優しい声で唐巣神父を慰める。


「お前のそのバカ正直な性格は確かに欠点かもしれない。
だが、俺は好きだぜ、お前のその熱くなりやすい心は。
熱くなって良いじゃねぇか、心の中でその感情の昂ぶりの炎を燃やせよ。
お前はまだ若い、これから色々な事を学んでいけばいい。
そのために俺がいるんだしな。
それに、お前が怒った時は正直助かったんだ、俺も激怒しそうだったからな。
助かった、それと、すまなかった…。
………、なんだか辛気臭くなっちまったな。
すまねぇな、こんな厄介ごとに巻き込んじまってよ。」


最後のほうにはいつもの軽口に戻っていたが、唐巣神父には師の気持ちが痛いほどに分かった。

そして決意する、この師匠の行動に報いる為に、この子の為に、自分の為に絶対に除霊する事を。

意気揚揚と作業を続け、精霊石を所定の位置に置くと、唐巣神父は師に対して頷いた。

それを見て同じく師は頷くと、唐巣神父を自分のほうに手招きし聖書を開いた。


「よし!準備が出来たな!
『悪魔よ!主が汝を束縛する!』」


二人は叫び、同時に霊波を精霊石に向けて放つ。

そして霊波は、精霊石を通して増幅され十字架上に形作られ強力な結界が出来上がった。

並大抵の悪魔ならば全く問題にならないほどの霊波の結界が少女のベッドを中心に形成されたのだ。


「フィ〜…、疲れたな。
これでこの子の体の中の悪魔は手出しが出来ないはずだ。
とりあえずは安心だな、助かったぜ和宏。
お前の力がなけりゃココまで強力に出来なかったぜ。」


心底疲れた表情をしながらも、自分の事を気遣ってくれた師匠に唐巣神父は微笑を返す。

その顔には自分の事は心配無用です、それよりも先生は?と、そんなことが読み取れた。

師は気にするなといわんばかりにこれまたニカっと弟子に向けて笑いかける。

そして一息つくと唐巣神父と共に部屋を後にした。

キィー、バタン。

部屋から唐巣神父らが出ると、そこには先ほどの女性が立っていた。

そしてそのまま彼らは家の中では比較的綺麗なところに通された。

道すがら観察していると、やはり家の中は悪魔バズズの影響で荒れ果てている。

よくもまぁ、ココまで酷いことをする、唐巣神父は心の底から思った。

やがて部屋に通され、少しばかりの茶を馳走になる。

そして暫らくして頃合を見計らうと、師が母親に向けて静かにに話しかけた。


「さて奥さん、私が聞きたいことは至って簡単です。
まず一つ目は、お嬢さんがお幾つかと言うこと。
二つ目は、お嬢さんは何か特別な体質を持っていたのかということ。
そしてこれが何よりも肝心なんですが、お宅はキリスト教で?」


簡潔に、かつ要点をまとめたこの質問方法。

唐巣神父もしていたが、実はそれは師匠から影響を受けていたりする。

やはり何のかんの言いながらもこの二人は、細かいところまできちんと繋がっているのだ。

質問が意外に少なく、かつ簡単なものだったことに少々当惑する母親だったが、やがて恐る恐る口を開いた。


「娘は今年で十七になります。
それと特別な体質と言いますか、娘には霊が見えるそうなんです。
それと、時々何か別人のような行動をとるときがあります。
本人に問いただしても、別段心配することはない、といって聞かなくて…。
そして最後の質問ですが確かに私達が崇めているのはイエス=キリストです。」


母親も、これまた簡潔に質問に答えた。

そしてその回答を聞いていたとき、師が何かを掴んだかのように瞳を細めていたのに、唐巣神父は気づいた。

何かがある、そう感じさせるものだった。

あまりのありきたりな質問の回答に不安を感じたのか、再び母親は恐る恐る口を開く。


「あの……、本当にこれだけでよろしいのでしょうか?」


「大丈夫ですよ、結構です。
知りたいことは全て分かりましたから、ご協力感謝しますよ奥さん。
それでは我々はこれにて…。
また三日後にこちらにきますが、何か不測の事態が起きたらここに連絡を!
それと結界を張っているので触れないように!」


そういって懐からペンとメモ用紙を取り出し、自分の家の住所と電話番号を書き母親に渡す師。

そして最後に神の祝福があらんことを、と呟き家の中から出た。


「さて、これからが勝負だ。
和宏、これからは時間との勝負になる、後三日でなんとしても成功させるんだ。
寝てる暇なんかねぇからな。」


それだけ言い放つと、師はこれまた懐から煙草を取り出した。

先ほどまでの、どこかお調子者の神父の顔はもうない。

唐巣神父はただ無言で頷くと先ほど少女がいたであろう部屋を睨んだ。

必ず助ける、心の中でその言葉を誓って。

一方師は、この家を出てすぐ正面にあるがけの先で煙草を吸っていた。

それは、人が死ぬには十分な高さで、一歩間違えれば即死だろう。

その光景は皮肉にも、まさに今の彼らの状態そのまま象徴するかのようで。


「高いがけだな…。
人が足を踏み外して死ぬにはうってつけだな。
俺らは足を踏み外さずにすむかねぇ……。」












                       第六楽章へ続く……

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