ザ・グレート・展開予測ショー

B&B!!(20)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(04/ 1/20)



地面にあの白い炎が広く散らばっていた。その中に若い女―少なくとも、そう見える―が立っていた。

小竜姫は自分の剣を片手に握り俺に背を向け、ラケリエルと対峙していた。



「・・・これは妙神山守護小竜姫様。私、第十二階位天使ラケリエルと申します。お会いするのは初めてにございますが、
お噂に違わぬお美しさと勇ましさに・・・」

「冗長な挨拶は結構。そんな事より第十二階位天使ラケリエル。・・・今貴方が自分の剣に用いていたのは
『メギドフレイム』ですね?」

「如何にも・・・おお、異教の神にて竜族の貴方も、我が父の栄光を示すこの偉大なる力をご存知であったか・・・!
幸いなるかな、でございます。」

「服務神族なら誰でも知っています。
聖書級崩壊と神魔最終戦争に備えて開発された究極の破魔エネルギー『メギドフレイム』。
神界の最高機密にして最高レベルの管理を受けている筈のそれを、何故人間界で特定の軍務にも就いていない貴方が
玩具の様に振り回しているのです?」

ラケリエルは無言のまま小竜姫から視線を逸らした。小竜姫は剣先をラケリエルに突き付ける。

「デタントの一環として最高指導者がメギドフレイムの保有削減を始めてから300年。別途エネルギーに再構成処分
されたもの、廃棄処分されたもの、これらのファイルデータと実際の残量データの誤差は凄まじい事になっています・・・
ほぼ現存量と同じですね。しかもその事実は十数年前のアシュタロス戦役直後まで明るみに出る事はありませんでした。
・・・どう言う事だと思います?」

「それはエネルギー管理局の怠慢ゆえ・・・・・」

「―違います。誤差ではなかったからです・・・意図的に流出されていたからです。一部の神族や天使だけで可能な事でも
ありません。これだけの量の最高レベル保管を流出させ隠し通すなんて事は・・・あなたの所属している『真神聖霊十字軍』の
組織力を以ってしても、不可能です。」

組織名を出された時、ラケリエルの肩と翼が、ぴくんっと震えた。

「何故、それを・・・・?」

「余り、妙神山をナメないで頂きたいですね。大手『メルカパ』『角笛会議』、中堅の『ソロモン旗章』『グリゴール前線』、
そして『真神聖霊十字軍』・・こうした過激派組織の構成員である事が露見した場合、その者は全ての役職を解任され、
封印拘束される場合もある。・・・でしたね?」

「ぐっ・・・・!!」

「メギドフレイム流出にはそれらの組織の複合ネットワーク、いや、それ以上の大きな力が関わっています。
・・・天使長ミカエル様は何故急に声明を出されたのでしょうか?反デタントとは言え、何故、組織の末端である貴方の手に
渡ったのでしょうか・・・人間界で魔族や人間相手にメギドフレイムが使用された例は都市単位で二件しか存在しません。
個体事例のデータを集めるのに“誰が一番適任だった”と思われたのでしょう・・?」

「・・・・黙れっ!魔物上がりの中途半端な異端神族が。曲がりなりにも階級が上だからと下手に出てればどこまでも増長
しおって・・・我が父のメギドフレイムと共にある私は、貴方より霊格も力も上なのですよ!?」

ラケリエルが再び剣を構えた。再び白い炎が燃え上がる。
小竜姫は俺の前に立っているが一度もこちらを振り向かない。・・・俺やパピリオの事をどう考えているんだろう?
速攻で怒鳴りつけられる・・ブッ飛ばされ・・殺される事だって有り得ると思ってたのに言葉の一つも掛かって来ない。
猿の話が通ってる・・・なんて事は有り得ないな。能天気な奴なら「事態が大きくなり過ぎて逆に許してもらえた」とか思うかも
しれないが、俺にはもっと悪い事態が待ってる様な気がしてならねえ。・・・ま、「起きた事クヨクヨ悩んでもしょうがねえ」とか
思ってる俺はやっぱり能天気なのかもな。


「力が強い事が全てと思ってる内は剣士じゃありませんよ・・貴方の手に持っているものは飾りですか?・・・私の問いに
答えたくないなら・・来なさい。剣の強さと言うものを教えてあげます。・・その上で色々と話してもらいましょう!」

小竜姫の姿が一瞬鋭く光って消えた――「超加速」だ。
ラケリエルの全身が白い炎に包まれ、次に炎が収縮し奴を覆う光となった。
羽ばたいて数m上昇するとあちこちに剣を振り回した。
でたらめに振ってるのではない証拠に、奴が剣を振る度に続け様に鋭い刃合わせの音が聞こえた。
戦いの趨勢はここからではまったく見えない。だがラケリエルの顔には次第に笑みが広がっていった。

「フフ・・フハハハ!どうです小竜姫?このメギドフレイムは魔物や信仰薄き人間、そして異教異端の徒には身を焼き尽くす
炎となりますが、我ら父に従順なる者にはその身をすり抜け、爆発的に戦闘力を高めるエネルギーともなるのですよ!!」

不安になって来た・・・・明らかに小竜姫が劣勢だ・・・今のラケリエルは小竜姫と互角・・いや、メドーサ並だ。小竜姫が苦戦
する理由は恐らくもう一つある。俺はチラッと、逃げそびれて一ヶ所に固まっている人間達に眼を向けた。話に聞いた香港での
竜族の一騎打ち―他人を巻き添えに出来る者と出来ない者の明暗。同じ状況だ。
俺は水晶を地面に並べ真呪を唱えた。デジャブーランド全部を巻き込んでの騒ぎ、ラケリエルの出現、小竜姫の参入と苦戦、
全て報告の必要がある。何やってんだ・・・・早く出ろ、猿。
水晶が光り、猿の姿ではなく、神界文字が空中に浮き上がった。


「おかけになった通信先は、現在霊波の届かない場所にあるか、通信を拒否している為、かかりません。」


「何だとーーーーーーっ!?」


叫び終わらない内に苦しげな悲鳴が聞こえて来た。耳ではなく頭に直接。聞こえた方角を見ると七角水帰白鷺尊が
ヴァンパイアミストに雷撃を広く放っていた。後ろに人間がいる為、受けるので精一杯だ。
俺が駆けつけると雷撃が止み霧は元のピートの姿に戻って・・倒れた。

「いつの間にか奴が、ここから皆に雷撃を放とうとしてたの見付けたので・・・」

「すまねえ、気付かなかった・・大丈夫か?それに、お前、さっきのあの炎・・・。」

「ええ、大丈夫です・・・さっきのは・・少し掠めたんですが・・・熱かったけど何故か、すり抜けて行きました。」

「すり・・抜けた??」

・・・メギドフレイムが焼かなかったというのか?・・・・吸血鬼を?

余り考え込んでる暇はねえ。白鷺野郎は第2波を放とうとしている。今度は俺とピートでダブルGSシールド。
雷撃を余裕で跳ね返した。

「くっ・・・!おのれ・・・。ラケリエル様、私めにもメギドフレイムの御力分けて頂きとうございます・・・
さすればこのような者ども、一網打尽にて・・・・!!」

返事の代わりに超加速の解けた小竜姫が転がり込んで来た・・いや、飛ばされて来た。大きなダメージを受けたらしく
なかなか起き上がれない。剣を揺らしながらラケリエルがゆっくりと近づいて来た。

「後ろの取るに足らん罪人どもなどを気にかけているから動きが鈍るのですよ・・でなければもう少し頑張れたでしょうに・・・
良いでしょう七角水帰白鷺尊、神の炎纏し雷で打ちなさい。貴方の大いなる忠誠の心にて。」

「・・・・ありがとうございます。」

ラケリエルが剣を白鷺野郎に向けると、その先から炎が一直線に伸び、白鷺野郎の全身に巻付いた。

「お・・おお・・・力が・・・満ちて来る・・・・・!!」

シールドに当たる雷撃の霊圧が跳ね上がった。踏ん張ってシールドの出力を上げるが追いつかなくなって行く。

「ケエエエエエエエーーーッ!!」

白鷺野郎が一声上げると同時に雷の上を炎が走った。シールドの限界を超えた。

「ヤベえ・・・・ぐあっ!!」

俺とピートはシールドごと弾き飛ばされ、その間を炎と雷撃が通り抜けて行った。向かう先はその後ろの人間達―の中の、
一組の家族連れ。その前に弓が躍り出た。白い閃光が走り、あいつの鎧、水晶観音は砕け散った。
弓の背中にメギドフレイムが燃え移り、激しく燃え上がる。

「きゃあーーーーーーーーっ!!」

「弓ぃーーーーーーーーーっ!!」

俺は駆け出したが、炎があいつの全身を覆うのに間に合わない・・・それでも駆け出した。

「・・・最後だ。」

再び白い炎と雷撃が全ての人間達に向かって放たれた――――――。


  「消」  「火」  ―――――――――!!

炎が消えた・・・白い霊気に戻って四散する。雷撃に乗っていた炎も弓に燃え移った炎も・・・・。

「・・・文珠・・?『消』『火』・・馬鹿な・・・?ただの炎ではないのだぞ・・・?そうか!
この場に現れる文珠使いと言えば・・・・あ奴なら・・・・!」

一角で信者達が左右に避け、その中から神通根片手の横島が突進して来た。
その時、反対側からもタイガーが信者達の頭上を飛び越えて・・・いや・・・血まみれの姿で吹き飛ばされて来た。
タイガーの飛んできた方向―「空飛ぶチヨちゃん」の乗用豚の上、一台ずつに陰念と黒服GS達が立っていた・・陰念は
頭と左腕から沢山の血を流し少しふらつき気味で、意識を失っているらしいエミを抱えていた。

「うう・・・すまんですけん、大口叩いときながらまた負けてしもーたですけん・・・。しかも、エミさんまで・・・。」

「ハアハア・・・・へへへ・・あん時よりは随分手こずらせてくれたじゃねえか・・?こっちも何か血が流れ過ぎたぜ・・
てめえとのケリは少しだけお預けにしといてやる・・・この女は駄賃にもらっとくがな・・・!」

エミの姿を見てピートが血相を変えて怒鳴った。

「貴様あーーっ!!エミさんに何をしたーーーっっ!?どうするつもりだーーーーっ!?」

「・・・へっ、ちょっと眠ってもらっただけだし、俺は何もしねえさ・・・?こんな色黒のババアなんざ趣味じゃねえよ。
・・・だけど、ベリアル様にはきっとお喜びになって頂けるだろーぜ・・・」

「フフ、黒魔術師か・・・その女がメギドフレイムでどの位燃やせるのかと言うのも良いサンプルになりますね・・・?」

「止めろーーーーーーっっ!!」

ラケリエルが剣先をエミに向けると、ピートが叫びながらその間に向かおうとした。・・陰念の顔も引き攣っていた。

「・・・・・こちらの人間どもは良いのかね?」


  !  !  !

白鷺野郎が再び炎を載せた雷撃を用意していた。今動けるのは俺、ピート、横島・・・・唐巣。ラケリエルと白鷺が同時に
メギドフレイムを放ったとしたら・・・どちらかしか止められない。さっきので分かった。いくら文珠でもこの炎の消火能力には
限度がある。戦力を分散させれば・・とても太刀打ち出来ない。

・・・・・くそっ。

仲間がいるのに・・・何も出来ないなんて・・・何もしてやれないなんて・・・。
3人も・・それも最高に信頼できる戦友と並んでいるって言うのに俺は自分の事さえままならず、手一杯だった。

「・・・慈悲だ。もう一度だけ言うぞ。その魔族を置いて、この場を去れ。・・・さすれば人間にこれ以上の累は及ばん。
・・・あの女は最早保障しかねるがな。」

「ふざ・・・けんじゃねえっ。」


俺は間違ってるんだろーか?奴らと取引してドチビを売っ払うべきなんだろーか?・・だがそんな事は出来ねえ。
心の奥から声がした・・・・たとえ間違っていたって、出来ねえ。エゴだろうか・・・・・安い意地なんだろーか・・・?

だけど、それが俺だ。


「・・・・・愚か者め。」

白鷺野郎は呆れた様にそう言うと全身から炎と雷撃を放ち始めた。ラケリエルの剣からも炎が噴出し始める。
その時、ラケリエルと白鷺野郎の所に紫色に光る蝶の大群が押し寄せた。蝶は一羽一羽が炎を吸収して燃え、
奴らもそれ以上に炎を伸ばすことが出来ない。蝶は後から後から押し寄せて来る。




「・・・・・・・・・もう・・・良いでちゅ。」

「・・・何のつもりかね?小さき魔族よ。我らが父の栄光に刃を向け人の世に災い為す魔族の本性を示そうと言うのですか?」

「・・・駄目だ・・パピリオ・・・!」


水無月理沙達の前に立ったパピリオは俺らとラケリエル達とを見つめたまま静かに首を横に振った。

「・・・もう、良いんでちゅ。だから・・・・止めるでちゅ・・・。」

「パピちゃん・・・・・・・・・だめ・・・だよ・・・・。」

理沙が泣きそうな顔でパピリオを呼び止めようとした。
パピリオは振り返り、少しだけ理沙に笑いかけると再び真顔で向き直った。





「・・・・・・・・・私はお前達に投降する。だからこれ以上の攻撃を止めるでちゅよ。」

――――――――――――――――――
 Bodyguard & Butterfly !!
 (続く)
――――――――――――――――――
エミとピートが微妙に親密な感じがしますが二人に何があったのかついては多分ここで書かないのでご想像にお任せします・・・。
さて、起承転結で転に入りました、もっと転がります。

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