ザ・グレート・展開予測ショー

表裏一体


投稿者名:香味
投稿日時:(04/ 1/19)

憎んでいた
恨んでいた
どうあっても許せなかった
…絶対に後悔させてやる
彼の両手はそこに何かを閉じ込めているかのように強く組み合わされ、机の上に置かれている。


あいつのことを考えるたびに視界は真っ赤に染まり、そんな物騒なことを考えてしまう。
パートナーと信じていた。あいつのことを理解できていると思っていた。そんな俺の自惚れをあいつは最悪の形、裏切りという形で叩き壊した。あいつは俺が騙されたのを確認すると満足げに行ってしまった。あの瞬間を思い出すだけで悲哀・驚愕・絶望・屈辱・無力感といった感情とともに力が湧きあがってくるような気がする。
さらに分かちがたくなるように両手に力が加えられ、上等なマホガニー製の机が悲鳴を上げる。


あいつがどこ逃げたかはわかっている。絶対に許せない。だからのうのうとあそこにいるあいつを引きずり出して裏切ったことを後悔させてやる。
ふうとついた溜息に合わせて、混濁していた思考が澄み渡っていく。
そして彼は呟く、唯一つの思いを込めて。









「煩悩少年にお預け食らわしておいて、のうのうと死んでいられると思うなよ」
物騒な考えをしていたはずのその瞳には‐
「俺の煩悩パワーを甘く見たのがお前の敗因だ」
負の感情は一片もなく、
「お前が死んで俺が幸せになれるとでも思ってたのか?転生なんて待ってられるか」
純粋すぎる決意。ただ‐
「あの晩の約束も夕日の約束も踏み倒させるわけないだろ」
悪戯小僧のような表情。一変して‐
「ルシオラ」
想い人の名を呼ぶときは‐
囚われのお姫様の名を呼ぶ王子様のように‐
壊れやすいガラス細工の花を扱うように。



「こらー、ヨコシマー。荷物持ち手伝いなさーい」
「ヨコシマさん、お留守番お疲れ様です」
「せんせー、疲れたでござる、慰めて欲しいでござる」
「私の油揚げつまみ食いしてないでしょうね」
同僚達が帰ってきたようだ。彼は彼の日常を迎えに行く。
「あれー、結構早かったんすね。お疲れ様です」
軽い口調とは裏腹に浮かべる笑みは数瞬前の思いの残影を残していた。
それを見た彼の大事な同僚達は一人の例外もなく理由もわからず顔を赤らめる。
「風邪ですか?なら俺が付きっきりで看病をぉぉ」
飛びかかろうとする彼、浴びせかけられる迎撃の嵐。
今では遠くなった騒がしくも懐かしい日常に彼は帰る。






「待ってるわ」
どこかで懐かしい声が聞こえた。

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