ザ・グレート・展開予測ショー

君ともう一度出会えたら(幕間2)


投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(04/ 1/18)

『君ともう一度出会えたら』 −幕間2−



》》Lucciola


  『……あ……あれ!? 俺は──』
  『壊れかけてた霊基構造を私のもので代用したのよ。もう大丈夫』
  『そ……それで、おまえはなんともないのかっ?』
  『平気……ってわけには、いかないわね。
   私たち魔族は、幽体がそのまま皮を被ってるよーなもんだから……
   それを大量にまびいちゃって、もう動けそうにないの』
  『大変だ……。すぐにみんなのところに──』
  『ダ……ダメ! 今はそんなヒマないわ! すぐに美神さんを助けに戻って!』

  『よ……よし、わかった……。必ず戻るから、待ってろよ! 下に降ろさなくていいか?』
  『ここでいいわ。ながめがいいし、おまえがあいつを壊せば、すぐ見えるから』

  『本当に……大丈夫だな? ウソだったら、ただじゃおかねーからなっ』
  『大丈夫……』


「ルシオラ。いくらあんたが魔族でも、死にかけた横島クンを助けるほど霊基を与えたら……」
「……」

 その先は、言われなくてもわかった。
 ヨコシマは私を助けるために命を賭け、そして私はヨコシマを生かすために──


  『ベスパは死んだぞ。おまえのためにな!』
  『おどろいたな。まさか、生きて戻ってくるとは……』

  『消えろ! 私は忙しいのだ!』

  (落ち着いて! アシュ様はおまえをまだナメているわ! かわせる!)

  『チイッ! そうか……ルシオラだな!? 貴様、ルシオラを体内にとりこんだのか』

  (相手にしちゃダメ。 タマゴの中に飛び込むのよ!)

  『ルシオラは死んだ! おまえの中に大量の霊基構造を与えたためにだ!』
  『ウ……ウソだーーっ!』

  (今よ、ヨコシマ! 今度こそ、タマゴの中に──)
  『わ……わかった』


「ルシオラ。あんた、やはり……」


  『な……なんだ、ここは?』
  (亜空間迷宮みたいね。あの装置が世界をアシュ様の望むように自由に再構築できるとしたら、
   ここにはその材料になる無限の「可能性」が詰まってるはずよ)

  『アシュタロスが言ってたこと、本当か? 俺に……霊体をゆずったせいで、死んだって……』
  (本当だと思う)
  『思うって、自分のことだろ!?』
  (今話しているのは本人じゃなくて、おまえにゆずった霊体構造に残留してる人格なのよ。
   いわば、魔物の幽霊……)

  『そうだ……復活させればいいんだ! 魂の壊れた美神さんが復活できんなら、
   おまえだって、同じことじゃねーか! まかせろ!』


「よかった。まだ可能性は残っているのね。ある意味、私と同じ立場になったのかな?」

 だが私は希望よりも、言いようのない不安を強く感じていた。
 本当に私は、復活できるのだろうか?


  『こっ、これは!? 亜空間から出られたのか?』
  (アシュ様がタマゴの中に造った世界の中の一つね)

  『うわあっ! な……なんだこれ?』
  『……よ……こし……ま……』
  『み、美神さん!』

  『や……やばい。もう魂が分解寸前だ!』


「しっかりしなさいよ、私!」


  『い……いかん。もう気合が残ってない……。このままじゃ分解しちゃう!
   だめだ死ぬなっ! この──シリコン胸!』
  『悪質なデマを流すんじゃないっ!』
  『ぶっ!』
  『はっ! ……って、あれ? ここは……?』
  『よかった……。なんとか、一時的にもちなおした』


「……横島クンも、一度ゆっくり話し合う必要がありそうね」


  『事態はほとんど泥沼ッスよ。早いとこ、なんとかしないとっ!』
  『弱気になるんじゃないの!
   千年もかけた計画がつまづきの連続……見方を変えれば、泥沼は奴の方じゃない!』

  『ここは……!?』
  『亜空間迷宮の心臓部。これで奴の首根っこをおさえたってわけよ!』
  『エネルギー結晶……』

  『OK! 魂が再生されながら外へ出てく……。逆操作成功よ! 身体に戻れる!』
  『や……やった!』
  『複雑なイメージは無理だけど、単純で強い思いなら、ここからでも現実化できる……
   ルシオラを復活して、可能ならこの装置も破壊……』


「やったわ! 私、復活!」


  『よーし、ルシオラ。今──』

  『ぐわっ!』
  『調子にのるな! 今のを見逃してやったのは、私にはもはやあの女の生死などどうでもいいからだ。
   あいつは外へ出た! 残ったおまえは、私が放り出す。泳がせるのはここまでだ!』

  『ガッ!?』
  『よ……横島クン!』
  『ジャマ者は、これですべて排除した!』
  『ジャマなのは、お互いさまよ! ケリをつけてやるわ、アシュタロス!』


「まだアシュタロスが残っているわね。それにルシオラのことが……」

 確かにそうだ。美神さんが復活できても、アシュ様もあの装置も無傷のままだ。
 このままで、アシュ様に勝てるのだろうか……?


  『私はあと一歩で、無に帰るところだったわ。
   タマゴの中をさまよっている間、私の意識は虚空の中にとけかかっていたのよ。
   その間、ずっと感じてた。この宇宙は──おまえを認めない!』

  『フ……おまえは正しいよ。宇宙を変換処理することは、非常に大きな反作用を生む。
   それがすなわち、私を排除しようとする“宇宙意思”だ』

  『おまえたちの悪運につきあわされて、もうかなり時間をムダにした。
   せっかくプロセッサが正常に戻ったんだし、遅れを取り戻すことにしよう。
   私に抵抗する、ちっぽけな最後の勢力──GSをこの世から、消去(デリート)だ!』

   バアァーーン!

  『ん?』
  『なんにも起きませんよ?』

  『こ、今度はなんだーーっ! また悪運で、セコいトラブルでも発生したのかっ!』
  『……悪運じゃねえ。
   “奥の手”を使わせてもらった。悪運じゃなくて、策略だよ。アシュタロス』
  『横島クン!』

  『そいつが俺の奥の手だ!
   これで、もうその装置はガラクタだ。エネルギー結晶をガメてやったからな!』

  『なんとなく、なんとかなったわね。アシュタロス!
   宇宙の反作用って、あんたが思ってるより、ずっと大きいんじゃないんかしら?』

  『う、うちういし……? なんですか、それ?』
  『時空の復元力のことよ。時空は変更を加えようとすると、元に戻ろうとする力が働くの』

  『今回、アシュタロスは宇宙に修復不能な形で、変更を加えようとしている。
   そこで、奴に向かって逆風が吹いているわけ』


「ホントに何とかなったわね。宇宙意思の反作用か──」


  『ちいっ! 結晶は──』
  『動くな! ちらっとでも動けば、結晶を破壊する!』
  『悪い冗談だな。そいつを壊せば、困るのは私だけではないぞ。ルシオラを見捨てるのかね?』
  『!!』
  (壊して、ヨコシマ! もうそれしかないわ!)

  『今すぐ返せば、君とルシオラは生かしておいてやろうじゃないか。
   新世界のアダムとイブにしてやろう。
   彼女は君のために、すべてを失ったのだろう?
   このまま死なせるのは、ひどすぎると思わんかね?』
  『横島クン!』
  (耳を貸しちゃダメよ! ウソに決まってるじゃない、ヨコシマ!)

  『決めろ! それを壊して何もかも台無しにするか、それともルシオラを助けるか──』

  (何を迷ってるの!? 結晶を破壊すれば、アシュ様は一気に追い詰められるのよ!
   神魔族は復活し、アシュ様は力の大半を失うわ!)
  『しかし、それでは俺の手でおまえにトドメをさすことになるじゃねーか! そんなこと──』

  (ヨコシマ……私一人のために、仲間と世界のすべてを犠牲にすることなんか、できないでしょう?)
  『しかし──』


 私は、別の世界にいる私の気持ちを痛感した。もし私がこの場にいても、同じことを言ったに違いない。
 だが決断を迫られる横島の気持ちは……


  『もういい。まかせるわ。ここまでやれたのは、横島クンのおかげだしね。
   他の全部を引き換えにしても守りたいものがあるなら……私にはもう何も言えないわ。
   正しいと思うことをしなさい、横島クン!』

  『なんで……なんで俺がやんなきゃダメなんですか!』
  (約束したじゃない、アシュ様を倒すって。それとも──誰か他の人にやらせるつもり?
   自分の手を汚したくないから!?)

  『恋人を犠牲にするのか!? 寝覚めが悪いぞ!』
  『今おまえを倒すには、これしかねえ……。どうせ後悔するなら、
   てめえがくばたってからだ、アシュタロス!!!』


 とうとう横島が、エネルギー結晶を破壊した。
 エネルギー結晶の破壊と同時に、宇宙処理装置(コスモ・プロセッサ)も地響きをたてて崩壊する。


  『私の……天地創造が……あんなガキの手で……』


「こういう結末だったのね。でもルシオラ、あなたは──」


  『げ、元気だしなよ。ルシオラのことは、あとでまた考えましょ。
   きっと他にも、生き返らせる方法が──』
  『どうやるんですか!? 彼女、戻ってくると思いますか? 本当に──!?』

  (美神さんを困らせないで。私は……十分満足しているわ。これでよかったのよ)
  『ルシオラ……』
  (……もう、行くね。意識を残しているのも限界なの)
  『ルシオラ、待ってくれ! 俺は──』
  (ヨコシマ…………………………………………ありがとう)

  『横島クン……。なんといっていいのか、わからないけど……でも……』
  『ルシオラは……俺のことが好きだって……命も惜しくないって……
   なのに俺、あいつに何もしてやれなかった!
   ヤリたいのヤリたくないの、てめえのことばっかりで、
   口先だけホレたのなんのいって、最後には見殺しに──』
  『横島クン、それは違う! 彼女はあんたに会って幸せだった。
   アシュタロスの手先で終わる一生を、正しいことに使ったのよ!
   それに死んだのは、あんたのせいじゃない。仕方なかったのよ』
  『俺には女のコを好きになる資格なんてなかった。なのにあいつ、そんな俺のために……』
  『横島クン……』
  『うわあああああっ……』


「横島クン、あなたそれほどまにルシオラのことを……」
「……」

 私は強く実感していた。ヨコシマがどれだけの思いで、私を愛していたかを。
 そして私がいなくなることで、彼の心に癒しようのない深い傷跡が残されたことも。
 さらに、それをどうすることもできない、今の自分が歯がゆかった。


 スクリーンには、それからの出来事が映し出されていた。
 アシュ様は元の肉体を捨て、究極の魔体にすべてを賭けた。
 美神さんと横島、それに他のGSたちは、究極の魔体との最後の決戦に臨む。

 一度は撃退されるものの、復活したベスパが弱点を教え、とうとう究極の魔体を倒すことができた。
 そしてアシュ様は本当の願い──自らの死──を成し遂げ、一連の事件は幕引きとなった。

 その後、パピリオは妙神山に引き取られ、ベスパは魔族の軍隊に入った。
 土偶羅様も、廃棄処分だけは免れたようだ。


  『それじゃ、結局ルシオラだけが──』
  『結局、十分な量の霊破片はとうとう集まりませんでしたね。もう、あとほんのわずかなのに……』
  『よそから霊体を持ってきちゃダメかしら?』
  『バカ言え。基本量が確保できとらんと、別人になるだけだ』
  『俺の中にルシオラの霊体は山ほどあるのに、なんで使えねーんだよ!』
  『魔物ならともかく、おまえは人間だからな。
   そう何度も粘土みたいにちぎったりくっつけたりでは、魂が原型を維持できんのだ』
  『何かあるはずだ。何か手が……』

  『ルシオラの魂は、このままでは再生できないわ。
   でも転生して、別の人物に生まれ変わったとしたら……』
  『同じことだ。一個の魂にあんる霊的質量が不足しているんだ』
  『そのままでは魂が弱くて死産になるし、別の魂で補えば、それは転生ではなくまったくの別人よ』
  『ええ。でも、もし転生先が横島クンの子供ならどう?
   横島クンの中には、大量にルシオラの魂が入り込んでいるのよ』
  『ひとつの可能性ではあるな。どう思う、横島?』
  『ど……どうって……』


 ヨコシマには結果を受け入れる選択しか、残されていなかった。
 やがて平和が訪れ、ヨコシマや美神さんも日常の生活を取り戻していった。
 そんなある日のこと、ヨコシマの姿が、私たちの思いでの場所──東京タワー──にあった。


  『ルシオラ。おまえのお陰で、俺たちもこの街も生き残ることができた。
   ただ俺には、やっぱりおまえがいないとダメなんだ……』

  『おまえは、いつか俺の娘として再開できるかもしれない。
   でもそれは、俺の本当の願いじゃない』

  『可能性は低い。だが、俺にはそれに賭けるしか道はない。
   そう。あの時に戻って、すべてを取り戻すことを……』


 場面が変わり、ヨコシマは妙神山へと出向いていた。
 妙神山の一室で、ヨコシマと服を着た年寄りの猿が座っている。


  『横島、なぜそんなに強くなりたい。今のままでも十分強いだろう』
  『……俺はあの戦いの時、俺を愛してくれた女を助けられませんでした』

  『もし俺がもっと強ければ、大事な人を助けられたかもしれない。
   そう思って、ずっと悔やんできたんです』
  『しかし人間のおまえが、神族・魔族クラスまで強くなろうとしたら、
   生半可な修行では追いつかないぞ』
  『だからあなたのところにきたんですよ、老師』

  『普通のGSは霊力のみを鍛える。まあ通常はそれで問題ないんだが、それでは
   人間としての限界はとても超えられん。限界を超えるには、別の手段が必要となるわけじゃが』
  『霊力と肉体の同期ですね。プラナを活性化させて全身のチャクラを開放し、
   自分の霊波と肉体の波長を共鳴させて、そこからパワーを引き出す──』
  『肉体の波長は霊波に比べればまだ調整が効くからな。ただそれとて簡単ではないぞ。
   仙道の修行も取り入れるから、一からやり直す覚悟が必要だぞ』
  『もとより承知です』


「これが横島クンの強さの秘密だったのね……」

 美神さんが、小さな声でつぶやいた。

 それから、妙神山での過酷な修行の日々がはじまった。
 人間の限界に挑むような修行の内容、そして寝食を忘れて、それに打ち込むヨコシマ。
 一年の半分を修行に費やす日々は、それから数年間も続いた。
 やがて修行を終えたヨコシマは、美神さんの事務所に顔を出した。


  『あら横島クン、今日は早いじゃない』
  『突然ですが、俺、事務所を辞めます』
  『そう……なんとなくわかっていたわ。あんた、仕事中も
   ずっと上の空でいることが多かったからね。理由くらいは聞かせてくれるかしら?』
  『旅にでます。おそらく二度と戻ってきません』
  『ルシオラの元に行くのね』

  『それで横島クン、どこに行くの? ルシオラを救う手立てはあるの?』
  『過去に戻って、ルシオラを救います』
  『横島クンも知っているはずだけれど、過去を操作しても復元力が働くから、
   何でもできるというわけにはいかないのよ。時間移動は魔法の杖ではないわ』
  『そのことはよく考えました。しかし、可能性はそこにしか見出せなかったんです!』

  『たいしたことはできないけれど、餞別(せんべつ)よ』
  『すみません、美神さん』


 ヨコシマはグラスの中身を、一気に飲み込んだ。


  『もう一つ餞別(せんべつ)があるんだけど。ちょっと目をつぶってくれない?』
  『えっ……』
  『本当に勝手な話よね。私の気持ちには少しも気づかないで──』


 未来の美神さんが、ヨコシマに口づけしていた。
 そっと横を見ると、美神さんが顔を真っ赤にしながら、その場面に見入っている。


  『いつ出発するの?』
  『いつでも出発できます』
  『そう。じゃ、最後まで見送らせてね』

  『じゃ、行ってきます』
  『私……あんたのこと、絶対に忘れないからね!』
  『えっ!?』
  『絶対……絶対忘れないからね! そして来世まで追いかけて、今度こそ捕まえるんだから!』
  『美神さん、今なんて?』
  『絶対に忘れないからね……』


 突然、目の前のスクリーンが白く輝きはじめた。
 その光はどんどん強くなり、私たちの体を包み込んだ。
 私の体が完全に光に飲み込まれたとき、私は自分の意識が薄れていくのを感じていた。




「……さん、ルシオラさん、しっかりしてください」

 私が意識を取り戻した時、目の前におキヌちゃんの顔があった。

「……どのくらい、意識を失っていたの?」
「1分くらいです。美神さんも一緒に意識を失っていました」
「そう……」

 やがて、私の隣で横たわっていた美神さんが、うめき声をあげた。

「美神さん、美神さん!」

 おキヌちゃんが、急いで美神さんの元に駆け寄る。
 美神さんは頭を数回振ると、自力で体を起こした。

「横島クンは?」
「大丈夫です! 美神さんとルシオラさんが気を失っている間に、息を吹き返しました」
「よかった……。それからルシオラは?」

 そう言うと美神さんは、きょろきょろと首を振って私の姿を探した。
 そして私の姿を確認すると、じっと私に視線を向ける。

「ルシオラ、あれは夢じゃないわよね」

 私は何も言わずに、コクリとうなづいた。

「おキヌちゃん、救急車を呼んで。念のため、横島と西条さんを病院に運ぶわ。
 それから、結界用のお札を何枚かもってきてちょうだい」
「わかりました」

 おキヌちゃんが、建物の中に入っていく。

「美神さん、後で少し話し合いませんか?」
「そうね。ただパピリオの件を急いで解決しないと。それから……」

 美神さんが、地面の上で横になっているヨコシマを指差した。

「こいつを回復させないとね。たぶんパピリオのことも、どうしたらいいか、
 全部わかっているでしょうから……」
「そうですね」

 私は美神さんの意見に同意した。


(続く)

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