ザ・グレート・展開予測ショー

B&B!!(18)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(04/ 1/16)



イエスタデイランドとフェアリーテイルランドとの境目付近で、俺を追って来た「糸使い」の鳩尾を突いて気絶させると、
もう一人の追手――スーツ姿の「迷宮使い」に目を向けた。奴は怒りと怯えとで顔を最大限に歪めていた。

「な・・・ナメんじゃねえってんだよ。」

迷宮結界は前もって準備され、相手を“入り口”に誘い込む事で初めて効果を発揮する術だ。その作成と維持こそが奴の
唯一のアビリティであり、今となっては非戦力同然だろう。
手持ちの簡易結界は携えて来た様だけど、迷宮を破った俺にそんなもんは通用しねえ。

「へ・・へへ・・俺だってな、ヤる時はヤるんだぜ・・・!?」


奴が懐に手を入れて取り出したのは・・・・・バタフライナイフ。


ちゃきちゃきちゃきちゃきちゃき・・・・・・・

「オラオラ・・・行くぞ?ケツ辺りを・・サクサクっとよ・・・?」

柄を回転させながら威嚇している・・・・つもりらしい・・・―――瞬殺。
ナイフを蹴り上げ顔面にパンチ4連発・・・・何だか微妙に気の毒になったけどな・・。


「迷宮使い」が倒れた直後、クラッスル・キャリューセ方面から新たに数羽の蝶が飛来した。
鱗粉を放ち、映像を新たに写し出す。 




水晶観音を装着した弓が一般客やパピリオに向って来た十人余りの教団員を薙ぎ倒していた。

「貴方がたの所業に崇高なるもの、神々の意思、一片たりと見受けられませぬ!
迷われた使いの不埒と見做し、仏道に於いてこれを断じます!!」

「不遜な・・・余りにも不遜な!!我が志は聖霊天主ラケリエル様の志!引いては天上にて栄光に輝ける天軍総指揮者
ミカエル様の志!引いては我らが父、真に主たる御方の志であるぞ!!・・・愚考の浅はかさにも程がある・・・
人間よ、神に抗う愚かな人間よ、その死を以って自らの愚かさを知りたいと申すか・・・!?」

包囲網の奥から更に十人、教団員がパピリオ目掛けて突進して来た。強力な霊気を放っている――全員、何らかの能力者
だ。止めに入った弓―閃光が走り、吹き飛ばされた。だが、パピリオに勝てる程ではない・・・倒す事ではなく、手を出させる
事が目的なのだろう・・連中は一様に死を覚悟した顔をしていた。


しかし、その連中の動きが止まった。
パピリオの前に5つの小さな人影が立ち塞がっていた。水無月理沙とその友人達だった。
横一列に両手を広げて並び、教団員を強く見据えている。

「・・・・・っ!?水無月さん!あなた達!・・・駄目です!下がりなさいっ!!」

弓は青ざめた顔でガキどもに怒鳴りつけた。


「常世川小学校4年2組水無月理沙!!・・迫り来る悪者の手からパピちゃんを守ります!!」

「大人でも、大勢で子供をいじめて喜ぶ様な人達は・・許さない!」

「(モグモグ・・・)パピちゃんと私達は・・(モグモグ)友達になったのれす。」


パピリオは呆気に取られていた。教団員達も構えながらも困惑した表情を浮かべて立ち尽くしている。
理沙は振り返らずにパピリオへ話し掛けた。その声は少し震えていたが。

「パピちゃん・・・大丈夫だよ。もう怖くないからね。どんな悪者が来たって私達は友達になった子を
絶対見捨てたりしないんだから・・・!」

「・・・・メリー・・・?」

映像はそこで途切れる。俺は再び走り出した。



「―――雪之丞君!!」

背後から俺を追って来る声・・次第に近付いて来て追いついた。唐巣神父とピート。
ピートは巨大な蝙蝠に変身して唐巣を背に乗せている。

「弓君達はこっちの方角かい?」

「おう!!」

「他の場所で囲まれた人達の許へはGメンと警察の方達が向かっている。小竜姫様から話を聞いて来たのだが・・・
彼らの狙いはパピリオ君に危害を加える事だけではなく、どうやら他にもあるらしいんだ・・・
まったく、君は何故こんな事をした?」

「・・・話せば長くなる――それに、話しても良く分かんねえかもな。」

「――雪之丞君・・?」


破門されてるとは言え、神の権威を・・神の権威だけを代行するその僧衣を着たあんたにはな・・・。


ラジカルワンダーツアーの魔王城を抜けて、「空飛ぶチヨちゃん(豚)」前の広まった場所―そこに教団員が群れ成して
集まっていた。パピリオから送られて来ていた映像・・ちょうどあの群れの中だ。何人かが気配を察してこっちを見る。
俺は声の限りに怒鳴り上げた。

「おらぁぁーーーっっ!!どけどけーーっ!!ブッ飛ばされっぞぉーーーーーっっ!!?」

飛ぶ様にして白衣の連中は左右に避け、中央までの一直線の道が出来た。俺達はその道をスピードを落さずに駆け抜け、
七角水帰白鷺尊と弓達が対峙する所へ転がり込んだ。

「雪之丞!!――唐巣先生も?」

「何度も呼んだのに遅い。・・やっぱりお前はジョンでちゅ。」

唐巣が地面に降り立つと、大蝙蝠は文字通りに霧散した。その霧が今度は収縮し人間の姿―痩身の白人少年の姿になる。
少年は教団員達を見回すと、にぃっと口元を歪めて笑った――その牙を覗かせる様にして。・・・・ピートの奴、自分が
そーゆーツラする事が「ただの人間」にどんな効果があるか随分と分かって来たじゃねえか。
パピリオを見ても表情を変えなかった白鷺野郎周辺の教団員共が露骨に怯え、ざわめき始めた。口々に「吸血鬼」
「化け物」「お助けを・・私に勇気を」とか呟いてやがる。
しかし、先程の十人の教団員とパピリオ・理沙達との膠着状態はまだ続いていた。いくら殉教覚悟の決死隊であっても、
直接関係の無い人間の子供達にそのまま攻撃を仕掛けるのは躊躇われるのだろう。困惑した表情のまま一人が振り向く。

「あのおー・・・天空様・・?」

「・・・・・・・・・。」

白鷺野郎は何も答えない。・・奴自身、答えかねている様だった。奴等の方から先に手を出したとなれば、しかも真っ先に
狙ったのが一般人だったとなれば、奴らの企みの建前とやらは悉く台無しになってしまうだろう。人間界での教団の
居場所が無くなるのも確実だ。感情の窺えない鳥の顔にも焦燥と葛藤が浮き上がって来そうな気がした。



「―――何をしているのです?七角水帰白鷺尊。」

不意に声が、その場所全体にどこからともなく響いた。
教団員達の頭上中空、その一ヶ所が突如光り出す。光は神族特有の強い霊力をも放つものだった。
そこに目を向けた信者の何人かが「お・・・おお・・・っ!」と声を漏らした。信者だけではない。隣にいた唐巣までもが
「ああっ・・・・!」と呟きながらその一点を凝視していた。
光の中から男が現れた。薄茶色のくるくるに巻かれた髪、白ずくめの鎧、そして・・・背中から広がる2枚の大きな白い翼。
教団員どもはその男に向かって全員―決死隊までもが―その場に跪いて祈り始めた。

「聖霊天主様!!」 「天使ラケリエル様!!」 「栄光高き全能なる使者よ!!」
「素晴らしき奇蹟です!!」


「・・何と言う事だ・・・本物の天使です・・・私も初めて見る・・本物の・・・主の使いです・・・!!」

唐巣は強張った表情のまま顔を伏せ、十字を切った。白鷺野郎も跪いてる教団員達の中で、深々とラケリエルに一礼した。
ラケリエルはその白い翼を揺らしながらゆっくりと降下し、白鷺尊に再び問い掛けた。

「何をぐずぐずしているのですか?首尾通り、忌まわしき魔物をここまで追い込んだと言うのに・・・?」

「ええ、仰せの通りでございます。・・ですが、ラケリエル様・・・あの通りで・・・。」

ラケリエルはついとパピリオ・・・と理沙達・・・を一瞥する。理沙はラケリエルをも睨み付けて叫んだ。

「天使様の格好してたって、光ってたって、常世川小学校4年2組水無月理沙、ごまかされませんっっ!!
パピちゃんをいじめようとするお前達、みんな悪者ですっっ!!」

「ふふ・・おかしな事を言います・・・。私は天使の格好をしているのではなくて、天使なのだよ。私に悪などある筈が無いでは
ないか・・・・悪と言うものは常に、そこにいる魔物や愚かな人間達の所から生まれるものなのですからね。」

「パピちゃんはちょっと・・・いや、かなり・・変な子で、怖がりだけど・・悪い子なんかじゃないっ!!私だって・・頭はそんなに
良くないかも・・良い子でもないかもしれない・・けど・・お前達の様な事は絶対にしませんっっっ!!」

「我らの様な事?・・まだ分からぬのですか?我らの為す事は『常に、正義であり続ける』のですよ。
・・・もう良い。愚劣な人間の異端者と長く話していると疲れます。七角水帰白鷺尊、さっさと状況を進めてしまいなさい。
・・・・あの用意して来たものを使って。」

「ラケリエル様・・・!あれを・・ですか・・・!?」

「そうです。その為に用意したのでしょう?――当初の段取りの中にあった“人間界の反応”を気にしておるのですか?
・・・構いませんよ。真に従順なる者達さえ残るなら、現存の教団は潰れても宜しい。我らには大いなる力があり、それを示す。
と言う目標こそ優先させるべきなのです。」

「・・・・・畏まりました。」


白鷺野郎は右手―いや、無理に袖を通した右の羽根を挙げた。後ろから数人の教団員が現れた。
一人一本ずつ、大きなボンベを台車に乗せて運んで来ている。

「・・・?何、ですの・・・・?」

弓が呟く様に疑問を口にした。俺は記憶の中からその答えに思い当たり、全身の皮膚を粟立たせた。叫ぼうとしたが、
その前に――最後の1人がボンベを持って来るよりも前に―最初の一人が顔全体にマスクを装着してボンベの栓を
ひねっていた。



  シュゥゥゥーーーーーーーーーッ!!


「――――やべーぞっ!!!」


鋭い空気の噴出音と共にボンベの上端から黄色い煙の様なものが湧き出て来ていた。空気より重いそれは地面に沈むと、
そのまま風向きに沿ってゆっくりと、俺達にではなく横の方に集まっていた信者達の方へ向かって流れ始めた。
教団員の多くも一般客も、その奇妙な黄色い煙を訳も分からず見つめていた。―――弓が“それ”の正体に気付いた。
血相を変えて叫ぶ。


「――!――みんなーっ!風下から離れるんですっっっ!!!」

足元を黄色い煙に巻かれた教団員達が次々と悲鳴を上げて倒れ込んだ。咳き込み、泣き喚きながら黄色い煙の中で
もがいている。這い出してきた教団員の一人は・・・顔も手もひどい炎症と水脹れで覆われていた。涙を流しながら2、3度
激しい咳をした後その場で意識不明となった。
その姿を目にした教団員と一般客の両側であちこちから悲鳴が上がり、我先に煙から逃げようとしての押し合いが
始まった。

「この日に備えて某国から購入した、特殊改造のマスタードガスである・・人間界での“聖戦”には欠かせぬものらしいな・・。
元来効くのが遅いらしいが、愚か者がどうなるのかを分かり易くする為に、通常より皮膚への影響が強く早く出るように
してあるそうだ。その分、致死性とかはかなり薄まったそうだが・・。」

白鷺野郎が手を下ろすと、ボンベの栓は閉められた。今まで出た分のガスはそのままゆっくりと風下に広がって行った。

「愚か者って、それ・・・てめーんとこの信者じゃねえかよ・・・・?」

「おお、聖戦に殉教者の尊い犠牲は不可避・・・神聖なる犠牲だ、有り難く思うぞ。魂の行先に幸あらん事を。
だが、一部の愚か者が愚かな抵抗を続けるならば・・・・忠告は最後であるぞ・・・・・・」

パピリオの前に立っていたガキどもの一人は目の前の余りの惨状に顔を引き攣らせ、涙を浮かべていた。広げた両手を
降ろそうとはしなかったが。理沙も顔を強張らせている。・・いずれにしても、これ以上ガキどもをパピリオの前に立たせて
おくのはヤバ過ぎる。白鷺野郎が言葉を続けた。

「・・・・このデジャブーランドとやらの中にいる全ての人間が、こうなる。・・それだけの量を我らは用意した。」

「な・・・・・何と言う事を・・・・・っ!!」

震える声で唐巣がうめいた。ラケリエルがそんな唐巣に視線を向ける。

「そこにいるのは我が父の忠実なる僕ではないか。・・・何を迷い疑う事がある?今ここにいるのは殉教の覚悟在りし者と
忌まわしき背教者と魔物だけですよ。・・・老若男女問わず、この様な所で遊興にふける輩に信仰も我が父への畏れも
ありません。我らに従順であるならば欲を禁じ慎み捧げるものです。この様な輩どもを我らの正義と引き換えに我らが
いくら殺そうと、傷付けようとそれは罪ではないのです。むしろささやかなる浄化でさえあるでしょう・・・!」

唐巣は言葉を失った。・・・・賛成だからではないだろう・・・ラケリエルの理屈に、「最早、人間の言葉の通じない何か」を
見てしまったんだ。特に質が悪いのは、奴の言っている事が唐巣のような者にとってはある意味、正論だって所だ。



口を開いたのは弓だった。わなわなと震え、顔面蒼白・・・激しい感情で血の気が失せている。

「何ですの・・それ・・・・・・・そんな所業で果たされる正義とは、一体何なのです!?そんな所業を認める正義とは
・・・一体何なのですか!?・・・・・何なのです?貴方がたの正義って・・・・・一体・・何ですのっっっ!!?」



「・・・少しは弁え謙虚に話せる者と思ったが・・所詮異端か。貴様に普遍的かつ絶対的な栄光と真理の事など
言葉を尽くそうと、分かるまい・・・・・」

「いいや、よぉーーーーーっく、分かるぜ。ククッ・・・元からそーゆーもんだよな、てめえらの正義ってよ?」


白鷺野郎の言葉を遮るように俺が割り込んだ。


「ほう・・?」

「正しい事は一つしかなくて、それを決める奴も一人しかいなくて、てめーらはそれに乗っかってるだけ。
・・そーゆーのが気持ち良いんだろ?悪い事も悪い奴も決めてもらってそれを敵に回してたり排除したりしてれば
世は事も無しなのさ。それが、一つの神、一つの真理の『栄光の世界』って奴だ。・・・違うか?」

「雪之丞君・・・・・・・・・。」

唐巣が沈痛な表情でこっちを見ている。・・・・あんま気にするなよ。ただでさえ、最近更に後退した額付近に白いのが
混じってるんだからよ?同じカトリック神父でも唐巣があの施設の連中とは違う、ましてこのザコ天使やサギ野郎とも違う
なんて事は十分良く分かってる。・・・ただ、今日は何か色々過去の事とか思い出しちまったりして・・気を遣える余裕が
いつもよりねえってだけなのさ。
それに、余裕がねえ理由はもう一つあって・・・


「ふん、人聞き悪い言い方ばかりだが、貴様は我らの求める理想を結構分かっておるようだな。・・しかし、貴様の口の
悪さは我ら以外に正義が有りうるかのような詭弁に基づいた異端の言いがかりから来るものであって・・」

「・・・・・勘違いするなよ?」

「・・何がだ?」

「俺がわざわざてめえのクソ正義まとめてやったのはな、てめえにそれ以上胸くそ悪い演説してもらいたくねえからだ!!」




この状況をどう切り抜けるか、良いアイデアは浮かんでなかったが、考えるより先に構えていた。

余裕が無かったもう一つの理由・・・・・・・こっちはとっくに腹ん中、限界まで煮えくり返ってたのさ。

――――――――――――――――――
 Bodyguard & Butterfly !!
 (続く)
――――――――――――――――――
・・・何よりも、先生のデコが一番心配な展開です・・。作者もこればっかりは救済案を用意してないから(笑)。
でも活躍はします・・そのうち。
ユッキーに朝っぱらから延々と過去を振り返ってもらったり、メリーを出したのが報われて来てそうな感じの今回。
実際、書いてて楽でした。だが彼らの苦難が報われるのはまだ遠く・・・。

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