ザ・グレート・展開予測ショー

B&B!!(17)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(04/ 1/14)



「・・・俺らのターゲットは目の前にちゃんといるぜ。」

「うちらのターゲットは、あんたさ。・・・まだ良く分かってないのか・・・最初からうちらが指定されたターゲットは“妙神山の
指示でパピリオに味方する人間の能力者”なのさ。パピリオをどうこうするのは・・“クライアントの最終目標”さ。」




「・・・・さん・・雪の丞さーーーーーん!!」

遠くから声を張り上げて俺を呼んでいる。知っている声。警官隊の方からだ。
見ると、アイボリー色のコートを着た髪の長い女が警官を掻き分けながら近付いて来る。

「おキヌ!?・・・こっちに来ると危ねえぞ!!」

「――パピちゃんや弓さんはどうしたんですかーー!?−一緒じゃないんですかーーーーっ!?」

「―ああ?そっちに避難してるんじゃねえのか!?」

「そう思って待機してたんですけど・・来ていませんっ!!・・場内で取り残されている人がまだ百人近くいるんですよ!
・・・囲まれてるみたいなんですーーーっっ!!」

「―――――・・何だと!?」

「ふん、あっちも上手くやってるみたいだな・・・こーゆー事さ。うちらは、力を合わせて、人間だけで・・・あんただけを
どうにかすればよかったのさ。・・どうだい?これなら簡単だろ?」

「美神さんや横島さん、小竜姫様が場内を探しています!唐巣先生やピートさんも後から来ると言ってます・・・・!!」

「どこだ!?どこで囲まれてる!?」

「ええと、まず・・・・・」

おキヌの言葉の続きは小さな悲鳴に変わった。次の瞬間、顔に巨大な岩がぶつかった様な衝撃。世界が急に溶けて、
流れた・・・・自分が本気を出した陰念のパンチをモロに喰らい、20m以上吹っ飛ばされたと気付くのにしばらく掛かった。
何とか体を起こすと、奴はもう数m前まで駆け寄っていた―その次の瞬間には眼前に、足。蹴り飛ばされ高く舞い上がり、
アーケードの上を越えその裏手に落下した。
奴は尚も追って来る・・・・俺の真上に降下。体重を乗せた蹴り。躱したが、横を掠める衝撃だけでも相当だ。

「クククッ・・・オラオラオラオラオラアッ!!」

躱し切れない。両腕でカバーするが確実にダメージを受ける。起き上がるのも困難だ。スピードよりも、一撃一撃の重さ。
・・・豪語していただけの事は、ある。

「何だよ、逃げるなっつったろう!?最後まで遊ぼうぜ!!」

蹴りが不意に止まった。陰念は俺から離れ、とんとんとステップを踏んでいる。

「ストンピングばっかじゃ飽きちまうんだよ。・・・さっさと立てよ。俺には他の技もあるんだからよ。」

「確かに強くなってるけどよ・・・そうやって敵をナメて無駄な余裕は見せるなっていつも言ってただろ・・・?」

「うるせえ。だったらナメらんない所を見せてから言えっての。」


本当に相変わらずだぜ、お前は・・・・。


 + + + + + + +


魔装術が首から下・・・腰までを覆える様になった時、俺は日本に渡った。相変わらず馬鹿みたいに稼ぎ、馬鹿みたいに使った。
その大半は修行に―残りは当時ハマっていたミニ四駆につぎ込んだりして―この国の金持ちのガキでさえ血眼になって捜し
求めた「プテラノドンX」の入手も俺にとっては楽勝だった。――そして、やはり、もっと強くなりたかった。
とうとう魔装術は俺の全身を包んだ。俺の気持ちはあの日から変わっていない。だから、メドーサに会いに行く事に決めた。
14歳の時だった。

メドーサの名前は香港のオカルト業界ではかなり有名だった。”竜族危険人物指定(は)の5番”あらゆるヤバい仕事を片付ける
魔物の中のプロフェッショナル。ある大物の下で動いているらしいとか――。奴が日本に来ていると言う情報を手に入れ、俺は
奴の元を訪れた。メドーサの反応は歓迎でも拒絶でも無関心でもなかった。「お前がこうして今ここへ来る事は私にとっては予定
通りの事なんだ。」って感じのものだった。俺にはそれがむしろ好ましいものに思えた。
メドーサの配下となった俺は一人の男を紹介された。俺より2つか3つ年上らしいそいつはいかつい顔に筋肉質の長身で
オールバックの髪、両耳にピアス・・・外見に似合わずしぐさや喋り方の随分カマっぽい野郎だった。俺と同じくメドーサに見出され、
魔装術を得て、修行を重ねた後ここへ来た・・言わば俺の兄弟子だ。とても悔しいが、俺以上の力の持ち主だと一目で分かった。
そいつは、鎌田勘九郎と名乗った。

今まで周囲や下される評価を漠然と意識する事はあっても、特定の誰かと自分を比べるって事のなかった俺にとって、勘九郎は
初めて出会ったライバルだった。「奴に出来るんなら俺にだって出来る筈」「奴の意表を突く技を考えなくては。」「最大出力をもう
少し奴に近付けたい。」・・・修行のモチベーションは前よりも向上した。

メドーサは時折俺らの前に姿を見せ、力の引き出し方などを指導したり、ガキの使いみたいな仕事―奴のやっている事に
比べれば、の話だが―を命じて来るだけだった。勿論、その指導の効果には侮れないものがあった。やがて、俺や勘九郎が
見出されたのにはある目的があって・・・奴の、奴らの下で動く人間の能力者を人間界の表のGSとして潜り込ませる計画が
あり、その為だと言う事に気付く様になった。だからこそ以前から、それにふさわしい人材を探してマークして来たのだと。
俺にとっても勘九郎にとってもどうでも良い事だったが。・・そんな風に思えるってのも、奴らの「人材」の条件だったのだろう。

ある日、メドーサが一人の男を連れてきた。逆立てた金髪、スカーフェイス、それらを差し引いてみてもかなり凶悪な面構え、
・・・・しかし、何だか弱そうだ。男は陰念と名乗った・・本名ではなく自作の通り名っぽかったが、どうでも良かった。
暴走族上がりでヤクザの下働きとかしていたらしいが何か気に入らない事があったとかで暴れ・・・その組を全滅させちまった
らしい。対立していた組に腕っぷしを買われたが、そこでもまた持て余され、たまたま何かの仕事でコネのあったメドーサが
潜在的霊力の持ち主と言う事で引き取ったって話だ。・・・・まだ、魔装術は持っていなかった。
数日後、魔装術を授けられた陰念の姿を見た・・・・荒削り・・にも、程がある。・・・何かに憑依されている様にしか見えない。
奴自身は自分の全身に覆いかぶさった魔物に得意満面だった。俺は自分が魔力に引きずられかけた「あの日」の事を思い出し、
言い知れぬイヤな感じを覚えた。
俺と勘九郎は話し合った。

「計画を実行に移す時が迫っているんじゃねえのか?メドーサ様は奴の力を引き出すのに少し稚速になっているのかも知れねえ。」

「それにしてもひど過ぎるわよ、アレ・・・はっきり言ってあのコ自身の問題ね。センスがないわ。彼。」

俺や勘九郎と比べると出遅れている、と言う事もあっただろうが、陰念にはそれ以外にも多くのものが欠けていた。
とは言え、「強くなりたい」気持ちは同じだった。修行の時の熱心さで俺達に引けを取る所はなかった。手合わせで圧倒的な
実力差の前に何度倒されてもその度に立ち上がって向かって来る。少しずつだけど、その差が縮まって来るのを感じられた。


 + + + + + + +


俺は立ち上がった。陰念はこっちを向いて構え、ステップを踏んでいる。俺は魔装術を装着した。そして構える。

「・・・前よりもカッコ良くなったじゃねえか・・・まるで変身ヒーローみてえだぜ。俺も魔族になる時はそんぐれえ
カッコ良くしてもらうか。」

「・・・どんな形になったって、そんなの全然カッコ良くなんかねえぜ。・・強くも美しくもねえ。」

「本当に変わっちまったな・・・俺らにそんな、そこらの人間どものような甘っちょろい精神論は要らなかった筈だ。」

「お前の見ている夢は悪夢なんだ・・・早く目を覚ませ。」

「てめえが覚ましてみやがれっ!」

二人同時に駆け出し、間合いを詰めた――――――その時、二人の眼前に妖しく光る数羽の蝶。
陰念は危険を察知し素早く後退した。俺もまた動きを止める。

「・・・・パピリオ?」

蝶は俺の言葉にも反応を見せず、光る燐粉を撒き散らした。その光は空中で集まり、粗いモニター画面となる。
そこに移っていたもの――大勢の客を包囲する白衣の教団メンバー達、鷺之塚天空・・・客の中に弓、パピリオ、そして
水無月理沙を始めとする常世川小学校の生徒達―教員もあの友人たちも混じっている。――フェアリーテイルランド付近だ。
一般客は皆、不安と恐怖で顔を強張らせ、家族連れの子供や常世川小の生徒の中には泣き出す者もいた。
包囲陣の中央にいる鷺之塚天空・・いや七角水帰白鷺尊、は白い霊気を放出させながら人間形態を解き、鳥神族の本性を
現しかけている無理に人間の服を着た固太りの白鷺―それを見て「奇跡だあ!」とか口にしながら奴を拝み出す一部信者達。
その向かいに立つ弓。横に奴を睨み付けているパピリオ、パピリオを不安げに見ている理沙と友人達。

「不遜な異端の人間よ・・我らが汝に求めるは一つ。。・・一切の手出しせず、その魔族をこの場に置いて去れと、それだけで
あるぞ。さすれば汝が囚われる事も討たるる事も無く全てが為せる。」

「・・・僭越ながら人の身にて白鷺尊様に申し上げまする。あなた方の為せる事、真に神意であると仰せられますか?
憚りながらこの幼子、魔族の身であれど、かの妙神山にて斉天大聖公、並びに守護神小竜姫様の預かり門下にて修行為せる
身であり、人の世に災い為す凡百の悪鬼と異なる次第であれば、いかに討伐の神意ありまするか?また、神意あれどかの
大聖公の下に何ぞ沙汰無きと存じております。この次第いかなるものでありましょう?」

「汝、正に賢しき。崇高なる神意を人の身で問うと申すか。かの魔族どもを門下に囲いて匿いし咎については妙神山とその異端
なる神族へは追って沙汰あるものと知れ。そもそも門下である筈のこやつがこうして人の世に降り立ち徘徊しておるのはいかなる
事ぞ?これこそこやつが図り災い為す悪鬼である証ではないか!」

「・・・・・・ガタガタうるさいんでちゅ、このトリあたま・・・!」

「だめよ、パピリオ・・・・!」

「何故、汝らを多くの人間どもとともに押えたと思っておる・・?汝ら動かざれば、不遜に抗うなら、この者共が我らと魔物との争い
にて多くの累を被る事になる。それは人の身にて人の世で人を守るGSの本意ではあるまい・・・?」

「つまり・・・人質と言う事ね・・・それが神族の為される事にありまするか!?」

「全ては、真に聖なる正義の為である。」

どうやらこれはリアルタイムの中継じゃねえ様だ。過去に起こった事を記録した奴らしい。
・・・つまり、今はもっとヤベえ事になっている、と・・・!!
しかし、目の前には真剣勝負に臨む陰念。そう容易にあしらえるものでもない。それに、可能だとしても、ここまで本気の相手を
中途半端にあしらうなんて真似は・・・“俺ら”にとってのルール違反だ。たとえ袂を分かつ事になろうと、自分の命や世界の命運を
左右する火急の時であろうと、そのルールは守られて来たんだ。

「―――その勝負、わっしがもらうけんの!!」

俺と陰念との間にタイガーが立ちはだかった。少し離れた所でエミが笛を吹きながら霊力を送り込んでいる。光る気に包まれながら
タイガーは完全に人虎化していた。

「わっしも貴様には借りがいっぱいあるけんのお!!貴様にボロ負けした昔とは違うんじゃあ!!・・・雪之丞サン、行って
つかーさい。ここはわっしに任せて。」

「タイガー・・・・・・・すまねえっ!!」

「・・・へっ、面白れえじゃねえか。ぴったりの前座だぜ。雪之丞、どこへ逃げたって、必ずてめえとのケリはつけてやるからな・・・!?」

陰念の言葉も途中で俺は走り出していた。


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 Bodyguard & Butterfly !!
 (続く)
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今日(投稿日)、これかくのでいっぱいいっぱいでした。前回のレス返しも残ってて・・。ごめんなさい。

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