ザ・グレート・展開予測ショー

B&B!!(16)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(04/ 1/14)


“俺の力”そのものであるこの黒い悪魔の手を携えて、俺は親戚を名乗った―俺をあの施設にブチ込んだ―白人夫婦の元へ
向かった。その家には夫婦の他にジジイと20代半ばの結構デカい息子がいたが・・・誰一人俺に逆らわなかった。
辿り着いたその日から、そいつらは俺に恐怖で支配される事になった。

だけど、そんな事をする為に来た訳じゃない。確かにそいつらの事も憎んでいたが、悪魔の手を持った10歳かそこらのガキへの
あまりの怯え様を見ている内に興味を失くしていった。

一週間後、俺は自分の本来の目的を果たしてそいつらを解放してやる事にした。「2つの条件」という形で。

一つは、俺をこの家の名義上の息子として手続きを取り、その上で香港への旅券を作る。また、この先の俺が生活する上での
あらゆる手続の身元保証人となる。そして香港ドルで30万用意する事。
そして、もう一つは・・・・・・


 + + + + + + +


対陣を組み、それぞれの配置についた4人のGS・・「人形使い」「式使い」「棒使い」「糸使い」。その向かいで攻撃準備を整えている
小笠原エミと、サポートの為その前に立つタイガー寅吉。そして俺。
倒れている衝立の一つから陰念が這い出して来た。口の端から血を流し、薄笑いを浮かべながらこっちを睨み付けている。

「へへっ・・・てめえもやっぱり丸くなっちゃいねえな。昔以上の、期待通りのパンチだったぜ・・・。それでこそ・・・雪之丞だ。
・・俺の倒したかった男だ。・・・・てめえら、見たな?『ケース12:強力な抵抗による生存拘束の不可能状態』だ。
・・・・・ブチ殺しちまえ。」

空気が軋み、霊気のワイヤーが何本も宙を舞って俺に向かって来る。さっきみたいな縛る為のものではない。俺は身を躱す。
周りの衝立がケーキの様に切断されて吹き飛んだ。その上から「式使い」。―ジャンプしたままこちらに札を3枚投げつける。札は今度は
3羽のフクロウに変化し、爪を立てながら俺たちの目玉を狙って急降下して来る。3人とも何とかそれを躱すが、フクロウも上昇し、
再び狙ってくる。
横に長く伸びたワイヤーが俺たちの足元を狙って低く飛んで来た。ジャンプすると中空に「式使い」と2匹の狼。
俺は顔面に奴のエルボーを喰らい、エミとタイガーは狼に飛び掛られ畳に押し倒される。

「――フンッ!!」

タイガーの全身が発光した。狼とフクロウ、人形もついでに数体燃え上がり、消える。

「わしは張子の虎じゃが、パチもんにゃ強いけんノー!!」

「(バキャッッッ!!)変な威張り方してんじゃないっ!こっちまで熱かったワケ!!」

「・・・す、すまんですけん・・・うおっ!?」

畳の下から巨大な両手が現れ、タイガーの全身を押え付けた。その向こうに巨大な・・・部屋一杯に膨れ上がった日本人形の頭部。
目玉がこちらを向き、そのオチョボ口でケタケタと笑い出した。

「「・・・げっ!!」」

驚いてる暇はなかった。数羽の鴉を従えた「式使い」とさっきより長めの棒を持った「棒使い」とが両脇から迫って来ている。
そして正面には陰念。―ファイティングポーズを取りながらステップを踏み、拳に霊力を貯め、こちらを見据えている。
「棒使い」の突き―ワンパターンの動き―再び棒を押さえ、霊力を流し込む。―離さない。
奴は霊力を押し戻し、棒も全身に引き付けて持っていた。

「同じ手は・・食わないでごんす。」

「フッ・・・そうかい?・・・じゃあ、そのまましっかり握ってろよ?」

俺も棒を全身に抱えると体中の気合をその腕に込めた。

「・・・・う・・お・・・おおおおおおおおおっっ!!」

「――お?・・・おおおおおおおおおおっ?」

棒は「棒使い」の体ごと持ち上がった。


「―――おらあああああああああっっ!!」

自分を軸にそのまま大きく、振った・・振り、回転する。エミが慌てて伏せる。その向こうに迫っていた「式使い」が吹き飛ぶ。
「糸使い」が逃げる。衝立も風で吹き飛ぶ。陰念は構えたままでいる。
―どっちに投げてやろうか。回転しながらしばらく考え、陰念はおいといて人形のバケモノの方を選ぶ。
手を離すと、棒はデブを弾頭にして一直線に、タイガーを掴んで哄笑し続ける人形の頭部に吸い込まれて行った。
悲鳴が響いて人形の姿は掻き消えた。タイガーは解放され尻餅をついている。
人形の頭があった付近―「人形使い」が「棒使い」の下敷きになってもがいていた。

「タイガー、しっかりしろよ。お前んちも、もーすぐ3人目生まれんだろ?」

「・・・ありゃ怖過ぎたですけん・・・ううっ魔理しゃん・・・・って、雪之丞サン、どこ行くんじゃ?」

「ここは少し頼む!」

俺は駆け出した。陰念も構えながら移動する。

「何のつもりだ?逃がさねーぞ!」

メチャクチャに荒らされた衝立の列が再び元通りになっていく。――だが、「見つけた」のさ。
のびている「棒使い」を押しのけた「人形使い」が気付いた。血相を変えてこちらへ駆け寄る。

「させるかっ!!」

――遅い。俺は衝立の一枚、その陰に転がっていた人形に視線を向け、全体重と霊力を込めた右足でそいつを思い切り
踏み潰した。「迷宮使い」―スーツ男の間抜けな顔を思い浮かべる。
にーちゃん、教えてやる。こいつが邪流を積み重ねただけの術の限界って奴なのさ。
・・・俺の足元から世界が崩れ、大広間は天井も衝立も畳も気味悪い日本人形も細かい欠片となって四散した――――。


 + + + + + + +


香港―古くから自由貿易港として栄えたアジアとヨーロッパの融合する地。当時まだ中国返還前だったその街には悪名高い
九龍城、そして黒社会を中心に混沌の力が溢れていた。・・・得体の知れない人間が自然に住み着ける様な。
形ばかりの身元はあるが、その動機も不明のまま一人でやって来た外国人の子供。十分怪しい。当然香港と言えど表の職業
には就けない。だが裏の仕事ならどうか。銃や爆弾の扱いにある程度心得があり、誰もが持つ訳ではない力―霊力と、それに
よって作られる「悪魔の手」を持つ俺。食い扶持を見付けるのに大した時間は掛からなかった。
俺がこの街を選んだのにはもう一つ、別の意味があった。日本の――ママの生まれた国の――近く。
人々の顔も向こうより、ママや俺に近かった。

俺の親戚一家に出した二つ目の条件・・・「ママについて知っている事を全部話せ。」

何故ママが施設に収容されたのか、俺が施設の中で生まれたのか、何故俺たちは逃げなければならなかったのか・・・全て。
連中は、それで災いを払えるならと思ったのか、細かく丁寧に教えてくれた。




あの土地からのハーフと日本人、日本で出会っての再婚だった。
両方に連れ子がいた。父親にはクオーターの19歳の息子が。母親には13歳の娘が。
一家はそれから間もなく父親の故郷であったその土地へ向かった。
父親の故郷の町はその土地の中でも日本からの移住者が多い地域だった。一家は手厚く歓迎された。カトリックの信仰に熱心な
事で知られるこの土地で彼らもまた家族全員敬虔な信者であり、周囲から「模範的である」との高い評価を受ける事も少なくなかった。

息子はここへ来る前―日本にいた時に女に手ひどく騙され、散々貢がされた挙句捨てられた事があったと言う。

そして父親の再婚相手の連れ子―自分の義妹はその女によく似ていたと言う。

(本当に似ていたのか、本当に騙されたのかは連中にも分かっていなかった・・・「奴」がそう言っていたって事らしい。)

そして、その男はある日、年の離れた義妹に脅しながら―「抵抗したり騒ぎ立てたりすれば両親の幸せや居場所も無くなる」
―暴行を加えた。その後はその男の思うままだった。こうした暴力に対しどこまでも加害者に甘く・・どこまでも被害者に冷酷に
なるのがカトリック社会・・いや、弱者どもの社会って奴だ。男も少女もその事は良く分かっていた。強制的に関係が続けられた
・・・少女の妊娠によって全てが露見するまで。

男は言った。「その女が全て悪い。その女が俺を誑かし、堕落させようとした。」と。
「あの女と瓜二つの・・・あの女そのものの黒髪と白い肌とで俺の劣情と怒りを掻き立て誘惑したのだ。」と。
そしてそれは周囲と教会とに聞き入れられた。
少女が自分一人が耐え、全てを引き受ける事でその幸福を守ろうとした両親は、自分たちの不幸を神に報告し、次に少女を切り捨てた。

「汝、姦淫する事勿れ」―7番目の戒律に照らし合わされ、少女だけが悪と見なされた。
「男を誘惑した」事で。「肉体的に汚されている」事で。
一家は周囲の連中と相談した結果、少女を教会の施設に送る事を決めた。その土地で各地に設置されていた女性用の収容施設
―19世紀に娼婦の救済と強化、職業訓練を目的に建てられたと言われているが・・・。少女は忘れ去られる為にその施設に入れ
られ、その中で赤子を産んだ。生まれた赤子も、すぐ引き離され別の施設へと送られた。一生を影の中で終わらせる為に。
――少女が、その施設では珍しくなくなっていた暴動騒ぎを起こし、脱走したのはその一年半後だった。


教会に正当化された怨念と欲望に溺れ、神の罰さえ受けられなかった男は数年後また何か別の事件を起こし、今度は精神病院
送りとなり、二度と出て来なかった。





―――行った所で何がどうなるとは思ってなかったが、ママの生まれ育った国へ行きたいと思っていた。
だが、ここで足場を固めるのが先だ。その事も分かっていた。
使い走り、用心棒、小ぜり合いでの兵隊、殴り屋、そして死霊や呪術絡みのオカルトな用件、それらの仕事をこなして行く内に、
自分の「悪魔の手」はある程度特殊でこそあっても大した力ではなく、もっと特殊な技能の持ち主がそこらにいるのだと言う事を
思い知った・・・オカルト筋の業界でこの手を見てビビル奴など、皆無だった。
もっと稼ぎ、名を上げなくちゃいけない。・・・そして、もっと強くならなくちゃいけない。

ずっとママに甘えていた。ママがいなくなって、冷たい場所で泣いた。泣く事すら出来なくなって、憎しみを貯めた。
だが今度は、強くなろうとする番だ。ママ、俺は強くなる。強くなって・・・・ママの国へ行く。

金を作っては修行し、力を上げてさらに金を作り、さらに修行し・・・その繰り返しの毎日だった。「悪魔の手」はもはや手ではなく、
肩と胸までも赤い甲羅で覆う様になった。誰かが、それを「魔装術」と呼ぶのだと教えてくれた。

もっともっと強くなれる・・・・「邪流の限界」など、まだこれっぽっちも見えてはいなかった頃だ。


 + + + + + + +


気味悪い大広間が砕け散った後に、そこは、夕方のデジャブーランド内だった。但し、さっきの所じゃない―――多分、正面入り口
ゲート付近だ。警官や機動隊と真神十字聖者友愛会の信者達とが不穏に睨み合い、その横を一般の入場客が列を作って避難
している真っ只中に俺達は出現した訳だ。
周りを見回し、視線を戻すと目の前に陰念の拳。躱した。背後の案内板に直撃する。案内板は砕け散った―“爆弾でも仕掛けられて
いた様な”勢いと轟音で―避難客はパニックを起こし、一部、出口へ向かって殺到する。警察の連中も一斉にこっちを見た。
「糸使い」が舌打ちしながら警官たちに向かって構える。それを制する「人形使い」。

「・・・やめろ。」

「!!ですが・・・!?」

「いいから、やめろ。うちらはターゲット以外の巻き添えなんか出したらフォローしてもらえん・・あっと言う間に切られるぞ。」

陰念も続けて繰り出そうとしていた拳を渋々収めながら言葉を継ぐ。

「それに裏部隊だ・・・ICPOとかに面が割れるとヤベエ。場所を変えるぜ。
・・・雪之丞、まさかてめえ、ここまで来て逃げたりはしねえだろ?」

「こっちも裏仕事だから人前で派手には動けないワケ。・・・それに、おたくら放っとくと仕事のジャマになるのよ。」

俺ではなくてエミが答えた。俺はもう一度ゲートに視線を向ける。さっきから結構時間が経っている。恐らく避難客はここに
集まっている分で最後だ・・・もはや、場内に残っているのは係員と、警官と、教団の人間だけだろう。
つまり・・・・・・俺の今日の“お仕事”はほぼ終了したって事だ。
たとえ神族だろうが奴らがここでパピリオを見付ける事は出来ない。

「仕事」というならエミも飛んだ貧乏クジだ。神族に通常の呪いなど効く筈がない。後で教えてやるか。
そして陰念・・・・お前に教えてやらなくちゃいけない事はどうやらいっぱいありそうだぜ。

「・・お前らがこれからするのは”仕事”じゃなくて”お勉強”だ。残念ながらターゲットには辿り着けないままさ。
目先の俺に拘り過ぎたんだ・・ま、そこら辺はこれからこの俺の無料授業を受けてだな・・」

「・・・俺らのターゲットは目の前にちゃんといるぜ。」

「そうじゃねえ・・・お前らの最終目標のパピリオさ。とっくの昔に人間の客と一緒に・・・・。」

「うちらのターゲットは、あんたさ。・・・まだ良く分かってないのか・・・最初からうちらが指定されたターゲットは“妙神山の
指示でパピリオに味方する人間の能力者”なのさ。パピリオをどうこうするのは・・“クライアントの最終目標”さ。」

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 Bodyguard & Butterfly !!
 (続く)
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