ザ・グレート・展開予測ショー

流れ往く蛇 逢の章 惨話


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(04/ 1/13)


 辺りは一面の黄昏模様に染まり、オレンジを撒き散らせたマルを追う様にして、黒い戸張が下りようとしていた。
 ・・・なんてちょっと詩的な事を考えつつ、あたしはぼ〜ッと何をするでもなしに、窓から外の景色を眺めていた。
 自分でも正直イヤになる。何でこんな気持ちになってしまったのか・・・?まったくもって、不愉快なことこの上ないさ。
 
 GSは――絶対に魔物なんかに負けたりしないのよ!!――

 美智恵の決意めいた叫び声が、いまだにあたしの耳朶を叩く。

 ここは公彦があたしに当てた部屋で、美智恵や唐巣はそれぞれ各々の部屋にいるはずだ。
 部屋の中央にはシングルベッド、端にある鏡を正面に捕らえた机、それでもってやっぱり本棚。とまぁ、どこぞのビジネスホテルみたいな内装。まぁでもそこは流石に一般家庭、あそこまでの閉鎖感はなく、当然落ち着きのあるような感じ、たとえるなら、勉強しているような友人の部屋・・・かな?ッて勉強している友人って誰だよ?・・・あぁ、そー言えばワケ判らんことを妙に真面目に研究してるタコがいたなぁ・・・イヤ、友人じゃないけど。違うよ、間違っても違うからね。
 そんなことを考えながら、あたしは窓から写る景色を眺めていた。
 
 何であそこまで必死になれるんだ?所詮は他人事だろうに・・・今はここにいない人物の姿を、もう一度思い浮かべる。
 結局、そんなことにばっかり気を揉むもんだから、人間って奴はダメな奴なんだと思っていたけど・・・まぁ、これも商売って奴なんだろうね?

 でも・・・あたしの正体を知ったら・・・あいつらはどうするんだろう・・・

 ふとそんな考えがよぎった。
 
 そしてすぐに馬鹿馬鹿しいと首を振った。
 そんなことは判りきってることじゃないか。昔っから決まってるのさ。
 人間にとって、あたし魔族はあくまでも敵。まさしく『悪魔』ってな奴だ。祓うべき対象でしかない。そして今のあたしには抗し得る力がない。答えは簡単なことだ。

「・・・GSは魔物なんかには負けないんだとさ」

 あたしは皮肉げに、そうポツリと呟いた。

 気がつけばいつの間にか、視線を伏せている自分に気がつく。いつからこんなに情緒的になったんだ!?いつものあたしとは違うだろ!?もっと傲慢で、ガサツで、短気で・・・って違う!!そういうことじゃなくて、もっと気楽にいこう!ッてことだ。
 あたしは気を紛らわせるために、もう一度夕日を眺めた。
 場違いなくらい、その夕日は綺麗だった。朝日を始めてみたときは感動した・・・そう前に言ったけど、この夕日もあたしは好きだったりする。やっぱり黄昏るもの、っていうのは滅ぶこと・・・永遠なんてないことをどこか教えてくれるみたいで、好きになれる。あたしら魔族の命も、そしてこのどこか間違った世の中も・・・

「ハクミー、出前とるけどなんか好きなものある?」

 ドアの向こう側から声が上がった。美智恵だ。もう元気になったのか?さっきまであんなに疲れてたって言うのに!? GSの霊力は化け物かッ?
 きっと美智恵自身が特別におかしいんだろうなぁ・・・そんなことを考えながら、あたしはドアへ向かって行った。そういえばまだあたしも回復してないんだよなぁ・・・ちょっと・・・以上の割合で、へこんでたりもする。





 流れ往く蛇 逢の章 惨話





 あたしは食事もそこそこに、一人考え事に没頭していた。





 美智恵はあの時あたしたち三人に語った・・・自分にとり憑いているある病・・・いや、違うな。魔族・・・だな。そしてこれこそあたしがちょっと鬱になったりする理由。
 聴くところに、昔こいつに取り憑かれたそうだ。
 あの後・・・美智恵はその綺麗な背中を、あたしにも見せてくれた。女性特有の滑らかなラインを・・・って違う!!見るのはそこなんかじゃなくて、肩胛骨同士の丁度真ん中辺り、微量ながらも霊気を放出させているもの・・・そこにはあたかも肉食獣みたいな牙がはえそろった『それ』があった。
 
 ――チューブラー・ベル――

 あたしら魔族の間でもけっこう厄介に思われているそれ。人間なんかの間じゃ『霊体癌』だとかなんだとか呼ばれてたっけ?
 他の生態に取り付いて、霊力をどんどん吸い取っていき、終いには死に至らしめるという・・・しかもどんな高度な外科技術をもってしても取り除くことはできない。
 なんでか?実はこの妙な痕自体に意思があるって言うことに問題あってだ、切り取ろうとすれば駄々こねるんだ。だからガキってイヤなんだ・・・って話が違う。まぁ、たとえるならそのまんまガキなんだけどね、宿主の心臓やら脳やらを一緒に傷つけて自滅しちまうんだ。このガキは。
 まぁ、あたしの場合は『超加速』があるからね、自滅する前に一気に穿り出して・・・想像するとちょっと気持ち悪いなぁ。
 その時、服を着ながら美智恵は告白した。

「しかもこいつは、私が苦しんで両親がひるんだスキに・・・私の霊力を使って両親を攻撃したのよ!!」

 美智恵の目から深い悲しみが伝わってくるよう。その瞳は、あたしたち魔族全体に向けられているみたいだ。

「この手に・・・チューブラー・ベルが放った霊波の感触がまだ残っているわ・・・!!両親の霊的急所(チャクラ)に全力の攻撃を・・・私の手で!!」

 悔しさだとか、憤りだとか・・・そんなものすら超えた、執念、とでも言おうか・・・そんな感情が美智恵の瞳から溢れてくる。
 そりゃそうだ。両親が間接的・・・それも自分の手で殺されたんだからね。美智恵の未来でのあの強さは、ここからきているのかも知れない。どこかあたしたち魔族と、強くなるって方法が似ている。
 あたしは美智恵に、妙な親近感を覚えた。今までバカやって過ごしてきたんだろうな・・・なんて思っていただけに・・・ね。
 そして・・・同時に、妙な罪悪感も感じたんだ。なんでだろう・・・いや、人間ごときにそんな感情を憶えるわけないだろ?何言ってるんだ、あたしは。慌ててあたしは首を振って否定した。
 唐巣も、まるでそのこと事態が自分のことみたいに、すごく怒った顔で唸った。

「何てことだ・・・君の両親はそいつに殺されたのか・・・!!」

 公彦が、美智恵が・・・唐巣へと振り向いた。その視線は・・・なんていうかハハン?みたいな雰囲気を放っていて・・・

「死んでない死んでない!!」

 美智恵は気楽に笑い飛ばした・・・ってコラアァァァァァ!!美智恵!!何珍しく真面目な話かと思って身構えちまったじゃないか!!どーしてくれるんだ!

「・・・〜〜〜〜〜!!」
「何怖い顔してるの?ハクミ・・・?」

 美智恵がビビッたような顔をして、あたしの顔を見詰めていた。
 あぁ、もうなんていうか・・・こいつには何を言っても無駄なんだろうなぁ・・・そんなことを考えてたりもする。

「私の能力地が高いのは、両親の才能をそろって受け継いだからよ・・・」

 美智恵がとうとうと語りだした。

「二人ともそれをとても喜んでくれたのに・・・」

 いつもの強気な姿勢とは裏腹な・・・イヤに感情的で、悲しみが表れた表情・・・

「結果は全部裏目に出ちゃったってわけ」

 あぁ、あるよなそういうの。あたしだってけっこう頑張ってたんだけどねぇ、GSの連中に邪魔されて今はこんな生活を送ってるわけなんだよ。

「気を落としちゃダメだぞ。きっといつか報われる日が来るさ・・・そう信じて気をしっかりと持って生きるんだぞ」

 あたしはポンポンと美智恵の肩を叩きながら、激励してやった。

「・・・は?」

 美智恵はわけもわからないような表情で、あたしを見詰めた。
 このあたしがせっかく激励してやってるのに、訳も判らないだなんて、なんて奴だろう。

「と・・・とにかく、両親の出した結論は、私の命を最優先にすること・・・霊力を封印してチューブラー・ベルの活性化を抑え、私に普通の生活を送らせるって・・・」

 ここでいったん美智恵は言葉を区切った。その言葉の端端から、激情が滲み出ているのがわかる。
 でもよく考えれば、その両親の考えた対処法が、最もいいのかもしれない。チューブラー・ベルを抑えるとかじゃなくてね。世の中にはチューブラー・ベルとかよりも厄介な奴とかだっているわけだよ。呪いを漏れなくかけて来る妙なガキとか、髪の毛を奪おうとする人形とか、読むと寿命が縮まる新聞だとか・・・そういう危険を避けるには、関わらないのが一番。オマケにこんな危ない仕事なもんだから、社会的地位は低いし、周りからは奇異な目で見られるし、保険屋さんにはモテルし・・・いいことなんてそんなに無いだろ?
 もっとも・・・この美智恵がGSになってくれなかったら、こうしてあたしと会うことなんて無かったし、あたしだって未来へ帰れないでくら〜い生活をここで送んなくっちゃいけなかったわけだけど。

「でも・・・」

 どこか決意じみた響きが、美智恵の口の中から漏れる。

「私は―――私はそんなのはイヤ!!」

 そう・・・その瞳は誰かに挑むみたいにまっすぐに何かを射すくめ、あたしはそんな視線に驚いた。って言うか感心した。まるでこいつのこの感性は、あたしら魔族に近いモンがあると思う。
 それと同時に、何でか知んないけどさ、チクリッて言うような妙なモンを感じたんだよ。いや、判らないんだけどね。
 美智恵は、なおも感情が高ぶったまま、吼えた。

「たとえさしちがえても、私もGSになってこいつを倒して見せる!!『GS』は――絶対に魔物なんかに負けたりしないのよ!!」

 あたしは、妙な居心地の悪さにかられて、美智恵から視線を逸らした。その視線の先には、悲しそうな視線を含めた公彦が構えていた。

「お気持ちを察します」
「どんな気持ちだって言うんだ?別にどうってこともないだろ?」

 あたしは気分も悪く、吐き捨てるように公彦に言い放った。
 そうなんだよ、まぁGSの連中からすればあたしらなんて滅ぼすべき対象でしかない事なんかは知ってるし、あたしらだってGSの連中は邪魔な奴だってのも十分承知している。互いにそれ以上のものなんかは必要としない・・・それが当然だろ?今みたいな状況だからこそ、こうやって一緒にいるだけさ。
 ハァ・・・あたしは胸に手を当てて、妙なイラツキを抑えようと深呼吸をした。

「ハァ〜〜〜」

 クラッ!
 
 ・・・ん?なんださっきのクラ!ッてのは?

「お、おい大丈夫か、美智恵君!」

 唐巣が慌てて美智恵のほうへと駆け寄っていく。美智恵はその唐巣に腕にしがみついて、大丈夫だと声を上げた。
 アッ!そうか、あたしの超絶的な呼吸の力で美智恵がよろめいたと?さすがだな〜・・・

「そんなわけあるわけないじゃないですか!」
「魔物に取り付かれている上に、さっきのあんな無茶な除霊をしたから体力が続かなくなったんだ!」

 唐巣が心配そうに美智恵の顔を覗き込んだ。
 公彦も、心配そうに美智恵の顔を覗き込んだ。なんだよ、冗談で考えただけだって言うのに・・・なんか無性に負けた気がするぞ。

「寝室を用意します。今夜は皆さんで泊まってください」
「すまない」

 唐巣は厳しい表情で、コクリと一つ頷いた。


 


 まぁそんなこんなで、今はこうやって部屋を当てられているわけだ。
 食事の間に、簡単な公彦のマスクをはずす方法とか、美智恵に取り憑いている魔物の除霊法なんかの打ち合わせをしたわけなんだけど・・・どれもこれも信頼にかけるモンばっかりだ。これといった決め手になるようなのはなかなか思い浮かばなかった。
 あたしは美智恵の親が、チューブラー・ベルを除霊しようとしたとき、どんな除霊法を行おうとしたのかも尋ねてみけど、まぁ要するに結界で覆ったチューブラー・ベルを封殺するって言う、けっこう大掛かりだけど普通の除霊法。美智恵は新聞の切抜きを交えて、あたしにそのときの状況を説明した。

 まぁ、この二人に関しては、実際たいした進展はなかった・・・んだけど、あたしはさっきの新聞の切抜きを思い出しながら、奇妙な違和感を感じていた。
 まぁあの切抜きの真ん中にでかでかと記載されていた、美神夫妻の記事・・・のはじっこに追いやられるようにして、小さく印刷されていた文章・・・
 
 あたしは自室のドアを開けて、美智恵の名前を叫んだ。

「お〜い、美智恵〜・・・」

 二階にいっぱいに響き渡るあたしの声は、ただ延々と無駄に響き渡る。当然のことだけど、返ってくる反応もなし。どーせどこかで聞こえてるけどメンド臭いだとかで、黙ってるに違いない。
 あたしはスッと息を吸い込んだ。

「・・・聞こえてんのか!バカ女!!」
「誰がバカ女よッ!!」

 あたしは好からぬ感覚がして、慌てて首を一つ後ろへさげる・・・

 ・・・ドスッ!!・・・・・・

 あたしの背筋を冷たい何かが滑り落ちる。ドアの柱には、金色の眩い光を発したまま、幾何学文様に彩られた神通棍が一本、深々と突き刺さっていた。
 ・・・もし避けなかったら・・・魔族でなくとも危ないと思う・・・

「・・・で、何の用よ?」

 突如、そう訊ねる声がした。あたしは慌てて声の方向を向きやる。
 そこには見るからに不機嫌そうな美智恵が、なんていうか・・・返答次第じゃただじゃおかんぞ、見たいな表情で突っ立っていた。

「エッとさ、さっきの新聞の切抜きを貸して欲しいんだけど」

 美智恵は不審そうな視線をあたしに投げかけながら、口を開いた。

「別にいいけど・・・さ、なんに使う気なの?」
「別にたいしたことには使わないよ。人間たちの現状を知る・・・じゃなくて、知識を多く得ようとすることに意味なんかあるか!?いや、あろうハズもない!!だからかして」
「なに、その妙な催促は?」

 美智恵はあたしのことを不審げにじろじろと眺めながら、不承不承新聞をあたしに手渡す。

「でも汚したりはしないでよね。いろいろあったけど、これもそれなりに大事なモンなんだから」

 何でこんな紙切れが大事なんだ?なんてあたしはフッと思ったけど、まぁ人間なんて意味のわからないモンを大事にするようなかわいそうな奴らなんだろうね〜と何と無く納得する。

「まぁ、できうる限りは大事にするよ」

 あたしは美智恵にそう告げて、部屋のドアをバタンと閉めた。
 なんか後ろで文句らしき呪詛を吐いてる声が聞こえた気もしたけど・・・きっと気のせいだろうね。

 あたしは、早速椅子を引いて、机の上にその切抜きを広げた。切抜きとは言っても、まぁ元は新聞だ。手狭な机の上で、でかでかとその身を広げている。生意気な・・・
 あたしはその切抜きに視線を這わして行って、あたしが感じた違和感・・・いや、違うな。『確信』とでも言うのかな・・・矛盾しているけど、それを探すべく文字の羅列を見続けた。
 
 ・・・まぁそんなにすぐには見当たるわけはないんだけど・・・〜ん、まぁぱっと見どこぞが大盛況だとか、どこかの野球チームが勝っただとか・・・そんな記事も載ってる。けっこういろいろ記載されてるわけだね。何でこんな生活には不必要なモンまで載せてるのかは、知らないけど・・・あたしは隅っこに乗ってる夜景、それを飾るかのように打ち上げられている花火に、何と無く目を奪われた。
 ネオンに照らされた町並み・・・燃えてるように輝く山。そしてひまわりみたいに一杯に広がる花火・・・
 毎年行われている花火大会だそうだ。あたしは、なんか悲しい気分でその記事を読んだ。ずっと戦って、任務任務ってそればっかりで、そういえばまともに花火なんて見たことはなかったなぁ・・・。若いときのあたしは、それを物欲しそうな目で遠くから眺めていた記憶がある。ッて今も十分に若いけど。若いんだよ!文句あるかっ!!
 そう言えば、昔・・・遥か昔に聞いた様な事があるような気がする。今の地上ほどいろんなモンに溢れた世界なんて、有史以来そうはないとか何とか・・・確かにそうかもしれないけど・・・あたしは気分を奮い立たせるために、頭を数回振った。あたしは間違ってはいないはずだ。じゃなけりゃ今までさんざ、あんなことやってのけるはずはないだろ?
 あたしは唐突に這い上がってきた、妙な気持ちを蹴散らすみたいに乱暴に新聞をめくった。

 そしてふてくされながらに、這わせた目にあの記事が引っかかった。
 


 丸い囲いの中に納まった、一人の女の顔・・・どこかで見た顔だ。
 乗用車が電柱に突っ込んで、ひしゃげている様が、白黒の写真いっぱいに写っている。
 死傷者は三人・・・乗用車に乗っていた男と、それに撥ねられた人物―その後の調べで、すぐに二人は親子・・・母と娘ということが割れたそうだ。
 電柱に支えられるみたいにして、斜めに傾いた車の車輪のすぐ下には、真っ赤に染まった何かの人形が、まるで愛嬌みたいに鎮座していた。



 一人の娘が、そういえばあたしにこう言っていた。

 ・・・ポンたんが壊されちゃったの・・・

 あたしは、そういえばここつい最近人形を見たような気がする・・・そう感じていたはずだ。そうあまりいい感じはしないと、そう感じたはずだ。

 そう・・・確か・・・


 あたしの思考は、暗いまどろみと一緒に深淵の彼方へと沈んで行った。







 暗い・・・あたりは漆黒に彩られていた。あたし以外の何にもない世界・・・ここは・・・どこだ・・・?
 一寸先すら見えないその世界、自分の腕や体はもちろん、それどころかあまりの暗さに上下左右、平衡感覚さえ曖昧になってゆく。
 
『よぉ、あんた・・・ぜんっぜん力は感じねーけど、俺と同属なんだろ?雰囲気がそう言ってるぜ?』

 不意にどこからか、あたし―かどうかは知らないけど、あたししかいないよな?―を呼ぶ声が聞こえてきた。あたしは声を頼りに、首をめぐらせる。
 深淵にいつの間にか、頼りなげにも燈る蛍火・・・その中央には、どこかの遊園地のアトラクションから連れて来たみたいな、まるで全身コスプレに身を包んだいかにも悪役然とした人物。ッて言うかまぁ魔族。ムキムキ文様みたいな血管が、全身に浮き出ていて、頭部は口裂けコスプレを巨大な棍棒で叩き潰したところに同色の団子でも乗っけたみたいな、要するに魔族のあたしからしても面白い姿。やっとこさ見える頭頂の双角と背中の羽で、やっと遊園地のアトラクションでないって分かるくらい。
 そんなオモシロオカシイそいつが、口をパクッと開いた。

『何で人間なんかと一緒にいるかは知らねーけどよ、どうせ俺と考えてることは一緒なんだろ?俺もいつまでも人間なんかに居座るつもりなんかないぜ!?』

 何言ってるんだ?こいつは。こいつが何考えてるって?あたしと同じこと?おまえは魔族の尖兵としてさまざまな行動を起こしたとでも?

「お前が何言ってるかしんないけどさ、あたしはコスプレした奴なんかと魔族の未来について語り合う気はないけど?」

 あたしはくるりと後ろを振り向いた。

『あぁ?なんだよ。魔族同士仲良くしようってのが判んないかなぁ。なら俺一人でみんな殺しちまうけど、文句は言うなよ』

 後ろでムキムキコスプレが、ケケケケと下卑た笑いを発した。あたしは好きにしなといいかけて・・・グルッと一気に振り向いて、拳を振りかぶる。
 
 ――・・・シュッ!

『・・・ッッ!!』

 下卑たコスプレは、いきなり目の前に現れたあたしの拳を見詰め、ゴクリと唾を飲み込んだ。
 あたしも自分の腕を信じられないような瞳で見詰めてたりする。何でだ?こいつがさっきの台詞を発した瞬間、何故かは知んないけどすごくムカついた。とりあえず一発ブン殴ってやんないと、気がすまないほどに・・・だ。
 奴は驚いたような視線であたしの拳を眺めてはいたけど・・・不意ににっと口の両端を吊り上げて―って言ってももともと吊り上がっていたけど―さも人を小バカにしたような台詞を吐き出した。

『そうかよ、おまえは人間に尻尾を振るって言うかよ。魔族の誇りを捨ててなぁ!!ならおまえは俺に取り殺されてくあの女の最後でも見守ってるんだなぁ!!』
「ふざけんじゃないよッ!!」

 あたしの放った拳は、暗闇を切り裂くこともできずに空を彷徨った。
 ちくしょう!!なんなんだ、このムカつきは?違うだろ?あたしは美智恵がいなくなれば困るから、ただそれだけでしかないはずだろ!?
 
「クソッ!!」

 あたしの叫びは、ただ空しく深淵に木霊すだけだった。


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