ザ・グレート・展開予測ショー

母の杞憂


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(04/ 1/12)

どちらがついでかはおそらく母、百合子も理解していないであろう。
免許更新を理由に日本に戻り、
「うふ。忠夫ちゃん。元気にしてるかしら?」
と、空港まで来るよう命じてたのが一昨日、それで今正に出迎えロビーに足を入れた直後。
「ママー!」
男性特有のロートーンをあえて高くしている感のある耳慣れた声。
手をふるは目的である息子、横島忠夫である。
さっと赤らめた百合子、
「な、何がママよ小さい子供でもあるまいしぃ」
うりうりと人差し指でこめかみを穿つ母も、笑っている。
嬉しいに違いない。
「なんだよぉ。恥ずかしいじゃないかぁ」
「恥ずかしいですって?男子高校生に『ママ』なんて言われる方が恥ずかしいわよ」
そんなやり取りをしつつも百合子が言う前に
「重そうな荷物。持ってあげる」
トランクを軽々持ち上げる息子を頼もしく思う。
高校生の忠夫が自動車を運転できるわけもなく、時間も遅いこと、
「タクシー拾うわよ」
場所柄直ぐに捕まる。
「どちらまでですか?」
と尋ねるドライバーも当然であり、東京の真ん中あたりとあれば、
「はい、喜んで!」
である。
更に。
「お客さんはご兄弟で?」
その質問は母を喜ばすには十二分であった。
「おや、親子で。これは失礼おば」
そんな言葉を発してた。
「で、アンタ部屋は綺麗なの?」
不意の一言であったのか、忠夫、やや口が重くなる。
ま、しょうがないわよね。男の子、一人暮らしなンだからとため息をついたと同時に目的地。
鍵を開けさせ中を見るや。
「あららら???」
意外や意外。チリ一つ、ゴミ一つない清潔感あふれる部屋であるのだ。
「・・・忠夫ちゃん?だれか彼女でもできたのぉ〜」
やや目を細め、覗き込むように息子の顔を眺める。
「ち、ちがうよぉ。今日はお掃除しなかったから、汚い方なんだけど・・」
こちらは節目がちの言葉の忠夫である。
「これで!だらしなかった忠夫ちゃんが!」
息子の成長を諸手を上げて喜びたい母・・ではあったが。
「あれっ?このカーテン替えたの?」
「うん、前のは汚れていたからね」
これも高い声を意図的に出す息子である。
カーテン如きなんぼ安い月給でも買えなくもない昨今であるが。
「ハートのピンク柄はなかったんじゃないの?」
「そぉ?これ気に入っちゃったから」
やや無理して購入したとくれば、顔がしかむのも無理は無い。
そんな母に気が付かぬ息子、親の心、子知らずとは先達方も上手いことを言う。
「そう!お料理もあるんだ。食べて食べて」
小さいながら冷蔵庫をあけるとこれまたキチンと整理された冷蔵庫にあるは、
「タッパーで保存しておいたの。こうすると有る程度物持ちしてくれていいんだ」
それを聞いて。
「忠夫ちゃん。自分で作ったの?」
「うん。そうだよ、何か」
いや、いいんだけどとなる。後になるがその味が女性ならではの繊細さに気が付くは
母は女だからである。
唖然とする母親を余所目に、
「ゴメン、ちょっとトイレね」
席を立ち鍵を閉める音の後、聞こえてくるは水音。
「・・・。聞かれるのが恥ずかしいって事なのよね」
まぁ、男でもするはするだろうが、トイレ行為特有の雑音を避けるため水を流すは女の子の心理なのである。
「ま・・さか・・ねぇ」
半疑状態で、今度は百合子がとトイレに入る。女性はどちらにしろ紙が必要である。
無意識に伸ばしたトイレットペーパーの端が。
「三角に追ってるじゃないの・・」
これとて女性らしい行為に違いない。
そして食事時である。
お箸の使い方は元来器用である横島忠夫、とてつもなく綺麗なのであるが。
食事を口元までもってくる毎に左手で租借を隠しているではないか。
これは半信半疑でなく懐疑に発展する。
(まさか、忠夫ちゃん・・・女の子に興味あるの?)
この心の叫びを解説しよう。
大抵の男は女の子に興味有るのは当然・・とまでは言えない昨今ではあるが。
この「興味」とは自身が綺麗に、女らしくありたいという表れではないかと。
「そういえば」
と、どちらかといえば男勝りに百合子言いたいことは口にする。
「忠夫ちゃん。まさか生理用品なんか買ってないでしょうね?」
やや声を大きくする百合子に対して、ぽかんとする息子。
「はぁ?どうして?」
その言葉に嘘偽りはない。
これは性同一性障害なり女装願望の発展系が女性が必要とするモノの購入というのを、何かの縁で頭に入っていたからである。
とは言えどうも怪しさが残る台詞なのだが、やはり母は母。「ママ」と呼ばれて嬉しくなる自分が。
「大丈夫かしら・・大丈夫・・よね」
自問自答しながらの就寝である。
横島忠夫、現在高校生、今日は学校の有る日。百合子も目的の一つである免許更新を済まして、
「さて、部屋掃除でもしようかしら・・」
となるが、元が綺麗過ぎるので何処から手をつけたかわからない風体である。
「でも、ま寝床のどこかは汚いでしょね」
と、寝室まで立派ではないが、布団のある部屋から手をつけようとする。
案の定というか。
押入れの中は比較的汚かった。
ほっと安心する百合子の足元に何かが落ちる。
熊のぬいぐるみ、かの有名なテディ・ベアである。
「な、なんで生活の苦しいあの子がこんな物を!」
女の子が愛用するぬいぐるみがあるだんんてという風体である。
だが、もっとショッキングな物がその人形の下にある写真。
何気なく手にとった次が。
「なななんあなん・・何コレ!」
そう。明らかに息子忠夫である。
だが、
「せせせせせ、セーラー服ぅ!」
その写真セーラー服に身をまとい、ご丁寧にウイッグ(鬘)付けリボンまで結んでいる。
当然ながらスカートなのだが、何処で知ったのか、スカートを折り曲げて大胆な短さであり、
剃ったのである。足は綺麗なのである。
(思えばあの子男の子の割には華奢な体付きだし。身長も十分綺麗な女の子程度だし・・、それに・・)
私の若い頃に似ている・・となんとも手前勝手な感想を漏らした後。
「わ、私の息子が・・」
掃除も忘れふらふらと街をさまよう歩くも母の性である。
目の前も気持ちも整理が付かない。
視界はふらふら足取りも酔っ払いとまではいかないが・・である。
(何か・・誰か助けて・・)と
顔を上げた先が教会のようである。
困ったときの神頼みとばかりか、クリスチャンでもないのに教会に足を運ぶ。
キリスト教会であればざんげ室が有ることは説明するまでもあるまい。
そこの席に座った百合子。
「どうぞ。貴方の悩みは神に届きます」
の男の一声があった。
「あの・・実は息子が・・どうも・・」
「非行や引きこもりですか?」
「いいえ、違うんです。どうも・・女性に目覚めつつあるみたい・・・いや目覚めたみたいでして」
強い女も子供となれば弱くなる。この点線の部分は彼女の涙であると、読者諸君には理解していただきたい。
「実はこのような写真が・・」
と、見せると神父が驚いた。
「よ、横島君じゃないですか?」
ま、神父といえば彼、唐巣であることはお分かりであろう。
「えぇつ?息子をご存知で?」
「えぇ、いささか存じておりますよ」
でこの写真のいきさつも知っているという。
「そ、それは?」
説明によると、オーナーである令子が珍しく悪良いし、更に得意でないシロやらオキヌちゃんやらもお相伴にあがった時。
「しっかし、あんたもなよなよした体よね〜」
と、切り出す美神に。
「まったくで御座る。強いことには相違ござらんが、どうも華奢で御座るな」
ンな事言ってもこればかりはと、こちらもややアルコールの入る横島である。
逆算。
多く食っても肥えない体とは、女性理想である。
「ホント、アンタが女の子ならねぇ〜」
「そうですよ・・いやこのままでもかわいくなれるんじゃいんですか?ケラケラ」
と、オキヌちゃんの思いつきが、男を玩具にする女性陣である。
・・ちといやらしい表現だな・・・。
「そう!あたしのセーラー着れるんじゃないの?」
まさかとその場で終わるはずの会話が。
「じゃ!持ってきます」
ぱたぱたスリッパ音が一度引き、戻ってきたときには、
「はい、逃げないでくださいね〜」
もうなすがままであるし案外と。
「面白いかもしれないっすぅ〜」
ノって写真まで許した忠夫だと言うことだ。
「乗った・・ですって・・・やっぱり私の息子は・・」
自己完結したようだ。息子は女装趣味か、女性願望があるか・・だと。
「いや、そんな事はないと思いますが、万一そうでも息子さん、忠夫君の為にも・・」
と神父の説教、耳に入らず、脳にインプットされずである。
話の途中でざんげ室から出でしまっていた。
とりあえず、酒でも呑まないとやってられないと、ラウンジへと足を運ぶ。
もう既に夕刻過ぎである。
「なのよ、私の気持ち判る?クロサキ君」
と、愚痴を聞かせるために呼んだのか。どうやら横島夫妻の懐刀クロサキ氏。
「わかりますが・」
と切り出す。
「が?」
「男なんて子供である。そっちの願望があってしかるべきかと」
それに百合子様も男っぽいではないですかと、続ける。
「そうよね・・私が男っぽいからアノ子は女の子っぽく、辻褄は」
「合うわけないでしょ?百合子様」
グラスを手に持って。
「そういえば、息子様は女性ばかりの職場にいるとか」
「・・そういえばそうよね」
「ならばやや女性らしくなるのも当然ですよ。上司が女性なら男の部下もやや女性っぽくなる物です」
この時点ではっと気が付く。
かつて自分の男性部下全員がどことなーく、女ぽかったのである。
今でこそ、男らしいクロサキですらであった。
「おはよーですぅ」
なぞと、可愛い声を出していたのだ。
「それに彼は感受性豊かな年頃、至極当然でしょうに」
そっか、とため息をつく百合子である。
「じゃあ、今から・・例えば格闘技でもさせればいいかしら?」
目を見つめられやや赤くするクロサキだが、
「ま。それもいいでしょうが、本当に女性願望があるか、調べて見ましょう。
百合子が息子を呼びよせる。
通り一遍の・・自分の愚痴を聞いたクロサキを紹介する。
「えっと、私息子の忠夫です。よろしくです〜」
なにやら目がきらきらしている息子を前に矢張り女の階段をと目の前が暗くなる瞬間。
「ねぇ、横島くんは「ガン●ム」と「宇宙船間ヤ●ト」どちらがすきなのかな?
何気ない質問である。一応両方ともどういう物か知ってる百合子である。
突如。
「断然、ヤ●トっすよ!ガンダムは湿気っぽい気がするっす!」
「ほぉ!君もそう思うかい」
「当然、それに比べあの乗組員は全員漢の中の漢、男気のバーゲンセール、
 第一、地球を救うために命を投げ出す、かっこいいじゃねぇか!」
更に興奮したのか自分の好きなキャラクターを上げたり、あのかんちょうみてぇになりてぇだとか、
ぞんざいな口の利き方がおとこ言葉である。
そして、
「俺はあの場面が好きだ!」
はっと顔を上げる。今まで「あたし」とか「わたし」といった息子が「俺!」と。
なんだ、杞憂だったのか。ほっとする母の子供心知らずである。
あまりの漫画の白熱会話は女を飽きさせるのだが。
「ま、いいわね。たまには」
と、息子の会話に口を挟む。
「そうそう、そこがミソなんだよ、『お袋』」
・・・。ママって呼ばなくなっちゃって寂しい・・かしらの顔色をとったクロサキの返事はウインクであった。

FIN

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