ザ・グレート・展開予測ショー

きっと いつか(後編)


投稿者名:SooMighty
投稿日時:(04/ 1/ 8)

悲しい人生かもしれない。

つまらない人生かもしれない。

追い立てられた人生かもしれない。

追い詰められた人生かもしれない。

それでも人は・・・いや生物は「きっといつか」「だけどいつか」
なんて台詞を吐いて報われようと必死こいて生きているのだ。


夢が崩れても、優しくない現実に打ちひしがれても、雑草のように踏みつけられても
泥や塵にまみれ多くの擦り傷を作っても、それでも強く立ち上がるのだ。



醜い光景かもしれない。滑稽な光景かもしれない。





でも私は・・・皮肉なことにその瞬間が一番輝く時だと思う。















だけど いつか(後編)

















とりあえず人目のつかない所に行かないと始まらないわね。


・・・公園にでも誘い込むか。


私は早足で歩いた。
気配でむこうもついてきているのがわかる。




さて誘い込むのには成功したわね。

「そこにいるんでしょう?ヨコシマ!」
予想していた人物の名を大きな声で叫んだ。

「あ、やっぱりバレてたか・・・」
そういうとその男は物陰から出てきた。

「当たり前でしょう。イヌ科の嗅覚を舐めないでよ。」
いかにもバカにしてますという表情でそいつを見てやった。

相手もバカにしているのがわかったのか苦笑いを浮かべていた。

「んで? こんなとこまでついてきて何の用なの?
 ストーカーさん。私を襲いにでもきたのかしら?」

「いや、そんなバカな。」

面白いようにこの男は動揺していた。
まあ、そんな気は無いってのはハナっからわかってるんだけどね。
こいつにそんな度胸があるとは思えない。

「それは冗談だとしても何のようか教えてくれない?
 私、あんたと違ってそんなに暇じゃないから。」

「いや、さっきシロと話してたろ?」

こいつ・・・あの時いたのか。
ちょっと失念してたわね。
私は内心で舌打ちをした。

「人のプライベートを立ち聞きするなんて、あまりいい趣味とは言えないから
 やめておいたほうがいいわよ。」

「いや、そんなつもりはなかったんだ。」

またオタオタし始めた。
ジッとして喋ることができないの? コイツは・・・

私は心底この男に呆れた。
が話を進めないと帰れそうも無い。

「で、それがどうかしたの?」

だがヨコシマは私の質問に答えず
「生きることに疲れたんだ。」

はあ・・・言うに事欠いてそれですか。

「あの時の話聞いてて、タマモならなんとなくわかってくれそうな
 気がして、そいでつけてきたんだ。悪かったと思ってる。」

「ふうん、全然理解できないわね。さよなら。」
はいこれで終わり。
悪いけど面倒事はゴメンだわ。
お腹も空いてるし。寒いし。

「あんた相談する相手間違えてるわ。そういうのはバカ犬にして。
 尻尾を振って、喜んで相談に乗ってくれると思うわ。」
そういって私は立ち去ろうとした。

しかし服が引っ張られる感触がして、それ以上進めなかった。
ヨコシマが私の裾を掴んでいた。

「頼む。時間はとらせない。約束する。」

弱弱しく、だけど強い意志でそう言ってきた。
強引に振り切ることもできだだろうけど、あえて
それをやらなかった。

シロの顔が浮かんできてしまったから。
私にとってはこいつが野たれ死のうが、どうなろうが
知ったことではないけど、シロの・・・パートナーの
悲しむ顔を見るのは避けたかった。

私が決着をつけるしかないのだ。
この男を引っぱたけるのは私しかいない。

人の為に苦労をするなんて私らしくない選択だけど、
シロの為だと思えば多少は気が楽になる。」

「いいわ。聞くだけ聞いてあげるわ。でもここは寒いから場所を変えましょう。
 そうね喫茶店にでも行かない?」

「わかった。代金も俺持ちでいいよ。」

「当然でしょ。あんた女に金払わせる気?」

「いや、まさか。」
そういってまた困ったような苦笑いを浮かべた。

その苦笑いを見ると気分が悪くなるので見ないようにさっと
後ろを向き、早足で歩いた。

「あ、おい。」
あいつも焦ってついてきた。









喫茶店の道中はお互い無言だった。







喫茶店に入るとお互いにコーヒーを注文した。





長くなりそうなので、眠気防止の為にカフェインをとっておきたかった。

こいつも似たようなことを考えてるんだろうなぁと不意にそんなことが
頭に浮かんできた。


「で人生に疲れたヨコシマタダオ様は、結局どうしたいの?」
私はわざと嫌味な口調で言った。

「もうなにもかもがどうでもよくなってきたんだ。」

なんか会話が噛み合ってないような・・・
けど相手が相手だし我慢するしかないか。

「じゃあ、あんたは死にたいの?」
当然こういった疑問が出てくる。

「いや、そこまでは・・・ただこれ以上無理して笑っていく気力がないんだ。」

「じゃあ、みんなにそう言いなさいよ。」
まあ、それができればこんなに悩んではいないんだろうけど。

「うまく説明する自信がないんだ。」

私は黙ってコーヒーに砂糖をいれながら聞いていた。
いつもブラックで飲むのだが、今日はなんとなく苦味を避けたかった。

「それでもがんばって説明するべきだと思うけど。
 自分一人で悶々と考えてたってしょうがないじゃない。
 バカ犬だったら喜んで相談に乗ってくれるわよ。
 ってさっきも言ったか、ソレは。」

「あいつは・・・いい奴だよ。俺なんかのために
 懇意に接してくれる。」

「わかってんじゃないの。何が不満なのよ?」

「あいつはまだ先があるんだ。俺なんかに付き合って
 駄目になるべきじゃない。」

それを聞いてかなりムッときた。
クールを信条としている私も今のは熱くなりざるを得ない。


「あんたねぇ・・・甘えてんじゃないわよ。」

私は小さくとも怒気を含んだ声で言った。
そんな私にあいつは少なからず驚いていた。

「俺なんかのためにあいつが駄目になるなんて何様のつもり!?
 あんたみたいなつまらない男にかまけて駄目になるほど
 あいつは弱くないわよ。
 それに自分があいつに近づくっていう考えはないわけ!?
 自分が変わるって考えはないわけ!?」

結局この男は自分の殻に閉じこもってるだけなのだ。
相手を心配しているように見えて、自分のことしか考えてないのだ。

「そうか・・・そうだったな。スマン。」

私に謝ってどうすんだ。
声には出さなかったけど、思いっきりそう思った。

「あいつが・・・ルシオラが今の俺見たらなんていうだろうな・・・」
独り言のように呟いた。
それを聞いてまた怒りが沸いてきた。

「いつまでそんなモノに縋ってんのよ!私はその大戦の事は
 知らないし、興味もないけど、そのルシ・・・ナンタラさんは
 もう存在しないのよ!魂なんて言葉はこの世に存在しないの!
 死んだら何も残らない、悲しい現実しか残ってないの!
 それでもそれを受け止めて生きていかなければいけないのよ!」


「・・・タマモは強いな。でも、俺の足はもう傷だらけなんだ。
 これ以上傷をつけながら歩いていく自信がないよ。
 かといって思い出にしがみついてるのも疲れた。
 近いうちに・・・死ぬよ。みんなもそれを望んでるだろうし。」
 

その台詞を聞いた時、私は無意識の内に怒鳴っていた。

「ふざけんな!」
他の客がいっせいにこっちに注目してきた。
しかし構わず私は声を張り上げた。

「傷がつくのがそんなに嫌か!?
 塵にまみれるのがそんなにカッコ悪いか!?
 誰だってな、あんたみたいな悩みは抱えてるんだ。
 泥にまみれ、塵にまみれて、それでも必死に報われようと
 生きてるんだ!
 私とあんたの何が違うんだ!!
 私だって強いわけじゃない!
 死にたくなるほど嫌なことだってあるのよ!
 誰だってそうなんだ!美神さんもおキヌちゃんも
 シロも私も!動物も植物も神様だって!
 追い立てられて、追い詰められて、
 傷つけられて、泥にまみれて、
 それでも強く強く立ち上がってるのよ!!
 動けなくなるほど重いなら、そんな思い出捨てちゃいなさいよ!
 周りに迷惑掛けたっていいんだよ!?
 悩みや不安を吐き出して何が悪いの!?
 お願いだから生きることに疲れたなんて言わないでよ・・・
 がんばって生きてよ・・・
 クッ・・・ウゥッ・・・」

私は叫んでるうちに涙が出てきた。
それでも言葉を紡いだ。

「それが ウゥッ わからないなら、さっさと・・・
 自殺でもなんでもしなさいよ・・・」
下をうつむきながらそう言った。

泣いてることはバレバレなのに、とことん強がり
な性格してるなとつくづく思った。


























その後、私たちは喫茶店を出た。
あそこにそのままいたら他の客に迷惑がかかるから。

帰りの道中も行きと同じく無言だった。
ただ別れ際にあいつは小さく弱い声、
だけど確かにはっきりと強く

「タマモ、色々とありがとう。」
と言った。



事務所につくと入り口の前にシロが居た。

「おかえりでござるよ。」
といって暖かい缶コーヒーを渡してきた。

「ただいま。・・・ってあんた、ずっと待ってたの。
 この寒い中よくやるわね。」
呆れたわ・・・

「お前とは鍛え方が違うからこれぐらいの寒さ
 どうということは無いでござるよ。」

「バカは風引かないから心配するだけ無駄か。」

「どうしてそう減らず口を叩でござるか・・・」

「事実を言ったまでよ。」

「くっ! ま まあいいでござるよ。
 それよりも速く中に入って暖まろうでござる。」

「それよりも気づいてるんでしょ?
 今日あいつと会ってたこと。」

「ん、まあな。」

「聞きたいこととかあるんじゃないの?」

「いや特にないでござるよ。」

「そう、ならいいけど。」

「タマモ・・・ありがとうでござるよ。」
シロは急に真面目な顔をして頭を深く下げてきた。

「何よ、いきなり。それにそれ今日で2回目よ。」

「そうでござったか? それでもお礼を言いたいの
 でござるよ。」

「別にあいつとお茶しばいて終わっただけよ。」

「赤くなった目で言っても説得力ないでござるよ・・・」

・・・バカの癖して、そういうとこには気づくのね。

「先生を励ましてくれたんでござろう?」

「そんなんじゃないわよ。現実をわからしてあげただけよ。」
なんかバカ犬の顔を見ると、照れくさいのでソッポを向いた。

「それより、あんたには悪いことしたわね。私が全部おいしい
 とこ持ってちゃって。」

「ん。仕方ないでござるよ。拙者じゃあなんとなく先生を
 救えないってのは分かってから。」

やっぱ分かってたか・・・

「それに拙者がどうこうより、先生が強くなれるかどうかの
 方がよっぽど重要でござるし。」
といってニッと笑っていた。

こいつらしいわね。
呆れるぐらいで前向きで、
羨ましいぐらいに生気に溢れてる。

「ま、あいつが今後どうなるかわからないけど、
 少しはマシになるんじゃないの?」
あの別れ際の声を聞いた、なんとなくそんな気がしていた。

「そうでござるか。 じゃあ中に入るでござるか。
 さすがに長い時間ここにいるのもなんだし。」

「あら? 寒さには強いんじゃないの?」
意地悪くそんなことを掘り返してみる。

「限度ってもんがあるでござるよ。」

「なんだ所詮口だけですか。」

「なんだとーー!! その口の悪さ、今すぐ矯正してやるで
 ござる!!」

「やれるもんならやってみなさいよ! バカ犬!」


すっかりいつもの私たちに戻っていた。

























そして三日後・・・




「シロ、久しぶりに散歩でもしないか?」

私たちの部屋に入ってきた男はそう言った。

「先生、いいんでござるか?」
シロはどこか遠慮がちに見えた。
尻尾はぶんぶんと振られていたので
喜びは隠しきれてないが・・・

「ああ、それにその・・・色々心配かけたしな。」

「あぁぁ、先生から誘ってくれるなんて、拙者は今
 母上に生んでくれた事を感謝するでござる。」

「はは、大げさだな、随分と。」
あの得意の苦笑いを浮かべていた
不思議と今回はむかつかなかったけど。

「それじゃあ早速出発するでござるよ!」
もう今か今かって感じで尻尾が振られている。
少しは隠せよと思った。

「ん。ちょっとまだ準備があるから、先に下で待って
 てくれ。すぐ行くから。」

「もう、速くしてくだされよ。」
そういってもの凄い勢いで外に出て行った。
・・・そんなに散歩が好きかねー。


まあ、今はそれよりも



「あんたから散歩に誘うなんてどういう風の吹き回し?」


「んー別に理由はないよ。なんとなくあいつと散歩したかっただけさ。」

「それよりタマモ・・・本当にありがとうな。まだ全てを投げ出せた
 わけじゃないけど・・・お前のおかげで少しは荷物を捨てれたよ。」

「そう。少しはまともな顔になったじゃない。いい男というには
 程遠いけどね。」

「はは、相変わらずきついなぁ。でもいつかは・・・きっと
 いつかはこの荷物を昇華して歩んでいきたいと思ってる。」

「あら?思い出を昇華するのは、捨てるのより何倍も難しくて
 厄介よ。それわかってる。」

「わかってるよ。でもそうやって生きていくしか、今の俺にはなさ
 そうなんだ。」

「そうかもね。でもとりあえず今はあんたのできることをやりなさいよ。
 当分は周りに元気な姿を見せてあげないと。心配かけまくったんだから。」

「そうだな・・・シロのご機嫌もとらなきゃあいかんし。」

「あーその為に自分から誘ったわけね・・・納得しました。」

「んじゃ、そろそろ行かないと、機嫌とった意味が無くなるからな。」

「ん、わかった速く行ってあげて。」

「あ!なんならお前も一緒に行くか?」

「勘弁。このクソ寒い空の下で走り回る趣味は無いわよ。」

「俺も別に趣味にしてるわけじゃあないんだけど・・・まあいいや
 じゃあな!」

「はい、行ってらっしゃい。」

駆け足でヨコシマは去っていった。



少しはマシになったかしらね。
まだ引きずってるものも多いけど。

つってもそんな急に変われるわけがないのよ。
少しずつ少しずつ前に進んでいければいいのよ。

「きっといつか」「だけどいつか」

そう言いながら生きていくもんなのだ。
生物は失くしたものを捜して生きていると思っている。
何も失くさないで生きていける生物などいない。
失くしても代わりになるものを捜すのだ。
追い立てられても、追い詰められても
あきらめずに捜すのだ。



そんな喜劇にも悲劇にも似た勇気。
でもその勇気は何よりも強い感情だと思う。









「あ〜あ、昨日今日と難しいことばっか考えて
 疲れたわ。」

といいながらもこんな疲れもたまには悪くないわね、と
思っている自分が好きだ。







ふぅわ〜〜   やっぱ布団の中は最高だわ・・・

 
 

その部屋は10時間ほど狐の寝息が響いていたらしい。







END

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa