ザ・グレート・展開予測ショー

B&B!!(15)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(04/ 1/ 8)



(今回、苦手な人にとってはかなり不快なレベルのグロテスクな描写、性的な描写があります。ご注意ください。)



 + + + + + + +


ざあ―――――――――――っ ・・・・

降り注ぐ水滴が外の壁や樹木を打ち、撫でる音は、途切れる事のない長音となって礼拝室に響いていた。
天井に張られたステンドグラス―「汝らの中で罪を犯さぬ者のみこの女に石を投げるが良い」―白い稲光が差し込んだ。
続いて雨音さえも掻き消す轟音。鋭い白光がすべてのものを黒い影として浮き上がらせる。

女が、立っていた。稲光の様に白くて、長い髪。紫色のタイトなドレス。先が二つに分かれた奇妙な矛を携えて。
そして、・・・・・みんな、死んでいた。


いつもの様に、俺の目付きが気に入らないとか言う理由で俺を物置に閉じ込め、鍵まで掛けて行ったウィルソン修道士。
――腹に巨大な風穴が開き、上半身と下半身とで千切れかけていた。

最低の場所で最低の存在として扱われ、それでも更に「自分より下」を見出そうとして、毎日寝る前に毛色の違う東洋人の
ガキを押え付け、その腹をぶん殴る日課を身に付けたルームメイト達・・・(名前なんて知らねえ。ここでは名前で呼ばれる
ガキなんていねえんだから)
――廊下で折り重なって倒れていた。全員、首から上が無かった。

毎週木曜の夜に目を付けたガキを教誨室に呼び出していたスコッティ神父。・・・咥えさせる時にいつも頭を鷲摑みにして
揺すりやがる。それで歯が当たる度に「呪われろ」とか喚いて腹に蹴りを入れて来る様な奴だ。
――始末の悪い両腕は何処かへ吹き飛び、首が真後ろを向いていた。

決して俺達と目を合わせようとしない、俺達の食器や衣類をいつも分厚いグローブで摑み大きなポリ袋に放り込んで持ち
運んでた老シスターのマデリーンとシェラ。
――シスターの服はそのままに全身が焼け爛れ、所々炭化し、小さく燃えていた。

そして俺達に銃火器の訓練を行ったり、時折ガキを一人か二人見繕って連れて行っちまう・・連れてかれた奴が戻って
来た事は一度も無い・・「組織」の兵士達が今迄に無い程大勢・・・まるで今からベルファストにでも行くのかと思う程・・
集まっていて・・・殺されていた。


物置にいた俺は外で慌しい足音がするのを聞き、微かに一つ二つ悲鳴を聞き、扉に凄まじい衝撃が加えられる音を
聞いた。その後は静かになり雨音だけが聞こえていた。
試しに扉を開けてみる。開いた・・・いや、壊れていて、倒れた。
死体だらけの院内を徘徊しながら、一体何が起きたのかを考えてみる。奴らが前から噂していた「SASの強襲」だろうか。
礼拝室まで来て白い女を見てもこれ以外の考えは浮かばなかった。この女がSASとやらなんだろうか?
室内に足を踏み入れると、窓際の女は振り返って俺を見た。口元を少し歪めて笑いながら。

「おや・・・?まだ一人、残ってたみたいだね・・・・・?」

「まだ一人」―俺も殺すつもりだって事か・・・俺もこんな風に死んでしまうって事か・・・。
不思議とそう思う事に何の恐怖も嫌悪も感じなかった。だから女の事も怖いと思わなかった。

それよりも――――――

女の横、床に俺は目を向けた。・・・そこに腰を下ろす様にしている男。
トマス司教・・・俺とママを侮辱する言葉の限りを尽くし、俺にその復唱を強制して来た男。
多くの子供から精神と人生と名前とを奪い、生命さえ奪い、それらを全て「神の下の正義」だとのたまう男。
――全身が雑巾の様に捩れ、後頭部が壁に深くめり込んでいた。・・・・やはり、死んでいた。

「みんな・・・・死んだ、のか・・・・・・?」

独り言に女が答えた。

「ああ、死んだよ。残ってるのはこの私と・・お前、だけさ。・・・どうするんだい?」

「どう・・・・・する・・・?」

質問の意味が分からない。「どうする」だって?俺が何をするんだ?だって、みんな、死んでいるのに・・・・。
女はつかつかと俺に向かって歩いて来た。薄笑いを浮かべたまま、手中の奇妙な矛を俺の喉先に突き付けて来た。

「このまま大人しく殺されるのか、こいつらみたく無駄な抵抗をしながら殺されるのか、って聞いてんだよ。」

「俺も・・・・死ぬんだな・・・・」

「当然さ。・・・・何だい?怖いのかい?」

俺は首を横に振った。俺が死ぬ・・・そんな事は最早どうでも良くなっていた。
みんな死んでしまった・・・・これでは・・・・・・・

「じゃあ、何だ?」

「・・・・・こいつら・・・死んだ。・・お前に、殺された・・・・俺が殺せない」

「・・・・ハア?」

「・・・お前がこいつらを全部殺してしまったから・・・・俺が殺す、筈だったのに・・・・・!!」

―そう誓ったのに。もう、永久に果たせない。
・・・世界から俺がするべき事もしたい事も全て無くなってしまったかの様だった。
・・・命の惜しみ様すら無くなっていた。

女は俺の顔を無言で覗き込んでいる。
透き通りそうな程白い肌と髪。彫りの深い整った顔立ちは、陶器の像の様に美しかった。この修道院の聖母像の様に、
俺達の痛みを拒み嘲笑する冷たい美しさ。聖母像と違うのは―決定的な違和感をその女の顔に与えていたのは、爛々
と輝く双眸とその奥にある縦長の瞳孔だった。その瞳はあらゆる種類の欲望と悪意に満ちていた。

「フ・・・フフフ・・なるほどな・・・ククク・・ハハハハハ!!私もツイてるねえ・・・こんな場所で・・・
ハハハハハハッ!!アハハハハハハハハハ・・・!!!」

女は急に笑い出し、俺から離れた。しばらく笑い続けていた。とても痛快そうに。
笑うのを止めると、再び薄笑いを浮かべながら俺に顔を向けた。

「フフ・・そうかい。お前がこいつらを殺したかったのか?確かにそりゃ残念だったねえ。・・・だけどね、お前は弱い。
だから殺せなかったのさ。そしてこの私に先を越された。・・・今のお前がこいつらに向かって行ったとしても、こいつらが
私をナメたのと同じで・・こうなるだけさ。・・・違うかい?」

女は矛でそこらに転がる死体を無造作に指して行った。女の表情から笑みが消える。

「お前は力を手にしなくちゃいけない・・強くならなくちゃいけない。強くなれば、お前はお前の憎むものを幾らでも壊せる。
望むものを幾らでも得られる。・・・今、分かったのさ。お前ならそうなれるってね。でなけりゃ、私もこんなお喋りはしない。
・・・・・どうだい?・・力が欲しいか?」

俺は強くならなくちゃいけない・・・・・俺は強くなれる・・・・ずっと前にも何処かで誰かにそう言われた様な気がした。
俺は首を縦に一回だけ振った。女は笑った。そんな笑顔を何処かで見た事がある様な気がした。

「なら、くれてやる・・・・・・。」

顔を両手で軽く持ち上げられた。女が顔を近付けて来る。また覗き込まれるのかと思ったが・・・違う。更に近付いて来る。
・・・・女の唇が、俺のそれと重ねられた。



「―――――――――――!!!」



俺は驚いて反射的に女を両手で押し戻そうとしたがビクともしない。――口の中に何か、入り込まれる感覚。
俺の全身から力が抜け、女を離そうとしていた手がずるずると下がって行った。


「・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・ぷは・・。」

舌と舌が、唇と唇が離れた後も、体に力が入らないままだった。思考もうまくまとまらない。

「な・・・・何を・・・・?」

「フフフフ・・・・・」

顔はまだ女の両手の中だったが、目の前のそいつの顔をうまく見る事が出来ない。自分でも目が潤んでいるのが分かる。
何かを期待する様に俺を見つめているその女の妖しくも美しい笑み。俺は感情がぐちゃぐちゃになったまま魅き付けられ、
全然違う筈なのに、こんな風に思っちまっていた。
―――「ママに、似ている・・・・」と。
しかし、そんな状態も長くは続かなかった。不意に体に力が戻って来た。
―いや、体の中から今までと違う種類の力が湧き上って来た!―

「う・・・うわあああああっっ!?」

体を動かすどころか、コントロール出来ないまま体を仰け反らせつつ体外に吹き出して行っている。体から出て来る
“それ”が白い光となって目に見えていた。女はいつの間にか俺から離れて立ち、もがく俺を見下ろしている。

「何・・だよ、これはーーーーーっ!?」

「フフッ、お前の中に眠っていた潜在的霊力さ。私と“結んだ”事で魔力が上乗せされてるがね・・・!ほら、落ち着いて
キッチリ、コントロールするんだ・・そのままだと、お前、死ぬよ・・・?」

「ど・・・どうやって・・・っ!!」

全身が電流を流されているかの様に軋んで激痛を覚えていた。コントロールどころじゃねえ。

「その出所と流れと量を把むのさ。そして自分がそれをどうしたいかイメージして・・・どこか一ヶ所に集めな・・・。」


力を・・・どうしたい・・か・・・?・・・なるほど、この力は、確かに、
俺の中を巡って・・・から、放出される・・流れがある・・・!

力を・・・どう・・・したいか?・・・何をするのか・・・強くなって・・・その力で・・・・したかった。
・・・奴らを殺したかった・・・・壊し・・・たかったんだ・・・・・この手で!!

全身の光―霊力が渦を巻き始めた。次の瞬間その全てが一挙に俺の両手に集中する。

  バシュッッッ!!


「・・・・両手を見ろ。・・・・・・それがお前の新しい力だ。」

「これが・・・・俺の・・・・・」

俺の両手は普段の三倍程に大きく膨らんでいた。表面は鉄のように硬く、それでいてしなやかで、
黒く指先の尖った・・・・まるで・・悪魔の手の様になっていた。
その手からは濃縮された"力”の気配がしている。さっき見たあの「霊力」の。


この拳で殴ったら、どうなるだろう・・・・

この指で突いたらどうなるだろう・・・・

この掌で締め上げたらどうなるだろう・・・

この手で押し潰したら、引き裂いたらどうなるだろう・・・・・


「力を・・・試してみるかい?・・・実験台はここにたっぷりあるんだよ。・・・・それなんかどう?」

女はすぐ近くの死体―トマス司教―を指差した。
彼の体は捩れ、頭蓋骨も砕けているだろうけど、十分人間らしい外見だった。一瞬で死んだのか普段の権威をあの世まで
持って行ける様な死に顔だった。・・・・・ご自慢の僧衣も殆ど無傷だった。
悪魔の手を握り締めながら俺の顔にはいつの間にか笑みが浮かんでいた。感情がこの時既に“手”に引き摺られていたの
かも知れない。


  ・・・・貴様らが 人間らしい 屍を残すなど 
    おこがましいにも 程がある。


一撃で・・・拳は司教の顔の奥深くまでめり込み、左目は脳漿に沈み右目が圧力で勢いよく飛び出した。
もう一撃、先の一撃でせり出た下顎が砕けながら一撃目のクレーターと同じ高さに・・陥没した。
拳を開く・・・左目の穴に長い指を突っ込み、かき回しながら眼球を捜す・・・探り当てたそれを伸びた爪に突き刺すと、
抜かずに横へ払う・・・司教の顔は温かいスライスチーズの様に頭蓋骨の欠片や脳漿にまみれて千切れていった。

倒れている兵士の一人の肩を掴み、握ってみる。筋肉も骨も乾いた泥の様に砕けた。そのまま引っ張ってみる。
腕の付け根から肋骨や肺ごと引きずり出された。




   貴様らは 貴様にふさわしい  姿となるべきだ
             お似合いの   残骸と



様々な死体を殴った・・・突いた・・・指で・・・拳で・・・掌で・・・
引き裂いた・・・握り潰した・・・・内臓を・・・筋肉を・・・・骨を・・・皮膚を・・・・



   肉片と  なるべき  なんだ 
      ナマゴミと       なんだ
 オマエニフサワシイ  還ル ベキ


       俺ガ キサマヲ 壊シテ ヤル
   せめて壊してやる



壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ

ぐしゃっ・・・・ぎりゅっっ・・・ざしっ・・・・

壊れろ壊れろ壊れろ

みりみりみり・・ぶちゅっっ!!がっ・・がっ・・・

壊れろ壊れろ  壊れろ・・・・壊れろ



「フフフ・・・・・どうだ、楽しいか?それを使い、力を振るい、血と肉片で染まるのは
・・・“これ”が潰れていくのは、楽しいか?」

ああ、楽しいさ。
女が問い掛けて来た時、俺は奴らを何よりもふさわしい姿に変えてやっている最中だった。
肉片と骨と臓物を積み上げ、捏ね回して作った十字架。
「色々なもの」を引きずり回していたので、礼拝室の床は余す所無く血で粘ついていた。

「そうだ、お前はそう言う目をしている。奴らと違う目・・暗くて美しい、力を求める目だ。
そして・・・力を持つ者の目だ。だから殺さないでやったのさ。
・・・だが、余りゆっくりしてもいられない様だね?」

俺がこの手を振り回していた時か、女が奴らを殺した時にかは分からないが、キャンドルが倒れていた。
その炎が木製の机や布、天幕などに燃え広がっている。
俺はすっかりボロの袋みたいになったトマス司教を最後にその十字架に架けてやった。
女は炎の中から俺に尋ねてくる。

「お前・・・名前は何て言うんだい?・・・ここのガキには名前は無いとか聞いたんだけどねえ・・。」

「俺にはある。・・・・・・伊達雪之丞だ。」

「私の名はメドーサ。ご覧の通り・・人間ではないね。・・・こいつらはトラブルの相手を間違えたのさ。
雪之丞・・お前がこの先を生き延び、その力で全身を包めるほど強くなった時、もし更なる力を望んでいたならば、
私のもとへ来るが良い。」

炎の中で女の姿は文字通り消えた。俺は半ば“手”の支配から逃れた頭で自分の作った十字架を眺めた。
俺は血まみれの悪魔の手で十字を切って見せる。そしてその十字架に向かって―この言葉を口にするのは
多分これが人生最後だと思いつつ―唱えて見せた。


「・・・―――エイメン!」

――――――――――――――――――
 Bodyguard & Butterfly !!
 (続く)
――――――――――――――――――
えーーー、雪之丞回想、これはまだまだ続きます。でも次回は現在進行と並行して・・・の予定。
今回ダーク&グロテスク&何かでしたけど・・描写でアレなのはこれ以上のは出てきません。
荷物はいろいろと残ってますが・・・(ゑ)

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa