ザ・グレート・展開予測ショー

唐巣受難曲(3)


投稿者名:浪速のペガサス
投稿日時:(04/ 1/ 7)



―現代―


雨は降り止まない。

ピートは、持って来たコーヒーを既に飲み干していた。

唐巣神父はといえば、もう何本目になるだろう煙草に火をつけていた。


「私はあの時の安易過ぎた自分、浮かれ過ぎた自分をあれほど呪った事は無かったよ。
あの時一週間早くイタリアに向かわなければ、あの時師の所に行こうとしなければ…。
悔やんでも仕方の無い事とは言え私は悔やんだよ。
いや、今でも悔やんでいるのだろう私は……。」


唐巣神父は淡々と、無表情に独白を続ける。

その表情の無さはまるで、悲しみを無理やり押し隠しているかの様にピートには見えた。

その姿は自分が知っている師の姿ではなかった。

そこにいたのは、抑えられない悲しみと怒りを必死に隠しているただの男だった。

少なくとも、ピートにはそう見えた。

煙草を灰皿におき、唐巣神父はコーヒーに口をつけた。

ほとんど口につけなかったそれはとても苦く、そして既に冷たかった。


「あの後私は先生と一緒に家に向かった。
そして一つの相談として除霊依頼を受けたんだよ、共に同行して欲しいと。
…………。今なら分かるよ。
あの時が私にとって引き返す最後のチャンスだったことを。
私は、あの時にそれを知っていればどんなに良かったか……。」


雨はさらに強さをましていった。

まるで、少しでも唐巣神父の声を聞こえなくするようかのように。

少しでも彼の、悲しい話が聞こえなくしようとするかのように。

雨音は、強く鳴り響いた。




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    唐巣受難曲


        第三楽章


          『いざ来ませ、異邦人の救い主よ』
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「ふぃ〜!!やっと着いた。
おーい和宏、荷物は自分で片付けろよ。
俺は絶対に手伝わんからな。」


「……、分かりました…。
しかし相変わらずですね、その聖職者離れした性格は……。」

空港から車で一時間かそこらの所に彼の師は家を持っていた。

見た目ものすごい豪華な家なのだが、まぁ俗に言う霊的不良物件ってやつだ。

除霊の報酬として、依頼主から寄付された。

適当な部屋を用意され、唐巣神父が荷物を置くと、彼の師がパタパタと忙しそうに家中を走り回っていた。


「和宏〜!お前この部屋使っていいからな〜。」


「はい、ありがとうございます。」


先ほど唐巣神父は自らの師を神父離れした性格といったが、実際にその通りだったりする。

彼の師は、およそ神父とはいえないような人物だった。

まず酒、煙草は当たり前、大食らいで女好き。

怠け者で仕事嫌い、ヒマさえあれば如何に楽しようか考えていて、あまつさえ聖書の復唱すらも簡略化しようとする。

はっきり言ってコレでは神父離れではなく、神父失格である。

しかし、コレは彼の仮の姿であり本来の彼は神父の鏡といって良い。

知識はちょっとした学者並に有し努力家、信仰心もかなり深く、清貧で人徳も深い。

余談だが、後の六道冥子の母と唐巣神父を引き合わせたのも彼だった。

また、GSとしての力も世界で十指とはいえないまでも強く、足りない分は持ち前の知識の深さでカバー。

本人曰く、見せると面倒ジャン、らしいが、彼は能ある鷹は爪を隠すを実践している人物なのだ。

そんな姿を呆れつつ「聖職者らしくない」と評してはいるが、唐巣神父はこんな師匠が好きだった。

荷解きしながら、唐巣神父は師との想い出に耽っていた。


―酒の飲み方や煙草の吸い方はこの人から教わった。
信仰心とGSとしての知識や能力はこの人から手ほどきされた。
この人は私に本当に色々な事を教えてくれた。
神父らしからぬ人なんだけれど、本当は誰よりも神父らしい人なんだよな先生は……。―


あらかた荷物を整理し終わった頃にはもう結構な時間になっていた。

唐巣神父は長旅の疲れなのだろう、ベッドに突っ伏してそのまま眠ってしまった。




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―勲章の授与まで後六日、唐巣神父が来て二日目の朝―


唐巣神父が目覚めた頃にはもう日は高らかと昇っていた。

腕時計を見てみる、午前九時をさしている。

唐巣神父はぽりぽりと頭をかきながらベッドから這い出て、部屋を後にした。

部屋を出て唐巣神父はまずは師を探そうとした。

しかしかって知らないこの家、唐巣神父は部屋を出てものの数秒で固まってしまった。

そんな時に何処からか師の声が聞こえた。


「和宏ぉ、メシが出来たぞ!
こっちきて一緒に食うぞ!!」


そう言われて唐巣神父は声のするほうへと歩いていった。

そこは台所だった。

神父がそこにつくと、テーブルいっぱいに、彼の師が作ったであろう料理が並べられていた。


「ホラ!席についてメシでも食え。
あ、神に祈らなくても良いからな。
腹減ったし、とっとと食おうぜ!!」


「は、はぁ……、それじゃあ頂きます。」


相変わらずだなと苦笑しながら唐巣神父は席につき、師と共に朝食を取った。

その席で彼は、自分でも喋り過ぎだと思うくらいに色々な事を話した。

妙神山の事や日本の事や今の自分の事、勲章の授与が決定した時の気持ちなど、本当に色々話した。

かなり簡略化して話したとはいえ、話が終わる頃には師は食後の煙草とコーヒーをすすっていた。


「そういえば先生は昨日俺に話があると仰っていましたね。
いったいどうしたんですか?
女性関係ならば俺は関係するのを御免被りますが。」


最後のほうに軽口を交えながら、唐巣神父は昨日師が言っていた事を思い出し、言った。

それを聞き師の顔が少し強張る。

師は吸っていた煙草を灰皿に押し付けて静かに話し始めた。


「一昨日、お前がこっちに来る前日なんだがな、ある除霊依頼をうけたんだ。
今日これから向かうつもりなんだけどな。
それでだ、正直お前にも来てほしいんだ。
どうにも嫌な予感がしてな……。
霊感に引っかかるっつーか、神の声が聞こえる気がするっつーか。
ただ、無理にとは言わない、お前にも色々あるだろうしな。
断っても、この家を追い出すつもりは無いから安心して決断してくれ。」


こういうときの師匠は、大概が厄介ごとをする時だということを唐巣神父は知っていた。

それに、そんなことを聞いてどうして唐巣神父が断れるだろう。

そして彼にはほんの少しだけ、師に対していいところを見せようという気持ちがあった。


「何水臭いこと言ってるんですか先生。
俺と先生の中じゃないですか、同行しますよ!
ただし!一つ貸しですからね。」


先生と教え子、というよりは悪友同士と言った方が良いだろうこの二人の関係。

それはきっと強い絆で結ばれた証のようなものなのだろう。

師は、軽口を交えながら話す弟子に対して苦笑しながらも心強さを感じていた。


「貸し一つはちとキツくないか和宏……?ま、しょーがねーのかな。
ソン代わり、ビシ!バシ!コキ使わせてもらうからな。
早速…、ほら!依頼者ントコに行くからとっとと準備して来い、俺の分もな♪」


「早速ですか……。
自分の分くらい自分でしてくださいよ!!」



―――――――――――――――――――




その頃、サン・ピエトロ大聖堂には一人の訪問者がいた。

その人間はイタリア系ではなくポーランド人、そして付け加えるのならばもう一つ、正確には訪問者ではなく客人だということは明白だった。

それを証明するかのように、客人はキリスト教の最高指導者ローマ教皇と謁見していた。

廻りには誰もいない、いわゆる一対一だ。


「・・・・・・である訳で今回の事件の早期解決の為、君に助力を要請したい。
君の力があれば、どんな事件も問題ないでしょう。
民と神の為にも、頼みましたよ・・・・・・。」


「お任せください教皇様。
ご期待に添えますよう、必ずや事件の早期解決を・・・。」


それだけ言うと客人は教皇の手に両手を固定し、口付けをすると退出していった。

長い、長い廊下をその男は一人で歩いていた。

その顔には、先ほどと打って変わり、何かに対する侮蔑と憤怒の色が見え隠れしていた。


「民と神の為、か……。
嘘つきは泥棒の始まりって言葉を聞かせてやりたいものですね。
何処の国の言葉でしたっけ?」


彼は一人で何事か呟いていた。

彼は教皇に口付けする一瞬、気づかれない程度に微細な霊波を手から放出していた。

何故か?それはサイコメトリーをする為に、教皇の真意を確かめる為に。


―我々教会がこの事件を早期に解決し、再び我々の権威を世に知らしめるのだ!!―


教会内で行われたであろう会議の光景がはっきりと見えた。

他にもどこかの銀行との癒着の現場の様子など、ありありと教会の汚泥した部分が見えていた。


―聖職の面汚しどもが!!
だが、ココは耐えるのだ、あの御方が教皇の座に君臨するまで!
後一年、後一年の間に全てが変わる!!
あの御方はきっと、この腐りきってしまったキリスト教を何とかしてくださる。
私はその尖兵となる為に、ここへきたのですから……!
真に民の為、そして我らが神の為に……。―


この翌年、ローマ教皇が数百年ぶりにイタリア人以外から選出された。

人種はポーランド人、その教皇は、今までキリスト教が行ってきた過ちや暗部の謝罪をした。

キリスト教を僅かならでも浄化した人物と言えるだろう。

それがいったい彼とどんな関係があるのか、彼の口ぶりからしておそらく密接に関係しているだろう。

だが、それはまた別の話である……。



―――――――――――――――――――



唐巣神父とその師は、自宅から車で二時間ほどしたある家にやってきていた。

そこは先ほど行った除霊の依頼主の家、まだ昼間だというのにあたりは異様な空気が立ち込めていた。

そして唐巣神父は、その家の呼び鈴を鳴らした。


「ココが依頼主の家だ。
嫌な気配と霊気がプンプンしやがるな。
詳しいことは依頼人に聞くとして、だ。
和宏、気ぃ引き締めろ、コイツァ予想以上にやばそうだぞ。
やっぱお前連れてきて正解だったワ……。」


そして家のドアが開いた……。











                       第四楽章へ続く……

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