ザ・グレート・展開予測ショー

B&B!!(13)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(04/ 1/ 4)


陰念。

俺と・・・俺らと共にメドーサの元へ来た男。多くの者が自分の欲望や利益の為に、あるいは色香に惑わされて悪魔の契約
を交わし、自ら進んであの女の手駒として集ったのだった。
・・・そして、俺ら3人はその中でも別格だった。

俺らはメドーサの指示で白龍寺を乗っ取り、「白龍GS」を立ち上げると、その名義で表のGS免許試験に参加した。

―あの試験の後、陰念は六道家の医療施設に移送され、半年以上に渡る治療を受けた。その間に免許を永久剥奪され、
ブラックリストに名前が掲載された。―まあ、その時は、俺も同様の処分を受けていたんだけどな―。奴の治療が終わる頃
には、メドーサもその上にいたアシュタロスも既に倒されていた。
奴は退院するとそのまま姿を消し、その行方は誰にも分からなかった・・・。




その陰念が今、目の前にいる。
神界の反デタント勢力―真神十字聖者友愛会―GS協会内のそれらと繋がっている連中―の走狗として。
それぞれ秀でた技能を持つ、それなりに優秀な複数のGS達で編成された、チームの“隊長”として。

俺の、「敵」として・・・・・。




「2、3年前から下のモン持って、隊長なんてやらせてもらってんだけどよ。
・・・挨拶が遅れちまって、本当にすまなかったなあ!?・・・“兄貴”、よぉ?」

殊勝な台詞を吐きながらも、陰念はワイヤーで縛られている俺の顔面にストレートを数発、続け様に叩き込んで来た。
客観的に見ても、前より随分と速くて重い、良いパンチだった。

「どうだ!?威力が違うだろ?全然違うだろ!?もっとイケるぜ。・・・てめえの頭木っ端微塵にするのなんか
ワケねえぐらいにな。」

奴の言葉はハッタリでも何でもない。陰念の腕からは更にかなりの出力が可能である事を感じられた。
もう少し出力を出せば、確かに人間の頭など余裕で粉砕出来る・・・それがこの俺であっても・・普通の人間なら
既に「そうなって」いただろう・・・。
破壊力は確かに高い、高くなっている。だが・・・・・・

「ああ、凄えパンチだ。お前も修行して来たんだな・・分かるぜ。なあ・・・陰念・・・、折角久し振りに会ったんだ。
・・お前が今までどんだけ苦労して、どんだけ頑張って来たのか・・同門の兄貴分に聞かせてくれねえか?」

「へへっ、別に構わねえぜ?どーせ、てめえは最後だ。冥土の土産って奴だ。たっぷり聞かせてやるよ。」

「隊長・・・冥土に持ってかれても困る様な秘密だってあるんですよ?それに、ここでの殺害は・・・」

「――うるせえっ!」

さっきのパンチと同じ威力の裏拳が、口を挟んだ中年男の顔面にヒットした。男はそのまま数メートル吹っ飛んだ。

「・・・・何でてめーが俺に指図しようとするんだ!?誰の部隊だ?ここの頭は誰だ?おお!?」

一瞬だけ、ワイヤーを持った女の注意が緩んだ。一瞬の間に彼女は、中年男を心配し、陰念に反感を向けていた。
何となく、この隊の仕組みが見えて来たかも知れねえぜ・・・。
人形使いの男は、事務的な口調で「すみませんでした・・」と呟きながらのろのろと立ち上がり、元の配置についた。

「こっちだっててめえには、この俺様の味わった屈辱や苦痛、そしてここに至るまでの道のりを、死ぬほど聞かせて
やりたかったんだからよ。・・・くくっ、あれからの俺は本当に、文字通り、『最低』、だったぜ・・・?」

今度は蹴り。腹に一撃。

「ぐはっ!!」

「・・・・何も残らなかったんだからな。散々無様になった挙句。・・進む路も帰る路も全部だ。・・メドーサ様から授かった
魔装術さえもだぞ!」

「・・お前にはあれは使いこなせなかったのさ。あの時、俺も言ったろ、“解け”って。
・・・使いこなせない力だったら初めから持たない方が・・。」

奴の膝が脇腹にめり込んだ。

「そんな言葉が俺たちの間で通用するか、ボケ。・・・・折角話してやってんだろ?黙って聞け。
・・・それでも、俺には強くなる事、力を求める事しかねえんだ。・・知ってるぜ、お前だってそうだろう?・・・俺だってだ。
俺は残った・・いや、僅かしか残らなかった霊力で、闇に潜った・・・再び鍛えながら・・再び強くなれる事、認められる事を
夢に見ながらあらゆる事をやった・・・殺しだのなんてありがちなレベルの話じゃねえ・・・本当に、あらゆる事をだ。」

再び拳。顔に一発・・・二発・・三発。

「そうさ。俺には勘九郎やお前のような・・ここにいる隊員達・・結界張ってるアホガキ程にも、特別な技能なんかねえ。
魔装術だってもうねえ。ただ、ぶん殴るだけ、蹴っ飛ばすだけ・・・ひたすら、力で、ぶっ壊すだけだ。だから・・・その威力を
ひたすらに高めて行ったのさ。・・そして、てめえにも出来ねえ事が俺にはもう一つ出来るんだぜ。」

四発目。顔の真ん中。陰念は首を振った。奴の背後の闇からさっきの式使いと棒使いが浮かんで来る。
ワイヤーがきつく絞まり、全身に殴られるのとは別の苦痛が走る。日本人形が俺やワイヤーを掴んだまま1メートル程
浮き上がった。人形の一体は俺の首筋にナイフを当てている。
黒い戦闘服の連中に囲まれ、白いコートの陰念はニヤニヤと・・目だけはこっちを睨みつけながら・・笑った。

「他人に命令して、上手く動かす事。俺にはそいつが出来るのさ。昔からメドーサ様のやり方をきちんと見ていたんだ。
てめーらはそういうのウザったがって無視してたようだけどな。集団での戦いを仕切り、利用し、時には使い捨て、
そうやってのし上がって来たんだ。・・・そして、“あのお方”に俺は見出してもらったんだ。人生二度目のチャンスだぜ。」



・・・・・・・・・“あのお方”?

「あのお方の許でこの俺様の力は格段に跳ね上がった。・・・以前の様に、いや、以前以上にな。GS協会の仕事だって、
こいつらの隊長役だってあの方の口利きなんだよ。全く、感謝してもし足りねえ位だけどよ、俺はこの件でもっとあの方に
認められなくちゃなんねえのさ。」

「・・・よりにもよってお前を拾って可愛がるとはな・・ラケリエルってのは随分と心の広い神族じゃねえか。反デタント
なんて言うから相当ケツの穴の狭い野郎を想像してたのに、イメージ狂うぜ。」

「―――ああ!?」

陰念の顔から、完全に笑みが消えた。忌々しげに唾を吐き捨てて怒鳴る。

「・・・ラケリエルだと?何であのお上品ぶった下級天使の勘違い野郎が出て来るんだ?寝ぼけてんじゃねえぞ!
神界の反デタント勢力が、事故とは言え一度は魔族化した奴に目も足もかけるわけねえってんだよ。あの、人間に化けた
ラケリエルの提灯持ちの鳥野郎だって同様だ。普段人間にちやほやされてる分、ラケリエル以上の馬鹿かもな。
そんな、ショボイ連中なんかじゃねえんだよ、あのお方はよ。・・・いいか?俺を拾ってくれたのはな・・?」

そこまで喋った陰念の眼前に日本人形が一体浮かんだ。陰念は口を閉ざし、人形に視線を合わせる。睨みながら静かに、
背後の男に問いかける。

「・・・・てめえ、何のつもりだ?」

「それ以上あんたが喋ると、うちらはあんたを隊長と呼べなくなります。あんたの話はあんたをGS協会に連れて来た
誰かと、協会、そして友愛会との関係を垣間見せる危険な話だ。・・・それに、たとえ伊達雪之丞に待っているのが死
以外にないとしても、それをもたらすのは我が隊の任務ではない。我々は、確保と拘束と送致のみが任務です。」

「もう一度言うぜ・・・てめえは隊長に、指図する気か?」

「だから、それをやらかした時点であんたは隊長じゃなくなるぞって言ってんですよ。あんたこそ、勘違いしないでほしいね。
GS協会からの指示であんたがここの隊長になって3年になるけど、我々は元々「人形使い」「式使い」「棒使い」「糸使い」
「迷宮使い」で一組なんだ。・・・・あんたのスポンサーはあんたがそうやってGS協会からの信頼を薄める様な独走行為や
外部への暴露発言をする事も望んでいるのですかね?」

「――へっ・・・」

陰念はもう一度唾を吐くと顔を伏せ、再び俺の方を見た。
実を言えば、ワイヤーの拘束力は大した事ない。容易くとは言えねえが、力入れても抜け出せねえ程の事でもない。
しかし、ワイヤーを解いて暴れた結果、何が起きるのかも見えてねえ。陰念の極めた「破壊力」とやらがどれ程のもの
かも分からないんだ。
何故、陰念はそれほどの力をすぐに振るって俺を始末しようとしないのか。その答えは今分かった。
「そんな命令はどこからも受けていない」からだ。もっと言えば、命令以外の事をした時非常にまずい事になる立場に
立たされているんだ。奴の性根でもその危険さが理解出来るほどに。
そして・・・ひょっとしたら、俺が殺さずに制圧する事が不可能だと思われた場合は、話が別になるのかもしれない。

・・・・例えば、俺が最高にぶち切れて全力で奴らに飛び掛って行った時なんかには。

こんなワイヤーで俺を完全に封じられるわけがない。そんな事は奴が一番良く知っている筈だ。
そして相手を動けなくしてから思う存分暴力を振るったりする卑劣なやり口を俺がどう思うか・・どう反応するかも。

「陰念・・・・・・・何か、人望ねえなあ。お前。」

声を掛けると陰念は、吊り下げられたままの俺を無言で睨みつけた。

「人を駒や道具にしか見れねえうちは集団で戦えるとは言えねえのさ。それに・・そんな風に威張り散らしてばっかりで
嫌われてて、どうやって他人を“使えて”いるんだ?センスのない所なんかは本当に、相変わらずだぜ。力任せのパンチ
同様にな。」

括られた腕に、腹に、脚に、腰に、さっき以上の衝撃。陰念は無茶苦茶な勢いで俺にパンチを繰り出して来た。

「うるせーー!!てめえはそんな格好でいつまで兄貴風吹かせているつもりだ!?」

一通り殴り終わると奴は視線は俺に向けたままで腕を下ろした。

「・・・兄貴分だったんだから、弟分にアドバイスしてやるのは当然だろ?力を合わせて強い奴を倒すってアイデアは
捨てたモンじゃねえんだからよ、今言った欠点を直せばもっと良くなる。もっと、仲間は大事にしろよな・・・」

口と鼻から血をだらだら流しながら、言ってやる。陰念は顔を伏せたままクックッと笑い声を立て始めた。

「やっぱしよ・・こんな軽いパンチでいくら虐ぶったって、てめえの余裕ぶった面は剥がせねえか・・。だったら・・・そうだな。
とってもお強くて余裕満タンでいらっしゃる雪之丞の兄貴と同じ種類の生き物作ってやるってのはどうだ?」

「あ?生き物・・・同じ・・種類、だ?」

「そうだ。・・・お前の連れて来たあの女をここへ攫って来て、お前の目の前でヤッちまうのさ。・・・あの女が俺かこいつらの
ガキを孕むまで繰り返してやる。お前はあのカトリックの施設を憎んでいた様だが、立場が変わればどうなるよ。え?」

陰念はクククと笑いながら、顔を上げた。睨みを利かせている上に下卑た雰囲気まで加わって、史上最強に凶悪な笑顔
だった。―これが力や言葉じゃなくてツラだけの勝負だったらさすがの俺でもとっくの昔に完敗だっただろうにな・・・。

「ガキの立場じゃねえ・・男の立場だ。・・てめえの女や娘が目の前でマワされてるのなんて見ちまったら、そいつに今すぐ
目の前から消えてほしい・・殺されてた方がマシだと思うのが普通の男だ。過去にそんな事されてた女なんかと知らないで
出会う事になってもたまんねえし、出来ればそう言うのは判る様に焼印でも押してどっか見えねえ所に埋めるか隔離とか
しといて貰いてえ。・・・こんなの宗教じゃねえぜ・・普通の男の感じ方ってもんだ。カトリックもクソもねえ。」

「・・・・お前には俺の昔話とか、した覚えねえんだけどな・・・。
あと、お前がそう感じるのは勝手だが、それ・・・多分“普通”じゃねえぞ?」

「クックッ、てめえの過去なんかわざわざ教えてもらわなくたって、ちょっと調べりゃすぐに分かるぜ。神族やあの方の
情報力なら尚更でな。・・・普通じゃねえのはてめえだ。・・雪之丞。」

陰念はふんぞり返って俺を指差す。

「てめえのマザコンぶりなんざ調べるまでもねえこったが、やっぱり異常だぜてめえは。
・・・日本人の女への復讐心で狂った義兄に散々脅され嬲りものにされた挙句、妊娠して、そこまでして守ろうとした
家族からも見捨てられ、文字通りゴミ箱行きになった女が世界で一番美しい?世界で一番強い?・・世界で一番
かっこいい、だと?クククク・・・普通に汚らわしい、っつうんだよ、そういうのは。」

陰念は心底嘲う様に浮き上がっている俺の足元に唾を吐いた。小さく笑いながら。だが、その見下し切った
態度に浮かんでいる「別の感情」は隠し様がなかった。

「なあ、兄貴よ、どうなんだよ!?あの女がヤられまくって俺らのガキ妊娠したりしたらよ。愛だの何だの言ってたって
全て壊れてお終いになっちまうんだろ?あの修道院みたいな所を欲しがる様になるだろ!?汚された女も汚ねえガキも
まとめてぶち込んで忘れてしまえるような場所がよ・・!?

・・・・ククッ・・それとも、お前の場合、やっぱり喜ぶのかよ?・・・“ますますママとそっくりになった”つってな!!」





「・・・・能の無い駄犬に出来るのは手を噛む事だけさ。」

顔色を変えたのは奴の方だった。

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