ザ・グレート・展開予測ショー

新年お〜るざうぇいっ


投稿者名:斑駒
投稿日時:(04/ 1/ 2)

「はっ。はっ。いそぐでござる。あの太陽が沈む前に先生のもとに辿り着かないとっっ!」

 とるものもとりあえず人狼の里を飛び出したのが今日の昼下がり。
 コマ回しを見せて欲しいとねだる近所の子供たちに引き止められて、すっかり遅くなってしまった。
 けど、いまからでも一生懸命走れば十分間に合うはず。
 慌てたせいで長老からお年玉を貰い損ねたのはちょっと残念だけど。
 今はただ、全力で先生のもとへ……



「うわぁあん! 凧がぁっ! ぼくの凧が電柱にひっかかっちゃったよおぉぉっっ!!」
 そう…たとえ道に泣き叫ぶ子供が居ても……
「あぁぁぁんっ! おじいちゃんに貰った凧があぁぁっ! うあぁぁあん!!」
 たとえ…たとえその子供が大事な人から貰った大事なものを失いそうでも……







「……はい。もっと広いところで揚げて、もう無くすんじゃないでござるよ」
「わぁっ、ありがとー。おねーちゃん!!!」

 ああもう、何をやっているのだろう。
 一刻も早く先生のもとへ行かなければならないというのに。
 こうしている間にも陽は沈み続けているというのに。
 電柱に登ったときに髪の毛がちょこっと電線に触れて端っこコゲちゃうし。
 ……でも、凧を渡した時の子供の顔が嬉しそうだったから。まあ、いいか。
 ともかく今は何も考えずに先生のもとへ……



「キャアアッ! タイヘンっ! オバケがせっかくついたお餅を食べちゃってるうぅっっ!!」
 もしも…自分の力が必要な人が居ても……
「やめて〜! 食べないで〜! ああっ、もうお鏡餅の分までなくなっちゃうぅっっ!! 誰か助けて〜!!」
 もしも…もしもその人が先祖伝来の大事な風習を守れなくなりそうでも……







「……餓鬼が。もう迷って人様に迷惑をかけるんじゃないでござるよ」
「ああっ、化け物を退治してくださってありがとうございます。よかったら上がっておせちとおとそでも……」

 あぁあ、なんだかずいぶん太陽が低くなったような気がする。
 お礼のおもてなしは丁重にお断りしたけど、餓鬼には意外と時間を食われてしまった。
 ずいぶん執念深かったけど、よっぽど餅が好きだったのだろうか。お正月に餅をノドに詰まらせて死んで餓鬼になったとか……?
 とにもかくにも武士としてあんな場面を見過ごすわけにもいかなかったし。仕方ないか。
 気を取り直して先生のもとへ……



「まま!まま!……あれ? ままじゃないや。ままどこ?」
 なんか…ちっちゃな女の子が服の裾を掴んでるけど……
「あのね。みっちゃんままとね、はつもーでにきたの。それでね、ひとがいっぱいいてね。ままがみえなくなっちゃってね…ままが……えぐっ」
 なんか…なんか、もう今にも泣き出しそうな気配満点だけどっっ……







「……ホラ。ママとしっかり手を繋いで、もう見失うんじゃないでござるよ」
「うんっ!おねーちゃんありがと!いこ、まま!」

 ああ、西日の朱が目に染みる。
 初詣の人ごみがあんなにすごいものとは思わなかった。
 女の子を肩車して探し回り、なんとか母親は見つけたものの、もみくちゃにされてもうクタクタだ。
 とは言え、先生のアパートはもうけっこう近く。急げばなんとか日暮れ前に間に合うはず。
 母親とはぐれて頼れるものの無い女の子を突き放すことなんてできなかったし。これで良かったよね。
 さ、あとはひたすら先生のもとへ……



「わ―――っ! どうしよう! タロが川に落っこっちゃったよおぉ!!」
 ……………。
「ああっ、ぼくが羽根突きの羽根を強く打ちすぎたせいだっっ。川まで追っかけてってアイツ……ああ、どうしよう。タロ!タロぉお!」
 …………………………うそ。













「先生? 居るでござるか?」
「シロ? おまえが部屋に飛び込まずに玄関で待ってるなんてめずらし……って、おいっ、どうした!? ズブ濡れじゃねーか」

 アパートのドアを開けて出てきた先生。
 こちらを見るなり自分が着込んでいた半纏を脱いで、かけてくれた。
 冷え切っていた体が温まり、心まで温かくなっていく感じがする。
 でも一方で打ちかけられた半纏が水を吸って冷たくなっていく。

「先生……」
「あれ? そういえばおまえ、正月は里帰りしてるんじゃなかったか? なんか髪とか服とかもボロボロだし、こんな時間にどうしたんだ?ホントに」

 先生は自分の半纏が濡れていくのを気にする風も無く、ただただ心配そうにしている。
 でも、考えてみれば、人狼の里に居るはずの自分が日も暮れた時間に全身ぼろぼろズブ濡れになって訪れて来れば、心配になるのは当たり前だ。
 心配そうにしかめられた先生の顔を見ると、来なかった方が良かったかもしれないと少し後悔もする。
 でも、それでも自分はここに来たから。たった一つの目的のためにここに来たのだから。だから……

「先生っ……」
「まあともかく寒いから部屋に入れ。話はコタツに入りながらでも聞くから」
「いやっ!ここで言いたいんでござる! 先生と顔を合わせられた今ここでっ!」

 ちょっと日は暮れちゃったけど構わない。
 ちょっと格好は乱れちゃったけど構わない。
 いまここで言わなければならない大事な言葉……

「先生、あけましておめでとうでござる!」
「…………………………あ、ああ。おめでとう。今年もよろしくな。」

 先生は最初キョトンとして、でもすぐに挨拶を返してくれた。
 その声が耳に届いた瞬間、フッと意識が遠くなる。

「……で、いったいどうし…お、おいっ、シロ! 大丈夫か!? おい、シロっっ!!」

 心の中はただ満足感と安堵感でいっぱいで……
 意識が薄れ行く中で、大きくて温かいものに背中を抱きとめられた気がした。













「まったく。無茶して。看病させられる私の身にもなりなさいよバカ犬」

 結局、元日の寒中水泳が祟って風邪を引き、お正月はずっと屋根裏で寝て過ごすことになった。
 サンポにも行けずに、ずうっと室内でじっとして居なければならないのは辛い。
 でもそれ以上に、四六時中聞かされる口うるさいキツネのお小言に我慢がならない。

「だいたい、正月の挨拶なんか、いつでも年が明けてから初めて会ったときに言えばいいじゃない。何をわざわざ元日にこだわる必要があるんだか……」
「ふんっ。年賀状も出さないようなキツネには分からぬのでござるよっ」

 そう、きっと本人以外の誰にも分からないだろう。
 特別な日に特別な人のことを想って、居ても立ってもいられぬこの気持ちは……

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