ザ・グレート・展開予測ショー

朝と雪とガラスのココロ


投稿者名:えび団子
投稿日時:(04/ 1/ 1)


 
 部屋の窓から眺める雪はさらさらと無重力に舞い白のコートに身を包んだように目を和ませた。朝も早く空気も透明に透き通っている。空気を色調で見たことが無くても早朝とはそんな気持ちになるものだ。爽快に流れる一片の雲の隣から太陽が顔を出す時、吐く息は白く天に昇る。そして消える。


「今年の初雪が見れて良かった♪」


真っ白なパジャマ姿で満面の笑みを浮かべる彼女。朝の弱い事務所のメンバーの中で一番の働き者で早起きが出来る人と言えばこの人しかいない。


「あっ、そうだ!急いでみんなの朝ご飯作らないと・・・」


手早く普段着に着替えた彼女はキッチンに向かった。極力静寂を保とうと。
誰も起こさず少しでもゆっくりさせてあげたいと願う彼女ならではの優しさだ。
キッチンに繋がる廊下を真っ直ぐ小走りしドアノブに右手を掛け回す。中に入ると想像していた以上の寒さだった。冬が来たんだなと実感させられる寒さだった。

季節はいつも訪れる。変わることなく。

それでも冷蔵庫から新鮮な卵を四つ取り出し丁寧に割る。容器を用意しその中で円を描きかき混ぜる。それが一通り終わるとフライパンを引っ張り出し油を引きコンロに火を灯す。暫くの間、なめらかな手捌きで油を遊ばせた後、さっきの卵を流し込む。じゅ〜っとお肉を焼く時とはまた違った音を立て見事な黄色に焼き上げた腕前はフライパンの卵を空中で一回転させられるくらいだ。いや二回転か??


「よかった、上手く出来たと思う。」


が、しかし!


「あっ!目玉焼きにするんだった!!」


唖然とした表情で黙り込むおキヌ。キッチンの四角い窓から見える雪は勢いを増していた。地面にはおそらく軽く積もっているのではないだろうか?光り輝く雪が。


「まあ、いいよね?たまには玉子焼きでも・・・」


右手の人指し指を口元に当てながらおキヌは言った。すると今度は食パンを4枚出してきてお皿に盛り付けた。残るは最後のサラダだが、これも簡単に野菜を包丁でさっさっさっと作ってしまった。見た目も味も大満足なワンコースである。


「え〜と、あとは牛乳だけだけど・・・」


冷蔵庫を開けみたがミネラルウォーターや市販のジュースなどはあっても牛乳は丁度切らしていた。ガラスのコップになみなみと注がれる純白のミルクは朝の定番だ。


「どうしよう、ちょっとコンビ二で買ってこようかなあ。」


どうにも暫く唸っていたが結局買に行くことにした。


トントン

玄関で黒の靴のつま先を軽く叩く。しっかりと靴が履けたら羽毛のジャンパーを羽織る。片手には買い物鞄。持ち物を再度確認する。


「うん、財布も持ってるし大丈夫よね。」


ニコッと一つ笑みを作ると扉を静かに開けて閉めて行った。


「ちょっと行ってきますね?みんなが起きて来たら伝えておいてください。」


『はい、分かりました』


人工幽霊一号に挨拶を済ましたあと、そう告げて彼女は人気のない朝の道へと・・・








24時間年中無休というのが売りで全国に店舗を置いている最近のコンビニ。
どれを探しにいっても大抵は手に入るだろうその種類の多さはスーパーにも引けをとらない。特に食品関係の品はかなり豊富だ。勿論、牛乳だって例外ではない。


「あった!よかった・・・♪」


両手で青のラインがはいった紙パック製の牛乳を掴むと適当にもう一つ品物を買おうとする。コンビニで一つだけ買って帰るというのもなんだかなあ・・・ということだろう。パン類や軽食のおにぎりが置いてある棚をひとしきり見て回った。


「え〜と、何も無いなあ。」


欲しいものがこれといってなく、考えてはみたものの思いつかないのでレジに向かおうとした。朝も早いがここにはそれなりにお客さんがいるもので四人ほど先客がいた。そのため暫く並んで待つことになった。

絶えることなく聞こえてくる店員の元気の良い声。休むことなく動く姿。
規則的なやり取り。作った笑顔。こうして見てるとそれらが一つになっていくのが分かる。一生懸命になってみんな頑張っているってことが。


「お客様?いいですよ、どうぞ。」


気が付くと彼女の順番になっていた。ぼ〜っとしていたので分からなかった。
慌てて手にしていた牛乳を前の人に手渡す。受け取った牛乳を手早く機械にかけてピッと高い音をさせたかと思えば間もなく値段を言われた。財布から千円を抜き出しお釣りを貰った。

キイッ

手動のドアを押し開け店を去った。出て行く際に振り向いてみると先程の店員は忙しくまだ動き声をあげていた。雪は更に強まり身体に吹き付ける風と平行してジャンパーを少しずつ濡らしていった。弱く白光りする路面はあまりに美しくその上を歩くのが嫌になるほど勿体無くなるほど輝いていた。凍える寒さも美しさと紙一重の脆さをもっている。


「早く帰らなきゃ皆が待ってるよね、きっと。」


帰路を急ぐ彼女にとって、この芸術的な雪景色は単なる一瞬で。

ガサッ

音がした。静寂を壊す、白銀の世界に邪魔な雑音。袋が擦れる何か。
彼女は振り向いた。振り向かずにはいられない気がした。そう、簡単な話だ。
気配、空気。どんな言い方でもいい、確かに明確にそれが分かったのだ。


「よ、横島・・・さん?」


コンビニの袋を片手に提げた横島が立っていた。中には何やら温かいものが入っている。理由はない。唯、ただ勘である。多分、牛丼弁当。それと、お茶?



――――二人は並んで歩き出した――――



「どうしたんですか、こんな朝早くから・・・」


横島は少し微笑んだ。照れ笑い。頭に手を回しポリポリと掻く。ほんのり紅い。



――――あっ、そうだ!!――――



自分だってこんな朝早くからコンビニに出掛けてたんだった。人のことを言えた立場じゃない。赤面、彼女らしい。だから・・・


「って私だって同じですよね。実は牛乳切らしちゃって・・・///」


弁解する。俯き加減だが言葉はしっかりと発音できている。頬も少し紅い。


「横島さんは一体何の用で来たんですか?」


横島は黙りこむ。思考中・・・。二人が歩く街道はすっかり雪化粧。しかし、凄い勢いだ。目に映るは丸い球体の結晶。


「・・・」


まだ思考中・・・。


腕を組んで考える。眉間に右手人指し指を当てて考える。相当考える。


「・・・」


持ち時間切れ。


――――彼の足は止まる――――



「あっ、もしかして・・・お金が、ですか?」


じゃあ、買ってる弁当の代金で最後か?給料日に奮発して買うのでは?

頷く横島。やっぱり給料日前はきついのだ。


「あの、私少しくらいなら持ってますから・・・」


白い息を浮かばせながら弾んだ声のおキヌ。彼の、横島の為になれることが嬉しいのだ。が、その優しさは進展しない遅さを併せ持つ。


「いいよ、無理しなくて。」


初めて、会ってやっと喋った。


「えっ、大丈夫なんですか・・・」


それにしても口数の少ない横島。隣を美人が通ったって今は反応すらしないだろう。


ザッ ザッ


幾分積もった雪道を横島が近づいて来る。一歩一歩に力が込められて、決意が。


「・・・」


無言だ。明らかに静かだ。暗がりにいるみたいだ。狭いところ・・・。


逆光で彼の顔が見えにくくなった。そして遂には見えなくなった。


「眩しいっ」


片手でその瞳を覆ったおキヌ。雪の反射も相まって余計な明るさを作り出していた。

ザッ ザッ!

歩む音が止まった。眩しさが無くなった。消えた、隠された、自分より大きな者に。


「よ、横島さん?」


彼女の背中に両腕が回される。誰かは分からない。相手の胸の位置に顔があるから。青のジャンパー。内に白のシャツ、それもヨレヨレの。


「・・・」


それでも黙っている。無音の世界、真っ白な世界。


「・・・」


お互いが、お互いを。端からは抱き合っている格好。それでも誰も通らない。


どれくらいの時間が経ったろう、とてつもなく長くて、短くて。
風が頬を撫でる間、太陽が山の稜線から顔を出す間、水が波紋を作る間、大地が息づく間。表現はどうでもいいが、長くて短く。白の景色も周囲の家々も、雲の上の青の空も燃える太陽も関係が無く。流れていく・・・


「俺さ・・・読んじまったんだよ。」


後悔するような口振り。感慨に浸る横島を暫く眺める。

大きな雪の結晶はいつのまにか小さな粉雪に風変わりしていた。


「実はさ、この前キッチンで。」







良く晴れた初冬のお昼。俺は事務所にいた、例の如く飯を集りに。


「ちわ〜すっ、ごちそうになりま〜す!」


響いた俺の声。大広間を抜けキッチンには彼女、おキヌちゃんだけがいた。


「あっ、もう少し待ってくださいね?そろそろ出来上がりますから。」


「うん。ねえ、シロやタマモ。美神さんはどうしたの?」


エプロン姿の彼女は前者は屋根裏部屋で今だ爆睡中。後者はバスルーム。
冬も到来、寒さで床から離れれずってか。やっぱきついわな。

にしても、美神さんがお風呂ってのは大チャンスだよな!?

俺が来る時に限って・・・これは誘ってるとしか思えん!!


即座に文珠の『覗』を作成した。そう、ここからが問題だった。
勇気を奮い起こし気持ちを高め、踏みだそうとした瞬間。


「あっ?!!」


つまずいた。


咄嗟に文珠が力を発動させた。








――――――――『覗』――――――――








一番近くにいた女性(ひと)の心が飛び込んできた。







――――――――大好き――――――――








たった四文字が心に響いた。










雪に包まれた街道は白く、冷たく。すっかり息づいて活気を出す街並みに呑み込まれそうな。それでも白く、冷たくありたいと雪は、雪のままであろうとする。


「ありがとう、おキヌちゃん。」


柔らかいものが空から降り注ぐ。


「・・・はい」




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