ザ・グレート・展開予測ショー

コタツ de ふ・し・だ・ら・100%! / 中


投稿者名:ロックハウンド
投稿日時:(03/12/31)


 夕刻で6時半ともなれば、夕食用の買い物客で、商店街は大賑わいの様相を見せる。
 野菜類をやや大目に買い込んだ3人の少女は、少し早めに買い物を済ませていたので、ラッシュ時を避ける事が出来ていた。
 12月も終盤を数え、コート越しに伝わってくる寒さも一頻りであったが、今夜の彼女たちにとってはさしたる事ではない。
 もう少々我慢すれば、アツアツの夕食を皆で楽しむ事が出来るのだ。それを思えば今の寒さなど気にもならなくなる。

 3人は、ほぼ横並びで目的地へと向かっていた。話題が尽きる事無く、あれこれと談笑しながら歩を進めている。
 一歩一歩と足を出すたびに、彼女たちの手荷物は風にも揺らされ、かさかさと忙しない音を立てた。
 耳障りとは思わない。手に下げたビニール袋の確かな重み、そしてそこから漂う香りは、シロとタマモにとって魅惑の一言に尽きた。
 シロは肉のみを、タマモは野菜、特に揚げのみを持っているためである。大好物を無碍に扱う事など2人にとっては論外であった。


 「うーん、良い匂いでござるなぁ」

 「つまみ食いするんじゃないわよ、シロ」

 「何を言うか! 拙者は武士でござる。つまみ食いなどという卑しい真似をすると思うでござるかっ」

 「うん、思う」

 「ぶ、無礼者っ!」

 「ふふっ、ついたわよ。シロちゃん、タマモちゃん」


 両手一杯に食材をぶら下げた3人が、とあるアパートにたどり着いたのは、夕刻の7時少し前の事だった。
 氷室キヌ、犬塚シロ、そしてタマモの3少女は珍しい事に、職場の同僚である横島忠夫の自宅アパートで夕食を取る事にしたのだ。
 事務所で食べればよいだろう、という意見もあったが、シロ、パピリオの年少組による強硬な意見が提示されたのである。
 曰く、皆でコタツに入ってご飯を食べたい、という意見が。


 『つまり、シロちゃんもパピリオちゃんも、横島さん家で食べたいのね?』

 『はいでござる!』

 『そうでちゅ!』


 事務所でのそんな会話が思い起こされる。
 おキヌとしては、大人数でお邪魔しちゃってもいいのかな、とかなり懸念していたが、横島はあっさりと承諾したものだった。


 『俺の家で? 皆で? おキヌちゃんのご飯を? ぜひ来てくださいっ!』


 伏し拝まんばかりに喜色満面で即答する横島を見て、おキヌは染まりそうになる頬と興奮気味の気分を抑えるのに必死だった。
 シロ、パピリオ達を軽くたしなめはしたものの、おキヌとしても横島の家には行ってみたいと考えていた。
 元々、一人でお邪魔する事はあったが、今や、横島の家にはルシオラが年中出入りしているのだ。気分的に落ち着かないものもある。
 縄張り争いというわけではないが、少し前まで、横島の生活をあれこれ心配していた身分からしてみれば、これは凋落と言えるだろう。

 そんなわけだから、パピリオ達からの提案と横島の承諾を得た事で、おキヌはまさしく渡りに船も同様の気分であった。
 積極的な気風にかける彼女としては、今までは適当な口実頼りではあっても、横島の近くにいられれば良かったのだ。
 だが最近、というより、ルシオラが出現してからはそうも言っていられなくなってしまった。ただでさえ遅れをとっているというのに。
 わかっているだけでも、犬塚シロ、ルシオラ、美神令子。あと自覚無しの恋愛未満が何人か。まさしく強敵揃いである。

 幸いというかなんというか、事務所所長である美神令子は、母親の美神美智恵から家族での食事にと誘われていた。
 まぁ、たまには良いか、と少々照れくさげに出かけていったが、美神はおキヌたちが横島の家に向かっている事は知らない。
 知っていたらまた一波乱が起こるであろうことは、誰の目にも明らかであったが、事態は美神のお出掛け以降に始まった。
 シロは大いに楽しみだったし、タマモは暇つぶし。そしておキヌもまた楽しみでもあり、ちょっと興奮もしていたのだった。


 「おキヌちゃん。なんか嬉しそうね?」

 「え、えっ!? そ、そう!?」

 「そうでござる。なんかいつも以上にうきうきしておられるようでござるが?」

 「う、うん! みんなで一緒にご飯を食べられるからかな? あははは・・・・・・・・・」


 首をかしげて頭に疑問符を浮かべる2人を、おキヌは少々汗交じりの笑顔で誤魔化した。
 内心、うそをついたことを謝りながら。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

               コタツ de ふ・し・だ・ら 100%! / 中

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 「横島さん、こんばんはー」

 「お邪魔するでござる、先生!」

 「入るわよ、横島」

 「おー、上がってくれー」


 勝手知ったる彼の家というわけではないが、知人の家にお邪魔し食事を作り皆で食べる、という体験はおキヌにとって新鮮であった。
 横島が前に住んでいたアパートでも、彼の為に食事は作っていたが、自分を含め7人という大人数は初めてのような気がする。
 ましてや今夜の献立はすき焼きである。特にシロと横島の2名は、無類の肉好きと万年欠食児童と来ている。
 肉は事務所の冷蔵庫にあるものを持ち込み、かなり多めに用意していた。シロと横島が涙を浮かべて喜んだ事は言うまでも無い。


 「すき焼きってうまいんでちゅかね、シロ?」

 「無論でござるな。しかし、おキヌどののご飯はいつでもなんでもおいしいでござるよ。黙って待つに限るでござる」

 「わりぃなぁ、おキヌちゃん。わざわざ俺んちまで来てもらっちゃってさ」

 「い、いいえっ。み、みんなで一緒に食べるほうが美味しいですからっ」


 台所でエプロンを着用しようとしていたおキヌは、腰紐を結ぶ事も忘れ、あわただしく両手を交差させた。
 テーブルの上に山ほどの食材を並べつつ、いつもの様にへらへらとした笑みを浮かべた横島は、何気なく発言したつもりであったが。
 おキヌの慌てぶりも知らず、目の前に広がる食材が視覚と触覚に触れる確かな感覚に、横島は感動の涙を浮かべそうになっていた。
 エリンギ、しめじ、えのき、葱、春菊、白菜、人参、糸コンニャク、豆腐、山盛りの揚げ、同じく山盛りの肉等々が彼に微笑んでいる。
 嗚呼、食材とおキヌちゃんに神の祝福あれ。横島は半泣きのまま心を込めて祈った。


 「よ、横島さん、後で手伝ってくれますか?」

 「ああ、もち! 何だったら今からでも手伝うけど?」

 「あ、後で呼びますから。切ったお野菜を運んで欲しいから・・・・・・」

 「おっけー。んじゃ、向こうで待ってるから」


 頬をほんのりと染めたおキヌの申し出も、満面の笑みを浮かべて承諾する横島である。
 コタツで温まりながら、熱々のすき焼きで体の中から温まる事が出来る。しかも今夜、自分の周りは美女ばかり。
 なんという至福だろう。零れそうになる涙を堪え、横島は湧き上がる歓喜に浸っていた。こんなにめでたい事は滅多に無い。
 ヘンデルの『メサイア』か、ベートーヴェンの『第九・合唱』がフル・コーラスで聞こえてきそうである。

 ひょっとしたら人生の幸運を全て使い果たしているんじゃないか、などという考えも浮かんでくるが、それならそれでしょうがない。
 今が楽しければそれで良い。目の前の初夜のためなら、将来の赤貧には目をつぶる男なのだ。自分という人間は。
 そう考え、今度はちょっと悲しい涙に暮れつつ、自慢にもならぬ自負を心に抱きながら、横島はグラス類をお盆の上に用意し始めた。
 ある意味、今ある幸福を心底信じる事の出来ない、悲しい17歳こと横島忠夫であった。


 「おーい、ヨコシマ。トランプやるでちゅよー」

 「せんせー、おれんじ・じゅーす、飲んでも良いでござるか?」

 「横島ぁ、ゲーム・ステーション持ってきたんだけど、テレビにつないでくれない?」

 「ヨコシマ、グラスはまだかー?」

 「ねぇ、ヨコシマ。砂糖水のお代わり作ってくれる?」

 「えーい、一度に言うな! わーったから、ちょっと待ってろ」


 横島はぼやきながらも、皆に頼まれたものを用意し始めた。おキヌはそんな彼を見て、好意的にくすくす笑っている。
 なんだかんだといいつつも優しさを失う事の無い横島を、彼女は好いていた。声音も、眼差しも、その後姿も、全てが。
 時折、その煩悩加減に落胆させられる事もあるけど、目の前でグラスを用意しジュースを注いでいる彼の姿に、ふと胸がときめく。
 野菜や肉類に囲まれた、余りムードがある雰囲気とは言えないが、おキヌとしては、自分達にはこれで十分であるように感じていた。

 軽やかな音を立てて、包丁がリズムを刻んでいく。火にかけたやかんが泡立つ音と共に、水蒸気の雲を作り出している。
 葱や春菊を程好い大きさに刻むたびに、おキヌはなんとなく胸の辺りに、穏やかに湧き上がる水蒸気にも似た温もりを感じていた。
 汗ばむほどでもなく、程好い温もりを保った室温は、時折、包丁の手を休めて目を閉じるおキヌを優しく包み込んでいる。
 そしてほんの一瞬、耳に飛び込んでくる隣部屋からの賑やかな声が、彼女の耳朶を心地よく振るわせるのである。


 「あっ、ヨコシマ! ずるいでちゅよぉ、その札はわたちが狙ってたのにぃ!」

 「わっはっはっ、勝負の世界は厳しいのだよ、パピリオ・・・・・・って、うわたたっ。こ、こらっ、爪を立てるのはやめんかい!」

 「パピリオ! 先生に何するでござるか。往生際が悪いでござるよっ!」

 「そういうアンタだって、さっきから5連敗じゃない。・・・・・・って、ねー、横島。このアイテムってどこで使えばいいの?」

 「うーん、やっぱりヨコシマが作ってくれた砂糖水は絶品よねー。最高だわ♪」

 「だから、姉さん。いくら嬉しいからって、その猫みたいな口で吸うのはやめなよ。目尻まで垂れ下がってるじゃないか」


 普段の横島宅では滅多に見られない喧騒が、今夜は静寂を打ち消し、場を支配していた。
 さすがに6人が固まっていると、部屋もコタツも少々狭くなったように感じるが、幸いにも賑やかさを好まない者はいなかった。
 カード・ゲームの神経衰弱に没頭する横島、シロ、パピリオに、最近パピリオへの対抗意識からテレビゲーム優先のタマモ。
 ルシオラとベスパの2人は、先程、横島が作ってくれた砂糖水をストローで飲みながら、思い思いの憩いに浸っていた。

 耐熱グラスにポットで暖めたミネラル・ウォーターを注ぎ、沖縄産の黒砂糖を溶かし込むのが、横島による特製砂糖水のレシピである。
 当初はルシオラだけであったが、今ではベスパ、パピリオもこの飲料を愛好している。黒砂糖の甘味が気に入ったらしい。
 そしてベスパは、コタツに足を突っ込んだまま、人界のファッション雑誌を熟読している最中であった。
 時折、ふんふんと頷き、丁寧にページに折り目を入れている。今の彼女の興味は冬物のトータル・コーディネイトにあるようだった。


 「横島さーん。ちょっとお願いできますかー?」

 「あーい、すぐ行く。二人ともちょっと待っててな。おキヌちゃん、手伝ってくるから」

 「あ、拙者もお手伝いするでござるよ」

 「シロはここにいるでちゅ」


 横島の後を追おうとしたシロは、パピリオにジーンズの腰の辺りをつかまれ、あっさりと引き戻されてしまった。
 それを見た横島は笑いながら、シロに遊んでいるよう促すと、立ち上がり台所へと足を向けた。
 ちょっと寂しげに横島の背中を見送ったシロは、瞬時にパピリオの方を振り向くと文句を舌の上に乗せ始めた。


 「何をするでござるか、パピリオ。師匠のお手伝いは弟子の義務でござるぞ」

 「ふぅ。シロはまだまだ子供でちゅねー」


 畳の上に広げたトランプを集めつつ、パピリオは妙に訳知り顔で答えた。
 半目の視線とにんまりとした笑みは、まさしく悪戯好きの小悪魔という例えを、言い得て妙と成しえている。
 が、茶目っ気たっぷりのパピリオの表情も、今のシロには小憎らしさの表れとしか映らない。
 敬愛する師匠の手伝いを邪魔されただけでなく、ちびっ子から子供扱いされたとあっては、武士の面目にも関わる事であるからだった。


 「き、聞き捨てならないでござる! 拙者のどこが子供だというのでござるかっ」

 「やぼ天だからでちゅ、シロ。チャンスは平等でちゅが、努力は人次第なのでちゅよ。にゅふふふ♪」


 どこで覚えたものやら、集めたカードをディーラーよろしく手際よくシャッフルしながら、パピリオはのたまった。
 一瞬呆気に取られたが、『チャンス』という一語に、何やら無視し得ぬものを感じるシロである。
 が、パピリオの言葉に反応したのはシロ一人では無かった。目に映る範囲での動きこそなかったが、確かに変化は生じていた。
 あー、もうなんでこの呪文が効かないのよっ、と、頭に血を上らせて、テレビゲームの謎解きに熱中するタマモをよそに。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 「えーと、横島さん。そこの大皿を取ってくれますか?」

 「あ、これね。はいはい」


 狭い台所ではあるが、二人が共同で作業を行なうのには適度な空間の広がりがあった。
 据付の食器棚からステンレス製の大皿を取り出した横島は、おキヌが丁寧に刻んだ野菜の盛り付けを眺めやっていた。
 どこかぼんやりとした眼差しで、視線は自然に、野菜を手際良く皿に移し変えていくおキヌへと転じていた。
 いつものどことなく間の抜けた、良く言っても気の抜けたような表情のままであったが、彼女にしてみれば気恥ずかしいものだった。


 「あ、あの、横島さん・・・・・・。わ、わたしになにかついてますか?」

 「へっ!?・・・・・・あ、ああ、ごめん! ちょっとぼんやりしちゃってて・・・・・・」


 滑稽なほどに慌てふためく横島であったが、おキヌの方は落ち着いたものである。というより、むしろ喜んでいるようであった。
 染めた頬で上目使い。桜色の唇にはほんのりと浮かぶ微笑。身体の前で組み合わせている両手。頭髪を軽くかき混ぜる横島。
 くつくつと鍋から泡立つ音、しゅんしゅんとやかんから吹き出る音しか、今の二人には聞こえない。
 横島が驚き、おキヌが楽しげな時の、目新しくも何ともない毎度毎度のやり取りではあったが、それが二人の自然な姿だった。

 おキヌは煮え始めたすき焼きの香りを鼻腔に感じながら、心から思った。今日は本当に横島さんの家に来て良かった、と。
 横島はすき焼きの香りと共に、背筋をを僅かに走る寒気を感じながらも、心から思った。すき焼きってなんていい匂いだろう、と。
 口に出せば、良い雰囲気の場をぶち壊す事間違い無しの気持ちを抱きながら、横島は寒気の原因を突き止めるべく後ろを振り返った。
 隙間風か何かと思っていた横島であったが、隙間から漏れてきていたのは風どころか、嵐を伴った視線の束であった。


 「わああっ! な、なにしとんねん、おまえらっ!?」

 「え、え、え、え、ええええっ!?」


 部屋を隔てる引き戸の向こう側からこちらを覗き見る、頭と視線の主たちを見出した横島とおキヌは、慌てて後ろへと飛び退った。
 息の合ったそのコンビネーションに、幾つかの視線が稲妻にも似た険しい光を放った。
 柱の陰から横島たちを見つめていたのは、床に近い方からルシオラ、シロ、パピリオ、タマモの順番であった。
 ちなみにベスパはコタツに入ったまま、呆れて彼女たちを横目で見やっていた。特に実の姉妹の有様に溜息をこぼしつつ。


 「な、な、なにを覗いてらっしゃるので、み、皆さん?」

 「あ、あ、あの、あの・・・・・・」


 顔色の対照的な二人であった。横島は青ざめ、おキヌは赤面。汗交じりなのは二人とも同じ。
 パピリオ、タマモは興味津々の風情であったが、ルシオラ、シロの二人は穏やかならぬ眼光が、自動車のハイ・ビームさながらである。
 4人揃って、頭部と目だけが柱から見えている、というのが間抜けといえば間抜けだが、今の横島には笑う度胸は無い。
 おキヌはただ赤面の度合がますます広がるばかりである。頬などとうの昔に染まりきって、今や首まで達しようとしている。


 「ほほー。こりゃまた青春でちゅねー。初々しいとは、まさにこのことかもしれまちぇん」

 「おキヌちゃんも意外にやるわねー、って、パピリオってば、どっからそんなセリフ聞いてきたのよ?」

 「ヨコシマ? どーゆーコトかしら?」

 「せ、せ、せ、せんせーと、お、お、おキヌ、どのが・・・・・・」


 横島としてはなぜ彼女たちが覗いているのか、特にルシオラとシロの怒り様、慌てふためき様がわかっていなかった。
 ただ見つめあっていただけなのに、なぜ覗かれたり騒がれたりしなくてはならないのだろう。その程度の認識である。
 ある意味、鈍感これ極まれりの体であるが、元来、自信に欠けるコンプレックス持ちの彼であるから、責めるのも酷であると言えた。
 これまで色恋沙汰に余り縁の無い生活を送ってきた事は、良くも悪くも現在の横島忠夫の恋愛事情に、多彩な影響を与えていた。


 「あ、あのなー。お、俺はおキヌちゃんを手伝ってただけだって。もうじき出来るからって・・・・・・」

 「ははぁん。それで見つめあってたのは何ででちゅか? わたちにもわかるよーに親切丁寧に教えるでちゅよ、だーりん♪」

 「あっはははっ、パピリオ! アンタってばいじわるっ! でも、その通りよね。ちゃんと説明してね。よ・こ・し・ま♪」


 示し合わせて、わざとからかう年少組である。ルシオラとシロの、吊り上った目を見ての行動であった。
 人の色恋沙汰を遊びのネタにする事ほど悪甘い楽しみは無い。明日の『アクジョ』としての才能は、既に十分な二人であると言える。
 わざわざ身をくねらせてモデルのようなポーズを取り、投げキスまで披露するタマモとパピリオである。
 が、反動は大きいものであった。黙って見ていたベスパが呆れて、おいおいとツッコミを入れたくなるほどに。


 「ヨ・コ・シ・マ? アンタってば年下好みだったの?」

 「せ、先生ぃぃっ! せ、拙者というものがありながら、この仕打ちはあんまりでござるぅぅ! 拙者だって年下でござるよ!」

 「な、な、何を勘違いしとるんだ、おのれらはぁ!」

 「そ、そうですっ。横島さんはそんな人じゃありません! わ、わたしとだって、別に何かあったわけじゃなくて・・・・・・その・・・・・・」


 大汗交じりで否定する横島とおキヌである。眼前に迫るルシオラとシロの視線が妙に怖かった。
 というか、あっさりと彼女達が騙されるのは、その純情さゆえか、それとも横島の甲斐性の無さゆえかは判別しがたいところである。
 いずれにせよこの騒動が、天の配剤か悪魔の策略か、と超自然の力の働きである事を肯定するものはいない。
 そろいもそろって結果重視であるため、異性同士が短時間とはいえ見つめあっていた事に、全力でその謎の解明に勤しんでいた。
 砂場で山を築くのにショベル・カーを持ち出すが如き、揚々たる意気を4人の少女は発していたのだ。

 横島とおキヌには彼女たちの眼光しか目に入っていないが、騒動を客観的に見つめているベスパからしてみれば馬鹿馬鹿しくなる。
 まさか、アタシ以外の全員が示し合わせて、よってたかって恋愛劇をやってんじゃあるまいね? と邪推したくなるほどである。
 さっそくコイツの出番かな、と酒瓶を撫でつつ、ベスパは年下の少女達にあっさりと化かされる実姉の騒動振りに目をやった。
 『恋は盲目』とはよく言ったものである。あの理知的な姉・ルシオラが、すっかりパピリオに振り回されているのだから。



 ――――ようこそ甘々の世界へ。



 姦しい、などという言葉では追いつかぬような騒動を眺めつつ、ベスパは口中だけで呟いた。
 密度の濃い溜息を肺の底から漏らしながら。










                          続く

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa