ザ・グレート・展開予測ショー

唐巣受難曲(2)


投稿者名:浪速のペガサス
投稿日時:(03/12/31)




―二十二年前―




その頃イタリアには連続殺人事件が発生していた。

被害者は六人。

奇妙なことに外傷は全くと言って良いほどなく、生きていた頃と寸分変わらない姿のままだった。

ただ一つ、恐怖に満ち溢れて、歪んでしまった顔以外は。

証拠品は何一つとして存在していなかった。

また、犯行時間は深夜ということも重なり目撃者はゼロ。

警察の操作は手詰まりとなり迷宮入りの気配が濃厚だった。

イタリアの住人はといえば、次は自分の番では?という恐怖に日夜震えていた。

この由々しき事態に警察は、オカルト関連の事態では?と疑問を感じる。

そして、六人目の犠牲者が出た直後、教会に助力を申し出る。

教会はそれを快く承諾する。

人命を助けることは、我らの使命であり、神への何よりの奉仕だと言って。

教会と警察の合同捜査が始まった。

教会はというと、とりあえずの人員を派遣はしたが、近々ローマ教皇推薦の霊能力者を派遣する方針らしい。

教会としても、早期解決を願うのは当然のことだろう。

人命のためか、それとも己の、教会としてのメンツのためかは知らないが。

さて、その霊能力者はなんでも『サイコメトリー』とか言う稀な霊能力者らしい。

そんな噂が飛び交っていた。

そんな中、イタリアの人々は事件の一刻も早い解決を願っていた。

そんな頃だった……。





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    唐巣受難曲


        第二楽章


            『我が心よ、準備せよ』
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唐巣和宏はその頃、まさに霊能の絶頂期だった。

一年前、とある事情でイタリアを訪問した際、あるオカルト事件に遭遇してしまった。

そしてそれは無事唐巣神父のお陰で解決。

後に終生の友であり弟子となるヴァンパイアハーフ、ピエトロ・ド・ヴラドーとの出逢いを果たした。

また、その数か月前には、日本にある霊力修行場妙神山に赴き、文字通り命をかけた修行を行ってきた。

竜神小竜姫の指導の下、その命がけの修行の結果自らの霊能力そのものの底上げに成功。

仮にも竜神の彼女をして、


「あなた以上の力を持った霊能力者は人間では稀でしょう。」


とまで言われるほどに能力を上げた。

それに伴い、今までで除霊が困難だった上級ランク、最上級ランクの除霊もなんなくこなせるようになった。

その結果、若くして彼は世界のGSの中でも十指の実力を持つ一人となり、名声を欲しいままにした。

だが当の本人もそんな事全く気にせず、いつものように弱きを助け、自らを省みない行動ばかりし続けていた。

そんな彼の姿を称え、キリスト教の総本山ヴァチカンからの名誉勲章の授与を決定。

さらにはその信仰心と功績を考慮し、教会直属の騎士団の一人に迎え入れようという話も出ていた。

一介のGS、一介の神父でしかなかった唐巣神父は、文字通り世界の唐巣神父になろうとしていた。

彼はその頃、紛れも無く絶頂期だった。






―――――――――――――――――――







『まもなく日本発、イタリア行きの当機は離陸を開始します。
皆様シートベルトをお締めください。』


「久しぶりだな、イタリアに行くのも……。
一年ぶりくらいかな?」


唐巣神父は今、イタリア行きの飛行機の機内にいた。

というのも、彼に向けヴァチカンから正式に召喚命令がやってきたからだ。

内容は、ヴァチカンからの名誉勲章の授与が決定したので、こちらに向かうようにとの事。

クリスチャンであれば誰もが望む素晴らしい大変名誉な事。

当然唐巣神父もその時はその喜びに打ち震え、自然気分が高揚していた。

再び彼は懐にしまってある召喚礼状を取り出し眺めていた。

だがよく見ると勲章授与式の日付は今日より七日後、つまり一週間後になっている。

なぜか?答えは簡単。

彼は楽しみたかったのである。

勲章受理するまでの間、せっかくイタリアに行くのならばと彼なりにしたいことが山程あったのだ。


―フゥ…、一年ぶりのイタリアか…。
去年は事件があったからあまりゆっくりも出来なかったしな。
久方ぶりに美味いもの食って、観光でもするか?
それともピートに会いに行くか?―


召集令状の裏を向ける。

そこには流暢な日本語で、元気か?とかかれた文字が書かれていた。

それを見ると唐巣神父は顔を微笑ませ、窓の外を見た。

その顔は清清しい。

どうやら腹を決めたようだ。


―やはり先生に逢いに行こう!
そして是非このことを私の口から報告しよう!!―


唐巣神父が師と称する人物、それは彼を信仰と、GSの世界へと導いた人物。

そしてヴァチカン所属の高位の神父でもあるGS。

だからこそ召喚状の裏側に、元気か、なんて書けるわけなのだが。


―こんなもの書くくらいだから当然私が勲章をもらえるのも知ってるだろう。
だけど、やはり私もこの自分の口で報告したいからな。―


『離陸を開始します。
それでは皆様、良い空の旅を。』


飛行機は離陸した。





―――――――――――――――――――






その頃イタリア警察は、教会から派遣された神父と事件について会議をしていた。

「被害者を霊的な分析をした結果、六人の被害者全ての死因が判明しました。
原因は何かの悪魔による魂と肉体の分離。
そしてそれは、強引に行われたであろうことが判明しました。
すみませんが現状での分析はこれ以上はできませんでした。」


神父はそう報告する。

その顔はかなり痛々しい。

それに対して刑事の一人が疑問点を挙げる。


「何故悪魔が強引に魂を抜いたと断言できるのです?」


「何故悪魔が魂を抜いたか、という疑問に関しては答えは簡単です。
人間にはそれが不可能だからです。
我々人間には、魂を破壊することは可能でも、無理やり抜き取ることは出来ないのです。
人間というのは、霊的中枢、チャクラとよばれる所が数箇所に存在しています。
そしてそれは人間の体と魂をくっつける、いわば腱のような役割をしているのです。
そして人間の場合、魂を抜こうとするには、そのチャクラと魂を切断しなければなりません。
そしてチャクラには、切り取った腱のように、ある程度魂が残ります。
我々はそれを残留霊魂と名づけていますが…。
つまりチャクラの中に存在する残留霊魂は、切断面がある程度鋭利に切れているはずなのです。
筋肉を切断するのには、腱を切らなければだめでしょう?
そしてそうするとどうしても切断面が鋭利になる。
ようはあれと同じなのです。」


あたり一同から感嘆の声が流れる。

証拠も何も無いのにこれほどの事がわかるとは、さすがは教会公認GSの神父だと。

しかしそれでは人間にだって魂が抜けるではないか、ある程度強引に。

そう思った刑事の一人が疑問点を口にする。


「しかし、疑問があります。
アナタが仰った事を額面通りに受け取るのならば、人間にも強引に魂を抜くことが可能になります。
なのにアナタは悪魔の仕業だと先ほどはっきりとおっしゃった。
いったいどう言う事なのでしょうか?」


再びあたりがざわめく。

そんな中、報告した神父は心の底から苦しそうな声を出し、その疑問に対して回答する。


「確かにその通りでしょうね。
しかし、妙な言い方ではありますが、その行為は強引であるのですが、デリケートな魂の抜き方なのですよ。
はっきりと申し上げましょう……。
この六人の魂の抜かれ方は、本当に強引だったのです。
この六人は、無理やり、本当に無理やりに魂を抜かれたのです。
………、彼らのチャクラにも確かに残留霊魂が存在しました。
しかしその切り口は、無理やり引きちぎったかのようにずたずたになっています。
人間の霊力ではこんな事は不可能です。」


当たりが騒然となっている。しかし神父は話を続ける。


「魂の行方は私にはわかりません。
しかし悪魔に魂を抜き取られた以上…、コレはあくまで私の推論なのですが…。
被害者の魂は、強引に抜かれたにもかかわらず、体内に残った残留霊魂以外にどこにも存在していません。
おそらく…、悪魔に魂を『喰われてしまった』ものかと……。
そして悪魔に喰われてしまった魂に救いは……。」


神父はそれだけ言うと押し黙る。

周りにいる刑事連中も、あまりの事態に言葉も出ないようだった。

そんな中、一人の刑事がポツリと呟く。


「もう暫らくしたら、教皇からのご推薦されたサイコメトラーが派遣されてくる…。
なんとしても、これ以上事件を拡大させるわけにはいかない…!」


一同の顔が引き締まった。




―――――――――――――――――――





『御搭乗ありがとうございました。
またのご利用をお待ちしております。』


「ふ〜!!やっとついた!!
長かったなぁ〜!!」


飛行機がイタリアに到着し、唐巣神父は首の節をコキコキと折りながら降りてきた。

しかしあたりはもう夜、実のところ唐巣神父は今日の分のホテルの予約をするのを忘れていた。

決して金が無かったからではないということを付け加えておく。

正直な話、ココまで時間がかかるとは思わなかったのだ。

なんと言うか…、実はマヌケなのかもしれない。


―どうするものかな…
あんまり金に余裕もないからなぁ。―


唐巣神父は困惑していた。

一人で空港のロビーのあたりをうろうろしてる間にも時は無情に過ぎてゆく。

徐々に唐巣神父は焦ってきた。

しかたが無いので、金と今後のことはとりあえず置いといて唐巣神父は外に出た。

空港の入り口には一人の神父が立っていた。

見た目四十かそこら、身長は唐巣神父よりもやや高い程度。

黒衣に見を纏いながらもその神父にはどこかだらしなさを感じる。

それを見て、見る見る顔が明るくなる唐巣神父。


「先生!!」


自分の見知った人物、自分の師がそこには立っていた。

思いがけない人物に、唐巣神父は色んな意味で神に感謝した。


「よ!久しぶりだなぁ和宏。
お前のことだからどーせ一週間かそこらにでも来るんじゃないかと思ってたが…。
予想通りだったな!ハッハッハ!元気だったか?」


豪快、と形容したほうがよさそうなその神父、唐巣神父の師は、満面の笑顔で唐巣神父を迎えた。


「先生も相変わらずお変わりなく!
いつもお聞きしていますよ、『ヴァチカンの守護神』の雷名は!」


ヴァチカン所属のGSには基本的に二つ名など存在しない。

これはあくまで、人々が尊敬の念を込めて彼らを総称した言葉だ。

唐巣神父は基本的にあまりウソをつけない人物である。

そんな彼がココまで賛辞を述べることが出来る人物だということだ、彼の師は。

それを聞き少し苦笑する師。


「お前に比べればそんなものなの意味もねぇよ、『世界の唐巣』♪
それに俺はあんまりそうゆうの好きじゃねぇんだ。
くすぐったいってゆーかよ?
………。ところで和宏、お前ちょっと俺のところに来ないか?
お前に話したい事があるんだ、色々と……。」


どうせ宿は決めてないんだろう、と付け加えて。


「是非お願いします!!
ちょうど私も先生と色々話したかったですからね。」


唐巣神父は願ったり叶ったりの状況に思わず顔をほころばせる。




彼は後に、このとき安易にとってしまったこの行動を後悔する…………。












                       第三楽章へ続く……

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