ザ・グレート・展開予測ショー

流れ往く蛇 逢の章 次話


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/12/29)


 部屋いっぱいに、ぎっしりと詰め込まれた本の数々を見て、あたしはくらっと立ちくらみを覚える。
 誰がこんな量の本を見るんだ?
 なんて言っても、この場にそんな真似できる奴なんて一人しかいないんだけど・・・
 あたしの正面には、悠然と構える一人のマスクマン、吾妻公彦がいた。で、その奥には唐巣が無表情に公彦を見詰めている。どこかその表情は痛々しげだ。ここにきてっからずっとあんな調子、何考えてるんだか・・・
 で、あたしのすぐ傍らには美智恵がこの二人を見比べていた。まぁ大方依頼の内容を推理でもしようってところだと思うよ?GSってのはそういうのも必要だと思うから。
 で、さらにこの書斎についで以上の割合でそこらを飛び交う浮遊霊たち・・・あたしは浮遊霊どもを刺激しない程度に、奴らの軌道上から身を逸らした。何しろ今のあたしはかなり弱ってるからねぇ・・・あぁ、もう普段ならこんなことしなくても・・・まぁ過ぎたこといっても仕方ないか。
 で、この室内を無駄に飛び交っている霊たち・・・この霊たちは何故か公彦を取り囲むみたいに回っているわけだ。
 あたしは唐巣に向きやった。

「・・・で、何でこんなにいっぱいの霊どもが取り囲んでるんだい?呪いにしては実害がないし、霊脈(霊の通り道)にしてはどうも駐留してるって方が正しいし・・・」

 唐巣はあたしの問いに多少以上の眼差しで驚きを表した。

「おお・・・意外に詳しいね。GSに向いているんじゃないかい?」
「真面目に話してよ、神父」

 やや不機嫌そうに、というよりはそれこそ真面目な視線(珍しくも)を発しながら、美智恵がそう促した。

「すまない・・・しかし簡単に言ってしまってよいものかどうか・・・」

 唐巣は沈鬱な表情を、公彦へと向けた。その視線を受けた公彦は、

「ええ、構いませんよ。全てを神父に任せます」

 ッて、短く唐巣に対して頷いた。一体なんだって言うんだ?言ったら困るもの?それにこの一連の流れはそこかとなく怪しいような・・・
 唐巣はスッと短く息を吸ってから、切り出す。

「彼は・・・高いポテンシャルを持った『精神感応者』なんだ」

 薄暗い室内に、唐巣の声が重々しく響き渡った。





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 浪々とした声で唐巣は語りだした。

「公彦君は3年前、事故にあって、昏睡状態に陥ってしまった。回復したのは奇跡だったが・・・強力なテレパシーが身に付くと言う余計な奇跡もついていたんだ。
 ・・・以来、彼にはこれが日常だ」

 なんだそうだ。あたしならこんなわけもわからないような奴らに囲まれて生活なんてしたくはない。
 精神感応者・・・相手の精神をダイレクトに接続できうる能力者・・・確かにこれは唐巣も言葉を濁すわわけだ。誰もこいつに近寄らないし・・・こいつ自身が誰にも近づかないんじゃないのか?弱い人間の心じゃそんなもんだろ?もっとも、あたしら魔族にしては、これ以上ないくらい欲しい力だけどね。

「神父には感謝していますよ。この仮面がなければ僕は・・・あなた方の頭の中が・・・全部見えてしまうんです」

 まるで一つの恐喝文みたいに公彦はそう呟いた。その視線の先には・・・何故かやっぱりあたしだったりする。なんでだ?どうしてだ!?
 ・・・ん?そういえばこいつのさっきの反応は・・・心を読むとか何とか・・思い当たるフシも在る様な無い様な・・・

「そっかあぁ〜〜!!よかったあ〜〜!!」

 不意に安穏とした声が響いたせいで、あたしの思考は中断された。

「「「え?」」」

 みると美神がほっと胸を撫で下ろしていた。笑顔で・・・そりゃもう笑顔って奴さ・・・悪かったなぁ、不気味で・・・

「最初どうしようかと思っちゃって、いま流行っているスター何とかの仮想かなんか家でしているのかと―」

 だそうだ。
 ・・・シャ〇とか何とか考えてしまったあたしにはなんとも言えないんだけどねぇ・・・

 にしても・・・本当にさっきからそこら辺をふわふわまってる浮遊霊たち・・・面白いくらいに邪魔だね。あたしの顔を掠めたりなんだリと・・・ちょっと非常識すぎやしないか?

「当然除霊するんだろ?」

 あたしはやや急かすように唐巣に話題を投げる。あたしにとっては仮面なんぞよりも、今ここらを飛び回っている浮遊霊どもを何とかして欲しいからね。

「無論・・・そのつもりできたんだが・・・」

 唐巣はあたしに答えながら、美智恵の方へと視線を向ける。どこかその色は、厳しいものが含まれてたけど・・・どうも家を出てっから唐巣の美智恵への反応はやや厳しいものが含まれてるような気がする・・・まぁ、大方また何かやったんだろ?『美智恵』だかんね。ザマーミロ♪

「美智恵君、君がやりたまえ」

 唐巣はそう無機質に美智恵に言い放った。
 ・・・ハイ?
 一瞬あたしは耳を疑ったさ。だって、まだこいつは見習いだよ?まぁそりゃ将来世界的にも名を轟かせる非人間的な馬鹿者女さ・・・でもまだ今はそれでも見習いだ。
 はっきり言ってここら一帯の霊どもを除霊しつくすにはよほどの力がないと無理だと思う。そりゃ霊力はもちろんのこと、体力とか集中力、気力なり何なり、あとは運を味方につけるほどの魅力。はっきり言えば最後に上げたものの要素はかなり大きい。一対複数っていう場合、よほどの実力差でもない限りは、運で死ぬか生きるかってのが決まる。そういっても間違いはないと思う。

「君はあと二件の除霊で上がりなんだろ?これだけやればおつりが来る」

 唐巣はそう言いながら、美智恵に近づいた。

「やらせてくれるの!?」
 
 そう答える美智恵のその目は異常なほど喜々と輝いてる。ぱ〜とか言う効果音つきで・・・
 お〜い、待て。あたしはしょうがないと思いつつ、口を開く。まぁアレだ、長いこと戦ってきた先達としての助言ってやつだ。

「死ぬかもしれないんだぞ?はっきりいって。こういうのは結論を急がないで、日々影ながらでもいいからこつこつと努力していくから・・・」
「そんなセコイことやってられるわけないでしょ!」

 美智恵はあたしの言葉を遮って、明るく笑い飛ばす。
 ・・・このやろう・・・そのまま遠くまでかっ飛ばすぞ?

 なんか一瞬まともなこと言ってるよ!見たいな顔をした唐巣は、あたしの言葉に深く頷きながら、美智恵に助け舟を出してやった。

「そ・・・そのとおりだ、美智恵君・・・だから危ないと感じたらすぐに私と代わるんだ。全部一人でやる必要は―・・・」
「大丈夫!!やっと私の実力を見てもらえるわ!!」

 だからぁぁぁ!!人の話を聞けって!!あたしら魔族だってこつこつと強くなってきたから、今のあたしは上級魔族なんて大層な呼ばれ方してるんだろ!?何でここらへんの霊たちを全て倒すように考えるんだ?お前はっ!!?

「苦労人なんですね・・・あなたは・・・」

 公彦が同情のような響きを持って、あたしに声をかけた。
 苦労人代表みたいなオマエになんか言われたくはなかったよ・・・あたしはそっとため息を吐き出した。





 それからあとはもう散々だった。
 自分の体をダシにして、霊を寄せ集める美智恵・・・その体を目的にして群がる霊魂たち・・・自分の娘も同じ様にしてバイトを雇ってるって・・・流石に教えない方がいいだろうなぁ。 
 美智恵は群がる霊たちを、どこからか出した札で焼き尽くし、吹き飛ばし、あるいは光に飲み込ませていく。

 人魂はあるいは・・・あるいはスーツ姿の男だった。いかにもやり手といった感じだ。
 あるいは工事現場で働いていそうな男だった。腹巻きと足袋はそうそう変わらないスタイルなのか?
 あるいは中年の母性的な女であった。腕に抱えるくまの人形はやや赤く染まってる。
 またあるいは・・・あるいは・・・

 こいつらは消え行く直前に何かを叫びながら・・・・・・光に飲み込まれていった。あたしは何を言っているのか、意識を集中させるけど、結局は何を言っているのかをわかることもできなかった。やっぱり精神感応者って奴じゃないとわかんないんだろうね。

「みんな・・・生きたかったとか・・・何かをしたかったとか・・・そう言っているんですよ」

 公彦はそうあたしに振り返る。
 ふ〜ン・・・そういうもんかね〜。まぁ短命の種族の考えることって言ったらそうやって生にしがみ付く様な事ばかりなんだろ?昔っから不老長寿とかいう伝説があるくらいなんだから・・・
 そこまで考えてから、あたしは妙な既視感を覚えた。
 それは・・・そうだ、あの時だ。宇宙空間で感じたあの時。生と死の狭間で感じた生への欲求・・・
 ちがうっ!あれは・・・あたしはそんな短慮なものとは違う・・・あたしは・・・

「みんな・・・本当は死にたくはないですよね・・・」
「!」

 公彦がぼそっと呟いた。
 あたしはちらりと視線を美智恵へと戻す。まだ飛び交う霊魂たちと格闘をしている。
 並み居る霊魂たちの猛攻を、重心を低くしてやり過ごす美智恵は、立ち上がる勢いを爆発のようにして一気に疾走した。その動きはさながら一本の軌跡のよう・・・軌跡はまっすぐに霊団のリーダーらしきものへと肉薄し、眩く光り輝く神通棍を横薙ぎに一閃する。
 空間を切り裂くような、不気味な錯覚・・・棍の軌跡から描き出された錯覚は、眩く光る衝撃を霊魂へとモロに叩きつけ、そのまま獲物は原型すら留めずに消え去る。

『・・・〜〜!!!!』

 何かの叫びのようなものがあたしの耳を叩いた。何の声が?どういう叫び方か?流石にそこまで聞こえはしなかったけど・・・

「今・・・また一つの『声』が消えました・・・」

 公彦が表情を暗くしてそう呟いた。あたしは視線を公彦の方へとまた引き戻す。
 
「僕はこの声に長いこと悩まされ続けて、GSの方を雇ってきましたが・・・それでもまだ慣れませんね・・・」

 公彦はあたしの顔を見詰めてニッコリと微笑んだ。でもその表情と瞳の色は、まったく反対の色をしてた・・・

「誰かが『死んでしまう』というのは悲しいものなんです・・・」

 その顔はどこか達観したような顔だった。でもその実、まるで言い聞かせでもするかのような・・・
 こいつは・・・さっき頭の中を覗くがどうとか言ってたみたいだけど・・・ひょっとして記憶まで見られるのか?この会話の選び方は・・・どう考えてもあたしの記憶でも見てない限りは出てこないんじゃないか?
 気味が悪いとしか言いようがない・・・あたしは公彦から離れようとして・・・
 なんかこのままじゃ負けを認めるような気分になるなぁ・・・

(バーカ、アホー、鉄仮面ヤロー、ネクラー、etc,etc)

 あたしは思いつく分だけ頭の中で悪態をついてやった。それでチラッと横目で奴を盗み見てやる。きっと今の奴の顔は悔しい思いできっと引き歪んでいるに違いない。
 
 ・・・なんかあたしから顔を背けるようにして爆笑してるんだけど・・・こっから見えるほっそりした背中は悲しいくらいに上下に震えてる。
 ・・・あたしは妙な敗北感を引きずりながら、書斎のドアを乱暴に開けた。





 書斎からでると、ものすごい勢いで霊たちがあたしのすぐ脇を掠めて通り過ぎて行く。その目的は予想通り、美智恵に間違いはないだろう・・・年末宝くじの売れ行きがいい理由が、なぜか解った気がする。
 あたしはこれからどうするか、腕を組んで考えた。

 さて・・・どうしようかねぇ・・・当面の問題としては・・・公彦になるか・・・
 あたしのことを唐巣に知らせる気なら、もうとっくにバレているだろうね。公彦があたしのことを妙に意識してたのだって、あたしのことが解ったからじゃないのかな?いや、これまでのことを考えれば、確実にばれてるな。
 ならどうしようか・・・いつもなら・・・『口を閉じて』もらうんだけど・・・今はこんな状態だからねぇ。

 確実に『ことを終える』ことができうるか・・・否か・・・

 プロって言うのはこれを中心に物事を考えなくっちゃいけない。
 いくら今のあたしが非力って言っても、まさかただの人間を始末できないわけはないと思うんだけど・・・確かにどこかあたしを意識してるみたいな感じはあったんだけど・・・だからと言って唐巣たちに知らせるみたいな様子はなかったし・・・でもひょっとしたらそれだってどこまで確証の持てることかだってわからない。今こうやってる間にも唐巣に知らせてたり・・・いや、それはないか。美智恵が除霊中に流石に唐巣の注意をそらすことはしないと思う。ひょっとしたら美智恵の生死がかかることなんだからな。
 じゃぁそのあとか?ここはやっぱり始末すべき・・・か?でももし失敗したら・・・ウ〜ン。
 まぁとりあえずは、得物くらいは確保しておいたほうがいいよな。
 あたしは兇器となるべきものを探そうと、辺りを見回す。ウン、少なくとも視界内にはない。当然といえば当然か・・・
 あ、そういえば・・・テレビで見たことがあるような気がする。アレだ、サスペンスとか言ったっけ?ああいうのだと、確か包丁でブス・・・・・・ッと。
 キッチンだろ?包丁といえば。我ながら巧みな情報入手力を持ってると思う。流石だ。
 
 キッチンキッチン・・・と・・・どこにあるんだ?慣れないからね、そこらを歩きながらあたしはキョロキョロと視線を廻してゆき・・・・・・・・・その視線の先に一人の娘が立っていることに気がついた。
 さっきのあの妙な娘だ・・・ワンピースを着た妙なやつ。
 その娘はふわふわと鳴らない足音を小さく響かせながら、あたしの方へと近づいてきた。あたしは妙な硬直感に捕らわれて、動こうともできない・・・いや、動けることは動けるんだけど、プレッシャー?・・・まさか、ね。このあたしがこんなガキに?
 娘が中空で静止したその距離は大体三メートル・・・そして、あたしに向かって口を開く。

「お姉さんは、あたしたちを殺しに来た人じゃないの?」

 ・・・ずいぶんと物騒なこという子供だなぁ・・・まったく最近の親は子供に一体どういう教育をしているんだか・・・ってそういうことじゃなくて。

「あぁ?何であたしがそんな無駄なことしてやらなきゃなんないのさ?金すらかかってないのに」

 あたしは吐き捨てるように言ってやった。
 そう・・・あたしはプロなんだよ・・・今はこんなだけどさぁ・・・ちょっと陰鬱になったりもするけど・・・
 そんなあたしの苦悩を理解しない、この目の前にいる小娘は、あたしをどこか不安に満ちた目で捉えながら、おずおずと口を開いた。

「ならお姉さんはママがどこにいるか知ってる?」

 知るかッ!!とっさにあたしは心の中でそう叫んだ。どうしてこう幼い子供(ッて言うかガキ)どもは他人の苦悩を読み取ろうとしないんだ?仕方ない・・・ここは年長者として一つ世の中の厳しさを教えてやらなければいけないな・・・
 あたしはスッと息を吸って、一喝すべき言葉を紡ぎだす。

「みてないなぁ・・・せめてママがどんな人なのか教えてくれないかな?」

 あたしは前屈みになって少女の頭をぽんぽんと叩いてやった。
 アホダアアァァァ!!あたし!何やってるんだ!!いやいや、力が低下した今のあたしはこのガキでも脅威になるからこうやってるだけ。それだけ・・・それだけなんだ・・・
 娘はそんなあたしの苦悩を、どこか不思議そうに眺めていたけど・・・あたしの言ったことが今更に通じたかのように口を開いた。

「えっとね・・・ママは・・・ママは綺麗な人でねぇ・・・あ、あたしのポンたんの人形もってるの」
「何でお前の人形を持ってるんだい?」

 まさかあたしらみたいにかっぱらった訳でもないだろうし・・・ねぇ?あたしは娘に尋ねた。

「ポンたんが壊されちゃったの・・・のりくんがいつもあたしをぶって・・・だから・・・」

 んん?ポンたんとか言う人形が壊されたのと、のりとかいうのがお前をぶつのにどう関連があるんだ?ポンたんがお前の盾になって攻撃を防いだおかげでお前自身は助かったけど、ポンたんが代わりに大破したと・・・?かっこいい人形だな・・・違うのか?

「・・・で、つまりのりって誰だ?」

 娘はえっとぉとか言いながら小首を傾げてから・・・

「あたしの家・・・ここに引っ越す前に住んでたところの家なんだけど・・・隣に住んでた男の子なの」

 ・・・ウン?引っ越してきた?ッてどういう意味だ?
 それに隣に住んでたガキが、激しい攻撃を行ったせいで人形が大破したのか?やっぱりかっこいい人形じゃないか・・・

「で、何でお前の人形をママが持ってるんだ?」
「だからそれを言ってたんじゃない・・・」

 娘は不満に満ちた視線であたしを見詰めた・・・そんな視線で見つめられてもなあ・・・だって一向に話しが進んでないような気もしないでもないしなぁ・・・

「ママがね、あたしの人形を縫ってくれたの。ボロボロになっちゃったねって言って」
「つまるところだ・・・縫ったままお前のママは人形持ってそのままどっかいっちまったと・・・」
「うん」

 それって本末転倒って言うんだと思うぞ・・・多分アレだ、そのまま盗まれたと思うよ、あたしは・・・
 なんて思いながら、あたしはチラッと娘のほうへと視線と向けると・・・娘はあたしの考えたことを察してか、だんだんと瞳が揺れてきて・・・あぁやばい・・・力がある状態ならほっといてもいいんだけど、非力な今ならこういった状況は命取りになりかねない・・・

「ああ!!わかったよ、わかりましたよ・・・一緒に捜してやればいいんだろ!捜せばさ!!」

 あたしはもうなんていうか・・・強迫観念にも近いような・・・・後悔みたいな気分で呻いた。
 それを聞いたこの娘は、なんって言うか、満面の笑みみたいな表情で頷いた。このガキャ・・・

「で・・・?まぁつまりそのママはお前の人形を持ってるはずなんだよな?」
「ウン、熊さんのお人形で、腕のところが破れてたの」
「フ〜ン・・・」
 
 あたしはあごに指を当てて、記憶をまさぐった。確かどこかでくまの人形を見ていたような気がする・・・どこでだったっけ・・・?あたしの視線は自然と天井まで伸びていく。
 そう・・・つい最近だったような気がする・・・あんまり可愛げとかなんとか・・・そんな印象は抱いてなかったはずだ・・・あんまりいい印象すら抱かなかったような・・・どこで見たのか・・・
 あたしはちらりと娘のほうへと視線を戻し・・・

「なんだよ・・・言うだけ言ってさっさと消えちまいやがった・・・」

 あたしは誰もいない廊下で小さく一人ごちた。





 書斎の扉を握り締めたあたしは、まず美智恵の除霊がどの程度完了しているのかを考えた。まぁ恐らくは唐巣にでも代わってもらってるんだと思うけど?
 ・・・で、扉を開いてから、兇器の確保を忘れてることなんぞを思い出したりもする。
 なんってこった!!気のせいか、ここ最近ちょっとズレテないか?あたし・・・唐巣や美智恵のせいだな、これは・・・どうせだったらもっと落ち着けるところに保護されたかったなぁ・・・なんて心の奥底で泣いてたりする。

 そして、ドアを開けた先にあった光景に・・・あたしの時間は激しく凍りついた。ドアを開けてから目に無理やり入ってきた光景に・・・そりゃもうってくらい。
 美智恵が立っている。唐巣と公彦がその後ろで立っている。別にそれだけならいい・・・何故か後ろの男二人は、なんていうか・・・とんでもなくまずいものを見られたような視線をあたしに向けていた。
 そんなあたしの視線は美智恵に完璧に注がれていたりする。
 何故か服を脱ぎ、半裸になってる美智恵・・・大きく育ったなぁ・・・いや、違う、違うぞあたし!
 美智恵の後ろでは、あたしと美智恵を見比べている狼が二匹・・・
 狼の内、一匹が言った。

「お、落ち着くんだ、ハクミ君!こ、これには山よりも高く海よりも深いわけが・・・」
 
 あたしは深呼吸をした。ウン、落ち着いてるぞ?それにどんな訳があると?
 仮面を被った狼が言った。

「あのその、これは男としては当然な・・・いえちがっ、そうではなくてですね・・・」

 何を言おうとしているのか・・・判らないけど、とりあえずはもう関係ないだろ?
 あたしはニッコリと笑って・・・そういえば怖いって言われたけど、この場合は適切な笑みだよなぁ。なんて場違いな満足感をかみ締めてたりする。
 そして・・・・・・死刑確定。

「お前らは一体何してるんだアアァアァアァァァァッッッ!!!」

 この日・・・屋敷にはあたしの怒声と、バキィッだとか言う不気味な音が大きく響き渡った。

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