ザ・グレート・展開予測ショー

笑う女


投稿者名:赤蛇
投稿日時:(03/12/27)

「警部、周辺の住民に聞き込みを行っていますが、今のところ不審な人物を見た者はいないとのことです」
「そうか」
「それと、死因はやはり下腹部からの大量の失血によるものでした」
「うむ」
「鑑識の報告によりますと、凶器とみられるものからは被害者の指紋しか検出されなかったそうです」
「そうか」
「警部、やはりこれは殺人事件などではなく、自殺なんじゃないですか?」
「状況を見る限りは間違いなくそうだろうな。しかし、どうもひっかかる」
「と言いますと?」
「仮に自殺だったとしても、なんでわざわざあんなものを使う必要がある? 普通はナイフとか鋭利なものを使うものだろう」
「たしかに」
「そして一番わからないのはあれだ」
「なんですか?」
「なんであの女は笑っているんだ?」




結婚して数年が経つというのに、男と女の間には子供がなかった。
こればっかりはしかたがないよ、と気にしていない風に男は笑う。
が、その笑顔の奥に落胆の色が隠れていることを女は見ていた。

女は知っている。
男が子供の誕生を何よりも望んでいることを。
再び巡り合うことの喜びを心待ちにしていることを。
そのことが女には妬ましく、そして怖かった。

かつて男には激しく愛した女がいた。
彼女の魂が失われたとき、彼女は男の子供として生まれ変わるだろうと女は告げた。
そしていつしか、女は彼女の後を継いだ。

女は彼女の痕跡を消した。
思い出の残る品々は、燃え盛る業火で焼き払った。
彼女が暮らしていた部屋には、新たな住人を迎え入れた。
彼女のことを記した膨大な資料は、機密という壁の中に封印した。
もはや彼女の顔も名前も、そこに存在していたという事実さえ知るものはいない。男以外は。

女は産みたくなかった。
彼女が産まれれば、男を盗られると思っていた。それが復讐なのだとわかっていた。
そのために非合法の薬を飲み、日を偽り、妖しげな呪法を試した。
今まではそれでなんとかなっていた。
そう、昨日までは。

ある日突然、女は自分が受胎したことを知った。
封じ込められていた遠い過去の記憶がそれを告げたのだった。
女は憎悪を抱き、恐怖した。
男を奪われるわけにはいかない。
そのためにはなにをすればいい?
彼女を永久に滅するためには。

そのとき、不意に声が聞こえた。
子宮という地獄の底から響くような声が聞こえたのだ。
無論、現実にそんなことが起こるべくもないが、女には確かに聞こえたのだ。
勝ち誇ったように嘲笑う彼女の声が。


その刹那、女は手元においていた愛用の棍を握り締め、渾身の力を込めて振り下ろした―――――――

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