ザ・グレート・展開予測ショー

ゆーうつ。


投稿者名:hazuki
投稿日時:(03/12/27)

夢を見る。

繰り返し繰り返し、夢を見る。

もう決してありえない、夢を。

手に入れた、と思っていたものは、手の中にあると思っていたものはもう、この手の中にはない。


もう二度とこの手の中に、あることはない。





──────────────────────────────それを、再びてのなかにあるゆめを、みる。









がばっと、


横島は闇の中跳ね起きた。


まるで激しい運動の直後のように、呼吸は荒く、体もじっとりと汗ばんでいる。


じっとりと体から流れる汗は冷たく、顔にへばりついている前髪も鬱陶しい。


心臓は早鐘のように鳴り響き、布団に置かれた手は、かすかに震えている。






「…………ゆめ、か」




呼吸も整なわないうちから、右手で顔を覆い、ひどく疲れたように言う。







横島は、ぼんやりと闇に慣れてきた目で、壁に掛かっているカレンダーに目をやる。


季節はもう、一回りしており、あの日と同じ月のカレンダーが掛けられている。




もう、一年以上たつ。

なのに、何故忘れられないのだろう?


一生忘れられるわけはない。


そんなことは、分かっている。


だけども、覚えているならばもっと穏やかなものを覚えていたかったのだ。


こんな、心臓を引き絞られるような、痛みなど、泣きたくなるような、苦しさなんて覚えていたくなかった。





「………我ながら、情けねぇなあ」




唇には苦笑めいたものを、刻みながらもその声は苦い。















「どうしたんですか?」


きょとっと目の前で首をかしげるのは、おきぬである。


さんさんと、太陽のふりそそぐなかの言葉である。


「え?」

きょとっと同じく目を見張り横島。

布団を持ちながらの台詞である。



ちなみに、今日は日曜日で、横島の部屋へおきぬが掃除にきているということである。


「そうでござるよ?」


目の下に隈ができているでござるよ?と、ハタキを持ちながらシロもおきぬに同意する


これは、おきぬが幽霊時代からの習慣であり、シロが事務所にきてからは、お手伝いするようになっている。

横島としては、女の子に自分の部屋を掃除されるのは、なんだかこーいろいろ見られたくないものがあるので毎回有り難いと思いながらも心中なかなか複雑である。



横島は、シロとおきぬの言葉に目を見張り



「…………最近よく、ねむれねえからなあ」


うーんっと髪をかきむしりながら呟くように言った。



「どこか、体のほうでもおかしいのでござるか?」


すりすりと、身体を摺り寄せシロ。


そこには好意やら、性的なニュアンスは無くただ、動物が仲間が傷ついたものを癒そうとするるために近づいているいるのかもしれない。



おきぬも、部屋中にちらばった本を片付けながらその光景を微笑ましく見ている。


横島は、ぽんぽんと、シロの頭に手を置き笑う。


「別に、大した事じゃねえよ」


本当に、少しだけ夢見が悪いだけなんだと、横島は笑う。



「先生が、どんなに美神どのに虐げられても、仕事が忙しくても、てすとで赤点を取っても元気なだけがとりえであるにござるのに、大した事がないだなんてそんな事ないでござるっ」


きりっと必要以上に真剣な表情をつくりシロ。


なにやらあんまりな、言われようであるがそれはシロにとっても、大多数の人間にとっても真実であることは疑い様もないのである。



「………おい」


そんなに俺は能天気なのか?………げんなりと横島は言いぐしゃぐしゃっとシロ髪をかき混ぜぺしんっと頭をたたいて、笑った。











穏やかな空気、晴れやかな空、そして有るべき日常。










当たり前のもの。

そして、しあわせなもの。














─それが、何故こんなにも苦しいのだろうか?






































べきっと、


頭に凄まじい衝撃が襲ってきた。



「…………なんすかこれは………」



後頭部には鉄製の置物である。

痛いなんてものではない。

横島は、後頭部を抑えながら恨めしげに美神をみて、言う。



「いや、なんかイラついて」

あっさりと爽やかな笑顔で美神。


イラついて鉄製の置物を投げるとは、一歩間違えれば犯罪者なのだが横島はいい加減悟りの境地にあるらしく、はらはらと涙を流しながら諦めたようにため息をつく。



「……そうですか…」


置物を元の場所に戻しながら横島。

自分が被害にあったのにその凶器を置くその行為も涙を誘うものがある。



「何しろ、誰かさんが最近調子悪いせいで、おきぬちゃんやシロまで巻き込まれてるからねえ」


さらりと紅茶に口をつけながら美神である。



「え?」



何のことですか?と横島。

自分に対して言われている事は分かるが、おきぬやシロに何かした覚えがない身としては答え様がない。


「よおするに、横島クンが元気ないと二人とも引きずられるのよ。ったくおきぬちゃんは砂糖と味の素間違えちゃうしシロは魂が抜けたようにぼーっとしちゃうしなんだかあれなのよっ…で、何かあったの?」


頬を赤らめながら美神。

自分が心配している割に、横島に道具を投げさらに他の人間をダシに使わないと相談に乗れない(笑)ところがひどく可愛らしい。


「………え…いや別に大したことはないんですけど…」



「いいなさい」

にっこしと華やかな笑顔で更には命令形である。

これは怖い。



横島は少しばかり躊躇したが、畏れと自分のなかの言いようのない感情をもてあましていたのだろう。


ゆったりと口を開きはじめる。




「……夢をみるんですよ」



と。



「夢?」

なんのよ?と美神。


「…あいつを、抱きしめてる夢を、俺はすごく、しあわせなんです──だけど、怖くて起きた瞬間……すげえきついんですよね」


苦笑しながら横島。


「……何時から」


「二週間…くらいですかね?」





「そんで、あいつの顔がわからないんです。体のあたたかさも感触も、声もはっきりとわかるのに、表情だけが」



夢だからなんでしょうけど。





「怖いんですよね」



変ですかねえ。シアワセな夢をみているのに怖いって。






美神ははあっと、ため息を一つつき言う。



「当たり前のことでしょうが」


と。



「当たり前?」


横島は首を傾げる。


「あのねえ……いなくなったひとを夢見るのよ、一年もたたないのにそれで何も思わないわけはないでしょうが」


美神は鬱陶しげに言うが、その言葉にはそれを経験した人にしかありえない、重みがある。


「アンタに心残りが山ほどあるんでしょ?」


「心残り?」

何がですか?と横島

「そ。したかった事とかあるんじゃない?」

彼女のことにきまってるじゃないっと美神。

「そりゃもちろん、あんな事やこんなことやしたかったですよ」


「それだけ?」

しんと、静まった部屋のなか美神は問う。


それだけかと。

「え?」


「それだけなの?」



「………そうですねぇ」


ふと横島は表情を綻ばせ言う

「…………一度でいいから」


思い出したように。


苦いものを貼り付けて。

「うん」

美神は、横島の言葉を待つ。


横島は、はんなりと笑い。

「一度でいいから、…笑った顔がみたかったかなあ」

それを言う。

「見てるじゃない」


「いや、そんなんじゃなくて、もっと笑ったのを。何にも考えないでシアワセだっていう」

アイツの満面の笑顔をと。


「…アイツどっかいつも何か考えてたから」

自分の事とか俺のこととか妹たちのこととか…


「……一度でいいから、本当に笑わせてやりたかったなあ」

何にも考えないで、嬉しいといわせたかったなあと言う。


「きっと………かわいかっただろうなあ」


もう見ることのないだろう笑顔を思い言う。

「…もう、見れないけど…………みてぇなあ」

声だけは穏やかに、けれども苦しそうに。



げんなりとそんな横島に美神は呆れたように言う。

「バカね…あんたがいたからそれでも、笑ってたじゃないの」

と。


「え?」

何のことだと。横島。

「どんな形でも笑えたのはあんたがいたからでしょう?じゃあ誇りなさいよ」

唇を歪ませ笑い、言う。

「…誇る」

思いもしなかったのだろう言葉を出され横島は一瞬固まる。

「俺は、こんなふうにだけどアイツをシアワセに笑わせることができたんだって」


「…しあわせそうにですか?」

…そうなのいだろうか?縋るような響きがそこには込められている。

「私から見たらそうだけど」

それでも美神は、自分の基準に絶対の自信をもっているらしくきっぱしといいきる。




「……………………なら…いいなあ」










夢をみる。


もう適う事のない夢を。



手に入れることのない夢を。



だけど、本当にあった、現実であった夢をみる










苦しい穏やかな、夢を。






そしてシアワセな、夢を。



穏やかな日々を苦しいと思いながらも、それでもそれすらいとしいと思い、いきる。

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