ザ・グレート・展開予測ショー

B&B!!(12)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(03/12/26)




奴の殺気は俺の周囲をうろついている。



狼が吼えた。・・・戦闘開始のゴングだ。




俺はそれまでの構えを解き、自然体の構えに変えた。
二匹の狼は吼えながら俺の頭上を交互に跳ねる。 ―気にせず、僅かな変化も、流れも見逃さない。
狼の間に張り詰めていた気が“揺らい”だ。・・・上からの流れで・・・上からだ・・今だ!

俺の頭上・・・狼、いや、式使いの男が降下しながらナイフを突き立てようとしていた。
こちらも跳ぶ。すれ違う。刹那、ナイフを弾く。奴の左足。落ちる際に蹴りが閃く。急所を正確に狙って。
寸前で躱すが、奴の足は肩を捉えた。バランスが崩れる。
奴は着地した。・・・・俺も、何とか着地した。

互いに間合いを狙い、一斉に右へ駆け出す。それを追う様に狼達。
奴は足を止める。狼の一匹が俺を追い越し、二匹で挟む様にする。

奴は手に持っていたナイフを俺の顔めがけて投げつけてきた。身を屈めてそれを避ける。
次の瞬間、男は構えながら俺との間合いを一気に詰めた。
霊力とスナップの効いた拳撃。スピードのある、変則的なリズムの連打。
何とか全て手で受けるが・・・押されている。

一撃一撃に対した威力はないが狙いは正確だ。油断して受けていればダメージが蓄積する、そんなパンチだ。
肩と掌に霊力を溜め、男の顔を上目使いで見上げる。
いかにも、「次、ラッシュを止めて上半身からの攻撃をします」と告げているかの様な構え。
奴の注意もそこに引き付けられた。

フェイント。
構え、奴の顔を見たままで・・・・足払い。

男がよろめいた。ラッシュが止まる。
続けて身体を捻り、肩めがけて回し蹴り。さっきのお返しだ。
男の気が乱れる。狼達の像が歪む。

奴は素早く下がって再び間合いを空けると、両手で印を結んだ。
狼達が発光し、唸り声を上げながら一匹は下半身、もう一匹は喉笛を狙って飛び掛かって来た。
身を屈めて・・下狙いの狼だけが相手だ・・そいつの首根っこを両腕で締め上げながら唱呪する。


「おんかへりたまへ かへりたまへ じゅうとふたつのつじから しきよばれしけものよ
 じゅうとむっつのかどをまがりて ほそみち しきかへりたまへ・・・!」


効くかどうか分からねえが・・同じ東洋系の式術ならば・・・・!
・・・・・見事に効いた。小竜姫の机上修行も捨てたもんじゃないって事だ。
狼は炎を上げながら霧散し、後には焼け焦げた木の札が残った。
男は舌打ちしながら懐に手を突っ込む。

「・・・式札がこれだけだと思ったら、大間違いだ・・・!」

させるか。俺は男に向かって駆け出した。
奴の側に戻っていた狼が俺に向かって来る。一匹だけなら大した事はねえ。
拳に霊力を込め、矛をイメージして尖らせる。
その多様さで横島には及ばないが、イメージ次第で霊波を自在に変化させる
・・刃物にもハンマーにも・・事が出来る様になった。


「・・・・っらあぁっ!!」
――――ドガアアァッ!!


その一突きで狼は、吹き飛ばされながら依の札に還っていった。
次は野球ボール大の鉄球をイメージする。霊力の大半が腕の奥に引っ込み、ボールサイズの霊波が掌に残った。
右腕全体をピッチングマシーンにする要領だ。続け様にぶつけてやる。さっきのラッシュのお返しだ。


「・・・・・!!」

「・・・・くらいなっ!」


背を向けて逃げ出そうとした男に霊波ボールの連投が炸裂した。そのまま、植え込みの向こうまで吹っ飛ばされる。

・・・・気配は完全には消えていない。あれで勝負が決まったとは思わない方が良い。
俺は止めを刺すべく、植え込みを飛び越えた・・・奴の姿はなかった。


・・代わりに・・・マッキー、マニー、ロナルド・・・“デジャブーランドのお友達”が、大集合して俺を見ていた。
明らかな殺気を漂わせて・・・。


そこらにいたのが全部集まって来ている様だ。考えるまでもなく、奴らの術で操られているのだろう。
何の呪法だか(札とか貼られているのかも)分からないし、パワーも不明だ。
一斉に飛び掛かられたら押え込まれてしまうかもしれない。

俺はそいつらと正反対の方向へ駆け出した。
そいつらはいつものスキップする様な足取りで、一斉に俺を追いかけて来た。



ドドドドドドドドドドドド・・・・・・・・ッッ!!



魔装術を装着した状態で走る俺と、それを一心に追いかける大勢の“デジャブーランドのお友達”。
ニュースを知ってか知らずか場内には、まだ結構親子連れの客とか残ってたが、その愉快なアトラクションに
近付こうとする奴は一人もいなかった。

こんなのはまとめてでも、一体一体ででも、相手にしたくねえ。こいつらを操ってる奴を見つけて倒すべきだ。
現に俺を追いかけている、この愉快な仲間達の始末は・・・。

狭い通路に入る。向こうは一列になって追って来る。
俺は、ある地点で立ち止まり、連中に向かって行った。
向こうも俺に群がろうとする。俺は連中の一歩手前でジャンプした。
最後尾の背後に立つと、そいつがノロノロと振り向いている間に溜めを利かせ、
振り向きざまにタックルを食らわせる。
そのまま押し出し、先頭から順に俺の最初に跳んだ場所―階段手前―から落して行く。


階段下の方で爆炎が上がった。将棋倒しになった愉快な仲間達が一斉に火を噴いたのだ。
・・・このラストと言い、俺の悪役か正義の味方か微妙な感じの姿と言い、あまりガキに薦められるショーでは
なかっただろうな・・。



―――背筋に寒気が走った。嫌な予感。・・・足元だ。


足元を見る・・・あまりにもここに似つかわしくないもの・・古びた日本人形が転がっていた。
一個だけではない・・・二個・・・三個、四個・・・・規則正しく、俺を囲む様に・・

・・・!!駄目だ、それ以上それを見るな。その場から離れ・・・・・・・

・・・遅かった。


俺の立っている場所が、今までの夕方前のデジャブーランドではなくなった。

薄暗い大広間の和室・・・一体何畳・・いや、果てが何処にあるのかも分からない広い大広間・・・・。
天井近くにはおびだたしい数の遺影が並び、水墨画や浮世絵、よく読めない旧い文章とかが書かれた衝立てで、
至る所を仕切られていた。
箪笥や小さな棚も無造作にあちこちに置かれ、その上や畳の上に今見たのと同じ日本人形が置かれ・・いや、転がっている。
それらは何十年放置されてたのかと思うほど、埃をかぶり、どこかが腐食しているものも見られた。

・・・・果てしなく、薄気味悪い光景だった。


試しに走ってみる・・・衝立てを吹っ飛ばし、足元の人形を蹴散らしながら・・・2,3分ほど走って立ち止まる・・・


さっきと同じ場所だった。

・・・・同じ配置で足元に日本人形が転がっていた。


やはりな・・・一見、日本風の(かなりタチの悪い)趣味だけど、実際のシステムは中国式の結界迷宮陣だ。
しかもマニュアル通りのものじゃねえ・・・あちこちアレンジがあるみてーだ・・・組んだ奴以外に仕組みは分からない。

聞き覚えのある声が・・・前聞いた時と違う凛とした響きで、誰もいない筈のその広間に響いた。



神帝、神将、賢老各位、祀り奉る

朱雀 鳳凰 白虎 玄武の四聖獣にて祀り奉る

八卦にて祀り奉る

十六礼にて、祀り奉る

迷わせ遊ばせ奉らん   ・・遊ばせ迷わせ奉らん



ボケナス呼ばわりされていた、あのスーツ姿の男の声だった。
続けて別の声・・・あの中年男の声が聞こえて来た。

「ハハッ、どうだい?伊達センセー?見張りもろくに出来ねえアホガキだけど、この迷宮作る事では日本に
こいつ以上の奴はいないって言われてんだぜ?」


不意に左の衝立てが倒れ、さっきの式使いの男が飛び出して来た。男はそのまま手刀を突き出した。
間一髪で見切って避けると、反撃の暇を与えず奴は姿を消した。・・・衝立ては元通りになっていた。


「こいつのこの結界の中では俺達の隊は無敵さ・・・例え、あんたが相手でもな・・。」

「あんまし、無駄なてーこー、カマさねえ方がいいんじゃないですかぁ?・・・結構怖いでしょ?そこぉ。
演出、けんきゅーしちゃいましたってんだよ。ビデオ見て。・・やっぱ和風よ、わふー。」

へらへらと、悪意も窺える声で、この薄気味悪い部屋の創造者は能書きを垂れている。
レストランでの事、根に持ってるのか・・・・?


後ろの衝立てが吹っ飛んだ。さっきの式使いと同じ黒い戦闘服。別の奴だ。デブの大男で・・・長い棒を握っていた。
そいつを頭上に掲げるとこっちを見据えながらブンブンと回転させる。・・・・今度は棒術使いか。
デブが腰に力を入れて突き出して来たその棒を紙一重で避け、その先端を掴む。
振り払おうとする前に、自分の霊力を流し込みながら握った手を根元まで滑り込ませる。

デブが棒に込めた霊力はそのまま逆流した。痺れているそいつからその霊力棒を奪う。


――馬鹿野郎。猿の数百倍遅え。・・・こっちは棒術の元祖の神から直接教わってるんだ。

「本物の棒術、見せてやるぜ・・・。」


腕と脚の付け根、鳩尾、顎に連続して突き。そして、顔面ヒットの一振り、返しのもう一振りでその巨体を薙ぎ払う。
衝立てに隠れる暇も与えなかった。そしてそのまま・・・



「―――どおりゃああああああああああっっっ!!」

ぶんぶんぶんぶんぶんぶんっっ!!


・・・・・文字通り、猿のサル真似。
・・・滅茶苦茶な勢いで棒を振り、回し、衝立てを次々と吹き飛ばす。畳も引っぺがす。
吹き飛ばしながら少しずつ移動する。


「ハア?・・・・んな事したってムダじゃねえ?何か分かってねーな、このオヤジ。」


―分かってねえのは、お前だ。

確かに俺が破壊し、移動した後から、迷宮は修復されて行く。
だけど・・・修復する時、変化する時、結界はそのシステムの構造を垣間見せてくれるのさ。
・・・・お前の様な、正道の基礎を積み重ねてない奴が自己流の邪道で作ったってシロモノは、特にな。

構造のバレてる結界迷宮なんてのは、地下鉄の駅と・・・



「地下鉄の駅と一緒さ。・・どこからでも出られるし、どこへでも出られる。」



背後から声。振り返るとレストランの中年男。ウェイターの制服ではなく、黒革のコートを着ていた。
背後に何かが浮かんでいる。・・・・ざんばら髪の日本人形。・・・・無数に。

「てめー・・・カッコつける前にその背景、何とかしろよ。・・何か・・祟られてるみてーだぜ?」

「祟られてるのを祓うのがGSの仕事だろ?うちらの場合、時には祟ったりもするがね・・。」

日本人形の群れはふわふわと漂ったまま、俺に近付いてくる。
突如、四方から人形とも異なる霊波が同時に俺に迫って来た。何だ・・・?
目の前まで来てやっと分かった。霊波の込められた・・いや、霊波で出来た・・極細のワイヤーだ!
一瞬で俺に何重にも巻き付き、全身の自由を奪った。さっきの縛呪の正体はこれだったか・・。

衝立ての陰からやはり黒い戦闘服を来た女が現れた。その手にワイヤーの端が握られていた。

「出られちゃ、困るのさ・・・。報告をしなくちゃならない。“伊達雪之丞を確保しました”って報告をね。」

日本人形は俺の側まで来ると、見た目によらぬ乱暴さで俺の髪や顔の皮膚や服を引っ張り始めた。
これが攻撃って訳でもないだろうが他に何かする様子はない。だが明らかな負の気配が漂っている。・・敵意が。
目の前の男と同じ敵意が。・・・こいつは「人形使い」って訳か。マッキー達を操ってたのもこいつだ。

「・・・・・誰に、するんだよ?・・GS協会のよ、誰に?何の為に!?」

「慌てちゃ、いけない。・・・まずは、隊長に報告さ。チームプレーの基本だろ?」

「糸使い」の女の反対側にある、所々破れた衝立ての陰から男がもう1人現れた。
白いロングコートを着たそいつは、その非常に悪い目付きで俺を睨み、続けて中年男を睨んだ。


「隊長、伊達雪之丞の身柄を確保しました。現在、完全拘束状態です。」

「・・・おう・・・・・」


隊長と呼ばれた男は無愛想に、横柄に頷いた。
金髪に染めた髪は昔と比べかなり短くなってるが、相変わらず逆立てている。
足元の日本人形に視線を向けると、バカにしたような笑みを浮かべ、そのままそれを蹴っ飛ばした。
そして俺を見る。笑みを浮かべているが、睨んでいる。

そういうツラの出来る奴だったな・・。


「随分と・・・・随分と久し振りじゃねえか。なあ?雪之丞!?」


「てめーが隊長・・?俺を“絶対倒す”?・・・盆と正月が一緒に来たような大出世じゃねーか・・?」












そう思わねーか?なあ?







・・・・・・・・陰念。


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 Bodyguard & Butterfly !!
 (続く)
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ゆっきー棒術シーン、脳内BGMはやはりと言うかなんと言うか「モンキーマジック」でした。
(80年代以降生まれの人に分かってもらえるかどうかが、微妙な話です・・・汗)

隊長出て来てやっと折り返し地点です(うわ)。
敵性GSチーム隊長の正体が陰念。と言う衝撃の(?)展開になった所で今年最後の投稿になりそうです・・・・。
(他の人への感想とか感想返しとかは別ですが)
ちなみに、ここでの呪文に原典はありません。
「式」は冥子ちゃんやマーくんの式神とかよりレベルの低い、インスタントなものだと言う設定です。

では、一足早めですが、良いお年を・・・・・。

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