ザ・グレート・展開予測ショー

キツネの聖夜(ホーリーナイト)


投稿者名:BOM
投稿日時:(03/12/25)


「サンタって何?」

街がクリスマス一色に染まる中、私はそう聞いてみた。

「クリスマスにプレゼントを配る、やっかいなおっさんだ」
「そのプレゼントって、貰って嬉しい?」
「う〜ん、まあそれは人それぞれだな」
「・・・ふ〜ん」

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     キツネの聖夜(ホーリーナイト)

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その日、世界は雪に染まった。“ホワイトクリスマス”そんな言葉が一番似合う日だった。
そんな中、美神所霊事務所の面々はクリスマスパーティーということで魔鈴の店でドンチャン騒ぎだった。

そしてその帰り道。

「いやあ、食いましたねー!」
「私もお腹いっぱいですよ」
「油揚げがなかったのは残念だけど、それでも結構美味しかったわ」
「でもシロも可哀想ね、こんな時に長老から呼び出しくらうなんて」

そう、今日に限ってシロはいない。というのも長老から手紙が来たからで。
『通行手形の更新日が迫っているから早く帰ってこい』という手紙が。シロはさんざん行きたくないと駄々をこねたのだが結局行くことになってしまった。横島に3ヶ月毎日散歩してもらうことを条件として。

「まあ肉は魔鈴さんのトコから貰ってきましたから帰ってきたら食べさせてあげますか」
「そうね、ま、取り敢えず帰ったら・・・飲むわよ!」

ずどおっ

「い、いきなりですか!さっきあんなに飲んだばっかりだってのに!?」
「何よ、たったあれだけでお酒とは言えないでしょ?」

けろりとした表情で返す美神。しかし横島達が騒ぐのもムリはない。何せ先程西条と唐巣神父と飲んでて2人ともK・Oさせしまったのだから。その上今から飲むとなると・・・吐き気がしてくる。

(その内ビール腹にでもなってスタイル崩れるんじゃ・・・」
「何ですってぇ!?」
「ああっ!また声に!?・・・はぶぁ!」

ばきゃっ!という音と共に宙に舞う横島。2,3m上空に滞空した後で勢いよく落下した

「・・・・・・バカ」

そう言うタマモの口調には決して軽蔑の意味なんか込められて無く、寧ろ好んでいるかのようだった。
なぜならこれがタマモにとっての日常で当たり前の風景。横島がこうやってバカをやって、美神がシバいて、おキヌがそれをなだめて、シロが横島を散歩に引きずって行く。シロは今いないけど、こんな風景がタマモは好きだった。
それにタマモ、最近横島のことが何となく好きなのだ。惚れただとか愛だとかそういったものではなく、ただおぼろげに頭の中に浮かんでくる存在。

「一緒にクリスマス過ごすなら誰がいい?」

なんて聞かれて

「う〜ん・・・」

と、考え込んだ後で名前が出てくるような、そんな存在。
しかし、タマモにとって横島は結構ランクの高い位置にいることは間違いなかった。

その時、上空からキラリと何かが光って墜ちてきた。

ひゅぅぅぅぅぅううううう・・・・・・
どがっしゃーーーんっ!

「な、何なの一体!?」

落下地点からは煙が巻き上がる。驚く一同。ただ驚けないのは落下物の下敷きとなっている横島だけだ。
とにかくソレの正体を確かめようと美神が近づく。だんだんと煙が晴れていく。そしてそこにいたのは、

「あいたたた、何でソリから落ちなアカンのや?まったく・・・」
「サ、サンタのおっさん・・・」
「ん?何やお前らか、一体どないしたんや?」
「ねえ・・・おキヌちゃん?」
「何、タマモちゃん?」
「・・・このおっさん、誰?」

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「・・・で、サンタがソリから落っこちたって訳ね?」
「やかましいわ、猿も木から落ちるっちゅーやろ?」
「説得力の欠片もねーな、おっさん」
「うるさいわい!」

取り敢えずサンタが言うには、クリスマスプレゼントを運んでる途中、ソリに乗るときにうっかりと足を滑らせてしまったらしい。決して酔っぱらっていたわけではない、というが胸元から見えるウイスキー瓶は何?と聞かれて一瞬固まってしまったが。

「このままやったら子ども達にプレゼント配られへんやないけ、また腰が痛くなってきよったし・・・」

少し考え込むサンタ。そして顔を上げて一言。

「・・・お前ら、代わりにプレゼントを・・・「イヤよっ!」」
「は?」
「いくらサンタと言っても、前みたいに寒い中で24時間凍えさせられたんじゃたまんないわっ!とにかく
 私はパスッ!絶対にやらないからね!」

そう言うやいなや美神は全力の限り走り去ってしまった。呆然とするサンタとおキヌとタマモと横島。

「美神さん、上手く逃げたな・・・」
「そ、そうですね・・・」
「何や全く、人の話も聞かんといて・・・で、お前らは?」

横島達に聞くサンタ。横島は経験があるので即答。

「嫌だ!俺は絶対やらんぞ!また世界中を一日かけて飛び回るのは冷たくて寒くて嫌なんや!」
「大丈夫や、今年は結構早くすましたからな、配るのはここらへんやからそう時間もかからんで」
「・・・本当だろうな?」
「本当や、サンタを信じんかい!」
「う〜ん。おキヌちゃんとタマモはどうする?」
「やっとけやっとけ、サンタの手伝いなんて一生に一回できるかどうかやで?」
「あのな、そうやって誘おうとしているのは見え見えで・・・」
「面白そうだから行ってみるわ。その代わり横島もついてきてね?」
「なっ!?ってかなんで俺も行かなきゃなんないんだよ!」

ボオッ!
タマモの狐火が灯る。

「文句は言わせないわよ?」
「・・・行かせて頂きます」
「じゃあ2人で行ってきて下さい、私はサンタさんを連れて事務所に戻ってますから」
「そう?じゃあ悪いけど行ってくるよ」
「わかりました、気をつけてくださいね」
「横島、行こう!」

というわけで、いつの間にかサンタルックに着替えてソリに乗り込む横島とタマモ。サンタが横島に告げる。

「ほな頼むわ、今回はワシのミスやからな。終わったら袋から1コ出してみぃ、ええモン出てきよるさかい」
「また前見たくオモチャが出てくるんじゃないだろうな?」
「大丈夫や、今回はホンマに欲しいモンが出てきよる」
「マジかっ!何でもなんだな!」
「ただし1つだけや。金とかそーいったモンもムリやで」
「わかったわかった!よしっ、行くぞタマモ!おキヌちゃん、サンタのおっさんよろしくね」
「じゃあ行ってくるわね、おキヌちゃん」
「任せて下さい、2人とも気をつけてくださいよ?」

シャンシャンシャンと鈴が鳴る。それはサンタがプレゼントを配りに行く合図。そして、

「「 じゃあ行ってきまーす! 」」

雪の降る空に2人の乗るトナカイが走っていった。・・・のだが、

「ねえ横島?これって異常に速くない?スピード…」
「そういえばそうだな・・・ってもしかして!?」

そう、確かにプレゼントの数は前よりは少なかった。ソリに配達伝票が書いてあるのでそれを見てみる。
そこには・・・

「え〜と、北海道、長野、群馬、広島、長崎、愛媛、沖縄、え、択捉島!?ちょっと待てこらァ!何だよ
 この滅茶苦茶な配達の方法はーっ!?」
「それでこのスピードってことはまさか夜明けまでに日本全国回るつもりなのっ!?」
「またこれかーっ!!」

横島の叫びは虚しく空に響く。
その声はもはや音速を超えたソリからこぼれ落ちて星空へと消えていった・・・



「ぐはぁ、はぁ・・・もーやだっ!これ以上やってられっかー!」
「私も・・・もうダメ・・・」

ボロボロになりながらソリの上でぐったりとする横島とタマモ。まあたった今まで日本中を巡ってきたのだからムリもないが。

「取り敢えず一旦休むか。そこの公園にでも降りるぞ」
「・・・わかったわ」

トナカイを操ってソリを下へと降ろす横島。
ゴーッ、ズシャッという音の後、雪で真っ白な公園へと降り立ったサンタ2人。

「ふう、それにしても疲れたな。タマモ、おつかれさん」
「まさかこんなに疲れるとはね、思っても見なかったわ」
「ったく、あのおっさんめんどくさいことばっか押しつけやがって!おっと、そう言えばこれがあったな」

そう言って横島はソリから袋を出す。さっきサンタから渡された袋。好きな物が何でも出てくるという袋。

「さてと・・・どうする?」
「どうするって?」
「どっちが先にやるかだよ。タマモ、先にやるか?」
「う〜ん、じゃあそうする!」

ずぼっ
タマモが袋の中に手を入れる。一瞬、袋が光った後で取り出したタマモの手に握られていた物は、

「・・・なんだそりゃ?」
「お揚げね、日本全国の」
「お前それが欲しかったのか?」
「うん」
「・・・じゃ次は俺だな、よっしゃ!」

横島が意気揚々と袋の中に手を突っ込む。だが途中で手が止まる。

(待てよ?・・・俺って一体何が欲しいんだ?この袋もらった時は何にも考えてなかったが・・・
 世界中の綺麗なねーちゃんか?美味いメシか?ゴムのゆるんでないパンツか?・・・どれも違う気がする。
 俺が一番欲しい物って、一体・・・?)

そう悩む横島の目にタマモが映る。プレゼントとは関係ないがふと、横島は直感的に思った。

(う〜ん、可愛いよな、やっぱ。俺はロリじゃないけどいつかタマモがそれ相応に成長したら・・・う、
 やばい鼻血が・・・んっ!?)

そう横島が気づくと袋が光る。そしてその中の手に何かを掴む感触がする。思いっきり引っ張ってみる横島。
すると・・・

ぐいっ
タマモの襟元が引っ張られる。驚いて見てみるとそこには・・・手。

「え?ちょ、ちょっと何コレ、横島!?」
「どうしたタマモ・・・って、ええっ!?」

驚く横島。まあ仕方が無い。そこにはタマモがいない。あるのはタマモがさっき持っていたお揚げだけ。
半分パニックになりかける横島。すると突然、袋に入れてある手から重みを感じた。
不思議に思い手を思いっきり引っ張り抜く横島。すると・・・

ぽんっ

いい音を立てて出てきたのは襟元を掴まれて丸まってるサンタルックなタマモ。
元々タマモは狐だし、狐の習性は猫に似てるので丸まるのもムリは無いけれど。
そして今の2人はいわゆる『お姫様だっこ』の状態にあった。

「へ?横島?」
「どわあああっ!何でタマモが袋から!?」

どくんっどくんっどくんどくんどくん・・・
お互いの心臓は既に8ビートを叩きまくっている。サンタの服を通して鼓動が聞こえてきそうだ。
不意に、顔を真っ赤にしながらタマモが横島に聞いてみる。

「・・・ねえ、横島?何で?」
「・・・な、何がだ?」
「何で私が袋から出てきたの?これは一番欲しい物が出てくるんでしょ?」
「た、多分な・・・」
「ってことは私が欲しいってこと?・・・アンタ一体何考えてんのよ?スケベ!」
「えっ?い、いや、その・・・」

何やら他の人が聞いたら誤解を呼びそうな事を横島に聞くタマモ。そのせいか横島はあたふたとなる。
タマモを抱きかかえながら慌てるその様は妙に面白い。

「い、いや俺はその欲しいとかじゃなくてその、けっしてイヤらしい思いなんかなくて・・・
 タマモって可愛いよなあとか思って・・・」
「は?」
「だからその、タマモみたいな可愛い奴と一緒にいたら・・・クリスマス楽しいんだろうなあって・・・」
「・・・」
「そりゃもちろん美神さんやおキヌちゃん、シロと一緒にいるのもいいんだけど今日はタマモと一緒に
 いたいかなあとか思っちゃって・・・」
「・・・バカ」

(・・・どうしてだろう?どうしてこの男はこんなにも私の心を鷲掴みにするのだろう?
 何でこんなにタイミング良く、私の心を奪っていくのだろう?最初はバカで、スケベなだけだったのに。
 奪われていく私の心、でもイヤじゃない、むしろ奪われて欲しいとどこかで願っている私の心。
 そんな心を持つ私が、ここにいる・・・)

「横島・・・」
「ん?何だ、タマ・・・もっ!?」

唇と唇を重ねた。ちょっとだけ、時間にしてみればほんのわずか。
それでもタマモにとってはそれで十分だった。

(あったかい、横島の唇。幸せな、横島とのキス。私が好きな、横島・・・)

「・・・私はまだあげないからね?今は、これだけでいいでしょ?」
「え?・・・っていうか俺はあげるとかもらうとかではなくってだな!もっとこう純あ・・・むぃ?」

(それ・・・純愛でしょ?続きはわかっているけど聞きたくないの。今は横島とこうしていたいから・・・)

サンタが私にくれたプレゼントは、お揚げなんかじゃなかった。
私が聖夜にサンタから貰ったのは、貰ってとても嬉しい物、かけがいのない大切な人だった。

おしまい

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