〜『影とキツネと聖痕と 5 前編』〜
投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(03/12/25)
〜 appendix.7 「・・・・・」 〜
「・・横島・・。」
・・目の前で横島が闘っている。
敵の攻撃を避けきれず、つまづきそうになりながら・・・
・・それでも・・止まろうともせず駆け出して・・
・・・。
見ているだけで心臓が凍りつきそうになった。
こうなることだけは避けたかったのに・・自分は、彼を止めなければいけないのに・・・
なのに・・どうして意識が遠のくのだろう。
もう一度だけ、彼の名前を口にした。
◇
狂乱の雷が宙を舞う。
怒り、混乱、焦り・・・それら全てが内混ぜになった黒い光。
「この世界で・・ボクに敵う奴なんていないはずなんダ!!それヲ・・ソレヲ・・!!」
「ぬかせ!!」
稲妻をかいくぐり、横島は何度となく霊波を叩き込む。
それに全くひるむ様子を見せず、何度となく悪魔も立ち上がり・・・
「てめぇがいくら強かろうと・・そんなこたぁ関係ないんだよ・・・。」
横島が一つ、つぶやく。
「相手が誰だろうと・・何だろうと・・負けられねぇんだ!!・・絶対に・・。」
〜『影とキツネと聖痕と 5 前編』 〜
裏路地。
暗闇の中、初老の男が歩いていた。
口笛を吹きながら、彼は上機嫌そうにあごを撫でつけ・・・
「・・オカルトGメンか・・。相変わらず匂いを嗅ぎつけるのが早い・・。」
表情を崩さず、そう口にした。首筋に突きたてられた刀身が光を放つ。
「・・動かないほうがいい。僕の霊剣ジャスティスに斬り裂かれたくなければね・・。」
物陰から現れた男・・西条は、威圧をかけるように敵を睨みつけ・・
・・それを意に介さぬように男が笑う。
「・・・君たちの顔はもう見飽きたんだがねぇ・・。」
「・・こっちのセリフだ。最近、行動が活発化したかと思えば・・この街にまで現れるとは・・。」
「それだけ我々も必死だということだよ。
メドーサが一度しくじっているのでね・・もう、計画に失敗は許されない。」
・・・・・。
・・・・しかし・・・・・、と老人がつぶやく。
彼は、さも落胆したかのように肩をすくめて・・・
「今回の悪魔はダメだな。情緒が不安定すぎて使い物にならない・・。
力は相当なものなのだが・・」
「・・・・・・。」
・・・。
西条は理解できなかった。
目の前の男は、何故自らの同朋に対して、ここまで冷酷になれるのだろうか?一体、何を考えているのか・・。
「怒っているな。私が許せないかね?」
「・・当然だ!!貴様のせいで・・僕の友人が何人傷ついたと思っている!
タマモ君は・・もう少しで死ぬところだった・・!」
「これから死ぬかもしれんぞ?まだ戦闘は終わっていない・・。」
振り向いたその顔は・・、もはや人のものではなかった。
褐色の肌。鈍く光る灰色の瞳。
「・・横島君があの悪魔を倒すさ。そして・・お前は僕に倒される。」
「・・ふふっ。・・大した余裕だ!!!」
言って、男は杖を利き腕へと持ち替える。仕込まれていた刃が覗いた。
「・・!」
「死ぬのは・・そちらの方だよ・・!!」
―――・・狭い路地に・・斬音が低く鳴り響いた。
・・・・。
・・・・・・。
・・・ヒタリ・・。
水滴が壁をつたうと、やがて、ゆっくり地面へと染み込んでいく。
最後に立っていたのは・・西条だった。
すぐそばには、うつ伏せに倒れる鬼の体躯が一つ。
「・・なんとか・・なったか・・。どうやら、戦闘向きの魔族ではなかったようだな。」
言いながら、彼は煙草に火をともす。・・徹夜明けの一本というのも数ヶ月ぶりだ。
・・・・。
「・・ククッ・・・。無駄だよ・・・私を始末したところで・・」
西条の姿が見えているのか、いないのか・・
初老の男、・・もう人の面影など無かったが・・、は息絶えながらうめくようににつぶやく。
「・・・・・。」
「・・ヒヒッ・・ヒャハハハ・・ヒャハハハハハハハッ!!!!」
一面を覆う黒の中、妖魔は断末の瞬間まで笑いつづけた。
◇
(・・・なぜ・・死なない・・!?)
信じられない状況に、スティグマーターは目を見開く。
豆鉄砲程度にしか認識していなかった青年の攻撃。・・・それが・・。
・・それが何十発も蓄積するうちに・・・
(・・ボクが・・追い詰められている・・?)
・・・・まだ・・余裕はある。青年自身も、もう大分、消耗し始めている。
・・・・。
・・しかし・・現状を言えば、明らかにこちらの方が劣勢。
「・・!!なぜ死ななイィ!!!!!」
悪魔が腕を振り上げる。
・・その動作を・・横島は冷静に観察していた。
思ったとおりだ。
この悪魔は自らが傷を負うことを、異常なまでに恐れている。
本来ならば、太刀打ちできるような相手ではないはずなのに・・敵の逃げ腰な動きがそれを可能にしている。
(・・・そして・・・)
・・・勝機が・・、もう一つあった・・。
「こノォォォォォ!!!!」
怒りに我を忘れたように・・スティグマーターが横島へと飛びかかる。
それに横島は・・毛ほどの反応も見せようとはしなかった。
――・・いや、見せる必要がなかったと言うべきか・・・。
・・・。
「エ?」
グラリ・・・と。
突然、悪魔の視界が揺れた。
全身が急に重みを増す。身動きが・・全くとれなくなる。
「・・これハ・・?」
自問するように震える声。自分がヒザをついたことを知ったのは・・それからさらに数秒後だ。
・・・・。
「勝負あり・・だな。」
構えをときながら横島がつぶやく。
「・・なん・・ダト・・。」
「フルパワーで・・いや、それ以上の出力で力を使いすぎたんだ。
オレと会ったときにはもうボロボロだったみたいだしな・・・。」
「・・・もう、お前に戦闘は無理だ・・・。」
・・言われて・・・
悪魔は、驚愕の表情で自分の手のひらを見つめる。
酷使しつづけたその体は・・朽ち果てた樹々のようにやせ細り・・
・・・・。
(・・ばかナ・・・。)
・・・。
・・有りえない。
・・自分が・・敵よりも闘い慣れていなかったことは・・認めよう・・。
自分の弱点にだって、途中から気付いていた。
・・・それでも・・・・・それでもこんなことは有りえないのだ。
これは象とアリの喧嘩だったはずだ。・・敵と自分との戦力の差は数倍などという可愛いものではない・・。
・・なのに・・・それなのにこの現実は・・・・
「・・お前ハ・・一体・・・」
ただの人間だと思っていた存在。・・それに・・今は、寒気を覚えた。
何もかもがおかしい。
何をやっても勝てる気がしない。
まるで、この結末に・・横島が勝利するという結末に・・あらゆるものが加担しているような・・。
時間も・・運も・・偶然も・・・この終着に向かうことを望んでいるような・・・そんな錯覚を覚える。
・・・。
「・・いや・・、錯覚ではないカ?」
「?」
異物を見るような瞳が横島へと向けられる。
それを横島は・・キョトンとした顔で見返して・・・
「・・!んなことより・・さっさとタマモの力を戻しやがれ!!そうしたら・・別に追いやしねぇ・・。」
弾かれたように体を前に乗り出した。
「・・・自覚が・・ないノカ・・?」
「・・さっきから何、わけ分かんねぇことを・・。いいから戻すのか戻さねぇのか、はっきりしろ!」
・・・。
嘘をついているようにも見えない横島の様子に、悪魔は少し腕を組む。
「・・・まぁ・・イイ・・。ボクも死にたくはないしナ・・。」
唇を歪めながら、スティグマーターは緩慢に立ち上がり・・
そして、その全身から、青白い光が立ち上った。
暗闇から一転して、辺りは幻想的な風景に包まれる。
「・・これがあいつの霊力の結晶だ。放っておけば、自然とあるべき場所へ還るダロウ。」
言った瞬間、悪魔は大きく跳び上がる。気付けば、彼はもう手の届かないところまで移動していた。
「いい気にナルナヨ・・。いずれお前ハ殺してヤル・・。」
「・・・・。」
悪魔の言葉を無視するかのように、横島はタマモの方へと向きなおる。
そのまま・・二人の距離はどんどんと広がって・・・・・・
「―――・・それと・・これはボクからのプレゼントだ・・。」
!?
低い声。
振り向いた時、目の前に広がったのは・・閃光だった。
鈍い金属音をたてながら・・タワーの鉄塔の一部が弾け飛ぶ。
「その狐には、制裁が必要だ・・。」
・・タマモを中心にして、次々に足場が崩れていく・・・
意識を失ったままの彼女は・・そのまま、宙に放り出されて・・・
「・・タマモ!!!」
叫びと跳躍はほぼ同時。
横島は、一瞬の躊躇も見せず、空中へと身を投げ出した。
一直線に落下して・・少女を両腕で抱きしめる。
横島の瞳には、タマモの姿しか捉えられていなかった。
哄笑を残して去っていく悪魔にでも、同様に危険にさらされる自分にでもなく・・ただ彼女の姿だけを・・
「・・よこ・・しま・・?」
「・・もう少し寝てていいぞ・・タマモ・・。・・なんとかしてやるからさ。」
「・・・うん・・。」
安心したように微笑んだあと、少女は再び目を閉じて・・・・
・・・・。
「・・守ってやるからな・・必ず・・。」
感じる温もりを確かめるように、もう一度だけ・・タマモをかき抱く。
地面は・・もう目の前へと迫っていた。風圧が容赦なく体を襲う。
横島は・・眼前の『死』を、強く・・強く、にらみつけた。
〜続きます〜
『あとがき』
うう・・しばらく皆さんのお話にコメントをつけられず、すいませんでした〜
というのも・・・私のパソコンが壊れてしまいました(泣)家族兼用のパソを使って、あとがきを書いてます〜
うう・・大量のテキストデータが・・飛んでしまった・・。GTY用の短編が・・なんと4つも(全てタマモがヒロイン(笑))
くぅ・・次の長編もほとんど書き終わってたのに・・また打ち直しです・・。
なんとか「聖痕」は送れるようにがんばります。
それにしても・・GTYに来れる回数が減ってしまいそうで、悲しいです〜
というわけで・・クリスマスなのに・・こんな連続バトル話を・・(笑
今回、浮上した横島の謎はシリーズ全体のテーマだったり・・そうじゃなかったりします(爆)
う〜む・・頭の中で、ストーリーのスケールが大きくなってますね・・。まとまるのかなぁ・・。
あ・・ここまで読んでくださってありがとうございました〜次回は、5の後編とエピローグです
それでは〜
今までの
コメント:
- 何?ついに最終回ですと?それはうれしくもあり悲しくもあり・・・
つまりヒロです(意味不明)
横島クンがダイヴして死んだ?だから最終回?なワケはないけど・・・
何気に舞台裏で活躍してくださった西条がおいしいです。
であであ〜これからも頑張って下さいませ〜 (ヒロ)
- イヤーやっぱり西条は、いつもオイシイ所で登場してくれますね。でもダイブした後の横島は、このピンチを、どう乗りきるかカナリ気になります。つーか、そろそろ文殊が切れるところやし!!それと、かぜあめさんは、もう次の長編を書いていたんすねー!さすが!!まートラブルが有った様ですけど、これからも頑張ってください。 (GTY)
- >私のパソコンが壊れてしまいました
Σ(゚д゚*ノ)ノ…なんですとっ!?Σ( ̄ロ ̄ll)
「聖痕」がラストに近づいていることもありけっこう緊迫感のあるストーリーでした。おっちゃんも死んじゃったし、横島は今にも死にそうですし…ああ、続きが早く読みたい!故にPCの早い復活を待っています。ではっ! (BOM)
- なに!!パソコンが壊れた?なんてこった!
しかもタマモヒロイン短編四つも連れて心中ですか?
いやああああああああ見たかったあああああああああああ!!
それにしても横島の謎が気になります・・・がそれ以上にタマモの幸せが!!そしてパソコンが!
うう、頑張って下さい。めげないで下さい。タマモでGTYを制覇する日まで戦いつづけましょう!
ともに戦いましょう!タマモファンを増やすために!!
では、これからも頑張って下さい!! (誠)
- お、落ち着いてください誠さん(↑のコメント)!!どうも浪速のペガサスです。
かなりいいところで終わりましたね〜!この後横島はどうなってしまうのか!?タマモは!?やばい!!続きが気になる!!!PCが壊れてしまってご愁傷様です。気長に待ってます。では!頑張ってください!! (浪速のペガサス)
- 横島ならきっと守ってくれるはずです!(確信)
何故なら横島、これまで何度も窮地に立たされてきたのに、その度にきりぬけてますからね。
悪魔が何やっても勝てないと思うのは、横島の強運?ともいうべき何かを感じとったからなのでしょうか?
体が朽ちていく中での最後の制裁‥‥窮地に立った横島が、タマモを安心させようと眠らせた場面が、これまでのお話の中で一番のヒットでした。 (ヴァージニア)
- なにこれ?メチャクチャ良いではないですか!って言うか私みるの遅っ! (紅蓮)
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa