ザ・グレート・展開予測ショー

クリスマス・イブ ―後編―


投稿者名:veld
投稿日時:(03/12/24)


 


 白いタキシードと純白のウェディングドレス。
 それがタイガーと魔理さんの選んだ衣装。
 タイガーとしては、もうちょっとこだわりたかったらしいけど―――まぁ、仕方ない。
 彼のサイズにあう服は思いのほか少なく―――そして、その中で礼服、となれば―――

 今、眼前にある、白いタキシードしかなかったのだ。
 何故、そんなものだけがあったのかは―――本気で謎だが。






 「ど、どうかのー」

 タイガーに白のタキシードってのは、酷く似合わなかった。
 見つめる俺とピートと、雪―――偶然であって、そのままついてきたらしい―――は思わずその姿に笑ってしまった。
 そんな俺達に、憮然とした表情を浮かべるあいつは、自分の姿を鏡で見たんだろうか?

 「似あわねぇ」
 「まるでホワイトタイガーですね」
 「いや、白熊だ」

 好き勝手なことを言う俺達に、すっかり意気消沈しつつ―――しかし。

 「ま、魔理さんは似合うって言ってくれるけんっ!」

 堂々とのたまう彼に降り注ぐ、反論の嵐―――。

 「いや、言わないと思うが」

 「だって、似合ってないし」

 「馬子にも衣装、っていう言葉はあるが、適用されそうにもねぇな」




 そして、タイガーはかるぅく、泣いた。











 男は男の晴れの舞台に着る姿を見、女は女の姿を見ることになった。

 タイガーも、一文字さんも、お互いの姿を婚前に見る、ってのは、互い、あんまり好ましくは思っていなかったらしい。
 式場で、相手のカッコ良い、愛らしい姿を見たい、そんなこだわりがあったらしく。
 今してる、似合っているか、似合ってないか、のお披露目。それは、結局、訪れる明日の為のリハーサル、なのだろう。

 タイガーはもう、似合ってようが、似合ってまいが、どうしようもないんだけど。

 夜中、呼び出された時には本当にどうしたもんか、と思ったけれど。
 思うよりもずっと、心配に思っているらしい。不安は拭いきれないのだろう。

 きっと、意外とあっさりと済まされそうな結婚式の前日。

 それは教会の中の居住スペースの一室の中―――。






 「・・・ど、どうかな?」

 純白のウェディングドレスに飾られた魔理さんはとても綺麗だった―――思わず漏れる溜め息―――私はただ、「綺麗・・・」としか、言えなかった。
 隣に立つ、弓さんは少し悔しそうな表情。でも、強張った顔を解くと。

 「ま、馬子にも衣装・・・ですわね」

 そう、そっぽを向きながら言う。

 ―――私の脳裏に、ドレスをぐしゃぐしゃにして喧嘩を始める二人の姿が思い浮かんで―――

 「あっ、あの、その、弓さんに悪気はないんですよっ」

 と、私は慌てて魔理さんを見ると―――

 「そ・・・そう?」

 ―――彼女は照れくさそうに頬を掻いていた。



 それは、大人の落ち着きを持っている女の人に見えて、私には眩しく思えた。
 実際の年齢で言えば、私は彼女の何倍どころか、何十倍も生きてるんだけど―――。
 でも、私よりも、ずっと、彼女は大人に見える。

 純白のドレスに似合う女性、に見えた。

 「・・・本当に、綺麗です」

 「そう・・・ね、似合ってるわよ」

 「そ、そうかなぁ・・・」

 「そうですよ」

 「そうよ」

 「そ、そうかなぁ・・・」

 「そうですよ」

 「そうよ」

 「そ、そうかなぁ・・・」

 「そうで・・・」

 「そ・・・」

 「・・・」

 ・・・

 ・



































 教会から出ると、冷たい風が吹いてた。
 俺はおキヌちゃんと一緒に、事務所に向かっていた。
 雪と弓さんは、気まずそうに、それでも二人、一緒に俺達とは別方向に歩いていった。
 何があったのかは知らない―――言葉少なげに去って行く雪と弓さんの背中を見つめ、俺は少し不安だった。
 おキヌちゃんも同じように、少し不安げに、二人を見ていた。―――けれど、二人の姿が見えなくなると、その表情も徐々に明るいものに変わっていった。
 冬の吐息は白く染まり、そして、彼女の頬はうっすらと赤みがさしていた。



 「タイガーさん、どうでした?」

 「どうでした・・・って言われてもなぁ・・・」

 「格好良かったですか?」

 「・・・いや、全然」

 「そ、そうですか」

 「ん・・・でも、まぁ、強そうには見えたかな?」

 「強そうですか?」

 「うん」

 「・・・それって、どういう・・・」

 「まぁ、太ったタイガーからごついグリズリーになったような・・・一文字さんはどうだった?」

 「一文字さんですか・・・凄く・・・綺麗でしたよ」

 「へぇ・・・あの子がねぇ・・・」

 「少し、うらやましかったです」

 「そう?」

 「そうですよ。ウェディングドレスを着た魔理さん・・・とっても大人っぽくて、綺麗で・・・」

 「・・・そっか」

 「そうですよ」

 「・・・」

 「・・・」

 「・・・ちょっと、寄り道していかない?」

 丁度―――言葉が途切れた頃に。
 公園が、見えた。







 小さな公園の中は、人の気配を感じさせることなく、闇の中に沈んでいた。―――街灯の下に僅か灯りがある他には、月と星の瞬くような明度しかない。
 その中で、何をしようと思うことも無いのだけど、何気なく、ベンチに二人座り、空を見ていた。
 何気ない話をすることも憚れるほど澄んだ空気の中で、その時間を浸る。気まずさを感じない自分に戸惑いながら、二人で相手を気遣っていた。

 『『退屈じゃないかな?』』

 それは、互いに杞憂でしかなかったけれど、相手の心の中なんて、分かるはずも無いから。
 二人はただ、ぼうっ、と眼前に広がる光景を見ていた。

 遊具が跳ね返す光が、かすかな不安を誘う。寒々しい冬の風が、二人を距離を近づける。縮まる距離に、打算はなかった。下心もなく、自然、手が結ばれた。そして、肩が触れ合う。

 空を見上げた。雲が空恐ろしい速度で、流れて行くのを見、少女は胸の前に置いた手をそっと、擦った。
 ―――そして、雲が晴れた先に見えた、深い紺色の空と、星と月に、胸が騒いだ。
 光が注ぐ―――先ほどよりも、ずっと、明るく園内が見える。
 透き通るような闇に触れようと、そっと、手を伸ばした。

 そこに―――触れる、羽のような、雪。

 でも、冷たくはなく―――そして、辺りを見回してみても、見えない。

 「どうしたの?」

 尋ねる彼に、目を向け、口を開こうとして、噤む。

 そして、すっと、目を閉じた。










 どうして、そうしたのかは、分からなかった。
 けれど―――。
 何となく、何気なく。
 そう、してみた。

 すると―――。

 手が、引かれた。



 「そろそろ、帰ろっか?・・・明日、忙しくなりそうだし」

 目を開いてみると―――。
 そこには、ベンチから立ち上がり、笑顔を向ける彼の姿があった。

 「そ、そうですね!」

 う、うぅ、と心の中でうめきつつ―――彼女は引かれる手のままに、彼の隣に立とうとして―――
 転んだ。

 「お、おキヌちゃん!?」

 夜空に、ごぅんっ、と言う嫌な音と横島の悲鳴が響いたのは、同時だった。





 (横島さんの馬鹿・・・)

 彼女が目を覚ましたのは、彼の背中の上だった。
 去年よりも、少し大きくなったのではないか、と思わせる背中―――。
 錯覚かもしれない。けれど、何となく、逞しくなっているような気がした。

 さすり、さすり―――何か悪い事をしているような気持ちを抱きつつ、背中を擦る。

 「おキヌちゃん・・・起きた?」

 尋ねる彼を無視して―――
 呟く。























 「横島さん・・・好きです」

 寝言だろうか?―――聞かないフリをして。
 それでも、隠し切れない笑みを口元に浮かべながら、彼は呟いた。

 「明日・・・雪、降ると良いね」

 返事はなかったけれど、きっと。
 彼女は頷いてくれるだろう。
 きっと。



 夜空は澄み切っていた。きっと、明日は雪なんて降ってはくれない。
 だって、綺麗な星空なんだから。


 終わり。

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