ザ・グレート・展開予測ショー

クリスマス前の進路希望調査


投稿者名:誠
投稿日時:(03/12/21)




「え〜、これから冬休みになるが・・・まだ進路が決まっていない不届きな奴がいる!」

教室の一番前で教師が生徒達の顔を見回して喋る。

―――ぐが〜〜〜、くか〜〜〜〜―――

教師が見つめている先から無遠慮ないびきが聞こえてくる。
教師はこめかみをひくつかせてチョークを手に取り・・・投げた!

―――ビシッ!!―――
「いて!!なにするんっすか!」
「横島〜〜〜!!三年生の中で進路が決まっていないのはおまえだけなんだぞ!久しぶりに学校に来たんだからちゃんと聞け〜〜〜!!
後で進路指導室に来なさい!こなかったらおまえの卒業は無しだ!」
「なに!きったね〜ぞ!補習受けたら卒業させてくれるっていったじゃね〜か!」
「卒業後に野垂れ死にするか犯罪者になるかしそうな生徒を簡単に野放しにできるか〜〜〜!!」

教師は涙ながらに横島を怒鳴りつけていた。




「で、おまえはGSのバイトをしているだろ?やっぱりGSになるのか?」

放課後、教師は進路指導室で前も横島に聞いたような質問をする。

「・・・GSは特別な力のいる職業ですからね。助手をやってきて俺にも多少はそういう特別な力があるのが分かりました。免許もとりましたしね。」

いつもバカばかりやっている横島がいつになく真面目な表情で自分の手を見る。

「それで・・・免許もあるんならおまえは独立もできるんだろ?
それにピートに聞いた話だとおまえの能力っていうのは業界のなかでも高いレベルにあるらしいじゃないか。
どこかで社員として雇ってもらえるんじゃないのか?」

教師は横島の真面目だが、寂しそうな表情を見て少し心配そうに横島に尋ねる。

「独立・・・ですか。独立するにも認めてもらわないといけないんですよ。・・・俺が今一番認めて欲しい人にね。
じゃあバイトもあるし失礼します。進路は今年中にちゃんと決めますんで心配しないで下さい。」

そう言ってニッコリと笑うと横島は進路指導室を出て行った。




「横島さーん、どうでした?また先生と喧嘩してないでしょうね?先生も心配しているんですよ?」
「ああ、分かってるってピート。おまえは向こうの道だろ?」
「あ、そうですね。じゃあ、また学校で。」
「・・・仕事場でかもしれないぞ。じゃあな。」

横島はピートと別れてすぐに表情を引き締めると通いなれた事務所に向かった。

「さて・・・今ならおキヌちゃんは学校。タマモはシロと一緒に人狼の里に行ってるはずだな。」

そうつぶやいて横島は美神除霊事務所の中に入る。

「人工幽霊一号美神さんはいるか?」

横島の問いに人工幽霊一号が機械的な声で答える。

『はい、横島さん。オーナーは今リビングで書類の整理をされています』
「分かった、ありがとう。・・・よし!」

横島は自分の頬を叩いて気合を入れるとリビングの扉を開ける。



「あら、横島君学校は終わったの?それにしてもあんたが卒業できるなんて世も末ね〜。」
「来るなりそれですか・・・まあいいですけどね。いつものことだし。
それで、美神さんに今日は大事な話しがあって来たんですけど・・・。」
「な、なによあらたまっちゃって。そんな真面目な顔似あわないわよ。」

美神は少し顔を赤らめて横を向く。

「まあいいわ。わたしも・・・今日はちょっとあんたに・・・。」
「えっ?なんですか?」
「なんでもないわよ!それよりあんたの話しってのは何なの?」

美神は小声でなにやらつぶやいたていたが真っ赤な顔で激しく机を叩く。

「あ、あのですね。俺もうすぐ卒業するんですよ。それで俺をここで正社員として雇ってくれませんか?
給料も生きていける程度には上げて。そうじゃないと・・・どうしたんですか?」

美神は下を向いて震えている。こめかみに青筋も浮かんでいる・・・。

「あんたを正社員でなんて雇えるわけないじゃない!ミスもするし、お風呂も覗くし!こっちが慰謝料もらいたいぐらいよ!!
あんた最近霊力上がって少し協会に注目されてるからって調子に乗ってるんじゃないわよ!
あんたの脳みそじゃ一人で除霊もできないくせに!あんたなんてここで一生丁稚として雇ってあげるわ!」

美神は一通り悪態をつくと息を荒く吐きながら横島の方を見た。

横島は強く右手を握り、唇を噛み締めていた。手と唇から赤い血が流れている。
なにかを耐えるように地面を見つめた横島は顔を上げて美神の顔を見つめると多少怒りの混じった顔で精一杯の笑顔を作り、口を開いた。

「・・・・お世話に・・・・・なりました。」
「ちょっ・・・・・。」

―――バタン―――

制止する美神の声を無視して横島は美神除霊事務所を出た。
部屋の中には美神が一枚の紙切れを握り締めて俯き、立ち尽くしている。
その頬に流れている涙は何を思って流れたのだろうか・・・。




横島は自分がどこへ向かっているのかもわからずに歩いていた。
彼の心にわきあがってくる感情は怒りそして悲しみ・・・。
不思議と美神を憎む気にはならなかった。
結局自分は美神令子には認めてもらえなかった。
せいぜい使える丁稚・・・。
どんなに頑張っても結局パートナーにはなれなかった。

ふと気付くと見慣れた唐巣神父の教会の前に来ていた。

「・・・神父に職を紹介してもらうかな。神父なら業界でも顔広いだろうしな。」



「こんちは〜。」

横島ができるだけ普段通りに教会の扉を開くと思いもよらぬ人がいた。

「あら、横島君いらっしゃい。懺悔でもしに来たの?」
「あう、に〜に!に〜に!」
「・・・隊長、ひのめちゃんも何でここにいるんですか?」

教会にいたのはクスクス笑いながら横島をからかう美智恵と小さい両手を横島に向けて微笑みかけるひのめだった。
・・・美神と喧嘩した今あまり会いたい人物ではない。
横島は美智恵からひのめを受け取るとひのめをあやしながら口を開く。

「・・・神父に会いにきたんですけど隊長の方がいいっすかね。」
「なに?頼みごと?わたしの貸しは高くつくわよ。」
「う・・・どのくらい高いんっすか?」
「そうね〜。一生令子のお守りってのはどう?」

美智恵はニッコリと笑うが横島には笑えない。

「・・・それはちょっと。一生信じてもらえずに丁稚じゃ洒落にならないですよ。」

横島は美神との会話を思い出していつもなら言わない皮肉を言ってしまう。
だが、その横島の苦々しげな顔を見て美智恵は首をかしげる。

「・・・一生丁稚?どういう事なの?」
「さっき美神さんの所に卒業したら正社員で雇ってくれって言いに行ったんですけどね。断られましたよ。
だから隊長、Gメンの隊員にでも雇ってくれませんかね?」

横島は寂しそうに事務所でのやり取りを美智恵に教える。

「あう〜、に〜に。泣いたらめ〜よ!」

ひのめが横島の頬をペチペチと叩く。

「そりゃGメンも横島君ほどの能力者だったら雇いたいけど・・・令子に横島君を雇っちゃダメって言われてるから。
令子がね、横島君が卒業したら正社員として、人類唯一の文珠使いとして相応の待遇で事務所に迎えるって言ってたのよ?
なのになんでそんな事に・・・。」

横島は美智恵の言葉を聞いて美神とのやり取りのなかの彼女の言葉を思い出す。
『まあいいわ。わたしも・・・今日はちょっとあんたに・・・。』
あれがもしかして・・・。

「すいません隊長。ひのめちゃんお願いします。」

そう言ってひのめを美智恵に渡すと教会を飛び出した。



走りながら横島は考える。

なぜ彼女はあの時あんな事を言ったのだろうか?
ちゃんと『正社員で雇うつもりだった』などといえばよかったはずなのに。
なんで美神はあんなに素直じゃないのだろうか?まるで子供みたいだ。
わがままで、傲慢で、素直じゃなくって、訳分からないことですぐに怒って・・・。
だけど、格好良くて、仕事ができて、いい女で・・・そして、とても愛しくて・・・。

横島は全力で走り、事務所まで来るとドアを開けて荒く息を吐く。

「な、なにしに来たのよ横島!!もう・・・もうあんたは辞めたはずでしょ!!」

横島の耳にとても聞きたかった、声が聞こえてくる。
横島は顔を上げ、息を整えると美神の顔を見る。

彼女の目は真っ赤で今まで泣いていたであろう事が想像できる。
それでも彼女はいつものように、胸を張って横島を見ている。
しかし、いつもは大人に見える美神が今日は子供のように見えた。
彼女の顔には不安がいっぱいで・・・。
気がついたら横島は一歩美神に近づいていた。

「・・・美神さん。」
「・・・なによ!」
「給料とかじゃなくって・・・俺、美神さんに認めてもらいたいんです。
丁稚としてここにいるんじゃなくって、パートナーとして、美神さんが背中を預けられる一人前の男として見てもらいたかったんです。
おれの卒業後の進路希望は・・・第一希望美神除霊事務所。以上です。」

横島は美神の目を見つめてから頭を下げる。
それを見た美神は少し呆然としていたが後ろ手に持っていたクシャクシャになった紙を横島に差し出す。

「ふ、ふんっ!そんなに言うなら雇ってあげるわよ。ここに書いてある条件でよければね。」

横島は美神から紙を受け取るとクシャクシャになったそれを引き伸ばして紙面を読む。
そこに書いてあった条件は横島がビックリするほどの物で、一流のGSと肩を並べられるほどだった。
役職は美神除霊事務所副所長と書いてある。その横に『責任ある立場だからしっかりしなさいよ』とある。
そして、備考欄には・・・
『もうすぐクリスマスだけど来年のクリスマスも、その次のクリスマスもずっと怪我せずにわたしのパートナーでいる事』と書いてある。

「な、なによその目は・・・ってちょっと・・・なにすんのよ!ねぇ・・・。」

横島は美神をしっかりと抱きしめていた。精一杯の思いを込めて・・・。
美神も最初暴れていたがいつのまにか横島の背中に手を回している。

「・・・ちょっとだけ・・・だからね。」

美神は真っ赤な顔で言って横島を抱きしめ返す。

「すみません・・・美神さんの気持ちも知らずに俺・・・。」
「・・・わたしもちょっと悪かったかな〜って思うところもあるし・・・おあいこでいいわよ。」
「おれ・・・美神さんが好きです。どうしようもないくらい・・・。美神さんとずっと一緒にいたいです。
来年のクリスマスも、その次も、そのまた次も・・・怪我をせず、美神さんにも怪我させず・・・。」

横島は美神の両肩に両手を置いて真剣な眼差しで美神を見つめる。

「ダメ・・・ですか?」

横島の言葉に美神は首を横に振る。

「わたしも・・・横島君と・・・一緒に・・・いたい・・・。」

不器用な横島が精一杯の告白をし、意地っ張りな美神が精一杯の答えを返す。
外にはいつしか雪が降っていた。
見つめあう二人、そして二人の顔がゆっくりと近づいていく・・・。

「に〜に・・・チュウ?」

―――バッ―――

二人はいそいで離れ、声のした方をみる・・・。

「・・・あ、お構いなく・・・続けてちょうだいね。」

美智恵はドアから半分だけ顔を覗かせて居心地悪そうにつぶやいた。
腕の中ではひのめが横島に向けて手を伸ばしている。

「いつからいたのよ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」

美神の声が事務所に木霊した。

「横島君!令子をお願いね!!うう、当分おばあちゃんにはなれないかと思っていたわ。
次は邪魔しないから、頑張るのよ!二人とも!じゃあね。」

美智恵はひのめを連れて事務所を出て行った。

「「・・・・・・・・・」」

二人は何もしゃべらずに恥ずかしそうに見つめ合う。

「・・・続き・・・します?」
「・・・・・・・・・・バカ。」



―――終―――



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