ザ・グレート・展開予測ショー

『妹』 〜ほたる〜 (09)


投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(03/12/21)

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 『妹』 〜ほたる〜   第九話 −六道女学院 登校初日−      

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 蛍は、自分の部屋でスカーフを結んでいた。
 結び終わった後、鏡に写してうまく結べているかどうかを確認する。

「ほたるーー、準備できたか?」
「待って。すぐに行くわ」

 蛍は、六道女学院指定の学生カバンを手にすると、部屋を出てリビングルームに向かった。

「お待たせ、お兄ちゃん!」
「ほ、蛍!」

 リビングルームに入ってきた蛍の姿を見て、横島は一瞬固まった。
 大樹は新聞を広げて読んでいたが、制服姿の蛍を見て、手にしていた新聞をバサリと落としてしまう。

「どう、似合う?」

 蛍はその場で、アイドルさながらにクルリと一回転した。

「蛍は素材がいいから、何を着ても似合うわね」

 しかし、冷静なコメントをしたのは百合子だけだった。
 横島と大樹の親子は惚けたような顔をしながら、制服姿の蛍にじっと見入っている。

「ほら、忠夫。何か言うことないの?」
「か、可愛い……」

 横島は、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「ほら、何ボサッとしてんの。蛍は初日だから、校門まで送っていくって言ったでしょ?」
「あ、ああ。わかってるって」
「それじゃ、いってきまーーす!」

 横島と蛍の二人は、元気良く部屋を出ていった。




 横島は蛍に付き添って、六道女学院の校門までやってきた。

「あとは受付に行って、鬼道のところに案内してもらえばいい。一人で大丈夫だよな、蛍?」
「うん」
「横島さん、おはようございます」

 ちょうどそこに、登校してきたおキヌが校門のところにやってきた。

「おはよう、おキヌちゃん」
「蛍ちゃんの付き添いですか?」
「ああ。今日だけだけどね」
「横島さん。私が蛍ちゃんを案内しましょうか? 横島さんも、急がないと遅刻しちゃいますよ」
「いっけね! 一時限目に間に合わなくなっちゃう。じゃあおキヌちゃん、あとはよろしく」
「いってらっしゃい」

 にこやかに手を振るおキヌの姿を見て、蛍は少しだけ面白くなさそうな表情になった。

「ヒューヒュー、朝からお熱いね!」
「一文字さん!」
「朝から校門の前で逢い引きとは、おキヌちゃんもやるもんだね!」
「もう、やめて下さい。横島さんは、妹さんに付き添ってきただけですよ」
「へー、横島さんに妹がいたんだ。……ひょっとして、このコ?」

 魔理が、おキヌの隣に立っていた蛍を指差した。

「蛍ちゃんっていうんです。今日から、一学年に編入するみたい」
「はじめまして。横島蛍です」
「一学年ってことは、あたしらの一つ下だね。あたしは、魔理っていうんだ。一文字魔理。おキヌちゃんの友達さ」
「よろしくお願いします」

 蛍は魔理に向かって、軽くお辞儀をした。

「この学校で分からないことがあったら、私かおキヌちゃんに聞いたらいいよ。いつでも相談にのるからさ!」

 姐御肌の魔理は、そう言って蛍の肩をポンと叩いた。

「私は蛍ちゃんを、鬼道先生のところに案内しますから」
「じゃあ、先に教室に行ってから」

 おキヌは魔理と別れると、蛍を連れて校舎の中へと入っていった。




 ホームルームの時間が始まった。
 鬼道は自分が担任する1年B組の教室に、蛍を連れて入っていく。

「みんな、今日からこのクラスに入る転校生を紹介する」
「横島蛍です。よろしくお願いします」

 壇上にたった蛍は、クラスのメンバーに向かって、軽くお辞儀をした。

「横島は海外で生活していたんだが、事情があってこっちの学校に通うことになった」
「へえー、帰国子女なんだ」

 話を聞いた生徒たちが、ガヤガヤと騒ぎ始めた。

「それじゃあ、簡単に自己紹介を」
「両親が商社の海外駐在員で、今まで両親と一緒にナルニアという国で暮らしてましたが、
 今度こちらの学校に、通うことになりました。趣味は料理で、特技はとくにありません。
 それから兄が一人いて、GSをやってます」
「うちの学校に入れるくらいだから、霊力はそこそこ持ってる。
 今はこれといった能力はないが、潜在力はかなりあるから、油断しているとみんな痛い目にあうぞ。
 それから横島の席だが──」
「先生! 私の隣が空いています」
「おっ、星野か。とりあえず次の席替えまで、そこの席でいいな」
「はい」

 蛍は、クラス中央の一番後ろの席に着席した。

「みんな、仲良くしてやってくれよな」

 鬼道はホームルームを終えると、クラスを出ていった。

「横島さん。私、星野舞奈っていうの。よろしくね!」

 蛍の右隣に座っていた女の子が、話しかけてきた。
 身長は150センチほど。丸顔でぱっちりとした目をした可愛らしい雰囲気をしている。
 髪は肩で短く刈り揃えており、前髪をヘアバンドで押さえていた。

「こちらこそ、星野さん」

 しばらくしてチャイムが鳴り、一時限目の授業がはじまった。




 あっという間に、午前中の時間が過ぎていった。
 四時限目の授業の終わりのチャイムが鳴ると、多くの生徒が教室を出て、学食や購買へと向かっていった。
 蛍は持ってきた弁当を、机の上に広げる。

「横島さん、一緒にお弁当を食べない?」

 舞奈が蛍に話しかけてきた。特に断る理由もなかったので、机を向かい合わせにして二人で弁当を食べることにした。

「横島さんって、お兄さんがGSしてるって言ってたよね」
「そうだけど?」
「ひょっとして、美神除霊事務所で働いてない?」
「えーっ! どうしてわかるの??」
「やっぱりそうだったんだ。舞奈のカンが当たったわ!」

 舞奈は嬉しそうな顔をしながら、ポンと両手を合わせた。

「ということは、横島さんのお兄さんは、横島忠夫さんね!」
「名前まで知ってるの!?」
「いちおう理由があるんだけどね。聞きたい?」
「うん。教えて欲しいな」
「私の実家は霊符を作って売っているんだけど、以前から美神さんの事務所は大お得意様だったのね。
 一枚何百万もする高いお札も、バンバン買ってくれてたから」

 蛍は、舞奈の話しに興味を引かれた。

「でも最近、高いお札が売れなくなってきたの。
 それでうちのお父さんがそれとなく調べてみたら、横島さんの名前が出てきたってわけ」
「でも、どうしてお兄ちゃんの名前が?」
「横島さんのお兄さんの腕前が上がって、強いお札がなくても除霊ができるようになったからみたい。
 お父さんに聞いたら、何とかっていうスゴイ能力があるって言ってたわ」
「……全然知らなかったわ」

 蛍は、少し驚いたような顔つきとなった。

「お兄さんって、仕事のことは、家ではあまり話さないの?」
「私、ずっと海外で暮らしていたし、お兄ちゃんもそんなに仕事の話はしないから」
「そっか。よく考えたら、横島さんの家は普通の家庭だもんね。
 家で霊能やオカルトの話しはしずらいかもしれないわね」

 やはり霊能やオカルトの話は、GSどうしならともかく、一般人には理解し難い内容である。
 六道女学院に通う生徒たちは親もGSであることが多いが、一家の中で本人だけに霊能力がある場合、同じような悩みを抱えていることが多かった。

「でも横島さんの場合、お兄さんが腕利きのGSだから何でも相談できるわね。
 私は兄弟がいないから、ある意味うらやましいなー」
「ひょっとして、うちのお兄ちゃんって有名人?」
「そんなに有名じゃないけど、知っている人は知っていると思うよ。
 若手GSでは、実力ナンバー1だしね。私はピートさんの方が好きだけど」
「ピートさん??」

 蛍が不思議そうな表情を見せた。

「あっ、知らないんだ。バンパイヤー・ハーフでね、すっごい美形なんだよ。
 うちのクラスでは男性はピートさん、女性は美神さんがダントツ人気ね!」
「へえー。そうなんだー」
「まだまだ、この業界のことを知らないのね。いいわ、また今度ゆっくり教えてあげる!
 それから横島さんって呼び方だと少し堅苦しいから、蛍ちゃんって呼んでいいかな?」
「私も舞奈ちゃんって呼んでいい?」
「うん! よろしくね、蛍ちゃん」




 その日の授業が終わり学校から帰ってきた蛍は、一人で夕食の支度をはじめた。
 やがて夜の七時過ぎには、大樹と百合子が会社から帰宅してきた。

「ただいまー」

 さらに夜の七時半には、バイトを早めに切り上げた横島も家に帰ってきた。

「おっ、いいにおい。今日の晩飯は?」
「えっとね、肉じゃがに青椒肉絲(チンジャオロースー)よ。今日の夕食は、蛍が作ったの」

 すぐにちゃぶ台に料理が並べられ、家族揃っての食事となった。

「いただきまーす!」

 横島はすぐさま、器に盛った肉じゃがを口に運ぶ。

「う、うまい! こりゃうまいぞ」

 横島はあっという間に肉じゃがの器を空にすると、今度は青椒肉絲(チンジャオロースー)に手を出した。
 口の中で複雑で濃い味つけをよく味わったあと、ご飯を猛烈にかきこむ。

「ほんと、蛍は料理が上手ね。これだけの腕なら、どこの家に嫁に出しても恥ずかしくないわ」
「蛍の料理は、どこに行っても通用するな。しかしなあ、嫁……結婚式……ウェディングドレス……
 クーッ! 俺は絶対に、娘を嫁になんか出さないぞ!」

 大樹はどこかツボを突かれたらしく、急に両目から涙を流しはじめた。

「もう、しょうがないわね。はい、お父さん」

 蛍は持っていたハンカチで、大樹の目をぬぐった。

「ううう……。何て優しい娘なんだ、蛍は」

 大樹は、すっかり感極まった様子である。

「そうそう。学校はどうだったの、蛍?」
「うん、楽しかったよ。お友達も一人できたし。舞奈ちゃんっていうの」
「そう、よかったね」

 蛍はこれからの学校生活に対して、希望で胸を膨らませていた。


(続く)

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