ザ・グレート・展開予測ショー

真冬に贈る、真夏の物語 (前編)


投稿者名:BOM
投稿日時:(03/12/20)


雪、それは天空より舞い降りる天使の贈り物。雪、それは天使の羽からもたらされる白い贈り物。
そんな雪の降りしきる中、麦わら帽子をかぶった少女が一人。
幸せそうにしながら麦わら帽子をかぶる少女が一人。
これは、真夏の物語。真冬に贈る、真夏の物語。

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            真冬に贈る、真夏の物語

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―― 夏、8月 ――

ミィィィィン ミンミンミンミィィィィン・・・
ミィィン ミンミンミンミン・・・

セミが鳴く。かなりうるさく鳴いている。

この日、東京はかつてないほどの猛暑であった。
気温は約37℃、照りつける太陽が道路を熱しアスファルトが焼ける。
外でこうなるならば当然建物の中、特に閉めきった部屋なんぞはそれこそ地獄と化すわけで・・・
それはここ、美神所霊事務所でも同じ事なのであった・・・

「あ・・・」
「う゛〜・・・」
「もう・・・」
「「「 暑いーーーーーっ 」」」

三人の声が事務所内にこだまする。美神、横島、タマモの声が。
特に美神のソレは人一倍大きく聞こえる。

「ちょっと人工幽霊壱号!もうちょっとなんとかなんないの!?この暑さ?」
「申し訳ありません、オーナー。現在事務所中の冷房機をフル稼働させておりますがこれ以上は・・・」
「全く・・・なんでこんなに暑くなきゃいけないのよっ!?」

怒ったって仕方のないことだ。暑さは人の思考能力を低下させ、ゆっくりとではあるが怒りを呼ぶ。
しかし、そんな時にも元気な奴という者は必ずいるもので・・・

ズダダダダダダ・・・ガチャッ!

「せんせー!散歩行くでござるーっ!」

そう、元気な奴が散歩をねだってやって来るのである。
だが暑さでダウンしており、テーブルに突っ伏している横島は・・・

「・・・何?・・・散歩?・・・・・・一人で行け、俺は暑いんだ・・・」
「そんなトコでへばっているからでござるよ!外に出れば暑さなんてへっちゃらでござる!」
「アホかーっ!?こんなんで外出たら死んでまうわっ!」
「そんなこと言わないで行くでござるよーっ!」
「だああっ、いい加減に・・・し・・・ろ・・・ぉ?」

そこで横島の目に入ったのは・・・背を向けてはいるが仁王立ちしている美神の姿が。
何やら黒と赤の中間のような色の炎をメラメラとあげて今にもその仁王の咆哮を浴びせようとしている美神が。
横島は長年の勘というか、いわゆるシックスセンスのようなものでこう感じた。

(これ以上ここで騒いだら・・・死っ!・・・待っているのは閻魔様のいる地獄っ!!)

という事でいきなり声のトーンを上げて、

「さあ散歩行くかシロっ!たまには山に行くのもいーんじゃないかっ!?」
「せ、せんせー・・・!!拙者感激でござるーっ!そうと決まればすぐに行くでござるよーっ!!」
「どわっ!?シ、シロっ、引っ張って行くんじゃねえっ!!?」

シロが喜び勇んで横島を引っ張り外へ行こうとすると、おキヌがキッチンからジュースを持ってやって来た。

「あれ、横島さん?どこ行くんですか?」
「え?ああ、ちょっとシロと散歩をね」
「お散歩ですか?気をつけて行ってきて下さいね?」
「あ、ああ。じゃ行ってくる」
「先生何してるでござるか?行くでござるよ!」

横島の返事を聞いてすぐに、おキヌはふとあることに気がつき呼び止める。

「あ、横島さん?今日は夜からお仕事が入っているからそれまでには帰ってきて下さいね?」
「わかったよ、おきぬちゃ・・・あ゛ーーーーっ!?」

ドガガガガガガガガッ・・・ズドンッ!!
今のは横島が階段から転げ落ちた音である。もちろん、シロに引っ張られて。

「・・・だ、大丈夫ですかね?横島さん?」
「心配することないでしょ、おキヌちゃん。あのバカがそう簡単にくたばるわけないじゃん」
「た、タマモちゃんっ!」
「それよりおキヌちゃん、コレもらうわよ?」

ひょいっ
んくっんくっんくっ

タマモがおキヌの持ってきたジュースをひょいっと取って・・・飲む。

「あっ!?ま、待ってタマモちゃん。それは・・・!」
「え?何?・・・・・・プホッ!!??」
「だから言ったのに・・・コーラ一気飲みしちゃダメじゃない・・・」
「は、早く言ってよねーっ!」
「だってタマモちゃんが・・・」
「あんた達、うるさーーーいっ!騒ぐならもうちょっと静かに騒ぎなさいっ!!」

ワーワーキャーキャー・・・・・・

―夏の日差しが降り注ぐ中、女達の明るい論争はまだまだ続く―



それから数時間後・・・

横島とシロの散歩はといえば・・・


ズドドドドドッ・・・


既に、“散歩”の一環として山を爆走中であった。

「のわーーーっ!シ、シロ、止まれーっ!」
「え?何でござるか?」
「スピードを落とさんかーっ!」
「スピードを上げるんでござるか?分かったでござるよっ!」
「違〜う!おれは命の心配しとるんじゃーっ!」
「先生が拙者の心配をっ!?拙者嬉しいでござるーっ!!」

ぐいぃぃんっ!スピードUP!

「わーっ!?止まれーっ!イヤーっ、速いのイヤーっ!!」

もはや世界はジェットコースターな横島。
目に入ってくる視界は光にも追いつこうかというような早さでめまぐるしく移り変わっている。だが、

「わんわんわんわんわんっ・・・・・・あ、あれ?」

更にスピードを上げたシロの視界がぐるっと一回転する。
空の太陽は地面へ。地面の石ころは空へ。そして・・・

「せ、せんせ〜っ?拙者、なんらかおかひいでござる〜〜っ!?」

バタッ
シロが、倒れた。そしてもちろんそれは自転車に乗っている横島の目の前で起きたことなので、

「ど、どーしたシロっ!?・・・っていうか危ねえっ!ぶつかるーっ!?」

そう叫びつつもとっさに文珠を精製する横島。そしてそれに『停』と入れて発動。
それによってギリギリで停車することができた。・・・が!
自転車で急ブレーキをかけるということは、車で急ブレーキをかけるのと同じ事である。車の場合はシートベルトなるものでその衝撃による体が前方に投げ出されるのを防いでいるのだが、自転車にはそれらしきものがまずない。前方に投げ出された人間は陸に打ち上げられた魚と同じく、何も出来ずにただ身を任せるだけなのだ。よって・・・

「よしっ、停まった!・・・・・・って、のわーーっ!!」

ズガシャアアアッ
見事に道路に投げ出させられたのであった。もちろんこれしきのことでダウンする横島ではないのであっさり復活。

「あいててて・・・お、おいシロっ!大丈夫かっ?」
「くぅ〜〜ん、せんせぇ〜、世界がぐるぐるでござるよ〜〜」
「こらアカン!とりあえず日陰にでも・・・」

日陰にシロを連れて行く横島。苦しそうにしているシロのおでこに手をくっつけてみると、

「あ、熱っ!?それとこの日差し・・・まさか、日射病っ!?」

【日射病】
太陽の強い直射日光を大量に受けて気絶する病気。症状としては吐き気、頭痛、目眩など。

「くそっ、文珠はさっきので打ち止めだし・・・どーすりゃいいんだ?
 とにかく何か冷たいものを飲ませないとな・・・ん?何だありゃ?」

横島が見つけたのは一軒の古ぼけた店。店先に掛かるのれんには、「須狩商店」と書かれている。
迷わずその店に行こうとする横島。多分、誰かいるだろうし・・・

「シロ、ちょっと待ってろよ。すぐに戻ってくるからな」
「はう〜〜、わかったでごひゃる〜〜」

そして横島は店へと向かった。



「すいませ〜ん、誰かいないっすか〜?」

・・・シーン・・・

「すんませ〜ん!」

・・・シーン・・・

「ちっ、何だよ、誰もいないのか?」
「はいはい、何でございましょうか?」

そう言って出てきたのは一人の腰の曲がった婆さん。おそらく店主であろう。

「あ、お婆さん。連れが日射病にかかったらしいんだけど、何か冷たいものないかな?」
「・・・冷たいものと言っても水ぐらいしかありませんけどねぇ」
「水でもいい!とにかく暑さを和らげる物が欲しいんだ!」
「・・・わかったよ、ちょっと待ってておくれ」

そう言って婆さんは店の奥に戻っていく。しばらくして婆さんが氷入りの水とあるモノを抱えて戻ってきた。

「え?お婆さん、それは・・・?」
「これが結構効くんだよ、日射病とかにはねぇ・・・」



「はぁ・・・はぁ・・・、結構楽になってきたでござるな・・・でもまだ頭が痛いでござる・・・」

ぽふっ

「え?」
「シロ、どうだ?大丈夫か?」
「せ、せんせー、コレは・・・?」
「さっきそこの店に行ったときに買ってきたんだ。少しはマシだろ?」

シロの頭の上に乗せられたのは麦わら帽子。
つばの上に白い帯が入った麦わら帽子。

「せ、せんせー!せんせーは拙者の事を心配して・・・!嬉しいでござるーっ!!」
「おわっ!落ち着けシロ!そんなにしてたらまた気分が悪くなるだろうが!」
「あ、そーでござったな・・・あれっ?」

またシロの視界がぐるりと回る。ふらふらして横島に倒れ込むシロ。横島はそれをなんとか受け止める。

「ったく大丈夫か?だから言ったろ?とりあえず水飲んでから休め。日が沈むまで待って、それから帰るぞ」
「はっ、はいでござる〜〜」

そういうことで夕方までシロは横島に抱きかかえられつつ木陰で休憩して、日が沈んだ後で事務所に帰った。
帰宅した時間がちょうど仕事に出る時間ギリギリだったので美神に横島がシバかれたのは言うまでもない。



―その日の夜―

「じゃあ横島クン、そっちはお願いね」
「任せといてくださいよ。シロ、行くぞ」
「ハイでござるっ!」

ここで横島達は二手に分かれた。美神・おキヌ・タマモと横島・シロ。
ちなみにこういう組み合わせにしたのはシロが横島から離れようとしなかったから。
仕事に行く時にも横島の腕を掴んで「先生は拙者と行くんでござる!」と言って全然話にならなかったから。
そしてシロの必死とも言える抵抗に美神も遂に折れたのだった。

それと何故二手に分かれたかというと今日の仕事はちょっと厄介だからだ。
美神さん曰く、「今回の敵は妖刀を持った悪霊」らしい。簡単に言ってしまえば、

「シメサバ丸みたいなのを持った悪霊」

が今回のターゲットということだ。そしてそれは都内で同時に2ヶ所で目撃されている。
おそらくどちらかが偽物なのだろうが、それを確かめる術がない。よって二手に分かれて除霊というわけだ。

「・・・さっきから誰に向かって喋ってるんでござるか?先生?」
「え゛っ!?い、いや別に・・・」

横島が必死になってシロに弁解している時、美神達はというと・・・

「着いたわね。おキヌちゃん、今何時か分かる?」
「え〜と、10時27分です」
「そろそろね・・・皆気を抜かないでよ?」
「分かりました」
「・・・了解」
「あっ!?来たっ!?」

3人が一気に視線をそちらに向ける。そこには・・・

『斬る斬る斬る斬るKILL〜っ!』
こう叫びながら刀を振り回して走っている悪霊がいた。

ずどどっ 思わずコケる3人。

「あ、あれが本当に敵なんですか?」
「ただのトチ狂ったバカじゃないの?」
「と、とりあえず、計画通りに行くわよ?」
「「 ・・・は、はい・・・ 」」

呆れてまともに返事の出来ないおキヌとタマモ。それはさておき・・・

「待ちなさいっ!」
『何ッ!?』
「夜な夜な刀を振り回して万人に迷惑をかけているのは許せないわね。
 このGS、美神令子が極楽に行かせてあげるわっ!」
『目の前にいるのは・・・敵ーっ!いざ鎌倉ーっ!』

そう言って突っ込んでくる刀つき悪霊。だがその前にこの笛の音が立ちはだかる。

―ピュリリリリリィ―

『なっ!?う、動けん!?』
「もう・・・止めよう?こんなことしてても、虚しいだけなんだから・・・」
『ぐっ!止めろ、ヤメローッ!その音を止めろーっ!俺は斬る!人を斬るのだぁ!』
「う、嘘!?み、美神さん、ネクロマンサーの笛が効きません!」
「何ですって!?」
『だりゃあああっ!死ぃねぇ!』

ネクロマンサーの笛の音をものともせず突っ込んでくる悪霊。真っ直ぐにおキヌを狙っている。

「きゃーっ!」
「おキヌちゃん、下がって!・・・くらえ、狐火っ!」
『ぐぎゃあああっ!あ、熱い!?』

ボオオッ!
おキヌを救出に来たタマモの狐火によって焼かれて、思わず膝をつく悪霊。そしてそこにとどめが来る。

「ナイス、タマモ!さてと、アンタの執念は認めるけどね・・・こうも仲間に手ぇ出されちゃ困るのよ!」
『何のこれしきのことで・・・!』
「極楽に・・・行けっ!」

ズバァッ
美神の神通棍が唸りを上げて悪霊を切り裂く。

『う゛っ!?かっ、鎌倉幕府がーっ?!ぐわあああっ!?』

そう言い残して悪霊は消え去った。

「よしっ、終わったわ!危なかったわねー、でも2人ともお疲れ様。・・・・・・ん?これは・・・!!」

美神がおキヌとタマモをねぎらっていると、地面に落ちているソレを見つけて愕然とする。

「あれ、どうしたんですか、美神さん?」
「2人とも急いでっ!横島クンのとこに行くわよっ!」
「「 えっ!? 」」

美神の突然の言葉に驚きつつも、慌てて美神の後を追うおキヌとタマモ。
2人の前を走る美神の手にはあるわら人形が握られていた。
『にょほほほ、貴様らが斬ったのは影武者だ!たわけがっ!』と書かれた人形が。

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