ザ・グレート・展開予測ショー

B&B!!(10)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(03/12/20)




・・・お前、島に帰りたくはならねーのか?

「え?帰ってますよ?毎年、盆と正月に。」

いやそうじゃなくて(ちょっと待て、「盆と正月」?・・何教だおめーら?)・・・辛く、なんねーか?

「辛く?・・・何が、ですか?」


ここの連中は・・・お前と同じ速度で時間を歩いてはやれねえんだぞ・・俺を含めてな。






「あまり人間と仲良くなりたくない・・・だって、すぐ死んじゃうじゃないでちゅか。」


俺からすればな、こいつがそんな話をするよりも、お前がそんな話を一度もしないって事の方が信じ難いんだぜ。

・・・・・ピート。



 + + + + + + +



白馬の上で回り続ける俺達に何度目かの西日が差した時、パピリオが再び口を開いた。

「本当は私、もう動物達を集めてないんでちゅ。ケルベロスもマンドラゴラもガーゴイルもガルーダも全部、ジークが帰る時に
持って行ってもらいまちた。・・・野性に帰してくれるそうでちゅ。」

すぐ人をペット扱いする所なんかは相変わらずだったのだが・・・いつか、横島に話してもらった事がある。こいつの動物
好きとその理由とを。―逆天号に囚われていた時の思い出として語られたのかルシオラとの思い出として語られたのか
までは覚えてねえが、とにかく、ルシオラが奴にこう言ってたらしい。


「動物が育つのが好きなの。―自分が大きくなれないの知ってるのよ。」
「きっとお気に入りのお前に自分の思い出を託したいのね。」


じゃあ、数千年は生き続けるであろう今は?―つまり、そういう事だ。他の生物に関わる事の意味合いが180度
変わっちまう。・・・「育って行くのを見る」から、「死んで行くのを見る」に。そして唯一共通している点がある。

「自分が育って行く所は見てもらえない」点だ。


「パピリオはイイ女になるでちゅよ。・・・ルシオラちゃんや美神令子なんかメじゃありまちぇん。お前の連れてきたザコ
なんか足元にも及ばないでちゅ。小竜姫なんか『あれ?いたの?』って感じでちゅ。」

名指しされた女性陣のファンに聞こえたら袋叩きにされそうな、ある意味こいつらしい傲慢な暴言を吐いているにも
関わらず、ただでさえドチビのこいつが更に縮んでいきそうな空気が漂っていた。

「でもその時、お前も、ヨコシマも・・生まれ変わったルシオラちゃんも・・・メリーも・・私の知っている人間は、みんな
いなくなってるんでちゅ。」

俺は東京駅でパピリオが言いかけた言葉を思い出す。「ずっと一緒なんでちゅよね。」・・・こいつと「ずっと一緒に」
人生や時間を歩いていける奴はここにはいない。例えどんなに仲良くなれたとしても。


だけど、それは、お前にも言える事だよな?



 + + + + + + +



「そのツラだ・・ツラだけじゃねえ、中身だって良く出来てやがる、そしてミステリアスなイメージとかまで加わって、
確かにお前は凄く女にモテるさ。・・・だけどここにはお前のカミさんになってくれる女はいねえ。・・いたとしても、
何十年かでバアさんになって死んじまう。・・・その時お前はどうなってる?今とあまり変わってねえんじゃねえのか?」

「ハハハ・・・まあ、人間で16才が18才になる程度には変わってると思いますけど。」

「カミさんだけじゃねえ。生まれたガキはどうなる?バンパイアもクォーターまで行くとかなり寿命が縮むんじゃねえ
のか?お前と人間との間に生まれた子供は、お前より先に老化して、死ぬ・・・違うか?」

まるで難癖付けだ。自分でもそう思う。
横島んちのガキを見に行った帰り道、用事があると言う唐巣や弓と別れ、俺とピートだけで軽く車を流した。
ピートは助手席でほくほくと笑いながら、「二人ともとても可愛い赤ちゃんでしたねえ」「美神さんも疲れてそうだったけど
充実って顔してましたねえ」「横島さんも手は痛そうだったけど、幸せそうでした」などと話し掛けてくる。
お人好し野郎に良く似合う「心からの祝福」とやらを絵に描いた様なツラ。そいつを見ている内に、言わずにはいられなく
なったんだ。


「島へ帰れば同じ時間を歩いてくれる奴らが周りに一杯いる。・・・一緒に成長し、老いて行ける奴がな。そう言う場所で
なければ、お前は横島のような幸せは掴めねえ・・・そうは、思わないか?」

全く、無神経なヒデェ質問だ。そんな事言われて気分良い奴なんかいる訳ねえ。
・・だけどな、ピート、そう言われてもしお前が深く傷付くようなら、お前はここで人間達との関わり方を考え直さなくちゃ
いけない筈だ。・・・俺が黙っても、現実は変わらないんだからな。
ピートはしばらく何かを思い沈黙していたが、やがて少し笑みを浮かべながら逆に俺に問い掛けて来た。

「“同じ時間を歩く”、“幸せを掴む”・・ねえ雪之丞、君はそれって何だと思う?」



 + + + + + + +



「・・・・すぐ死んじまう奴と出会うのは、そんなに不幸な事かよ?」

「えっ?」

「こう聞いてんのさ・・お前にとって、ルシオラやアシュタロスは初めからいなかった方が良かったのか?ってな。」

「!」

「こうも聞きてえな。お前、寿命が一年しかなかった時、そんな風に横島に思われてたら・・嬉しいのか?」

これは知っててした質問。このドチビは横島にこう言っていた。
「私の事―ずっと覚えててね・・・!!」と

「・・似たり寄ったりの寿命の人間同士でもな・・ある日いなくなっちまうって事は良くあるんだぜ。そして、そんなのは
人間以外でも同じだ・・お前だって、分かってるだろ?」

それがどんなに身近で、大切で、ずっと一緒にいられると思っていた存在でも、ある日いなくなる。そこに人間や妖怪
の平均寿命なんか何の意味も持たない。

「だから覚えていてほしい・・だから覚えていようとするんだ。お前がどこに行こーと勝手だけどよ、もうちっと強くなん
ねーと、多分どこ行ったってそうやっていじけてる事になるぜ?大体、お前、当り前の様に自分が何千年も生きるつもり
でいるけど、お前だって明日には死んじまうかもしれねーんだ。例えば、あのミカエルがトチ狂っていきなし人間界に
降りて来て暴れ始めたらどうだよ?・・・そーゆーのに『絶対無い』はねえんだぜ?
そいつにどれだけ寿命があったってそれは同じなんだ。それでも出会ってダチになったり、惚れた腫れたしたり・・敵に
なっちまったりもするけど・・そして・・だからこそ・・そいつに覚えてもらおうと、そいつの事を覚えていようとするんだ。
俺のダチだって魔族化してその直後、死んじまった・・・・俺が、殺した。俺のママが死んだ時も・・今の俺よりも、ずっと
若かったんだ。」

「ユキのママ、でちゅか・・・ママってのは大切、なんでちゅか?」

「俺にはな。・・誰にとってもとは限らねえ。自分の母親を死ぬ程憎んでる奴だっていたし、お前には母親とかはいなくとも、
それでも家族がいただろ?俺にとってはママは大切で、いなくなるなんて考えられなかった。・・・でも死んじまったのさ。
俺が生きるも死ぬも良く分からねえ程小さい頃にな。





フィラデルフィアからシカゴ、デンバー、ソルトレイク、・・・もう少しでカリフォルニア。
砂漠の中の小都市。古びたモーテル。

ママはいつも通りに夕方に出かけて行き、そして、いつも通りに朝に帰って来て俺を起こしてくれたり・・・は、しなかった。
その日の夜になっても、次の日の朝になっても、ママは帰ってこなかった。

お腹が空いた。冷蔵庫の中のパンやベーコンを無造作に齧る・・・いつもママがスライスして焼いてくれるそれと違い、
冷たくて不味かった。

また隠れんぼを始めたんだ。そう思いクローゼットの中やベッドの下、ドアの陰、テレビの裏やトランクケースの中を捜した。
どこにもいなかった。

その次の日の朝、大人の男が数人、部屋に上がり込んで来た。
「れんぽうそうさきょく」、そう名乗った。「へんたいのきゃくにころされた」と大人同士で喋っていた。「すなっふふぃるむの
そしきかもしれない」と大人同士で喋っていた。「しょうふやひとりあるきのじょせいがここらでれんぞくしてねらわれて
いる」と大人同士で喋っていた。「もうだいじょうぶだよ。あんぜんだ。」と俺に言った。

意味が全然分からない。
ママはいつ帰って来る?
今日は久し振りにチーズをまぶしたチリビーンズが食べたい。・・新しいお話も描いて欲しい。



 + + + + + + +



「時間の流れは、人間に速く僕達に遅く流れていたりはしません。」

助手席の少年―俺と出会った時も、多分俺が生まれる前も少年だった―微笑みながら俺の言葉を否定した。

「同じ、じゃないですか。出会い、別れ・・心に残す。僕は覚える人の数が多いだけです。流れる時間は結局同じ
なんですよ。・・・“同じ時間を歩く”って言うのはその時その時を共に歩く事です。初めから遠ざけていれば・・・・
同じも何もありません。」

車の列と街路樹のイルミネーション。渋谷の雑踏。車の窓ガラスに30男と10代半ばの若僧とが映っている。

「勿論、それだけ痛みもありますけど・・・それだって、その時の流れが癒してくれるんです。そしてそれらの記憶は
宝物の様に残ります。誰にとっても過ごす時間とその思い出とがそれぞれの掴む幸せなんじゃないかなって
・・・思います。その形は一種類じゃないんですよ。」

俺も見た目に騙されてたか―取り越し苦労だったな。700年を生きて来たバンパイアハーフには充分な覚悟・・・俺の
及ばない境地でさえある・・が備わっていた。



 + + + + + + +



「でも、楽しかったさ・・・やっぱり幸せだった。ママが来るまではゴミ箱みたいな収容所だったし、ママがいなく
なってからもロクでもねえ事ばかりでその分辛かったけど・・・それでもだ。
初めから無い方が良かったとは全然思えねえ。」

このドチビに「時が癒す」だの「宝物が残る」だの言っても通用しねえだろう。それに、そう言う事は、他人に教えて
もらうモンじゃない。後々手前で気付くべきモンだ。パピリオにこれ以上俺が言ってやる事があるとすれば、それは
そう言った正統派の正解じゃなくて・・・・・・


「チマチマ悩んでると・・・・縮むぜ!?(―ビクッッ!!)
・・・いーじゃねーか。そーゆー奴らの事を忘れないでいてやればよ、で、自分もそいつらに覚えててもらえば、
お互い様万事OKだろ?それに、せっかく出会えたんだ・・今は何も考えないで楽しく馬鹿やってろよ。
・・ここは“完璧な夢を提供する”デジャブーランドなんだぜ?」

そう、今は。
・・いつか悲しい事があっても、そこで立ち上がる為の力はそうやって貯える物だろ?


白馬が回転を止め、音楽も消えた。パピリオはもそもそと馬から降りる。どれだけ言葉が伝わったかは分からない
が、後は良くも悪くもこいつ次第だ。

「ハーフタイム終ーー了ーーっ。・・行くでちゅよ、まだラジカルワンダーツアーが残ってるでちゅ。
フフフ・・覚悟しなちゃいメリー。お城を制するのもこのパピリオなんでちゅっ!!」

いつものパピリオだった。・・・・つうかマジで制圧とかするなよ。頼むから。



 + + + + + + +



クラッスル・キャリューセから出て来た俺達に弓が駆け寄って来た。緊迫した様子を浮かべて。

「・・・・どうした?」

「ちょっと、見て・・・!」

手にした携帯テレビを差し出す。液晶画面にはニュースキャスター。背景に何となく見覚えのある顔写真。

「・・・・教団施設内に人の姿は殆ど見えず、大規模な移動があったと思われます。教団の最高指導者である鷺之塚
天空氏は正式なコメントを出さず“神の栄光を示す”“デジャブーランドが奇跡の地となる”“聖霊天主様の導きが見えた”
などの意味不明な発言を繰り返しており、一連の当教団の疑惑の究明を求める警視庁内対策本部はICPOオカルト
Gメンと協力体制で警戒を強めています。・・天空氏の発言を裏付けるかの様に舞浜駅近辺や浦安市内で多数の
教団衣姿の信者が目撃され・・・」


「とうとう正念場だな・・・」

「どうするのです?」

「姿を見せるまで待つさ。それだけの団体さん、ここまで来てこそこそ隠れたりはしねえよ。」

にしても、当然、油断は禁物だ。―こっちは遊んでる様に見えても最初から臨戦態勢だけどな。周囲を見回しても
さっきと違い隠れて何かしている奴は一人も見えねえ。・・・一斉に、でかくおっぱじめる気だろう。さすがに全身に
緊張感とアドレナリンが駆け巡るのを感じた。歩みが自然と速くなる。


「・・・・少し気になったんでちゅけど、・・・ユキって本当はなにじんなんでちゅか?」

足が止まった。―俺ではなく、弓が顔を強張らせた。

「確かに見た目、完璧日本人でちゅけど・・・さっき“少し混ざって”とか行ってまちたよね?それに・・・ママが迎えに
来るまで収容所にいたって。」

「ああ、生まれてすぐブチ込まれたのさ・・ママもその前から別の場所に収容されてた。・・脱走して、迎えに来たの
さ。あの場所でそんな事出来た奴ぁそうはいねえんだぜ?」

「でも、日本にそんな親子を無理矢理別々に入れる収容所なんてないでちゅ。」

「ああ、ねえな。日本じゃねえって事さ。」

「日本以外でも、あまりないでちゅよ・・・あぱるとへいとでほろーこーすとでちゅか?どくさい国家でちゅか?
どくさいしゃの悪口とか言ったんでちゅか?」

「強制収容所は独裁国家にしかない、とは限らねーんだぜ?・・まあ、ある意味、あれも独裁か・・それに人種差別とか
政府の批判者を隔離するとか言うのと同じくらいバカバカしい話だったしな。」

「バカバカしい理由だったんでちゅか?・・・どんなバカバカしい理由だったんでちゅか?」

「・・・・ちょっと貴方!これ以上は・・その・・雪之丞にとって重大な話なのですから軽々しく聞くものでは・・
ありませんわ・・!!雪之丞、貴方もまさかあの話をこの子にするつもり・・!?小さい子に聞かせて
良い様な話じゃ・・」

慌てながら弓が割って入った。無理もねえさ。俺が弓の立場だったらやはり慌てるだろう。
でも、こいつはドチビだけどやはり子供じゃない。それにあれだけ「自分の事」を話してくれたんだ。
基本的にいけ好かない、腹を割った話とかしたくないタイプだが、この程度のお返しはむしろ、筋だ。

「・・・難しい話なんでちゅか?だったら言わなくて良いでちゅ。」

「いいや、簡単でとっても分かり易い話さ。」

そうだ、パピリオになら良く分かる筈の話だ。俺は屈んでパピリオに目を合わせてから言葉を出す。





「・・・・・・・・・・“コード7”だ。」


パピリオは俯いて単語の意味を思い出そうとし、一瞬後に顔を上げてこちらを凝視した。


「・・・コード7・・・・・・・・!!」


俺は小さく頷いて体を伸ばし、再び歩き出す。




ヴァチカンの作った、修道院と称した強制収容所。
その戒律に触れた・・いや、ふさわしくないと見なした人間を・・いや女子供のみを・・消しはしないが見境も筋も無しに
放り込み、一生監禁し隔離する事も出来る場所。ヴァチカン以上に信者達がその存在を求めた。身体にではなく精神に、
個体にではなく集団に「10コマンド」を打刻されたかのような連中。自分達を支配しようとするプロテスタントの王国に
独立を求めながらも、教会からの支配を求めたカトリックの地。

母親の再婚を機に日本からそこへやって来た少女とその家族。

・・・・俺はそこで・・その場所で、生まれた。




――――――――――――――――――
 Bodyguard & Butterfly !!
 (続く)
――――――――――――――――――
やっちまいましたですよ・・・・その一その二くらいまで。何をとは言わない。ええ、言いませんとも。
私の今後の言動を「展開予想」してみたいものです。

1:「これはフィクションですーー!実在の事件・人物・団体・それを題材にした映画(爆)とは一切関係
ありませんーーーっ!!」と連呼しながら壁に頭を連打。
2:開き直ってそのまま欄外でヴァチカンの暗部を追及してみる。
3:具体名を出さないまま、「どこかの地域の何か」でとぼけ倒す。
4:モンキーダンスを踊ってみる。
5:「常世川小学校4年2組水無月理沙、今回出番なしぃぃっ!」と力んでみる。
6:とりあえず1〜5、一通りやるか・・・・。

やっちまうのはその三その四ぐらいまでありそうです。
「やめろぅ!」と言う声が心の何処かから聞こえてはいるんですが・・・・。

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