ザ・グレート・展開予測ショー

サンタが町にやってきた!?


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/12/19)


 サンタが街にやってきた!?



 しゃんしゃんしゃんしゃん――――!!

 こうやって町を見下ろすのはこれで何度目だろうか・・・闇の底に光る町並みを、年月を数えながらそう考える・・・

 しゃんしゃんしゃんしゃん――――!!

 トナカイは道を違える事もなく、いたって安全運転に闇夜を駆け抜け、目的の場所へと彼を導いてくれる。何も心配はない。
 だが、彼も歳だ・・・数え切れないほどの長い日々この仕事に携わってきている。寒い北半球から夏の南半球へと一気に駆け抜けることにも、今はなれた感すらある。だがそれでも時折疲れたとすら思ってしまう。

 しゃんしゃんしゃんしゃん――――!!

 いや・・・彼は片手に握っていた一升瓶を口へと運ぶことによって、その考えを打ち消した。
 
 今の仕事が好きだから、自分はこのスターシップ(注:ソリのことです)に乗り込んでいるのではないのか?確かに疲れたと感じることもある。だがそれ以上に子供の喜ぶ姿がみたいんじゃないのか?
 と、考えてから、あぁ・・・よく考えたら眠ってる子供の喜ぶ顔なんか見れなかったなぁ・・・などという邪念がよぎったせいで、更に空しい気持ちになる。
 トナカイを駆りソリに(いや、スターシップ)乗るこの歳のいった爺様・・・彼こそがかの有名なサンタクロースである。一升瓶を片手に子供の夢を語ろうというものなのだから、なかなかにもってチャレンジャーな精神である。
 ・・・いろんな意味で子供には見せられない。
 


 彼も世界中のいろんな子供にプレゼントを与えてきた。この手に持つ魔法の袋で・・・
 黒い肌をした少年。
 幼少には精神育成上宜しくはないような場所でこのまま一生を迎えようとしていた少年には、一等地の土地の権利書と一戸建てをプレゼントしたこともあった。ちなみにもちろんその土地の維持費などは、慈善活動が好きなどこぞの山に住む神宛にしてあるが・・・
 更にはあまり宜しくはない父親を親に持つ少女、彼女には美形で若く優しい父親をプレゼントしてやった。二人で別の意味の愛に芽生えはしないかと、知人と談笑したこともあったが、きっとうまくやっているだろう・・・いろんな意味で。ちなみに前の父親はマグロ漁船で労働の素晴らしさを体感しているはずだ。

 ・・・どれもこれも素晴らしい思い出じゃないか。サンタをやっていて良かった・・・彼は心からそう思う。
 さて・・・彼は地上を見下ろした。確かここはジパングだとかいう名前の小国だ。世界的に見れば大きい方の国だが、この国を堺にして、『大きい』などといわれる国は一気にその大きさの規模が跳ね上がる。
 まぁ、一時は高度経済だとかかんだとかで経済的にも大きくなった国ではあるが・・・まぁ今はこの夜にも明るく染まるネオンだけでこの国をかたることなど出来はしないだろう。
 さて、だれにプレゼントをやるんだったのであろう。今日だけですでに50人ほどは配り終え、だがしかしそれでも120人に配らなくてはいけない。流石にそれらの人物数を覚えることなどもかなわぬゆえ、このスターシップ(注以下略)を引くトナカイが、子供たちの家を覚えてはいるものの、流石にこの酔いどれサンタでも気になる。
 彼は一枚のぶ厚い本―プレゼントあげる予定本などと小汚い文字でつづられている―を取り出し、これから向かう少年の家を見つけようと地上を眺め始めた。

「・・・ふん、鉄道模型・・・かい。世も末やナ〜。わしの酒代よりも高いやないけ」

 彼は鼻で意気を吐き出すと、そういえば・・・程度で昔の情景を思い浮かべた。
 
 あの頃は良かったのかもしれない。少なくとも今よりは断然いいと思える仕事が出来たはずだ。





 何年前の出来事かは思い出せない。それを忘れるくらい彼は長い年月を生きた。それを忘れるくらい彼は多くの子供にプレゼントを与えてきた。

 雪の積もる中・・・彼の目の前には一軒の家があった。窓からうっすらと光が逃げ出していき、中の情景をこちらへと見せてくれる。
 
「この家か・・・父親がまともに子供と付き合うこともせえへんのか?難儀なやっちゃぁな」

 彼は指をポキッポキと鳴らしながら、窓を覗き込んだ。場合によっては父親をケチョンケチョンにノしてから、新しい父親でもプレゼントしてやろうか?
 彼の瞳には、まず一人の女性が写った。若・・・くはないはずだ。だがその後姿はとても繊細で、まっずぐに伸びるうなじは美しいとしか形容の仕様がない。
 自分が新しい父親になってやりたいくらいだ。

 ・・・・・・
 
 彼はすぐに首をぶんぶんと振り、その考えを打ち消した。下卑た考えだ。
 自分の仕事はあくまでも子供達に幸せを与えること。その力を私欲のためには使ってはならない。
 彼は改めて、中を覗き込んだ。
 先ほどの女性の更に先に、一人の少女の姿があることに彼は今更ながら気付く。パジャマ姿のその少女は、なかなかにかわいらしい。自分が父お・・・止めておこう。
 しかし、彼女は泣いていた。そして叫んでいた。

『イヤダイヤダ、だってパパ今日は一緒にいてくれゆって、ママ言ってたじゃない!!』
『しょうがないのよ、令子。パパにもパパのお仕事があるんだから』
『だって、約束ちたもん。パパがれーこにくまさんのお人形買ってくれゆって』
『令子、パパは今日はちょっと忙しくて遅くなるのよ。でも明日の朝には帰ってくるからって、ね?そしたらその時にくまさんの人形を買ってもらいましょ?』
『イヤ、今日がいいの!』

 少女はその強固な意志を崩すことなく、ただその場で立ち尽くして同じ様な台詞を連呼するだけであった。

「父親・・・か・・・」

 彼は壁に背を預けるようにして、天を仰いだ。





 夜も一層ふける頃・・・雪は空からしんしんと降り、犬は小屋の中で寒いと震え、怪しい人影は尾行刑事よろしくにこの気温と激しい格闘を試みている。
 さて、このサンタもその怪しい影達と同じ様に寒さと格闘をしていた一人であった。この老人の場合は、赤いサンタの衣装など着ているものだから、怪しさ爆発である。巡回警官に「ちょっと君・・・」などと言われたのはもう数え切れないほど(?)・・・
 そんな彼も、その深まる夜とともに行動を開始する。

 最初は煙突の中から入ろうかとも思った、がこの時代、煙突などあるはずもない。

「しゃぁないな。これだけは使いたくはなかったんやけども・・・」

 いいながら、彼は懐から一つのコンパスのようなものを取り出した。コンパスと違うのは、中央に吸盤がついており、ちゃちな針ではなく尖ったナイフのようなものに取り変わっているだけである。
 その道具を彼は窓ガラスに当てて、スッと一線、パカッとか言うあっけない音とともに、ガラスは小さな円状に切り裂かれる。
 彼はその円状の穴に腕を通して、彼は窓ガラスを開けることに成功した。
 今彼が入ってきたこの部屋は子供部屋である。中央に存在するベッドには、先ほどの子供が小さな寝息を立てており、その横の枕には小さな靴下が置いてあった。その枕には薄い染みが出来ており、その染みは少女の目元から流れているようだ。

 彼はその靴下を手にとって見た。

『パパへ・・・サンタさんからのプレゼントはいらないから、早く帰ってきてね。
                                   れいこより』

 靴下の中にはそうかかれた一枚の手紙が入ってあった。雑な文字だ。幼いがゆえになれない文字を書く事で精一杯であるのだろう。

「すまんのう。わしはサンタやって、おまんのパパにはなれへんが、プレゼントやるつっちゅーことが仕事やけんな」
 
 彼はそういうなり、持っていた袋からあるものを取り出した。
 
 それは熊・・・には似ても似つかないが、一応熊のぬいぐるみ。クリッとした目玉には一種の愛嬌さえ感じられる。

「あんたは本当はおトンと一緒にこの『きよしこの夜』っちゅう奴を楽しみたかっただけなんやろ?悪いけどサンタでもそんなことはでけへん。でもこれでパパのこと、許したれや」

 サンタはそういうと、入ってきた窓ガラス(一部刳りぬかれている)へと戻っていき・・・

「パパ・・・?」

 と、その声でドキッと立ち止まった。

「パパでしょ?やっぱりれーこのために戻ってきてくえたんでしょ」

 少女はベッドから半身をむっくりと起こし、まだ眠たそうに瞼をこすってはいたが、その視線は確実にこちらへとロックオンしていた。
 彼は戸惑った。ここでサンタと打ち明けるべきか?それでは少女の儚い望みを打ち砕くことになりかねない。運悪く家庭崩壊へと繋がったりはしないだろうか?
 だがしかし『パパだよ〜ん』などとか言ってしまえば、サンタなどいない(=パパがひそかにプレゼント置く)に繋がりかねない。全国のサンタを信じる子供たちを裏切ることになってしまうのではないのか?
 
 ・・・とまぁそんな深くて浅い思慮は一瞬で終わり、結局は・・・

「いや、わてはパパやない、サンタだ!」

 などと、立場のほうを大事にしていたりする。

「うそ、パパれしょ?だって、パパきてくれゆっていったもん」
「いや・・・サンタやって・・・」

 少女はベッドから今にも這い出さんような必死さを持って叫んだ。サンタのおじ様はそれをただただ悲しくなるような気持ちで聞くことしか出来ない。
 本当のプレゼントって言うのはただ物を与えてやればいいのか?確かに物品で助かる場合もある。
 でも心から子供たちを喜ばせてあげるのが仕事なんじゃないのか?そのためのサンタなんじゃないのか?

「ぱ・・・パパだよ、れーこ・・・」

 彼は自分に負けた・・・サンタという立場だけではいられないことに負けた。だがそれは彼自身どこか救われる負けであった。

「れもパパにしては仮面してないよ」

 おいおい、今更それをいうか?彼はそんなことを考えるが、

「それは今のわての姿を隠すための偽りの仮面なんや!きてみぃ、お前のためにスターシップ(いや、だからソリ・・・)だって用意しとるでぇ」

 言うが早いか、彼は窓ガラス(一部刳り貫かれてます)をバン!とあけた。そこには彼が乗ってきた大きなトナカイがソリを引いて待機していた。

「わぁ・・・!」

 少女が感嘆の声を上げた。

「ほないくで、これから空につれてってやる。一晩だけサンタさんの仕事を見せてやるさかいな」





 サンタと少女を乗せたソリは、高く高く天の果てまで伸びて行き、ネオンも人の営みであるはずのものも、ありとあらゆるものがやがて小さく小さくなっていった。
 そして東西南北、時には暑い国、また時には寒い国、短時間でそれらの国々を廻って行った。
 そのつど、少女は感嘆の声を上げ、またうれしそうに質問を投げかける・・・
『あんなきゅうでんにすんでみたいなぁ』『あのほうせきっていくらくらい?』
 何と無く自分が子供の教育上、悪いことをしているような気もしないでもないが・・・


 これでいいのか?サンタの仕事に何も関係のない少女にやらせて・・・
 これでいいのだろうか?あるいは自分の立場だって危うくなりかねないことなのに?

 ・・・・・・
 これでいいんだ。サンタはプレゼントをやるからサンタなんじゃない。サンタは子供たちを喜ばせるからサンタなんだ。


 ソリは夜空に星を撒き散らせるようにして、やがては消えていった・・・





 彼らを乗せたソリが、少女の家へと帰る頃・・・夜は白み始めていた。
 ソリはあの壊れた窓のすぐそばまで近づいていった。

「これでお別れや。れーこ・・・明日になればまたいつもどおりのパパになっとるさかい、このことはだれにもいうんやないぞ」
「ウン、れーことサンタさんの約束!」

 サンタの言葉に、少女は明るく笑った。サンタはその一言で、どこか救われるような気持ちになった。
 ・・・だが・・・

「また・・・あえゆよね?」
「!!」

 少女のそのあどけない表情から真意は汲み取ることは出来はしない・・・だが・・・

(気付かれた・・・!)

 もっとも最初から隠すつもりなどはなかったが、気付かれればそれなりにまずいのかもしれない。
 だが、彼は少女の手を優しく包み込んで、暖かく微笑んであげた。

「せやなぁ、もしあんさんがえろう別嬪さんにでもなっとれば、わしの方からおうたるわ。約束したる・・・」

 少女もサンタの手を握り締めて・・・

「わかった。約束すゆ。れーこも次にサンタさんと会うまでに絶対『別嬪さん』になってゆ」

 かわいらしく微笑んだ・・・サンタのプレゼントをしっかりと握り締めて・・・



 これが少女とサンタがはじめてあったときのことであった。





 これを果たしてあの少女がずっと覚えていたかどうか・・・いや、忘れていただろう。何しろとんでもないほどの昔のことだ。きっと3日程たてば忘れるに違いない。こっちにしてもそんな軽い気持ちから交わした約束だ。
 まぁ、本当に綺麗になっていれば約束などしなくても見に行って見たいものである。

 そんなことを考えて、一人苦笑しているサンタとトナカイに、不意に強烈な衝撃が走る。

 ドォォォォォン!――――

 そこは一軒の建物だった。レンガを基準にしたごく普通の・・・しかしそれの周りには普通じゃないような規模の対霊的処置が施されていたわけで・・・サンタさんとトナカイと愛ソリ、スター(以下略)はいとも容易くその建物の屋根を突き破って、床へと叩きつけられた。





 ドタドタドタ――――!!

 だんだんと、屋内が騒がしくなっていく。家主たちがこの騒ぎに駆けつけてきているようだ。
 彼は脱出の方法を探そうと立ち上がろうとし・・・だがただでさえ歳いっているところにこんな大規模な結界に蝕まれたせいだろう、思うように立ち上がれず・・・まぁ俗にいうギックリ腰って奴だ。
 痛い・・・痛いぜドチクショー。

 バン!!勢いよくサンタの正面のドアが開かれた。ドアは三人の人物を吐き出す。
 一人は幽霊の少女、一人は黒い髪の少年、そしてもう一人は・・・・・・・・・

 ああぁ・・・約束は果たせたみたいやな・・・
 
 彼は喉元にまででかかった言葉を無理やり飲み込み・・・

「こんな街中にでっかい結界はりくさって何のマネじゃい!!これどないしてくれるんじゃーーー!!」

 と思いっきり叫んだ・・・






 

 小さい頃『の』あんたも可愛かったでぇ・・・内心そう付け加えながら・・・



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