ザ・グレート・展開予測ショー

ハッピーエンド


投稿者名:SooMighty
投稿日時:(03/12/19)

ハッピーエンド。 世の中にはそういう言葉がある。
いつも憧れる言葉だ。だけど続くこの道に終わりは無く、
結局は喜びも悲しみも楽しさも憎しみも全てを背負って走り続けければ
いけないのだ。


この道に終わりはない。





ハッピーエンド











「驚いたわー。あんた意外と酒強いのねー。」
「まあ親父譲りってところですかね。ワハハ。」
ここの酒はみんな上等で抵抗無く口に入っていった。
普段俺が飲む発泡酒とは大違いだ。(まあそれでもたまに飲める程度なのだが。)
「ここのメニューは気に入ってくれたみたいね、じゃあ、そろそろ本題に
 入りましょうか?」
「いやー美神さんも、もうわかってるんでしょう?」
「あんたの口から言わないとこういうのは意味無いのよ。」
「そうっスか・・・ルシオラの事ですよ。」
美神さんはさも当然というような顔をしていた。
「まあ、あんたの単細胞な脳みそなら、それしか無いわよね。」
「えらい言われようやなー。」
「でもこういう言い方もアレだけど、あんたらしくないわよね。」
「俺もそう思いますよ。でも・・・」
「あれからかなりの時間がたってるのよ。あの事件は大なり小なりみんなに
 衝撃与えたわ。悪いけどあんだだけが傷ついたわけじゃあないのよ。」
「俺もそれはわかってるつもりです!でも、でも!」
やばい、あの時の話をすると、すぐ感情的になってしまう。
すぐに溢れそうになってしまう。
「ちょっと言い方が悪かったわね。ごめんなさい。でも私の言ったことは
 紛れもない事実よ。」
「いえ、俺こそすいません。いきなり大声だして。」
言葉では冷静さを保っているように見えるが、俺の中は既にグチャグチャだ。
なんというか血液の巡りが、いつもより5倍は速いように感じる。
もっとも表面上だけ取り繕っても、目の前の人にはバレバレだろうが。
「最近、俺こう思ってるんですけど・・・」
「何?言いたい事があるならドンドンいいなさいな。」
「やっぱりアシュタロスが二人の世界を作ってやるって言った時に従って
 れば良かったって。最近は学校にも行ってないし、寝て過ごすことが
 遥かに多くなったし、気分は晴れないわで。」
美神さんはただ黙って聞き入っていった。
「このままじゃあ俺自身駄目になりそうで、毎日あの場所のいってるんですけど
 そこで決まってルシオラの泣き顔しか思い出せないで。
 こんなんなら例え嘘でも、バットエンドで幕が閉じてもその方が良かったなんて
 思っちゃって・・・クッ、すいません。 ウッ ウッ。」
思いを吐き出しているうちに涙も溢れてしまった。でもこの話を、あいつを
失った悲しみで涙を流せず語れるほど俺は人間ができてはいない。







しばらく俺は涙を流していた。
「私もねー。あんたと似たような気持ちになったことあるから痛いほどわかるのよ。」
突然美神さんが慰めるような優しい声色で語りだした。
「5年前、ママが死んだ時・・・まあ本当は生きてるんだけど、あの時はもう本当に
 2度会えないと思ったわ。」
俺は泣きながらその話に耳を貸していた。
「最初はそれが信じられなくてねー。そのママいなくなった場所をいつまでも
 ウロウロしてたわ。」
「んでねー。それを受け入れた途端に・・・まああんたも知ってるでしょうけど
 グレちゃったのよねー。もう世の中の全てがどうでも良くなってきたのよ。」
「本当にあの時はどうしようもない思いでいっぱいだったわ。まだクソガキだった
 私には到底背負える悲しみじゃなかったわよ。
「もう本当にこのままじゃあハッピーエンドなんかには辿り着けないわ。って思ってた。」
しかし俺は話を聞いてる内に気になることがあり遂、口を挟んでしまった。
「どうやって美神さんはそこから立ち直ったんですか?」
すると彼女は照れたように小さい声で、
「ん〜。なんというか立ち直ったというかは・・・開き直っちゃったのよね。」
「え?開きなお・・・?」
俺は予想外の答えに間抜けな反応しかできなかった。
「そうよ!悪い!?だって結局そこでウジウジしててもしょうがないじゃないの!」
「いや、そらそうだけど・・・そんなにアッサリ割り切れるもんですかね?」
「何言ってるの!簡単に聞こえるけどそこに至るまで物凄くしんどかったのよ!」
「はあ、それはなんとなくわかりますが・・・」
ちょっと俺は納得がいかない顔をした。
「まあ唐巣神父が支えてくれたのおかげでもあるんだけどね。結局この世の中には
 ハッピーエンドもバッドエンドも無いのよ。終わりの無い道をもがきながら
 走っていくしかないのよ。」
「まあ確かにあれだけ悲しい思いを背負ったら、いくら時が過ぎても、もう懐かしむ
 だけだったり、振り返るだけってのは無理だとは思うけどね。」
「でも結局はそういうことなのよ、いくらウジウジしててもいつかは背中を押される日
 が来るの!わかった!?」
「はは、美神さんの強さが少しわかったような気がしましたよ。」
「そう?ありがと。」


気づけばいつのまにか涙は枯れていて、自然に笑顔を作っていた。
そうだよ。俺は今まで何を悩んでいたのだろうか。
この良くも悪くも厳しい世の中、簡単に終わりをくれるはずはないのだ。
それにそんなに簡単に終わらしたら、それこそルシオラに申し訳が立たない。


「ありがとうございます。美神さん。」
「はは、でも一応単細胞のあんたのことだから言っておくけど、その悲しみを
 完全に忘れるのはハッキリいって最低だからね!それだけはしないようにね!」
「いやいや、こんな厄介なものそう忘れれるわけないですし・・・それに
 ルシオラの為にも今後の人生の為にも忘れないようにしていきます。」
「そうやって男の子は成長していい男になっていくもんなのよ。」
「もっともっといい男になってみせますよ!あいつの為にも!」
「まあ速くいつものあんたに戻ってね。なんだかんだであんたがいつもの調子で
 やってくれないと除霊事務所のノリが出ないし。まあとりあえず汚いもの?を
 吐き出すのはこれぐらいにして、今からはガンガン飲みましょう!」
「ちょっ!俺美神さん程酒豪じゃあないんですけど。」
「何言ってんの!若いんだからこれぐらいついてきなさい!」
結局俺はグデングデンになるまで飲まされた。
この辺りの記憶はないけど、美神さんが俺のアパートまで送ってくれたらしい。



やはり目が覚めたら、二日酔いになっていた。
酒の強さにはそこそこ自信はあるが、美神さんに比べれば子供みたいなもんだな。


窓を開けるといつもどおりの冷たい風が吹いてきた。
ただ前と違い心地よさも感じる。
と、いつまでも感傷に浸っている場合じゃあない。
今日は絶対にやっておかなければいけないことがあるんだ。








俺はまたあの場所に来ていた。

「ルシオラ・・・」
「今回は随分長い間心配かけちゃって悪りぃな。」
「まだ全部吹っ切れたわけじゃあないけど、しばらくここには
 こないよ。」
「またここを振り返ったときには笑顔のお前に会えるまでな。」
「それまではこの終わりない道をどこまでも走り続けていくよ。」


「な〜んて二日酔いの酒臭い声でカッコつけても、しょうがねぇか。」
「まあ、またお前と一緒に走り続ける為にいい男になって戻ってくるから
 楽しみに待っててくれよ!」
そういって俺はこの場所にしばらくの別れを告げた。
また溢れそうになったけど、今度は笑顔を作れたからあいつも見守ってくれるだろう。











そう、彼らの進む道に終わりはない。
我々の進む道に終わりはない。



終わりはない。
終わりはない。











END

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