ザ・グレート・展開予測ショー

B&B!!(9)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(03/12/16)



その子供―常世川小学校4年2組水無月理沙―のいたグループは割と簡単に見付かった。
班行動のまま俺達の近くで、彼女を探しながらグッズショップのはしごをしていたからだ。
向こうが先に気付き、彼女を呼びながら駆け寄って来た。

だが――――



「ねえねえパピちゃん、アメ食べる?夕香ねえ、全部のフルーツ味持ってるんだよ。
・・あ、イチゴは食べちゃったからないや。」

「パピちゃん、手品上手いよねー!、さっきの蝶々、もーいっかい見せてー!」

「パピちゃんって東京の子?違う?何か変わっててオシャレだもんね。
・・その服、どこの?いなかでも買えるのかなー?」

「えーっ?“パピリオ”ってニックネームじゃなくて本名なのぉ?うん、そー言えばパピちゃん、
少し外人っぽい。ハーフでしょ!・・・アメリカ?ロシア?」



さすがのパピリオも少し辟易している様だ。理沙と合流した小学生グループは彼女によってパピリオを紹介され、
そのまま、行動を共にし始めたのだった。パピリオは自分と同じ位の背丈・年格好の5人に囲まれ、色々話し掛け
られている・・答える暇も与えられない程の勢いで。

「ハーフじゃないよー。ほら、パピちゃんのお父さんもお母さんも、カンペキ日本人でしょ?・・・あっ!」

理沙は言葉を切り、口元を押さえた。表情に焦りの様なものが浮かんでいる。
子供に全く似ていない両親・・・何か、触れてはいけない様な事情でも連想したのだろう。

「イタリアに住んでる兄貴の子供さ。向こうの学校が休みだからってその間こっちに来てるんだ。」

助け船に彼女の誤解を解いてやる。―まあ、俺が言ってるのも嘘だけどな。



「フフ、確かに幾ら何でも私達とあの子とで“親子”は無理ありますわね・・。でも、“カンペキ日本人”と言えば、
貴方は少し混ざって・・・・」



  ――――――――――――!!



「・・・・あっ。」

―――こちらは本当に、“ふれてはほしくなかったこと”―――。



「・・・・ご・・ごめんなさいっ!・・うっかり・・してましたわ。・・本当に、ごめんなさい・・ね・・」

「・・・・・・」

即座に言葉を切り、らしくない程の殊勝さで俺に謝って来た。
だけど、弓の俺へ向ける目には謝意以外の感情が色濃く浮かんでいた。


「心配」――「不安」――、そして・・・怯え・・・・・「恐怖」。
俺は今、そんなに殺気の篭った目でこいつを見ていたと言うのかよ・・?


安易にそう言う事を口に出した弓も軽率だったかも知れないが、こんな話でマジギレしかけてる俺が一番ダメな気がする。


俺はママの子だ。・・・・ママだけの・・、子だ。
・・ならば、こんな話には俺が気に掛ける値打ちも、他人から気を遣って貰う筋合いも全くねえ筈だ。

「あーいや、イイんだ。・・別に、テンパっちまう様な話題じゃなかったっけな?」









   わるいひとなんかじゃ、なかった。

   あのひとは、よわいひとだっただけ。・・あのひとたちは、よわいひとたちだっただけ。

   だからわたしは、うらんだりしない・・にくんだりもしていないの。


   でもね・・ゆきくん・・雪之丞・・・あなたには、つよくなってほしいの・・つよいひとに、なってほしい。

   だいじょうぶ。きっと、なれるよ・・・だって、ゆきくんは、ママの子なんだから・・・!









そうだ。

「一生出られない」「刑務所以下」と言われてたあの場所で暴動を起こし、そのどさくさで脱走に成功した―ばかりか
その足で、引き離された赤ん坊を・・俺を、その収容先に侵入して見事奪い返した・・・

俺は、そんな事が出来る世界で一番強く、カッコ良く、美しくて優しいママの子なんだ。




・・・手前自身の惨めなルサンチマンと教会の言葉とに甘やかされて腐ったゲス野郎の事なんか、俺には何の関係もない。




「気にすんなよな?ハハッ・・本当に、どーでもいいような事だったんだからよ。」

「雪之丞・・・・・」

俺は知っている。強い奴とは・・・・ママの様に強い人間とは、こんな時には笑ってるものなのさ。
弓は怯えこそ失せたがまだ何か言いたそうな、さまざまな感情の入り混じった目で俺を見ている。

――俺は上手く笑えているんだろうか?



 + + + + + + +



パラレル・マウンテン。通常5割増しの悲鳴を乗せて走行している。
先頭で立って踊っている2人の少女―いや、「踊っている」少女と「躍らさせられている」少女。

「ホッホッ、みぎてでウッキー!ひだりてでウッキッキー!みぎあちで・・」

ヒュゴォォォォォォォォォォッッ!!

「常世川小学校4年2組水無月理沙ああああああああっっ!!」

ゴォォォォォォォォッ・・・・・・・・

5割増しの悲鳴の中でも二人の声は良く響いた。




ボーンデッド・メゾン。呑気な顔で「恐かったー」「ドキドキしたねぇ」と言いながら出て来ていた客が、パピリオ達が入って
数分もしない内に蒼褪めた顔で出て来る様になり、やがて走って出てくる様になった。
・・ノイローゼ気味に「まだ追って来るー!」「呪われてるー!」「殺されるー!」と口にしながら。
ホログラムのゴーストやロボットのゾンビが霊気を放ちながら出口の外まで客を追い回す様になって来たので、俺は
そいつらをまとめて除霊し、両手に霊力の篭った拳を作って出口で待機する。

「フフフフフ・・・どうでちゅかメリー?これくらいパピリオにとってはにちじょうちゃめしの・・きゃうっ!!」

ゴリゴリゴリゴリゴリ・・・・・

「と・と常世川小が・学校よよ4年2組み・・水無づづきき理沙・・・」

ガクガク震えながらも、既に泡吹いて気絶してる友人達を引き摺って、パピリオの後から出て来た彼女には
何となく“侠気”を感じた・・。




『覚悟は出来てるんでしょーね・・・?・・こんっっのぉヤドロクゥッ!!』

・・・ドガァッ!! ゴスゴスゴスッ!! ビシィッ!ドビシィッ!! ガシッ!ガシッ!ダシッッ!!

何か聞き覚えの非常にあるメモリーボイスを発しながらマニーキャットがマッキーキャットに鮮やかなコンボを決めている。
―マッキーの悲鳴のボイスにも非常に聞き覚えがあったが(経営苦しいのか?あいつら)。
その周囲にはガキどもが群がって・・・・「いいぞーーっ!」 「もっとやれ!!」 「ストンピング!ストンピング!」・・などの
歓声を上げていた(まったく・・・)。勿論、その中にはパピリオと常世川小学校4年2組御一行様も(本当にまったく・・)。
ガキどもの内の何人かは手に配られた花束を持っていた。

近くにある看板――
『ああっ、大変だ!マッキーの浮気がマニーにバレて鉄拳制裁が・・・!みんなでマッキーを助けてあげよう!
――マッキーに花束を渡して下さい。マッキーがその花束をプレゼントしてマニーの機嫌が治るかどうかは・・
心次第、運次第??』

マニーの機嫌はすこぶる悪い様だ。さっきから何度も花束をプレゼントされているが、それを全部その辺に投げ捨てて
マッキーをシバき続けている。

「常世川小学校4年2組水無月理沙、行きます!!」

・・・・ぽいっ、ゲシゲシゲシゲシゲシゲシッ・・・・!!

『かんにんやーー!!仕方なかったんやーーーー!!』

「ああっ!どーしてーーー!?」

「メリーは渡す前に心を込めないからだめなんでちゅ。ヨコ・・・マッキーを助けたいと強く願って、
その想いを花に込めるんでちゅよ。」

おい、ドチビ・・・そう言いながらお前が花束に込めてるのは何かの呪法だろ?
霊波を流し込んでる所が見えたぞ・・・。

マッキーがパピリオの花束を受け取りマニーにプレゼントすると、花束から、一羽・二羽と赤や紫や緑・青に光る蝶が
ひらひらと舞い出てきてマニーの頭の周りを回り始めた。
蝶の数は増えて来て、マニーの周りや子供達の頭上を旋回している。マニーもガキもマッキーも顔を上げて蝶を
見ている。そして隣の弓も・・不覚ながら、俺の視線も釘付けになっていた。
毒の鱗粉などはない様だ・・しかし、光の色や点滅・・霊波による催眠効果、心理効果が何かあるのだろう。
やがて蝶達は上昇しながら一羽ずつ光の中に溶けていった。

『フ、フン・・ッ!今日の所はこれぐらいにしてやるわ!次は容赦しないからね!さ、帰るわよヤドロク!!』

マニーは全身ズタボロのマッキーを心なしか少しいたわる様に、引き摺りながら去って行った。
子供達の歓声がパピリオに向けて集まった。今度は一挙に20人以上のガキがパピリオを囲む。

「すげーじゃん、お前!今のあれ何だよ!?」

「種とかトリックとかあるの?僕にも分からなかったよ・・・!」

「すっごいキレイだったよーー!!常世川小学校4年2組水無月理沙、感動!でも次こそは負けないからね!」

「やったねーパピちゃん!!アメもう一個あげる!」

「そーいえば、さっきもパラレル・マウンテンやグレート・ウォール・マウンテンで立って踊ってたよな、こいつ。」

「本当かよ?面白れえーわっ!手品とかサーカスとか得意なん?」

やがて子供達はパピリオに集まるばかりではなく、興奮がちに今日のマニーはしつこかっただの、あれでマッキーが
壊れたりしないのかだのと、隣り合った知らない奴同士で喋り合い始めている。
・・・・・・おかしい。最近のガキにしては・・・いや、時代とか関係なくこの国のガキにしては人見知りしなさすぎる。
あのショーを目の当たりにした直後だからにしても、だ。・・・・さっきの蝶が何かをしたのか?

ふと、盛り上がっていたガキどもの中にさっきまでその中心にいた筈のパピリオの姿が見えない事に気付いた。



 + + + + + + +



「蝶魔使役に仏道の高等法術を取り入れたものでちゅ。」

近くにあったクラッスル・キャリューセの白馬に乗ってパピリオは一人で回っていた。

「喧嘩しているのを仲直りさせたり、知らない同士を仲良くさせたりするのに使うそうでちゅ。操るのと違い霊魂に
働きかけて自然に“そうさせる”術だから高度の修練が必要だそうでちゅが。」

俺は奴の隣の白馬に跨って話を聞いている。

「ああいう機械のプログラムにも効くのか?」

「極めれば極める程、万物に通用するんだそうでちゅ。」

「教わったのは・・どっちからだ?」

「おじいちゃんでちゅ。・・・小竜姫はいきなり高等法術を一個だけ習得するのは良くないって言ってまちゅし・・
それに、小竜姫にもまだ使えない術なんでちゅ。」

師匠の頭を飛び越えて身に着けた大技か・・確かにこのドチビにはそれだけの素養はあるだろうが・・
恐らくはそうする「必要性」があっての事なんだろうな・・・。

「それを使って友達たくさん作れとか、言われたのか・・?猿に。」

「言われては、いないでちゅが・・・」

だろうな。自分では口に出さずに相手に悟らせるのがあの猿の趣味だ。
猿がパピリオに「イリーガルな交流活動」を見越してあの技を習得させたのは明白だ。

「・・・疲れたか?」

「えっ!?」

「いや、お前、多分さ、・・・あまり慣れてねえだろ?あんな風に人に囲まれるのって?」

「人間界に来る時はいつも囲まれるでちゅよ?ICPOや自衛隊・米軍・国連軍と百人単位で来まちゅからね。」

「そんなんじゃねえよ。ああやって警戒しないで仲良くしようとして人が大勢集まった事ってねえだろ?
俺も分かる。ああいうのは慣れてねえうちは凄く不自然で、疲れるものさ。」

でも、疲れる事ばかりでもない。俺はその事も知っている。

「疲れるとか、じゃないでちゅよ・・・・。」

パピリオはここにいるのを俺が見付けた時の様に黙り込んでいた。長い沈黙と・・俯き沈んだ表情。
こいつ程それが似合わない奴も滅多にいない。



「本当は・・・・、・・・・・でもいいかと思ってたんでちゅ。」

「あ?何だって?」

「・・・・魔界に行っても良いかと思ってたんでちゅ。向こうにはベスパちゃんもいるしジークも戻ってるし。・・あまり
会えないでちょうけどね・・私は行った事はないけど魔族は魔界に住むもんじゃないんでちゅかねえ?
おじいちゃんが勧める程には・・私は・・人間界で認められて・・人間と仲良くしたい、とは思えないんでちゅよ・・
だって・・・」


こいつがそんな事を言うのは少なからず衝撃的だったが、決して理解できない話じゃない。
その理由は俺でもすぐ分かった。・・・・むしろ心当たりさえある・・・。












「だって・・・・・百年かそこらですぐ、死んじゃうじゃないでちゅか?」

――――――――――――――――――
 Bodyguard & Butterfly !!
 (続く)
――――――――――――――――――
さあて、「あの」命題にも挑むような挑まないような・・その場合大抵は主人公が「彼」な訳ですが・・。
パピの場合寿命一年で他の生き物の成長を楽しみにしている所からいきなり高い寿命になった、とか
考えると荷の重さは同じでも当面の辛さでは「彼」以上では・・?
ゆっきーは「彼」ともライバルだったりダチだったりしますので・・どう捉える事やら。

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