ザ・グレート・展開予測ショー

流れ往く蛇  逢の章 序話


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/12/15)



「小竜姫はおるか?」

 扉をパタンパタンと開きつつ、一匹・・・一人のサルが辺りを見回す。

「小竜姫〜〜」

 絢爛・・・とは言いがたいが、広くなおかつ落ち着きのある廊下にこのサルの声が響き渡る。

「いかがなさいました。斉天大聖様」

 響き渡る声に反応してか、若い神族の警備が声を上げる。

「いや、小竜姫に伝えたいことがあったのじゃが・・・仕事でいないのかの?」
「は、本日二〇〇に、地上のGSのものと面会の約束があるとうかがっておりますが」

 警備のものは、恭しく首をたれる。

「そうか、なら仕方ない。わしはこれから出かけるが、代わりにおぬしから伝えてはくれぬか?」
「は、何なりと」

 若い警備が気を引き締めて、目の前のサルの一挙一動を漏らすまいと構える。

「上からの命じゃ、メドーサの捜索を断念せよ・・・とな」
「は・・・?」

 若い警備の男は、その発言に意味がわからずに首をかしげた。





「困りますよ、六道さん!!あんな怖いもの知らずな子供を・・・!!彼女まだ18だっていうじゃないですか!!」

 狭い電話ボックスに一杯広がれとでもいうみたいに、唐巣の声が反響する。でもその声は怒声って言うには程遠いな、こわごわ・・・でもそこに直訴みたいな響きも入れている。
 よーするに電話の相手はそんなに怖いやつなのか?

『・・・・・・・・・』

「あんな娘と一緒にしないでください!!」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

「う・・・・・・!」

 どんなやり取りが電話の相手と行われたのかは知らないけど・・・唐巣が受話器から顔を離して青ざめたところ・・・もう言うまでもないよな〜

「でもうちには他にも居候の少女が一人いるんですよ?協会にも報告したはずですよ?こっちはこっちで手一杯なんですよ!」

 唐巣はこっちをちらりと見ながら、参ったなぁみたいな感じでなおも声を上げる。

『・・・・・・・・・』

 そして・・・一気に表情を引き締めた。まるでその顔は仕事にあたっている時みたいだ。

「はい・・・わかりました。じゃぁこちらのほうは何とか対処して置きます」

 表情を引き締めたこいつは、ハッキリ言ってなかなかいい男だと思う。でも悲しいことに、多分こいつは美智恵やらその娘やらに、いろいろと苦労をかけさせられるんだろうなぁ。あたしの知っているこいつの未来像がそれを裏付けている。
 で、こいつのさっきまでの表情は一気に崩れ去る。

「でもそれとこれは話が違ってですね、住みこみって・・・もしもし?もしもーし・・・?!」

 崩れすぎだって・・・やけになったみたいにこの男は自分の手を頭に持って行って・・・

「あ、髪の毛を掻き毟るな!」

 あたしは慌ててこいつの腕を押さえてやった。唐巣は意味がわからないようにあたしの顔を見詰める。

「一応善意で言ってやるけど、あんまり髪の毛を掻き毟るな。あとこれからいろんな厄災がお前を襲うことになるだろうけど、いちいち気にしないで気を楽に持てよ」
「・・・・・・は?」

 唐巣はますます意味がわからないように、あたしを見詰め続けた。

 
 


 流れ往く蛇 逢の章 序話





 こう、あたしだってずいぶんと昔から生きながらえているわけだよ。ウン。
 で、その長い経験から、この世には二種類のタイプにしか分類できないもの・・・って言うのがあるってことに気がついたんだよ。

 一つは不条理なことを繰り出して、己のみ・・・自己満足感に陶酔するようなひどい奴。

 また一つはその不条理に巻き込まれて、両腕を上げて万歳してしまう奴。

 当然確認なんかする必要もなく、あたしは前者だった。
 そう!!前者『だった』んだよ・・・・・・だった・・・はずだよな?



 

 ガッタン――ゴットン ――ガッタン――ゴットン――

 車はあたしたち―あたしと唐巣と美智恵―を面白おかしいくらいに揺らしながら、道を進んでいく。
 ウ〜ン、どうも車って言うのは移動手段として不向きなような気がする。
 あたしらは移動するには飛んでいけるわけだし、そうすれば渋滞なんかもないし、何よりもこの『走ってまっせ〜』なんてことを意識させられる揺れだってないわけだ。最も今はあたしの力は殆ど消費しちゃったわけだから、三流GSにも瞬殺される自信がある。悲しいけど・・・空を駆けるなんてことが出来るわけもない。
 車の中には表情を引き締めた唐巣、あとはどこか異次元の存在と更新している美智恵・・・なんか『あと二体』とか『これでやっと・・・』だとか・・・異様な表情でブツブツと呟いている美智恵が・・・怖いって。
 どうもこの二人は家を出てからずっとこんな調子だ。一体何があったんだか・・・こんなんでこれから向かう依頼先で何があるやらわかったもんじゃない。どうやら一番まともなのはあたしくらいらしい。
 今向かっているのは唐巣の依頼人の一人で、ずいぶんと長い間霊障に悩まされている人物なんだそうだ。唐巣くらいの能力をしても直せない霊障?一体どうなることやら・・・

 ふと、唐巣が思い出したみたいにあたしのほうを振り返った。

「あぁ、そうだハクミ君。この先は危険だからこの札を預けておく」

 唐巣はそう言いながら片手をハンドルから自分の懐にもっていき、一枚の札を取り出した。
 その札は―いや、正確には札状の何かだ。白い紙に包まれている。ッて言ってもその白い紙さえはがせば昨日の除霊現場で見せた、あの札が入っているんだろうな。
 あたしは緊張しながら―運悪く札自体に触れれば除霊されかねないからね―その白い紙を受け取った。
 この先何があるかは知んないけど、まぁ無いよりはましだろうってことで。
 あぁ〜ッと、危うくスルーするとこだったけど、このハクミっていうのは、今朝美智恵の奴があたしに対してへび女なんていいやがるもんだから、便宜上ってことで『白巳』なんて名前がついてしまった。 
 唐巣も女の子っぽくていいんじゃないか?なんて笑いやがるし・・・いいわけあるかぁ!!なんて思いながらも

「いいんじゃない?」

 なんていってしまう自分があまりにも悲しい・・・



 そんなことを考えてる内に、あたしらの目の前には一軒の大きな家が現れた。





「・・・またずいぶんと・・・わかりやすい幽霊屋敷ねー!」

 美智恵が苦笑いを含めて、そう言った。で、あたしもそんなことを考えてたりもする。
 というのも、この家の周りにはフヨフヨと気持ちよさそうに空を遊泳している白い絹・・・によく似た浮遊霊たちがとんでもないくらいいる訳で・・・

「ッていうか人が住めるのかどうかも怪しいだろ?」

 あたしは先頭を歩く唐巣に声を投げかけた。
 唐巣は相変わらず表情は引き締めたまま、ちらりとあたしに振り返って、

「・・・幽霊屋敷じゃないよ。ちゃんと人は住んでいる」

 短くそう言い切った。
 一体この屋敷に何があるって言うんだか・・・どちらとしてもあまりいいことじゃないと思う。
 ・・・帰ろうかな?

「あんた今チラッと帰ろうとか思ったでしょ?」
「そ、そんなこと考えるわけないだろ?」

 妙に勘が鋭い美智恵が、あたしの肩を掴んで睨み付けてきた。
 だってあれだよ?今あたしの力はとんでもなく弱まっているわけでさ、普段ならそりゃそこら辺を飛び回っている霊たちだって簡単にあしらう事が出来るんだよな。でも今のあたしは人間ですらあまりの力の弱さに魔族だって事すら気付けないようなほど弱体化してるんだよ?
 この霊のうちの一つでもあたしに攻撃をしてくれば、はっきりいって生き残ることなんて出来やしない。三流GSのデコピン一つでも助かる自信なんてないさ。まぁ悲しいけどこれが現実だ。

「ところで何でこんな所に住んでいるんだい?霊どもが集まってくるんなら引っ越すなりすればいいだろ?」

 あたしは話題をそらすために、それとなく唐巣に尋ねた。
 あたしの問いに、唐巣は・・・複雑な表情とでも言えばいいのか?沈鬱そうな色の濃い顔で振り返る。

「・・・事情があるのさ」

 唐巣はそういうと、また視線を前に戻した。
 ・・・こらぁ、返答になってないぞ。というか会話にもなってない。
 まぁ、なんかの事情でもない限りはこんなとこにずっといるなんて考えられないわけなんだけどね・・・
 そんなあたしの思案を打ち消すみたいに、不意に唐巣が浪々と呟く。

「二人とも・・・いい機会だからよく考えてこれからのことを感じるがいい・・・」

 言いながら唐巣はゆっくりとあたしらのほうを振り向く。その表情はなんかちょっと辛そうだ。なんでだ?
 イタイイタイなんて言いながら、無機質な表情でそれを覆い隠すみたいに・・・

「GSの仕事は、害虫を駆除してボロ儲けなんていう甘いものじゃない。こういう仕事もあるんだってことをな」

 なんでか・・・その目はこのあたしでも痛いなんて思う・・・
 なんでだ?人間どもがどんな思いをしようたって関係はないだろ?あたしは慌てて頭を振った。
 
 



 ギィィィ
 無機質な音を立てて、扉は開かれる。うっすらとした明るさを室内は保っていて、生活するにはそれほど快適とはいえないと思う。

「公彦君、私だ、唐巣だ。どこにいる?」
 
 唐巣がこの家の主を捜す言葉を発した。
 玄関から入ると、正面の廊下を渡ってリヴィング、二階への階段、トイレ、とかまぁ、すぐにつながっているのが見える。で、書斎も歩いてすぐのところにあるわけだ。
 丁度あたしらがその書斎のところまで差し掛かったころ、あたしはその書斎にある気配に気付いた。

「・・・ここです、神父。来て下さるころだと思ってましたよ」

 その書斎へ続く扉はうっすらと開かれていて、この屋敷にいる霊どもはその書斎へと立て続けに出たり入ったりを繰り返している。

「これはちょっとまずいな・・・美智恵君、すまないが簡易結界をはってくれないか?私は先に依頼人(クライアント)と話してくる」

 唐巣はそういってその書斎への扉をくぐっていった。この先に何があるのか・・・まぁそれは入ってみれば簡単に割れるだろうけどね・・・
 あたしはぶつくさと文句を言ってる美智恵を振り返った。

「ったく神父は人使いが荒いんだから。簡易結界ったってただじゃないのよ?印を結ぶとかだってすればもっと安く・・・ブツブツ」

 ・・・まぁこんなこと言ってる親だから娘があんな感じになるんだろう。あたしは日本のGSの未来を本気で心配した。いや、あたしがしてやる必要なんてないんだけど・・・ないんだけど・・・
 美智恵はドアノブに一本のロープを結び付けて、更に余ったロープの端っこをなんか複雑な形に縛ったりなんだり・・・よく意味の判らないことをした。いや、ほんとに判らない。

「ほら、へび女。中に入ってよ、ドア閉められないでしょ」
「だれがへび女だ!!」

 あたしは憮然としながら書斎へと入ってゆく美智恵の後に続こうとし・・・
 あたしは視界の奥に一人の娘が立っていることに気がついた。ふと・・・あたしはその娘(ッていうかガキ)へと視線を走らせる。
 白いワンピースを着た少女だ。歳は十歳にもならないんだろうな。
 そいつは小さく唇を開く。

「お姉さんは・・・あたしたちを殺すの?」



「・・・あ?なんだって?」

 あたしは何のことか意味がわからずに聞き返して・・・

「ほら、何やってんのよ。早く中に入ってよ、へび女!」
 
 業を煮やしたあの美智恵の奴があたしの腕を引っ張った。痛いっていうか・・・それよりも・・・

「ッていうか誰がへび女ダァッ!!」

 あたしはドアの中へと引き込まれる寸前、もう一回さっきの少女のいるほうへと視線を戻してみる・・・けどもうそこにはさっきのあの子供はいなかった。まぁどうせここらにいる浮遊霊のうちの一人なんだろうけどね、なんか釈然としないなぁ・・・







「やぁ」

 あたしたちが書斎に入ると、大量の本に囲まれたその一角で一人の男が声を上げた。団積みにしてあるような本棚に腰を下ろし、なおかつ自身の手にも本が握られている。よほど本が好きなんだろうな。あたしは小難しい様な内容の本なんか読みたくもないけどね。
 
「よく・・・来てくれましたね・・・」

 その男は―まぁこいつが公彦って奴なんだと思う―まるであたしたちのことを知ってるみたいな様子で、って言ってもその表情は鉄仮面に覆われているわけなんだけど、でもそんな雰囲気を放ちながら見詰めてくる。
 にしても仮面って・・・シャ・・・止めておこう。何考えているんだ、あたしは・・・今度どこかでゆっくりと休もう。
 全身スーツに覆われていて、とは言っても声からして若いはずだ。それに気の弱い性格って感じもする。

「彼は東都大の院生で私の依頼人・・・」

 浪々とした声が室内に響き渡った。唐巣がその仮面の男へと近付いていく。

「紹介しよう、彼の名は・・・吾妻公彦君だ・・・」

 紹介されたその男―吾妻公彦はあたしたちを見回してから・・・なんか妙にあたしのことを意識してるみたいな気もしないでもないけど・・・

「よろしく・・・」

 って言いながら一礼をする。

「来て下さる頃だと思っていましたよ、神父。幽霊がまたこんなに集まってしまって・・・」

 言いながら、公彦はあたしのほうを見詰める。
 だから何でこっちを見る!?
 しかも気のせいかやや警戒色すら混じってる!?
 部屋中には相も変わらず浮遊霊どもがフヨフヨと遊泳してて、そいつら、どうもあれだ、トンビが獲物を捕まえるみたいに弧を描いてるんだ。で、その弧の中心にはあのマスクマンがいたりする。
 一体こいつに何があるんだ?
 まぁ何があるかは知らないけど、ここまで霊たちをひきつける何かがあるってことには間違いはないと思う。もっとも、あたしの役に立つもんなら脇からぶん取ればいいんだけどね。

 ――ズザァッ!!

 公彦がもの凄まじい勢いで後ずさった。その眼はなんかとんでもないほど怯えてるような気がする。
 ・・・あたしの顔を見ながら・・・傷つくぞ、っていうかもう傷ついてるぞ。
 なんでだ!?どうしてだ?

「ちょっと、ハクミあんた、顔怖いわよ?」

 美智恵があたしのほうを振り向きながら、イジョウな物でも見るみたいにそう言う。
 顔か、そんなにあたしの今の表情が怖いって言うか?そんなにヤンキー入ってるとでも言うのか!!

 落ち着け、落ち着くんだ、あたし。こんなとこで妙にもめてあたしの正体がバレでもしたら困るだろ?
 あたしはゆっくりと深呼吸をしてから、なれないけどそりゃもうって言うくらい、ニッコリと微笑んで見せた。これなら公彦だってビビッたりはしないだろ?


 ・・・しないよな・・・?
 しないはず・・・ハズ・・・公彦って言うよりも周りの反応のほうが激変したような気もしないでもないけど・・・きっと気のせいだ♪うん!


「ハクミ・・・何その怖い顔は・・・気持ち悪いからやめたほうがいいわよ」

 コラアァァァァァ!!美智恵ェェェェェ!!どうしろっていうんだあぁあぁァァ!!
 その周りではほんっとマジでビビッた様に引きつっている唐巣と公彦・・・あたしは頬を引き戻したくても戻せないような・・・そんな表情で固まっていた・・・

 もう絶対人前で笑ったりなんかしないって誓おう・・・



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