ザ・グレート・展開予測ショー

B&B!!(8)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(03/12/12)




1、2、・・・3・・・。



「もう一回!もう一回乗るんでちゅよ!!グレート・ウォール・マウンテン!!」

「貴方ねえ・・・!走行中ベルト外して跳ねたり、そこらを歩き回って他の乗客に話し掛けたりするのやめなさい!!
皆マシンの動きより貴方にショック受けていましたわよ!・・・迷惑なんですっ!!」

「だって・・座りっぱなしじゃ退屈なんだもん。そうだ!お前もやってみると良いんでちゅ。修行後のストレッチに
おじいちゃんから教わったモンキーダンス。まず、両足をでちゅねえ・・・・」

「結構ですっっ!!」



いや・・・向こうのベンチにも・・・あそこで係員のフリしてる二人・・・レストランの窓から・・・合わせて7人か。



「大体、貴方、あんな物に乗らなくたって自分で空飛んでくるくる回ってられるでしょ?どうしてわざわざお金払って・・・」

「あっ、マニーキャットーーーーッ!!!」   トタタタタタタタ・・・

「――人の話聞きなさいっっ!!」


真後ろで下手くそな尾行をしている3人から行くか。服装も顔つきもデジャブーランドに遊びに来た奴のそれではない。
陰湿な悪意の篭った目で、こちらをじっと観察してやがる―割には、俺にバレてる事すら気付いていない様だが―。
嫌になる程、見覚えのある目だ。俺にバレない筈が無い。
自分の信仰にそぐわない存在を悉く否定する“敬虔な信者”の目。神と教義なくては口もロクに開けないくせに、
それさえあれば人も殺せる、その人格や人生や尊厳も平気で踏み躙れる“弱者”どもの目。












 生まれてすぐ、小さく暗い部屋で、小さく薄汚い木の箱に放り込まれた。

 あれは「ベビーベッド」なんかじゃなかった
 ・・・・どう見たって、どう考えたって「ゴミ箱」だった。

 毎日の様に上からそれを、箱の中の俺を覗き込む尼僧達
 ・・・物心付いてなくたって、焼き付いている。

 ミルクもおむつの交換も最低限度。声の限り泣いても誰も来ない
 ・・・抱きしめてももらえない・・・すぐに泣く事も止めた。

 暗闇と奴らの顔とが交互に視界の全てを覆う。

 奴らの口から繰り返された言葉。覚えている。
 自分の名前より先に覚えた。



 「――罪悪から生まれ出しもの」

 それが最初の世界だった。




 ある日、それらの内のどれとも違うものが俺の視界に現れた。

 いつもの奴らじゃない・・・・若い女。

 煤と土埃で汚れた水色のワンピース。
 見た事もない黒く長い髪。


 笑顔で・・・とても暖かい笑顔で
 ・・・暖かい手で俺を木箱から抱き上げてくれた。




 ママが・・迎えに来てくれたんだ。












「マニー、あそこにマッキーがいるでちゅよ!!ほら、他の女の手なんかを握ってまちゅ。
・・行けっ!!マニーチョップでシバき倒すでちゅっ!!」

家族連れの子供と握手しているマッキーを指差しながらマニーのスカートの裾を引っ張っているパピリオは無視して、
俺は弓に声を掛けた。

「昼飯前だけど、ホットドッグ食いたくなんねーか?・・ちょっとひとっ走り買って来る。飲み物は何が良い?」

「・・・・“何本”、買うの?」

「・・・・“7本”だ。」

「・・・・“多い”わね。」

「・・・・なあに、小さくてセコいのが“7本”だ。余裕でイケるだろ?・・パピリオと一緒にフェアリーテイルランド側の
カフェテラスで待っててくれ。」

「・・・気を付けてね。・・・紅茶が良いわ。リッジウェイSBJのミルクティーでお願い。」

「大丈夫だ。・・・それと、そんなモンここにはねえ。午後ティーにしとけ。ドチビははちみつレモンでいいな。」

コースター裏へまわる手前のオブジェの陰で立ち止まる。弓はパピリオを呼び、二人でカフェテラスへ向かう。
ばたばたと走るパピリオに引き擦られる様にして弓がついて行く。
二人の様子を見ていた尾行組は急いでその後を追った。

俺のいるオブジェ陰を通り抜けようとする―――音も立てずに全員昏倒させた。

そいつらを植え込みの中へ隠すと、俺は遠回りにイースターモアイシアターの角へ行き、通りがかった女数人の
グループに声を掛けた。

「あの、すいません。ちょっと今、向こうでロナルドがうちの子の手を握ったまま動かなくなって・・何か関節部分の
あちこちから煙を吹いているんですよ。悪いけど、あそこの係員さん、急ぎで呼んで来てもらえませんか?」

ニセ係員が駆けて来る。角を曲がった所で出会い頭に一撃。もう一人の喉に手刀。
隠すような場所はないので、つっ立ってサボっている様に見せかけておく。

ベンチに座っている奴―その後ろの植え込みから首に腕を掛けて引きずり込み、そのまま絞め落した。楽勝。

最後だ。
―俺はレストランに目を向ける。窓際のテーブルについたそのスーツ姿の男は、今もカフェテラスの弓とパピリオを
監視している。倒す以前に、自然に近付くのも難しい。客を装って入り、トイレに立った時―いや、奴がトイレに行くと
したら誰かと交代してからだ。・・・ちょっとばかり、「社会に迷惑を掛ける」事にするか・・・・。

数分後、俺はそのレストランのフロアに、ウェイターの制服を着て立っていた・・。煙草を吸おうとして通用口から出て来た
不運な“本物の”ウェイターは身長が170cm近くあったので、かなりダブついている。どっちにしろ、顔で部外者だとすぐ
バレる。奴を連れ出すまで誤魔化し切れれば良い。
近くで見るとスーツの男は結構若かった。20才過ぎくらいか。高そうなブランド物のスーツを小奇麗に着こなして、あまり
悩みとかなさそうなツラ。あの教団の信者には見えない。・・しかし、東京駅の例もある。一般信者の他にこう言う工作員
がいるとは十分考えられた。男の横に立ち、声を掛けてみる。

「お客様。」

「はぁい?」

男はぼぉっと俺の方を見た。きちんと目標を観察出来る様な顔には見えない。油断はまだ出来ないが、これはやはり
俺の間違いだったのだろうか。

「お客様にお電話が入っております。携帯が繋がらなかったとの事で・・真神十字聖者友愛会の時田様と仰ってました。」

俺は最初に倒した3人の内1人が持っていた友愛会のカードにあった名前を出した。


「ああ・・はあい。時田さんか・・・そう言えばさっきから見えないな・・電話、どこっすか?」

「こちらに・・・」

男は席を立ち、俺の後についた。やはり、黒か。このまま人のいない廊下か事務所でやっちまえば、取り敢えずは
一丁上がり・・だが、その次の瞬間、男は横から強烈な張り手を食らわされていた。
俺と同じウェイター姿をした中年の男に。

「・・お前な、こいつはお前の名前を知らないのに何でお前への電話だって分かるんだよ?そういう事、考えねえのか?
それに、こいつは、さっきまでターゲットと一緒にいた奴じゃねえか。・・顔とか、覚えねえのか?見てなかったのか?
大体、あいつらがいくら素人だからって、教団名と本名を出して連絡して来るなんてよ、有り得ねえだろ!?」

・・・つまり、偽ウェイターは俺だけじゃなかったって事だ。
ウェイター姿の男はスーツの若者の胸座を掴みながらこちらに背を向けて怒鳴り立てていたが、俺の方も、その場を
動く事は出来なかった。背後に気配がある・・1人ないし2人。研ぎ澄まされた霊波の切っ先が突き付けられているのを
感じた。多分、振り返る前に吹っ飛ばされる。神族の様なバカ力ではないが、コントロールされた正確な、渾身の一撃を
放てる人間―訓練された、プロのGS―のそれだった。
ウェイター姿の男が若者から手を放し、ゆっくりとこちらを振り返る。

「まったくよ・・・何か素人だのボケナスだのばかりでよ。困ってんだ。・・あんたのような部下が欲しいぜ。
・・いや、あんただったらこっちが部下でも構わねえくらいだ・・なあ、伊達センセエ?」

「俺を・・・知ってんのか?」

「またまたー、当然だろ?十数年前のアシュタロス戦役で地球を救った英雄の1人。この業界で知らない奴はいないよ。
その後も特に俺ら側なジャンルの仕事で華々しく活躍重ねているじゃないか。あまり、表には知られにくいけどな。
それに何より・・うちの隊長が凄く気に掛けていてね。あんたの事。」

「へえ・・だったら、その隊長さん以下全員でこっちに鞍替えする事を薦めるぜ。悪りぃけど、てめーらに勝ち目はねえ。
俺はともかく・・自分のターゲットが一体何者だか、知ってるのか?」

「ああ、資料は揃えてもらったさ・・魔王アシュタロスの部下だった魔物の内の一匹で名前はパピリオ。外見上は人間で
言うと8〜10才くらいの少女の姿をしているが数千マイトの強い霊力を持ったれっきとした化け物であり、猛毒の鱗粉を
持つ蝶を卷族として使役する。戦役後身柄を拘束するが除霊・浄化が困難である為、結界にて封印するも神界内での
トラブルに乗じて先日脱走。戦役の再発を企てている可能性が濃厚である為早急に身柄の再拘束を行なうべきである。
パピリオの力は単独において強力であるが、対集団戦を極めて苦手とする為、10人前後の能力者によるチームプレイ
にて制圧する事が可能である・・と。」

「・・・どこに揃えてもらった資料だ、それ?『クライアントの流す情報を鵜呑みにして行動するのは危険』、俺と近い所で
仕事してたんだったら常識じゃねえのか?」

「魔族に買収されているあんたにこそ鞍替えを薦めたいね。・・GS協会に知られたら破滅だよ。」

「その勘違いは敢えてつっこまねえ、どう思おうが勝手だが・・その資料は穴だらけだ。真に受けてたら長生き出来ねえぞ?
・・いいか?実際に奴をその集団戦で倒したのは俺だ。で、てめーらの一人一人は俺と互角に戦り合えるってのか?背後の
2人は結構鋭い感じだが、それでも、俺に勝てる様には思えねえ・・・あの時揃ったのは全員、俺と互角な能力者だった。
しかも防御・攻撃・接近戦・遠隔戦と各方面に秀でた奴がバランス良く揃ってな・・・それでやっとだったんだ。
もう一つ、・・パピリオは危険な魔物として封印されてたんじゃねえ。霊地・妙神山で客人として迎えられ復興の手伝いと
修行をしていたんだ。今日ここにいるのはご覧の通り羽目を外して遊びに来ただけさ。・・余計な手出しをしていると、
『聖霊天主様』とは別の“神の怒り”を買う事になると思うぜ?」

男はうつむいて、肩を竦めた。

「そんな類の真実がどうかなんて正味、関係ないんだよねえ・・・本当に分かってないねえ。センセエ。・・まあ、センセエ
んとこは1人で仕事請けて1人で仕事してるような所だから分かんないか・・GS協会なんて名前を載っけておく所ぐらいに
しか思ってないんだろ?どうせ。」

背後の気配に緊張が走る。・・始まるか?

「ああ、そんな慌てなくて良い。あんたが変な動きさえしなければこちらは一旦撤収させてもらうさ。すぐ、また会う事に
なるけどね。・・・隊長、この件にあんたが噛んでるって情報入ってから非常に興奮しててね、絶対倒すって言ってる
んだよ。だから鞍替えとかは到底無理だな・・。」

「絶対・・?俺を・・・?何なんだよその隊長。俺はそんなに重要か?」

「隊長にとっては、ね・・クライアントはクライアントさ。うちらはうちら。・・全部、すぐに分かるさ。・・嫌でもな。」

全身に強い縛呪が掛かった。男とスーツの若者は俺の横を通りぬけ、そのまま去って行った。
背後の気配も消え、縛呪も解けた。振り返ってみると、もう誰もいなかった。
おかしな事に、レストランの客も本物の店員も皆、さっきまでの俺達のやり取り、そして取り残された俺に不審の目を
向けていない。何らかの呪法を用いてたのだろうか・・?
いつも通りの、昼の平和な賑わいだった。


 + + + + + + +


「遅いでちゅよ、ユキ。そんなんじゃあ、“ジョン”に逆戻りでちゅねえ。」

「わりい・・一回だけなら手ついて謝っても良いから、それは勘弁してくれ。」

「何ですの?その、“ジョン”って。」


俺が午後ティーとはちみつレモン、袋に入ったホットドッグを抱えて戻ったのは、買いに出てから
30分以上過ぎての事だった。

・・・? なんか様子が変だ。

違和感の正体が分からないまま、取り敢えず俺は袋をテーブルの上に置いた。

「出来上がってたの全部買ったんだけどドジって“1本落っことしちまった”から、6本だけだ。
・・・“後でまた沢山出る”んだとよ。さすがGS協会がスポンサーの店だぜ。」

「そう・・・・。」

「弓・・・GS協会と真神十字聖者友愛会との繋がりについて、何か知っているか?」

「知らないよー、そんな“アシュ様”なんて。やっぱり怖いんでしょ?お城の魔王様とモンスターが。」

「そうね・・私の家でも体裁上の関わりだから、そう言った見せかけでない実質的な部分には・・」

「だからー、アシュ様は見せかけじゃない本物の魔王様なんでちゅ。モンスターなんて皆私のペットでちたよ。
そんなニセモノが怖いなんてある筈ないじゃないでちゅか。バカな事言わないで欲しいでちゅ。」

「“バカな話に踊らされている部分”だな、実質的って言うよりは。アシュタロス戦役の頃から変わってねえよ。」

「やっぱり言葉使いから変えないと駄目ね、パピちゃんは。・・10才にもなってでちゅでちゅなんて
言ってるから怖がりになっちゃうのよ。」

「・・・怖い話、ですわよね・・。」

「ああ・・当分治る事はねえだろう・・パピリオの語尾は・・・」



「えっ?」 「えっ?」 「えっ?」




「あ゛ーーーーーーーーーっっ!!」


3人同時につっこまれてしまった。横で紛らわしい会話してんじゃねえよ!・・・・・え!?・・3人!?
違和感の正体がやっと分かった・・1人、多い。・・・・誰だ、パピリオの隣にいるこの子供は?

「ええと・・その・・つまりだ・・・・これ、誰?」

「これ、じゃありません!常世川小学校4年2組水無月理沙です!」

その女の子は少し怒りながらもハキハキと自己紹介したが、俺が聞きたいのはそう言う事じゃねえ。

「いや・・ごめん・・どうしてここに・・?」

「常世川小学校の学年別旅行で来ました!4年2組の水無月理沙です!」

だから、つまり、俺が知りたいのは、どうしてその常世川小学校の学年別旅行でデジャブーランドに来た
4年2組の水無月理沙さんが一人でうちらのテーブルに現れ、パピリオとお喋りしているのかって所
なんだが・・・。

「私達がここに来た時一人で座っていたのですわ。グループとはぐれてしまったらしいんですの・・。」

簡単に言えば・・簡単に言わなくとも、迷子か。

「私が拾ったんでちゅよ。ね、メリー。」

「メリーじゃないよ!常世川小学校4年2組水無月理沙です!」

某塾の塾長みたいに学校名と本名をまとめて連呼するその少女は、すぐにペット名を付けるドチビと
良い勝負になるかもしれないよな・・・・・・?
更にややこしくなった状況から逃避するかの様に、俺はそんな事をぼんやりと考えていた。


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 Bodyguard & Butterfly !!
 (続く)
――――――――――――――――――
あう・・またもや濃い新顔が次々と・・。まあこの辺は予定のうちだからいいとして。
ユッキーママのエピソードがいよいよ後戻り出来なくなって来ました。途中での変更が不可能な領域に・・
正直言って・・・・“怖い”です。色々な意味で。
ちなみに、ユッキー達のいるテーマパークの名前は「イースタンランド」と言います。
復活祭にちなんだものやモアイが出て来るらしいです。そんなところで。
ここ何日かの書き溜め分はこれで最後ですね。

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