ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『影とキツネと聖痕と 3』 〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(03/12/10)




『私は叫びを聞く思いがしたのだ。
 私はこの絵を描いた・・・雲を本当の血のように描いた。
 色彩が叫び声を上げた。』

         〜ムンク『叫び』の日記より〜




〜appendix. 3  誰もいない街 〜


その街には何もない。

昼も夜も・・季節の流れすらなく、永遠のセピアに彩られている。


自分は一人だと少女は思った。

一人の場所へと来てしまった。
夢であるのか現であるのか・・全てが止まって鎮座している。

終着。

ここが少女の最後の場所。

大切な人も・・仲間たちも・・何もかもが消えた終の街。



・・それとも・・


この闇には、まだ先があるというのだろうか?
・・こんなに心が痛いのに・・・これ以上の闇が存在するというのだろうか?

・・・・。


――・・ソウダヨ。君ハマダ知ラナイ・・・。

漆黒がささやく。

――・・ボクガ・・君ヲツツンデアゲル・・・・・・。


・・・。

・・・・・・。





〜『影とキツネと聖痕と 3』〜



・・・。

「・・・い!・・おい!!タマモ!?」


・・・・・?

気が付くと、そこはいつもの街だった。
人々が行き交い、少し肌寒い・・・冬の商店街。


「・・よこ・・・しま・・?」

いつの間にか目の前にいた横島は、心配そうに自分をのぞき込んでいて・・・

「どうしたんだよ?急に見えなくなったと思ったら、道のど真ん中につっ立って・・・それにその傷・・。」

言いながら、彼は視線を落とす。
見れば、タマモの手のひらには、紅々とした傷が刻まれていた。
杭で打ち抜かれたような刺傷・・・・手の裏側にまで貫通している。


「・・わから・・ない・・。私・・おかしな夢を見て・・」


・・・それで・・・
・・・それで・・どうしたのだったか・・・。


「・・横島が来た時・・私、何してた?」

妙な質問だ。自分でも分かっていた。
・・それでも、何も分からないのだから尋ねるしかない。

「ん?さっきも言ったけど、ここでぼうっとしてたぞ?顔色は・・・あんま良くなかったかな?」

少し驚いたような顔をして、横島が答える。
自分を不安にさせないように、言葉を選んでくれているのが分かった。


「・・そう・・・。」

・・ぼうっと・・・つっ立っていた・・?
白昼夢でもみていたのだろうか・・。

・・いや、それより一体・・今、自分は・・・・?

・・・。
・・・・・。
風が冷たかった。
考え出せば、不安の渦に飲み込まれそうだ。


「・・・私・・・・。」


・・・言いかけて・・・

「・・まぁアレだ。キツネうどんは次までお預けってことだな。」

そこで、のん気な声にさえぎられる。
顔を上げれば、気遣わし気にではあるが・・横島は微笑んでいて・・

大丈夫。心配ない。
言葉の外でそう語りかけてくれる。

「とりあえず・・だ。美神さんにその傷を見てもらって・・話はそれからだろ?
 どうせ、ただの傷ってわけでもないだろうし・・。」

「・・・あ・・。そ・・そうね・・。」

不意に腕を掴まれて・・少しだけ心臓がはね上がった。

・・・こんな状況なのに・・・・
もしかしたら、自分の神経は意外に図太いのだろうか?
苦笑しながら、チラリと自分の掌に目を映す。

「・・美神さんなら・・知らないってことはないわよね。この傷のこと・・・。」

・・問題は事実を自分が受け止められるか・・・・。
タマモは、きつく服の裾を握りしめる。


「そんな深刻になるなって。・・なんとかしてやるからよ。」


安心させるような声。
 
・・そう、きっと大丈夫だ。
小さくひとつ頷くと、彼女は事務所の方角へと足を向けた。



              ◇



「・・?そんなに大層なもんじゃないと思うけど?」

・・相当な覚悟で話を切り出した割りに、美神の声はあっけらかんとしたものだった。

「そ・・そうなの?」

事務所の一室。
美神に傷を見せた直後になされたやりとり。
ケロッとした顔でそんな言葉を返されたため、タマモは多少、面食らった。

・・・というよりこの傷が大したものでないのなら、先程のシリアスな展開はまるで馬鹿みたいだ。

「でも、タマモの話じゃ突然ブワッと血がふき出したって・・・」

「・・あんたもGSなら少しぐらい神霊現象を勉強しなさいよ。」

同様に戸惑う横島、美神がぴしゃりと言い放つ。
本棚から、参考になりそうな文献を取り出して、机の上に並べながら、

「タマモのその傷は一般的に『聖痕』とか『スティグマ』って呼ばれてるものね。」

「聖痕?」

怪訝そうな声を上げる二人に美神は軽く頷いた。

・・・。
・・・・。

聖書の中のワンシーン。


ゴルゴタの丘・・・・そこで・・・かつてキリストは磔の刑に処された。
十字架の上で、両手を杭で打ち抜かれ・・・・
全ての人の子の罪を背負う形で、彼は痛みとともに昇天する。

そのキリストの傷痕と酷似したものが、何の前触れもなく人体に浮かび上がる現象。
これを広く、『聖痕』もしくは『スティグマ』と呼ぶ。

歴史上の聖人に顕現する時もあれば、重病人を癒す前兆として登場することもあったそうだが・・

・・・。


「・・それで・・その聖痕ってのがタマモに悪さをしてるんですか?」

「・・そこなんだけど・・結論から言えば答えはNO。
 さっきも言ったけどそんな大それたことができる代物じゃないのよ。」

資料を確認しながら、美神はお手上げとばかりにため息をついて・・・・・

「神霊現象っていっても、対象に微弱な神力が流れ込むだけだし・・そんな悪影響がでるはずは・・・」

ブツブツとつぶやいて・・・・・そこで気付く。

なぜか、横島とタマモは自分のことをしらーっとした目で見つめていて・・


「・・・な・・・なによ。」

「・・つまり・・それって私の夢ことはよく分からないってこと?」

・・・・。
・・・・・・。

・・・・・・・・。

「そ・・・そんなことないわよ。それに聖痕のせいじゃないって分かっただけでも結構な収穫じゃ・・・」

「なんか・・今、すごい間があったような・・。」

「き・・・気のせいよ・・。
 とにかく!これから本格的に調べるんだから・・その間タマモは安静にしてること。いい?」

横島の追求を煙に巻くように早口でまくしたて、
美神は直後、膨大な資料と格闘を始める。

(うわ・・すげぇ量だな・・こりゃ・・)

その本の冊数たるや見ているだけで眩暈がしそうだ。
・・・・。

「仕方ねぇ・・。ここは美神さんに任せるか・・・。」

「・・・そうね。」

このまま、ここに居ては自分たちまで手伝わされかねない・・。
そう感じたニ人組は、そそくさと美神の部屋を退散する。

ひとまず、今日のミーティングはこれでお開きとなった。

                  ・
                  ・
                  ・

「・・なんだか拍子抜けね。死刑宣告を受けるつもりで出向いたわりには・・」

・・廊下。
自分の部屋へと向かいながら、タマモがぽつりとつぶやいた。

「なに言ってやがる。よかったじゃねぇか・・何でもなくて。」

それを聞き、横島は呆れたように顔をしかめて・・・

「・・まぁ・・それはね・・。」

タマモ自信、たしかに気が楽になったのは間違いない。
本人の前ではあんなことを言ったものの、実際、美神には感謝していた。

「しっかし・・・なんだかんだでお前には甘いよな。美神さんは・・。」

「そう?私はあんまり意識したことないけど?」
キョトンとするタマモに、横島は振り向いて・・・・

「そうだよ。なかなか見れるもんじゃないぜ?美神さんがあんなに必死になるのって。
 ・・・・第一、オレには絶対あんな言葉かけないし・・・・」

「・・それは日ごろの行いの差じゃないの?」
キツネの少女はさらりときついことを言い放つ。

・・・。

(・・もしかして・・2人とも少し似てるからか?)

すまし顔のタマモを前に、ふと思いついた・・
・・が、口に出すのは止めておく。なんとなく・・怒られるような気がして・・。
そんなことを言おうものなら、きっと2人は同時にこう返すのだろう。


『私はこんなに冷めてないわよ。』 『・・私はこんなに金にがめつくない。』


・・・・・むくれながらしゃべる美神とタマモの顔が目に浮かんできて・・
・・やっぱり似ている。

・・・・。


「・・さっきから、なんでニヤニヤしてるの?」

「別に〜?」

・・無駄話を続けるうちに、部屋の前へとたどり着いた。
シロとタマモの・・共同の屋根裏部屋。
タマモの容態に気を遣ってか、シロは今夜おキヌの部屋で寝泊りするそうだ。

「じゃあ、しっかり休めよ。金は使わないでおくから、そのうちうどん屋にでも行こうぜ。」

手をヒラヒラさせながら、横島はすぐに背を向けて・・・

「・・・・横島。」

そこで後ろから呼び止められる。

「ん?どうかしたか?」

「・・・今日は・・・その・・・・」
言いにくそうに・・・とてつもなく言いにくそうに顔を赤らめながら・・

一言、彼女は口にした。


「・・あ・・ありがと・・・。」


・・・・・。

・・・・・・。

「・・・はぁっ!?やっぱりお前、熱でもあるんじゃねぇ!?
 早く寝ろ!!絶対おかしいって!!」

「・・し・・失礼ね!礼くら言って何が悪いのよ!」

・・思ったとおりの反応だ。
そして心外だ。
一体、目の前の青年は自分をなんだと思っているのか。

「珍しいこともあるもんだ・・・ってか・・オレ、お前になんかしたか?
 今日はあんまり役立ってなかったような・・・。」

横島は思い出すように頭を抱えて・・・

「・・べつに・・心当たりがないならいいの・・。私が知っていればいいことだしね。」

「そういうもんなのか?」

可笑しそうに笑うタマモに、釈然としない様子で首をかしげる横島。
ちなみに彼はこの鈍感さ故、過去十数年にわたり、数十という単位で、女生との交際の機会を逃しているのだが・・
・・それはまた別の話。

「まぁいいや。明日、学校帰りにでも見舞いに来てやるからな。」

「・・わかった。じゃあね。」

「ん〜。おやすみ。」


こんな会話。
夜はもう、とっくに深けていて・・・
静かに・・・静かに・・・・。

少女は、青年の背中が見えなくなるまで、ずっとその場にたたずんでいた。




〜appendix.4  悪魔が贈る前奏曲 〜


「ふぅ。」

ベッドに深く腰掛けながら、タマモは息を吐き出した。
そこはかとなく、だるいのは相変わらずだが、それでも少し気分は軽い。
なんとなく、まだ誰かと話していたい気分だった。

「・・バカ犬も、変なところに気を回すわね。」

おそらく、彼女が部屋に留まれば、まず間違いなくケンカになるのだろうが・・
それでも話の種にはこと欠かない。少なくとも退屈するよりはマシなはずだ。

自分もおキヌの部屋に出向こうかとも思ったが、その点、美神には釘をさされている。

「・・・・ヒマ。」

ベッドに仰向けになりながら、右掌は明かりにかざしてみる。

・・聖痕。
美神は大したものではないと言っていたが、・・本当なのだろうか?

そうすると、やはり夢のことは自分の考えすぎで・・・・

・・・・。

「・・・・そんなわけないか・・。」

つぶやく。

今ならはっきりと自覚していた。影がたずねたこと。
自分がもっとも『望まないこと』がなんなのかを・・。
他でもないその夢が教えてくれたのだから。

・・きっと・・・それは・・・・


――・・それは死。死んで自分が一人になること。・・ちがうか?



「!?」

瞬間、タマモは跳ね起きた。
全身の皮膚がざわめきだす。

「・・・・な・・なに・・?」


――お前、魔族なんだろう?だったらどうして闇を怖れる?

「誰!?どこにいるの!?」

地獄の底から響くような声。
じょじょに・・・じょじょに近づいて、自分の元へと迫ってくる。

―――・・・。

「身を委ねてしまえばイイ。全てを闇に明けわたせばイイ。」

やがて・・『声』が実体を持ち始める。
その時、タマモは足首に、なにかヒヤリとした感覚を覚えた。

・・・・・。

「・・・・・・・・っ!!!」

目を向けて、そして動きを止める。

そこに在ったのは『顔』。
演劇用の仮面を歪曲させたような・・不気味で白い・・・
否、顔だけではない・・その物体は全てが歪んでいた。

手も足も腹も首も・・・グニャリ、グニャリと不自然なまでに曲がりくねって・・
全体が奇妙な紋様を形づくっている。

「約束の時ダ。」

漆黒がささやく。

「ボクが君を・・・包んであげル。」

「・・っ!!このっ・・・!!」


刹那。

爆炎が部屋を覆い隠した。


             ◇


「・・・?」

帰り道、不意にタマモに呼ばれた気がして・・横島は無意識にその足を止めた。

・・・嫌な感覚。

これまで幾度か感じたことのある・・自分や仲間の身の危険を知らせる警笛のようなもの。

・・・。

「・・・戻るか・・?」
そうつぶやいた時には、すでに走り出していた。

・・まずい・・・これは・・・・・まずい!

本能の叫びはすでに警笛などという域を超えている。
これでは、まるであの時・・・ルシオラを失った時のような・・・。

(くそっ!!なんだってんだ!!)

間違いであって欲しいと願いながら、何かが起きているのを確信する自分。
全身を逆立つ感情は、焦りか・・怒りか・・。

さらに体を加速させ、横島は心の中で毒づいた。

                     ・
                     ・ 
                     ・

「・・・・油断したカ・・。」
紋様の悪魔がいまいましげに床を叩く。

屋根裏部屋は、タマモの起こした爆発により半壊していた。

殺生石から目覚めたばかりかと思っていたが、これほどの熱量を操るとは・・どうしてなかなか・・。

「腐っテモ・・金毛白面九尾の転生というわけカ・・。」

・・・まあいい。どの道、逃がすつもりはない。
これから少しずつ、追い詰めて・・最後には力を奪ってやる。

「せいぜい・・ボクを楽しませてクレヨ。土着の魔物メ・・。」


                    ・ 
                    ・ 
                    ・

横島が走り出すのとほぼ同時、タマモも夜の街を駆けていた。

(・・早くアイツを事務所から引き離さないと・・)

震える足を気力で押さえながら、チラリと事務所へと目を向ける。

とっさに力を開放したものの、一体どれだけ効果があったのかは定かではない。
・・・だが、少なくとも自分にとっては渾身の一撃だった。

あれでさして堪えていないとするなら・・・・

(・・明らかに中級以上の力を持った魔族・・)

いくら美神や横島でもとても勝ち目があるとは思えない。

幸いにも、あの化け物のねらいは自分らしい。ならば、自分が逃げれば追ってくるはずだ。

まだ、撒くような真似をしてはいけない。
微妙な距離を保ちながら・・なんとか人のいない場所まで遠ざけて・・。

・・・・。

「・・・死んじゃうかもね・・私・・。」

弱々しげに口にした。

・・それはそうだろう。あの横島で手に余るのなら、自分が敵うはずもない。

・・・。

(・・それでも。)

それでも、誰も巻きこみたくはなかった。
勝つのは無理でも、刺し違えるぐらいは出来るかもしれない。

・・・・。

「・・・・ごめん。」

最後に、誰にともなくつぶやいて、彼女は黒い闇へと姿を消した。



〜続きます〜


『あとがき』

暗っ!(笑)
こういう連載を抱えるとギャグを書きたい衝動にかられますね〜次回作は絶対ラブコメでいきます(笑

それにしてもお待たせしました〜読んでくれる方はいるのでしょうか・・。
最近、エヴァ(シンジ×綾波)とかブラックキャット(トレイン×イヴ(爆))の小説とかばっかり書いていまして・・
本当に申し訳ありません〜
3話が一番、書きにくいところだったので次は結構早く送れると思うのですが・・


あ・・前回、あとがきに書いた横島×タマモの同人誌を作っている方のサークル名とHP名のことなのですが・・

許可を頂いたので、ここでお知らせしておきます〜

サークル名は、涼樹天晴様の『自爆SYSTEM』
HP名は『深森亭』
                         です〜。

本当に絵がお上手で・・・素敵です。自分もあんな風に挿絵とかが描けたらなぁ・・と思う今日この頃です(笑)

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