ザ・グレート・展開予測ショー

B&B!!(7)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(03/12/10)


「・・・・・俺はパピリオを守る為に呼ばれたんじゃねえ。・・・・パピリオに手を出させず、妙神山とも表向き無関係で、
“人間 対 人間”の戦いをする為に呼ばれたんだ。・・・なあ、こいつは完全な“裏”の仕事だ。そうだろ、猿?」

言葉を切って表情を消し、猿を睨みつける。猿は顎をしゃくって続きを促して来た。

「てめーの紹介した神族の下っ端共はかなり奥の方に引っ込んでやがる。出て来るのは『真神十字聖者友愛会』と言う宗教団体の
信者達ばかり。つまり、人間だ。俺は、神でも魔でもない一・人間として・・人間界を代表して、反デタント勢力の差し金で動く人間達
を排除する・・・そーゆー筋書きなんだな?」

「なかなか良い線じゃ。お主が人間代表であると言う所は当たっとるが、やはりどこまでも相手が人間とは限らんのじゃ・・・見ろ。」

猿は自分の背後のディスプレイを示した。先程も見た奇妙な装飾の十字架、そして下っ端神族共の画像。

「こ奴らの入っとる過激派組織の名は『真神聖霊十字軍』と言う。『真神十字聖者友愛会』の正体はこ奴らの人間界での下部組織じゃ
・・・この教団での“聖霊天主様”とはキーやんの事ではない、こいつじゃ。左端・・日本潜伏メンバーのリーダーでもある十二階位天使
ラケリエル。教団での御本尊役じゃ。その右隣。・・ラケリエルの片腕である鳥神族の七角水帰白鷺尊。“鷺之塚 天空”との名前で
人間に化け、教祖役をやっとる。『真神十字聖者友愛会』は人間界のあらゆる所・・政府、マスコミ、警察、自衛隊、企業グループ、
暴力団・・・勿論、GS協会にも・・食い込んでおる。そうそう侮れん相手じゃ。」

「ちっ・・・やっぱり最初から全部知ってたんじゃねえかよ・・でも、ヤベーんじゃねえのか?そうやって三下が“天主”とか名乗るのって。
下手すりゃ魔族化するんじゃなかったか?」

「あ奴はそんな事考えとらんじゃろ。自分がキーやんの“本当の意志”を代行してると激しく思い込んでおるからの。それに、あまり三下
扱いするもんじゃない・・正直、お主じゃ一対一でラケリエルには勝てん。万一あ奴が出て来たなら・・手を出すな。」

「それに・・・GSだと?・・向こう側にもGSがついてるのか。」

「そりゃおるじゃろ。おらんと思う方がどうかしとる。」

猿は背後の画面を消した。俺は大きく息をついた。

「しかし・・イヤな予感は最初からしてたけどな・・改めて聞くととんでもねえ連中だぜ。銃火器揃ってるし、本物の神族直営だし、
何でもやる狂信者も金もある・・GSまでいるとなりゃ、確かに人間界で何かする分には無敵だろーよ。」

「それだけじゃない。奴らには情報力がある。その操作力もな。お主達の銃撃戦など今日のニュースにも明日のニュースにも
出ないじゃろうよ。・・内閣の閣僚や与党議員の中に奴らの支持者がおるんじゃ。」

「・・・・・はぁーーーっ。」

「あらゆる面で、鰯の頭を拝んどるそこらの宗教団体とは別モノじゃよ。・・・まあそれでもヴァチカンなどと比べるとやはり、
バッタもんじゃがのう。」

「それは違うぜ?ヴァチカンだって特別なんかじゃねえさ。」


その名前に反応して、言葉が口をついて出た。

「・・・あそこも、結局はインチキ教団と一緒さ・・それが本物だろうがニセモンだろうが、神に縋り諂って生きる“弱い”人間共の
群れに大した違いなんかねえよ・・・・!」


ローマ・カトリック、その総本山、 ・・その地への遠い、遠い呪詛。


「フォホッ・・お主ならそう言うじゃろうよ。まったく頼もしい限りじゃ。それでこそ、お主を選んだ甲斐があると言うもんじゃよ。」

猿はこちらを見てニヤついている。霊力増幅と手合わせの修行では、こちらの過去は前世に至るまで読まれる事になる。
生まれてからの事なら尚更―勘九郎や横島、弓にしか話したことの無い様な幼い、赤ん坊の記憶―これも猿が俺を選んだ
理由の一つなんだろうか。魔族の子供に味方して神族を敵に回す・・何の後ろ盾も表には持たず。そんな仕事を躊躇せず
引き受けられるのは、欲と無関係に神の権威を畏れない・・いや、時に憎悪すらしている様な奴だけだ。

「美神の嬢ちゃんや横島の坊主もそこそこ適任じゃったかも知れんが・・いかんせん、神界主体の物の見方がお主より少し
根強い様じゃな。“強くなる”と言うテーマの為にはあのメドーサの弟子にもなれる様な、芯の通った節操無さは望めん。
・・坊主あたりは“経験的に”何とかなったかも知れんが・・・どの道、あ奴らは小竜姫とのパイプが太過ぎるわい。」


「そこも聞きてえ所だな。・・・てめーは小竜姫の目を盗んで妙神山の掟に外れた事を俺とパピリオにやらせている。よりによって
その妙神山の主であるてめーが。・・・・これはどう言う事なんだ?小竜姫のやり方が不満なのか?」

「いいや、あれはあれで良くやっておるわい。あれに妙神山を管理し掟を守らせる様に命じとるのはワシじゃ。・・じゃが、ワシは
管理人ではない。妙神山の、一門の“主”じゃ。管理以上の事を考えなくてはならん。」

「そうだろーよ、そうだろーともな。・・・で、てめーは一体何を考えたんだ?ナマイキなクソガキがおっかないベビーシッターの目を
ちょろまかしてちょこまか出歩くのがデタントの流れをどう変えるんだって?」

「・・・・デタントとは、結局の所、“現状維持”なんじゃよ。分かるか?・・魔界からの留学生を門下に迎えたり、ぱぴ坊を修行させたり
しとるのは妙神山だけじゃ。それら門下生も移動の時は厳重な監視を受け、修行を終えても神界や人間界に活躍や更なる修行の
場など無い。魔界へ帰るしかないのじゃ。そして魔界へ帰れば、そ奴らの在り様は再び、“神界に戦いを仕掛け人間界に害をなす
もの”としか認知されなくなる。それが、“現状”なんじゃ・・分かるか?・・共存への道と、現状維持とは別モノなんじゃよ。・・・そして、
妙神山も、その現状維持に足並みを揃えざるを得んのじゃ。
・・今以上に共存の道について語る為には更なる実績が必要なのじゃ。しかし、現状維持はその実績を作る事すらも拒んどる。」

「なるほどな・・てめーがパピリオに吹き込んだ話の筋が読めてきた。・・つまりあれか、猿。チビと俺は、てめーが神界でブチかましたい
“急進的”な共存論の広告用サンプルとして『魔族でも個体によっては人間と仲良く出来ます』って実例をばら撒くのに使われるって
事だ。・・そうだな?」


風向きが荒れている時に「中立」なんて立場は存在しない。現状維持と反デタント、どちらにも属さない立場があるだけだ。この表向き
のほほんとした猿だって例外ではない。ましてこいつは、かつて古代の神や仏族相手に乱闘を繰り広げたと言われる荒神だった奴だ。
事勿れで済ましたがる筈も無かったって訳だ。


「実の所、妙神山もデタントの方向もその”現状維持”故にかなり危うい状況に立たされておる。現状・現秩序を認めると言う事は即ち
”善きもの”と”悪しきもの”との明確な線引きと上下を認める事でもあるからな。”善きもの”をひたすらに押し通すミカエルら反デタント
勢力に分を与えておる訳じゃ。善と悪はあっても完全な善の存在、悪の存在などキーやんとサッちゃん以外にありゃせん。
その生まれた場所や種族を問わずな。その事を本腰入れて示さなくてはならん。
・・・お主は先に“守る為じゃない”と申したが、大局的には、お主の立ち回りがぱぴ坊や他の門下の居場所を“護る”事になる。
広告と言われて見れば確かにそうじゃな。だが、その出演料は中々悪くないぞ?お主が今日だけでなく、この先も時々ぱぴ坊の
お供を引き受けてくれればの話になるがの。」

そうだ。・・・こう言う、依頼人が表に出ない泥をかぶる仕事で、最も重要なのは報酬の話だ。
「この先も」と言う条件には多少背筋の凍るものがあるが、それも報酬額次第かも知れないな。

「その、“悪くない出演料”ってのは当然、金以外に・・"金では手に入らないもの”も、含まれるんだろーな?」

7・8桁の金など、この場合、“悪くない”じゃなく“最低限の当たり前”だ。これだけ泥まみれな大仕事を引き受けるからには無形の報酬も
貰わなくちゃいけない。ガキの頃、小竜姫に自分の名前をGSブラックリストから抹消させた時の様に。

「フム・・ちゃんと考えておるぞ。」

猿は一旦言葉を切り、俺の顔をしばらく覗き込む様に見つめてから尋ねて来た。

「・・お主、ワシの正式な通い弟子にならんか?」

「通い、弟子・・・!?」

「そうじゃ、正式名称は『斉天大聖下在家闘武臨法修練士』と言うんじゃが・・まあ、お主の場合、
肩書きが無いだけで元から通い弟子みたいなもんじゃがのう。」

「・・・っておい、俺は一年に一回来るか来ないかって所じゃねえかよ。」

「それだけ来とれば十分じゃ。ワシと手合わせし、この称号を取った連中の殆どはそれっきり二度と来とらん。人間ではお主が初めてと
なるようじゃが、下手な神族の在家修練士よりお主の方が余程真面目に修行しておるわい。十分な資格のある者に与えるのに
”仕事の報酬”と言うのもおかしな話じゃがの・・これも修行の内と思ってくれ。」

「その、てめーの弟子になると、俺には一体何の得があるんだ?」

「別に何もない。強くもなれんし金も増えんし腹もふくれん。単に名前が付くだけじゃ。お主はそんなもん要らんじゃろうと思ってワシも
今まで黙っとったが、今のお主には捨てたもんではないと思うぞ?こんな猿じじいの弟子ってだけでも色々と話が違って来る。
自分で言うのも何じゃが、斉天大聖下修練士の肩書きの格式は人間界では、いわゆる名家の開祖なみに通用する。
たとえば六道家とか・・・・・・・・闘龍寺 弓家とかのそれとな。」

猿は最後の一言でニッと笑った。

「頭の固い僧兵親父も、そうそうお主を“馬の骨”呼ばわりは出来んようになるじゃろうよ・・・?」

・・・・何てこった。手合わせの時本当の姿になったこいつも怖いが、普段のこいつも別の方向で十分怖いぜ。
全てお見通しの上で、使う人間とその鼻先にぶら下げる餌とを始めから決めてやがった訳だ。



 力が欲しいか   ならばくれてやる  ・・・両手を見ろ  それがお前の新しい力だ

 どうだ、楽しいか?  それを使い、力を振るい、血と肉片で染まるのは
  “これ”が潰れていくのは  ・・楽しいか?

 そういう目をしている  奴らと違う目・・暗くて美しい、力を求める目  だから殺さないでやったのさ

 お前がこの先を生き延び、それが全身を包むほど強くなった時、更に力を望んでいたならば
 私のもとへ来るが良い。



あいつの事を思い出してしまった(何故か、ついでに横島ん家の噛み付く赤ん坊も思い出しちまったが)。
あいつと初めて出会った10歳にもならないあの雨の夜を。神魔問わず、上のモンの話の仕方ってのは共通してるのだろうか・・?
いや、人間でもたまにいたが。香港の黒社会とかで・・。
猿はニヤニヤとこちらの表情を眺めている。交渉は完了したとでも言いたげだ。だがここで終わられちゃたまんねえ。
”裏の仕事”ではもう一つ大事な打ち合わせが必要だ。

「俺が背負うリスクについては、どこまでケツを持ってくれるんだ?安全や命の保障とまでは言うつもりねーが、せめて俺が
本物の“神や人類の敵”として消されたり、俺以外の人間・・弓や横島達にまでその責が伸びたりする事のない程度には
手ぇ回せ。それが引き受ける上で最後の条件だ。」

「こんな小競り合いでそこまで話はでかくならんわ。・・じゃが、さっきも言うた通り、ラケリエルが出て来たら戦おうとするな。
竜神王騎兵を一個小隊ワシ個人で借りて来ておるから、それを向かわせる。もし、この件で奴が出て来る様なら、奴が勝手に
人間の集団を支配している違反事項の現行犯となる。事を荒立てた所で向こうに分はない。まあ、お主自身の安全については
・・・『骨は拾ってやる』としか言えぬな。頑張って切り抜ける事じゃ。」

パピリオの為だけに借りて来た訳じゃないのだろう・・・この話がはなっから「真神聖霊十字軍」の尻尾を掴む事"込み”だった
って訳だ。まったく、どこまでも泥が付いてる話だ。まあ、そのくらいダーティーな方が俺向きだと言えるのかもな。


「ほれ、長話しとるうちに二人がチケット買い終えとるぞ。ここまでにしようかの・・・ぱぴ坊やーーい、みやげは頼むぞなーーー!」

「―――まっかせるでちゅよーー!!」

遠くからパピリオが立体映像の猿に向かって手を振った。

「・・・ホッホッホッ・・・定時報告は要らん。無事片付いた時と状況が変わった時だけ報告しろ。後は、まあ・・
楽しんで来るんじゃな。三人仲良くな。」

「・・・そればかりは難しいと思うぜ?」

猿の姿が掻き消え、俺は微妙な(露骨な?)竜虎相対の空気を周囲に撒き散らしながら歩いて来る二人を
横目で見ながら呟いた。

――――――――――――――――――
 Bodyguard & Butterfly !!
 (続く)
――――――――――――――――――
丸々会話です・・会話です。
掘ってきた穴を半分埋めてまた新しい穴を掘ってます。(謎)

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa