ザ・グレート・展開予測ショー

流れ往く蛇 巡の章


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/12/ 9)


 あたしの口から激しく息が切れる。吐き出された息は空中であえなく霧散した。
 腕を激しく振って勢いに任せるように・・・いや、それ以上に体を前へ前へと突き出した。
 足はこれ異常無いほど激しく上下に動いてはいる、でもそれでもあたしはもどかしさすら感じている。
 ほほを激しく冷たい何かが流れ落ちる。何がだ?汗か涙か・・・解りはしない。
 
 あたしは恐怖にかられるようにして・・・いや、実際恐怖に駆られて走っていた。
 なんで?わからないさ。このあたしに恐怖を感じさせるだなんて・・・
 とにかくあたしの後ろから徐々にせまり来る何か・・・
 あたしはそいつを吹っ飛ばそうと拳に力を溜めようとして・・・まったく力がたまらないことに気付く。くそっ!そういえば今のあたしの霊力は限りなく無いに等しかったんだっけ?
 あたしは絶望に近い感覚でそのまま走りまくり、ビルだろうが屋根だろうがを飛び越えて逃げて逃げて逃げまくった。
 だがそれでも後ろにある気配は一向に離れない。いや、むしろどんどんと近づいてきて・・・

 あたしは心が壊れそうになる。まるで恐怖なんて物を大特価バーゲンで売りまくっているみたいな状態だ。ふざけるな!!
 あたしはついに恐怖心に負けて後ろを振り向いてしまった。
 そこには・・・

 
 ふざけたことに、あのアホ面の横島の顔と美神令子の顔・・・巨大な顔がこのあたしのすぐ後ろに構えていた。その大きさはゆうに10メートルは超えている。間抜けそうな顔でこのあたしを見詰めていた。
 ふざけるな!!
 
 あたしはあらん限りの力を込めてその顔を殴った。

 メキ―!!
 という鈍い音があたしの腕を伝わり・・・

「ィダアアァァァァ」
 なんていう叫び声・・・かなり拳にきたからね・・・あたしはその声を無様な表情で聞き入っていた。
 だって・・・叫んだのは他ならぬこのあたしなんだから・・・かなり間抜けな話だ。





 流れ往く蛇  巡の章





「昨日はよく眠れたかい?」

 あくびをかみ殺したあたしに、リヴィングでゆったりとコーヒーの香りを楽しんでいた男・・・唐巣(と名乗っていた)が声をかけてきた。それでもってあたしはその内容に条件反射的にムカついた。
 このあたしを追いかけてくるあの巨大な間抜けヅラ・・・気持ちのいいもんじゃないだろ?
 あたしはこの気持ちをぶちまけるためにあいつに向かって口を開いてやった。

「よく眠れた。ありがと♪」

 あほかああぁぁぁぁ!!あたし!!・・・まぁ、ここは無益な諍いをするべきではないな・・・そんな気持ちであたしは後ろ―さっきまであたしが寝ていた『ベッドだったもの』が設置された部屋を振り返った。
 あのとき、叫んだあたしの拳が捉えたのは、夢の中に出てきた間抜けな顔ではなく、白いシーツ・・・拳は完璧にその中に埋没していった。ものすごく拳が痛い。今も真っ赤になって腫れているが、それはバレない様に唐巣からそっと隠す。拳を赤くした甲斐あってか、ベッドは今や真っ二つ。ウ〜ン、あたしってすごいな。

「大丈夫かね?今日の予定に付き合って。あまり長居したくはない・・・そんなことを言っていたような・・・」

 唐巣はあたしを気遣う・・・でもなく意味深な色を含ませてあたしに向きやる。
 まぁ、本当はあたしもこいつの言ったように、あんまり長居はしたくはなかったんだ。なんてったって、こいつの周りから微量ながら感じる独特の気配・・・霊気を帯びた気配・・・そしてあの唐巣と同姓同名・・・ハッキリ言って、あたしの知っている唐巣とはまったく違う容姿だけど、ゴーストスイーパーに間違いはないだろう。それもかなり力の強い。
 このくらいの実力者になれば稼ぎもいいのか?それなりに整いのある家に住んでる。
 そう言った意味も込めて、あたしはこいつに一つ質問を投げかけてみた。

「流石にGSとなると、稼ぎもいいんだろうね?」
「いや、ここは自縛霊が取り付いていたのを私が除霊したんだ。広まった噂が消えるまで大家さんが安く私に貸してくれているだけだよ」

 だそうだ。やっぱりこいつはGSだったか。しかも一人で除霊を施せるほどの力を持って、なおかつ安く家を貸してくれるほどの信用すらある・・・かなりの実力者だろうね。
 だからこそ、あたしはこの家をなるべく早く出て行こうとしたんだ。
 でも今はそうすることが出来ないでいる。理由は簡単、たった二つのことだけ。






「これは・・・どういうことだ?」

 あたしは壁の前にかかった一枚の大き目の紙の束を見ながら、唸った。
 これは昨日、唐巣に会ってすぐのことだ。

「どうしたんだい?これを見たこともないのかね?」

 唐巣はなんと言うこともなく、ややからかいの音も含めてあたしを笑った。そんなことはどうでもいいが。
 そのときのあたしがいたのは、今丁度いるリヴィングの一角。正面にはやや大きめの四角い紙の束。数字が一杯羅列してる。

「これはカレンダーといって「知ってる」

 唐巣の声を、あたしはいらだたしげに遮った。
 あたしが今目にしているのは、カレンダーとか言うものの『全体』じゃぁない。その内に刻まれた『文字の組み合わせ』・・・あたしの目はそれに釘付けになってた。
 そこにかかれてある文字・・・というか西暦が刻まれているところ。

 1978年・・・

 ・・・・・・?
 ひょっとしてここはレトロなカレンダーをおいておくのが趣味なのか?なんて思ったさ。その時はね。
 でもそんな希望的観測なんかまったく意味なんかなかった。
 あたしの知っている話題とは違うことを話しているテレビのアナウンサー。社会の現状。
 あたしはテーブルの上に無造作に置かれた新聞を読んでみた。
 いろいろな文字の羅列・・・そして一番上に刻まれた年月・・・

 1978年・・・・・・

 ・・・どーいうことだ!!
 あたしは力任せに新聞紙を引き裂いた。唐巣が『あぁ』みたいに悲しそうに唸りながら慌てて新聞紙をつなぎ合わせているが、そんなことなんかどうでもよかった。





 つまるところ、どういうことだかは知らないけど、今のあたしは昨日までのあたしとは違って21年前の1978年にいるってことだ。
 なんでだ?あたしの決死の霊力の放出だか、それとも船の重量だかで時間を駆け抜けるほどのエネルギーが発生したってのか?でもそんなもんで時間移動できるんなら、世の中時間移動できる事だらけになっちまうだろ?
 まぁ、こんなことは今考えてもどうにもなるわけじゃないけどね。

 で、あたしが唐巣のところから離れない二つ目の理由が・・・





 これは昨日の夜に起こった事件・・・不意に緊急を告げる電話がなったんだよ。まぁ仕事が仕事だからね。
 で、あたしは現状確認のためと、敵(GS)情視察のために同行することになったんだ。間違っても手伝ってやる気なんて起きないけどね。
 そこは建設途中のビル群が天までそびえ様としている都会の一角・・・って言うかあたしはその建設途中のビルにいるんだけど。
 それでもって足元には街灯のひかる様が見えてたりもする。
 寒い・・・それにこの高さだ、落ちたら死ぬよなぁ。力がなくなって今はじめてそのことを自覚できる。そう考えると不意に目の前に広がる光景が怖いものに見えてくる。

 あたしはそんな気を紛らわすために、唐巣のほうへと顔を向けたんだ。

「主と精霊の御名において命ずる!!なんじ穢れたる悪霊よ、キリストのちまたから立ち去れ!!」
『ギャアアァァァァア!!』

 シャカシャカシャカシャカ―――

 聖書を構えた唐巣の腕から放たれた光が、悪霊を思いっきり叩く。ついでにその余波があたしの顔も一緒に叩く。
 このヤロー、あとで憶えとけよ?
 で、純白の光に包まれながら、悪霊はなおももがき、抵抗を続ける。

『ヤ・・・メロ・・・オオオオオオ!!』

 あ・・・つかまかれた。
 唐巣は自身の体重を利用されるようにして、壁にたたきつけられた。痛そうだな・・・大丈夫か?
 あたしは・・・なんていうかいろんな意味を込めて隣にいる人物を見詰めた。

 シャカシャカシャカシャカ―――

 悪霊の腕が、仲間を増やそうとなおも唐巣の首を締め付ける。
 唐巣の顔は苦悶の表情に染まっていき・・・

「ち・・・!!この―――」

 唐巣は懐からとっさに一枚の札を取り出した。それは幾何学文様で彩られていて、中央に大きく『破魔』って言う文字が見える。

「失せろと・・・言ってんだよォオオッ!!」

 唐巣はその札を霊に向かって思いっきりたたきつける。霊はまるでその札に飲み込まれるようにしながら・・・やがて跡形もなく消え去った。
 まぁあたしならこんなに時間はかけないけどね(当然全快時なら。今やれば間違いなくやられる)。
 
 シャカシャカシャカシャカ―――

 それにしても、今こうやってなんとなしに見る夜景ってのはこれはこれで綺麗に見えるもんだね。そんなことを考えながら、あたしは唐巣から大地へと視線を戻した。今まではこうやって人間どもが作った『モノ』なんていうのをじっくりと見るなんて事なんかなかった。でもまぁ、何にも考えないで、何に急かされるようなこともないような今の状態なら・・・それなりに見れるものかもね。
 なんて、今のあたしはちょっと感性的だね。こんな多彩な才を持つっていうのは流石でしょ?。
 
 シャカシャカシャカシャカ―――

 そうまるで人は闇を恐れるから、こうやって人工的にでも光を作って、そしてその一つ一つがまた新しい光を生み出して・・・

 シャカシャカシャカシャカ―――

「ッてさっきからうるさいんだよ!!」

 あたしは声を張り上げて、その女を振り返った。
 そこにはあたしのよく知っている女・・・によく似た女がたたずんでいた。余裕ぶって耳にヘッドホンなんかつけてる。
 こいつの名は・・・

「お疲れさま、神父!」

 女はあたしに一瞥をくれると、すぐに唐巣のほうに向き直って労いの言葉を書ける。
 この・・・無視したのか?
 唐巣はなんていうか・・・ふざけろみたいな顔っていうか、めっちゃくっちゃ疲れたみたいな表情で、どうにか言葉を吐き出す。

「・・・・・・なんだ、それは?」
「来年発売予定の再生専用超小型オーディオよ。知り合いに試作品をもらったの」

 女は唐巣の発言にこんなことをいった。
 ッてそんなこと聞いてないだろ?せめて手伝わないにせよ、気を使うことくらいしてやれって。
 
 ・・・ハッ?なんだ、気を使うことくらいって?ひょっとしてあたしかなりまとも(?)なこと言ってないか?ああぁ、だめだ。だめだぞこんなんじゃ。この女と一緒にいると自分がいかにまともかってことを自覚する。
 まぁそりゃまともなほうがいいに決まってるけど、自覚させられるだけになおさら・・・ねぇ。

「そんなことを聞いてるんじゃない!!悪霊払いの現場で音楽を聞いてるなんて、どういう神経なんだ!?」

 ほらやっぱり怒られてる。やーいやーい♪
 ・・・・・・なんか最近あたしちょっと疲れてるのか?
 
「あら、集中力を高めるのにいいわよ。神父さん調子悪そうだったし、いざとなったら私も手伝えるかなって思ったから・・・・・・」

 とかなんとか、この女はまったく反省の色なんか見せないで言いやがった。
 除霊をなめてるだろ?ってまぁあたしだって除霊されそうになったことはあっても、除霊をしたことはないけどね。でも双方ともに命がけって事にはかわらないもんだ。音楽聞いてて死んだなんてことになっても知らないからな・・・
 なんて思ってはいるんだけど・・・でもあたし自身こいつに死なれては困る身でいたりもする。
 なんでかって言うと、こいつの名前があたしのよく知っている人物に該当するからだ。で、更にはあたしが唐巣から離れられない最大の理由。
 
 唐巣の前で嫣然としている女・・・これがあの美神美智恵である。
 今はノホホン風味を抜群にかもし出してはいるんだけど、これがあと十年くらいたてばあたしたちの間でも恐れられるほどの実力を備えるようになるんだから、人間の成長って奴はまったく持っておそろいな。
 で、しかもこの美神美智恵って奴は一時あたしたちの間でも殺害命令が出されたこともある人物だ。
 その理由―あたしが離れることの出来ない最大の訳なんだけど―が、こいつの持っている特異体質にある。

 時を駆ける事の出来うる能力。
 
 もし本当にここが本当に1978年の世界なら・・・こいつの持っている力を使えば帰れるかもしれない?
 あたしはそんな期待を多分に含んだ目で、二人のやり取りを聞いていた。





 まぁ、それが昨日の晩の出来事ってワケだ。
 幸いかどうか、暫くここに止めさせてくれと頼んだら唐巣はすんなりと首を縦に振った。その目は家出少女に向けるような感じだったけど・・・だったけどさぁ!!ちょっと傷ついたけど・・・
 あたしはそういえば、といった感じで唐巣に声をかけた。

「そーいやあの女は?いないみたいだけど・・・」

 唐巣もそういえば的な―ひょっとしたらもう諦めているのかも知れない―感じで顔を上げた。さっきまで読んでいた新聞をゆっくりと折りたたんでテーブルの上におく。

「いや、まだ来ていないみたいだが・・・寝ていると思う。むしろ寝ているだろう。すまんが起こしてきてくれないかね」

 唐巣はそう言いながら、席を立ってキッチンまで足を運ばせた。あたしがあの女を起こしてくる間に、自分は朝食を作ってくるつもりだろうね。なんかその後姿には哀愁すらかんじる。苦労人なんだろう。
 あ、そうか!だからあたしの知っているあいつの髪の毛は後ろ向きに全力疾走してるのか!なるほど、これはGSの現状を知るいい情報だ!
 
 ・・・なんかこんなことやってる今のあたしって・・・客観的に捉えると泣けてくる。




 あたしは唐巣に言われるままに、美智恵が寝ている寝室にまで足を運ばせた。
 カーテンの閉じた部屋は、朝だというのに薄暗く染まり、もともとは小奇麗だったはずの部屋は妙な居心地の悪さをかもし出している。それでもこのくらいの暗さのほうが、眠るにはちょうどいいのかもしれない。最も、いつも戦ってばっかりのこのあたしなんかは、明るい暗いなんかで睡眠を左右されることなんてなかったけど・・・眠れるときに寝れるだけ眠る。それしか眠るっていうことを感じる事なんて出来やしない。当然熟睡なんて欲しくてもかなわなかったさ。
 だから当然・・・あたしは目の前で惰眠を貪っているこの女に無性にムカついてきた。嫉妬も込めて・・・
 まぁ、丁度唐巣から起こしてやれっていわれてるわけだし・・・なんて考えながらおもむろに足を上げる。あたしの足が見るも美しくすらりと天井まで伸びて・・・

 グシャッ!!

 なんて殺人まがいのオモシロオカシイ音を立てて美智恵の腹部にクリーンヒット!!美智恵はカエルが水を掻くみたいにベッドの上で悶絶している。

 また無益な殺生をしてしまった・・・

「ッてあんたがやったんでしょ!!」

 美智恵がなみだ目で飛び跳ねる。すごい根性と執念だ・・・こんな奴だからこそ、のちのち魔族にとっての脅威となったんだろう。
 
「というわけでさっさと起きな」
「どういうわけよ、って言うか勝手にまとめに入るなぁ!!」

 背中で美智恵の怒声を聞きながら、あたしははっはっはなんてさわやかに唐巣の元へ向かおうとし、その前についでといった感じで、カーテンを開いておいてやる。ささやかな親切心だ。朝日がまるで謡うかのようにさんさんと降り注いでいる。

 なんていい朝なんだ。

「だから勝手にまとめるな!!へび女!!」
「だれがへび女だっ!!ていうかどっからそんな台詞が出てきた!!」

 せっかく起こしてきてやったのになんて奴だ。あたしは吐き捨てるみたいに美智恵に怒鳴りつけてやった。このあたしの好意を理解できないんだからな、親の顔を見てみたいもんだ。

 そんなことを考えながら、また一日が始まることを自覚する・・・いやな朝だ。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa