ザ・グレート・展開予測ショー

続・猫の恩返し


投稿者名:777
投稿日時:(03/12/ 7)

猫になりたい。

初めてそう思ったのは、いつの頃だったろう。

それは誰もが幼い頃にもつ、非現実的な夢。大人になるにつれ、現実や常識を知って忘れられていく、綿菓子のように淡い願い。

だけど、私は忘れなかった。

小学校なんてとうの昔、中学校も卒業し、高校も既に1年以上通っている今となっても、まだ私はそんな願いを心に持っている。

もちろん、誰にも言っていないけれど。

中学の頃、友達に話して真顔で心配されてから、人に話すのはやめた。

誰にも言わずに心に秘めた、叶わないと分かっていながらも捨てきれない願い。

私はずっと猫になりたいと思いながら、退屈な毎日を生きていた。

そんなある日のこと。

私は、猫と会話する不思議な青年に出会った。

不思議な青年と言うか、クラスメイトだったんだけど。

横島忠夫君。

ゴーストスイーパーのアルバイトをしてるとかで、机妖怪の愛子ちゃんとか、美形の留学生ピート君とかと仲がいい人。

横島君は、夕暮れの公園で、たくさんの配下を従えたボス猫と会話していた。




「俺とタイマン張ってくれよ…」




正直、馬鹿だと思った。

真顔で心配するべきかとも思った。

だけど、驚いたことに会話は成立しているようだった。




「俺とタイマン張ってくれよ」

「ニャ―ニャ―ニャ―…。ニャ―ニャ―ニャ―ニャ―ニャ―」

「こっちも引けねぇ事情があるんでな…」

「ニャ、ニャ―ニャ―。…ニャ―。ニャア。ニャアアン」

「ありがたい。さすがはボスだ」

「………ニャ、ナァゴ!」



二人(一人と一匹?)は見つめあい、手と手を取り合って河原へと向かっていった。

タイマン、を張るつもりなんだろうか。

私は二人(一人と一匹?)の後をこそこそと後を追いかけていった。







私が河原に着いたとき、既に死闘は始まっていた。

噛み、噛まれ、引っかき、引っかかれ、投げ、投げられ、それはもう人と猫との戦いだとは思えないほどの死闘だった。

猫が人を投げ飛ばす瞬間など、見ようと思ってみられるものではない。

少しだけ横島君がうらやましい。

私も猫に投げられてみたい、そう思う。

死闘は長く続いた。

あんまり長かったので、家で夕食を食べ、寝袋を持って河原にやってきた時もまだ、終わる気配を見せなかった。

「おやすみなさい、横島君と名前も知らないボス猫さん」

私は二人(一人と一匹?)の死闘を子守唄に、河原で満点の星を見ながら夜を明かしたのだった…。





明け方に起きたとき、二人(一人と一匹?)の死闘は終わっていた。

二人(一人と一匹?)はがっちりと握手して、昇ってくる朝日に照らされながら笑い声を上げた。

それはとても幻想的な光景だった。

まるで1人の英雄と、伝説の動物とが寄り添っている、一枚の絵画のようだった。

私は知らず涙を流し、二人(一人と一匹?)の姿をいつまでも見守っていた。






や、あくびが出ただけなんだけども(←涙の理由)








私はそのまま学校に行ったんだけど、横島君は一度家に帰ったみたい。

何故かぼこぼこになって登校してきた横島君に、私は思い切って話し掛けた。

「あの、横島君。ちょっと話があるんだけど…」

その瞬間、横島君の向こうで彼に話し掛ける瞬間を伺っていた愛子ちゃんに、恐ろしいメンチを切られたような気がしたけど、たぶん気のせいだったと思いたい。

徹夜で猫と戦っていたせいか、眠たげにこっちを見る横島君。

「んぁ?」

「えっとね…横島君、昨日猫と会話してたよね…?」

私の言葉に、横島君は愕然と眼を開き、次いで真剣な顔になる。

まさか、昨日のあれは私の見間違いで、やっぱり横島君も私を笑うのだろうか?

彼に話しかけたことを後悔しかけたとき、ようやく横島君は口を開いた。





「ネコミミは冥子ちゃんに似合うと思うんだ・・・」





どうやら寝ぼけているらしい。

結局私は、横島君の目が完全に覚めるまで待つことになった。









「で? 何だって?」

横島君は放課後になってようやく、完全に目を覚ましたようだ。

教室にはすでに、私と横島君と愛子ちゃんしかいない。

私たち三人は、机を寄せて輪になって会話し始めた。

「あのね、横島君、昨日猫と会話してたでしょ?」

私の言葉に、横島君は笑顔になって頷く。

「あー、見てたのか。俺とあのボス猫との間には、魂での絆があったからな〜。昨今の映画情報から株式相場まで、いろいろな話をしたもんだよ」

ナチュラルに嘘がつける横島君はすごい、私は素直にそう思う。

愛子ちゃんが感心したように笑う。

「へぇ、横島君って猫と会話できる人なんだ? 青春よね〜」

たぶん青春じゃないとは思ったけど、愛子ちゃんの口癖みたいなものなのでもう誰も突っ込まない。

「笑わないで聞いてほしいんだけど、私、昔から猫になりたかったの。子供じみた夢だってわかってはいるんだけど、どうしても諦めきれないの」

私の言葉に、二人は神妙な顔で頷く。

「わかるわ〜。私だって今でも、テーブルになりたいって思うもの」

「俺も俺も。俺はナマケモノになって、一日中寝て暮らしたいんだよなぁ〜」

正直、一緒にしないでほしいと思った。

私は子供じみた憧れを抱く、云わば夢想家だけれど、二人は単なるダメな人だと思う。

テーブルと机の違いって何? 大きさ? 叩いて伸ばせば?

ナマケモノって何? ほ乳類アリクイ目のあれ? それともただ単に怠けた人? あんまり寝すぎると早死にするよ!

もしかして、私遠まわしに馬鹿にされてる?

「ああ、それで猫と会話できる俺に、猫になる方法が聞きたいわけか」

横島君は納得したかのように頷き、そして笑って言う。

「よし、わかった! 俺のダチのボス猫に、『どうやって猫になったか』聞いてやるよ!」

きっと生れたときから猫だった、と答えるに違いない、と私は思った。

喧嘩してる間に友達になったんだねぇ、横島君。よかったねぇ。







「ニャ―、ニャ―ニャ―」

「『なるほど、それで私のところへ来たのか』と言っている」

高校から10分ほど歩いたところにある空き地で、私は横島君とボス猫に会っていた。

横島君の通訳のもと、私はボス猫と会話している。

横島君は本当にボス猫と友達になっていた。

修羅場を何度も潜り抜けたような雰囲気を持つ、貫禄たっぷりのボス猫を『ダチ』と紹介した横島君を、私は少々見直した。

それはともかく、以下会話の内容である。






「はい。私、どうしても猫になりたいんです」

『ふむ…私は生れたときから猫だった故、どうすれば人間が猫になれるか、は分からぬ…』

「はぁ、やっぱりそうですよねぇ…」

『だがな、人間の少女よ。猫になりたいと言うおぬしの心意気、誠に見事であると言わざるを得ない。どうだね? 私の弟子になると言うのは?』

「弟子、ですか?」

『そう。猫の中の猫たるこの私の弟子になれば、あるいは人間が猫になることも可能かも知れぬ…』

「やります! 私、ボス猫さんの弟子になります!」

『よしわかった! これからは私のことを師匠と呼びたまえ!」

「はい、師匠!」






………と、まぁこんな会話だった。

そういうわけで、私はボス猫に弟子入りしたのである。

まず最初は、猫と会話できるよう、魂の絆を作らなければならなかった。

難しい、と思っていたのだが、案外簡単に習得できた。

どうやらいつも『猫になりたい』と思っていたことが幸いし、猫と魂の絆が出来やすかったようだ。

それなら何故横島君が猫と会話できるのかと問うと、どうやらバイトで化け猫がらみの仕事があったらしく、そのせいだろうと言うことだった。

やっぱり横島君はすごい人なんだ。

猫と魂の絆が作れるまで手伝ってくれ、その後『バイトがあるから』と颯爽と消えていった横島君に、私は尊敬の眼差しを送った。












『よし、そこまで! これも完全に習得しているようだ』

「ありがとうございます!師匠!!」

ボス猫に弟子入りしてから数日。私は毎日、空き地で猫の弟子として修行している。

今は『足で顔を掻く練習』をしていたところだ。

実は、子供の頃から猫になりたくて色々練習していた私にとって、猫の癖を真似ることなんて造作も無いことだった。

師匠から言われる課題を、私はどれもパーフェクトにクリアーしている。この調子でいけば、そろそろ猫になれるかもしれない。私は貴たいで胸を膨らませていた。

そんな私に、師匠は微笑する。

『ふっ、次のステップに進みたくてうずうずしているようだな』

「いえ、そんなことは…」

「かまわぬ。上を見上げることはいいことだ。よかろう、基礎は出来た。そろそろ「猫力」を教えよう!』

師匠の口から出た耳慣れぬ言葉。意味は全く分からないけれど、どこか神秘的な響きを持っている。

「ネコヂカラ、ですか?」

『うむ。全ての猫が持つ、神秘的なエネルギーのことだ。
 猫の中の猫は、それを使って未来を予知したり、超能力を働かせる。
 正義のネコヂカラを操る戦士を『猫の騎士』と言い、私もまたその猫の騎士の一匹だ。
 その猫力を、おぬしに教えよう!』

「あ、ありがとうございます、師匠!!」

感動で全身が震えるようだった。

ネコヂカラ。全ての猫がもつ、神秘的なエネルギー。

そのネコヂカラを、師匠は私に教えてくれるのだ。

私は感動のあまり師匠を抱き上げ、ほお擦りしてしまうのだった。








そしてその日から、ネコヂカラの修行が始まった!







『まずは宇宙を流れる「ネコヂカラ」を感じることから始めよう。目をつぶり、心を落ち着かせるのだ』

私は目をつぶる。

宇宙を流れる猫力。全ての猫が持つ神秘的なエネルギー。

きっと、私にも感じることが出来る。なぜなら、私は猫になりたい人間なのだから。

『考えるわけではない。感じとれ!』

師匠の言葉に、私は考えることをやめた。

途端、体がなにやらむずむずする。まさか、これが…?

「し、師匠! 体がなんだかむずむずします!」

目を瞑ったまま、私は叫ぶ。

これが、これがネコヂカラなの…?







『いや、それは私の蚤だ』




「いやー!」

悲鳴をあげて、私は全身をはたく。

うう、なんだか痒くなってきたような気がする。

そんな私の姿に、師匠が苦笑する。

『私は猫の騎士とは言え、野良猫だからな。野良猫など抱き上げてはならんぞ』

はたいたところで、蚤が体から落ちるわけじゃない。

泣きそうになる私に、師匠は前足を向ける。

『いい機会だ。見せてやろう。これが、ネコヂカラだ!』

師匠が気合を発した途端、私は熱い風のようなものを感じた。

全身からむずむずが消えうせる。師匠が、何かしたのだろうか?

「し、師匠! むずむずが消えました! それに、熱い風みたいなものが…。あれが、ネコヂカラなのですか?」

『そう。猫の騎士の使うネコヂカラは、あらゆる奇跡を起こす。
 今、私はおぬしの体から蚤を消滅させた。あの風の様なものこそが、凝縮されたネコヂカラ。
 既におぬしは一度ネコヂカラをその身に受けた。さぁ、もう一度目をつぶりなさい』

師匠の言葉に従い、私は再び目をつぶる。

その途端、私は『感じた』。

世界を取り巻く、熱い風のような物。

考えるよりも早く、理解するよりも早く、それがネコヂカラだと感じる。

「師匠! 感じます! 世界に流れるネコヂカラを、私は感じます!」

私が喜びの声をあげた瞬間だった。

『ソレ』を感じたのは。

途方もなく熱く、果てしなく強い、金の猫。

その金の猫が、私の中にいる!

「し、師匠! 金色の猫が! 金色の猫が私の中にいます! 熱い!」

思わず目を開け、悲鳴をあげる。

そんな私に、驚いたような師匠の声が届く。

『金の猫だと!? 馬鹿な…』

気づくと、金の猫から感じた熱さはなくなっていた。

呆然として座り込んだ私の肩に、師匠の前足が乗せられる。

『今日の修行は終わりだ。家に帰って、ゆっくり休め』

師匠の言葉は、どこか固い感じがする。それが、なんだかひどく悲しかった。

「あれは、何なんですか?」

師匠は答えない。師匠の前足が、私の肩から離れる。

その前足を、私はしっかりと掴む。答えてくれるまで、絶対に離さない!

私の目をじっと見つめ、師匠はため息をつき、そして重かった口を開いた。

『私たち猫に伝わる、古い昔話だがな。かつて、人間と猫が争っていた時代があった。
 人間がまだ闇に怯えていた頃、人間は猫にとって脅威であり、猫もまた人間にとって脅威だった。
 猫は猫の騎士をはじめとする、ネコヂカラの使い手が先陣を切り、人間はその体の大きさを生かして、骨肉の争いを繰り広げた。
 そんな争いは何十年も続いたそうだ。だが、一匹の猫がその争いに終止符を打った。
 その猫は人間たち全てにネコヂカラを使い、奇跡を起こした。
 その奇跡は、人間たちが猫を脅威と思わなくさせるものだった。
 それ以来、人間は猫を疎まず、あるいは神聖なものとして奉るようにまでなったという。
 争いに終止符を打った伝説の猫。その猫の使うネコヂカラは、見る者によってはまるで金色の猫のようだったという。
 おぬしが見たという金色の猫。もしそれが伝説にある金の猫ならば、再び争いが始まるのかも知れぬ…』

師匠は語り終え、私の目を強い視線で射抜く。

私は混乱する。師匠は、一体何を言っているのだろう。

人間と猫が争っていた時代? 伝説の猫? 金色の猫は伝説のネコヂカラ? それが何で私に?

私が混乱している中、師匠が再び口を開く。

『おぬしが「猫になりたい」という思いを捨て切れなかったのも、あるいは運命だったのかも知れぬ。
 既におぬしはネコヂカラに目覚めてしまった。おぬしはこれから、自分の意思に関わらず運命の濁流に飲み込まれるであろう。
 私に出来ることは、おぬしにネコヂカラのコントロールを教え、その濁流に負けぬ騎士に育て上げることだけだ』

師匠の言葉にも、私は反応を返すことが出来なかった。




















それから、一ヶ月が経った。

金色の猫を見てからというもの、修行は苛烈を極めた。

毎日毎日、引っかき傷や噛み傷を全身に作り、学校を休んでまで修行した。

とても辛かったし、毎晩枕を涙で濡らしたけれど、やめることだけは出来なかった。

師匠が私の身を案じてくれていることが、嫌と言うほど分かっていたから。

厳しい修行を潜り抜け、私はついにネコヂカラを習得していた。

そして今日。私と師匠は、横島君と師匠が死闘を繰り広げた、あの河原に来ている。

本気になった師匠と、戦うために!



『覚悟は出来たか・・・?』



師匠の声からは、凍てついた殺気しか感じられない。

気圧されないよう、深呼吸して、私は師匠に答えた。

「はい、師匠!」

『ゆくぞ!』

その言葉と同時に、師匠の姿が消える!

腹部に衝撃が来る。ネコヂカラを纏った師匠が、私のお腹めがけて突っ込んできたのだ。

生身で受ければ、私のお腹には穴があいていただろう。けれど既に私の周囲にもネコヂカラが張り巡らされている。

後ろに飛んで衝撃を殺しながら、私は腹部の師匠に肘打ちを放つ。

『甘い!』

肘打ちが当たる寸前、師匠の姿が消える。その途端背筋に寒気が走り、私は思わず身をすくめる。

首に、熱い刺激があった。頚動脈を狙われた? もし身をすくめなかったら、と思うとぞっとする。

視界の端に、黒いものがよぎる。動きを予測し、ネコヂカラを纏った裏拳を叩き込む。

手応えが無い――!? 焦った私が振り返った先。そこに、師匠は泰然と構えていた。

とんでもなく強大なネコヂカラを纏っている。まるで今までの戦いが遊びだったとでも言うかのように。

そして、師匠が吼えた。





『シャーーーーーーッ!!』




師匠のフルパワーのネコヂカラが迫ってくる。

不思議と、時間の流れが遅い。心のどこかで、もう死ぬんだと納得する私がいる。

諦めて、目を瞑ってしまえば楽になる。





だけど。




何のために、師匠は私を鍛えてくれた?

何のために、私は辛い修行を乗り越えた?

何のために、私は今、ここに立っている?

諦めることなんて、絶対に出来ない!





その途端、私の中で『金の猫』が吼えた。




私の体から、信じられないほどのネコヂカラが放出される。

そのネコヂカラは師匠のネコヂカラを跳ね返し、師匠の体をまるでゴミくずのように空へと巻き上げた。

私は慌てて走り、落ちてくる師匠の体を抱きとめる。

師匠は、ぼろきれのようになって、気絶していた。

勝った――。だけど、嬉しさも、達成感も何もなく、ただ、師匠に対する感謝だけが私の中にあった。





「ありがとうございます、師匠」











『強く、なったな…』

気絶からさめた師匠は、どこか嬉しげにそう言った。

『私は、結局おぬしを猫にすることは出来なかった。
 だが、おぬしはもう立派な猫の騎士だ。
 これから、どんな運命がおぬしを待っているかは分からない。
 決して、諦めるでないぞ…』

私は感謝をこめ、師匠を抱きしめて頬擦りした。

もう、蚤なんて怖くない。











 そして私は、人の身で『猫の騎士』となった。

 これから、どんな運命が私を待っているかは分からない。

 だけど、決して諦めることなく、運命を切り開いていこう。









 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





「そう言えばさ…」

「何? 横島君?」

「君、名前なんていうんだっけ?」

「ちょっとちょっと、クラスメイトの名前忘れないでよ!」

「いや〜、どうも度忘れしちゃったみたいで。何だったかなぁ?」

「もう、ちゃんと覚えてよね、私の名前は――――――――




            空歩 るぅ! 



        英語で言えば、ルゥ=スカイウォーカーよ!」

「何で英語で?」

「なんとなく」
 
 


                                                                       To be continued...

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa