とらぶら〜ず・くろっしんぐ(8)
投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(03/12/ 6)
目覚めて、まず横島がしたのは、おたおたとする事だった。
「…ごめんなさい… …ごめんなさ…い…」
彼を見てぽろぽろと涙を零して謝る紫穂と。
「大丈夫なの、ヨコシマ?」
ばつが悪そうに、そして居心地悪そうにしながらも、ストレートな気遣いを見せるタマモ。
醒めやらぬ呆然とした頭が、状況を測れず混乱する。
周囲を漂う白い影が、そんな彼等と付かず離れず漂っていた。
とらぶら〜ず・くろっしんぐ ──その8──
「私のチカラの所為なの…」
そう答えて紫穂は、すまなそうに俯く。
「あぁ、そう言う事か」
混乱から抜けて、横島もまた、あの不思議な記憶の交錯を思い出していた。
言ってしまえば、高密度霊圧下での、超能力の制御不能。
紫穂とタマモを庇って抱き寄せた事で、図らずも接触感応が発動し易くなっていた。 それも、不意打ちのトラップに、簡易結界から離されての、だ。
制御不能になった際、紫穂はチカラが強まるタイプだったのだろう。 本来なら読むだけのソレが、個々の意識が混濁する様な双方向認識に至ったのだから。
「気にすんなって、な。
見えちまったのは、お互い様なんだし」
すぐ横にぺたりと座って俯いた彼女の頭を、ぐりぐりと撫でて苦笑を浮かべる。
「おまえもだ」
空いた片手を同じ様にタマモの頭へ。
「ナニすんのよ」
そう言いつつも、彼女も手を払い除けようとせずに、横島のしたい様にさせている。
引け目や、同情、共感、庇護欲求。 色んな物が綯い交ぜになって、手から伝わる何かを拒絶する気になれなかったのだ。
紫穂もそうなのだろう。
気持ち良さげと言うより、粛々として頭を垂れている様にさえ見える。
それぞれがそれぞれに垣間見せた記憶は、どれもがあまり他人にひけらかせる類いのモノではなかった。
だけど、と彼女達は思う。
横島のソレは、『大事な存在を失った過去』。 …それも、未だ彼の中で止め処なく血を流しているモノ、なのだ。 今の二人とは比較にならない痛みを、横島のソレは持っている。
彼と違ってタマモや紫穂のソレは、得られなかった物であっても、少なくとも現在、何がしかのカタチで満たされているのだ。 未だ開いた傷口から、血を流し続けている横島とは違って。
それが判るから、彼女達は黙るしかなかった。
横島にしてみれば、だから二人が塞ぎ込む必要など無いと思っているが。
その傷すらも彼の血肉なのだ。 傍目への演技ではなく、『彼女が望んだだろう彼』であり続ける為にも、自身、その事に塞ぎ込む訳には行かない。
…いつか、笑って迎える日の為に。
「さて、と…」
沈黙を破ったのは、当然の様に横島。
「こいつらは操られてなさそうだから、ほっといてもいいけど…
とにかく、今はどうするかを考えないとな」
頭上を見上げれば、ふわふわと漂う霊体の向こう、天井にぽっかりと小さく開いた穴。 高さは最低でも15m以上。 地下室の明かりが見えない事から、真っ直ぐに落ちてきたのではなさそうだ。
こう行ってはナンだが、庇われていた二人はともかく、横島はよくもまぁ大きなケガも無く済んだものである。 普段から、突き落とされる経験を積んでいた為かも知れない。
「そ、そうね。
上は邪魔な連中も居るし、ただ登るにしても難しそうだわ」
今のところ天井に向かって密度を増している霊達は、漂っているだけで彼等に攻撃して来る様子は無い。 だが、実戦向きの能力を持たない紫穂を、庇わなければならないのだ。 紫穂一人程度なら連れて飛べない事は無いが、その最中に突然攻撃を受けたら対応しきれない。
「ここって鍾乳洞ってヤツだよな…」
「そう、だと思います…」
見回して呟く横島に、ようやく紫穂も顔を上げて言葉を返した。
彼等が落とされてきたのは、延々と伸びている細長い空間の一角。 落ちてきた衝撃でか、周囲には折れたり砕けたりしている鍾乳石が、瓦礫と共に散らばっている。
「風は流れてるみたいよ」
くんくんと匂いを嗅ぐ様に顔を上げていたタマモが、闇に溶け込んだ先に目を向けてそう言う。
「それじゃあ」
「外かどうかは判らないけど、何処かには繋がってるんじゃない?」
聞いて横島は、腕を組んで考え出した。
上に漂ってる連中の事もある。 このままで助けを待つのは、少なからず危険な気がした。 彼らは問題なくても、実質ただの小学生の少女を連れているのだ。
「やっぱ、もう無いか…」
「簡易結界ね?」
背負っていた荷物をごそごそと漁って溜め息を吐いた横島に、タマモが問い掛けると、彼は頷いて応えた。 準備も彼の分担だから無いのは判っていたが、それでもと探したのは状況が状況だから。
少女達が横島の肩越しに覗き込んで見れば、中に入っていたのは予備の神通棍や御札、霊体ボーガン1セットなどの攻撃用霊具ばかり。
その他に食料2日分のパック、但し一人用。 懐中電灯や簡易コンロ、防寒具にシュラフまであるから、灯や暖にも余裕は有る。
「…あれ?」
「ナニよ、コレ?」
一瞬納得しかけて、タマモと紫穂の顔に疑問の声を上げた。
今日の仕事は、本来、建物への短時間の突入であり、遭難者の探索行ではないのだ。 霊具はともかく、食料その他はどう考えても不要だろう。
現在の状況には、いっそ適しているのだが。 …だから二人も、あまり不自然に思わなかったのである。
本来場違いな筈のこれは、しかし美神事務所の標準装備だった。
「何って、いつもの荷物だけど?」
横島が持つ事になるから、無駄にしかならなそうな物まで入っているのだ。
これを準備した当の本人は、いつも背負ってる荷物だからと、まるで内容に違和感は感じていない。 何せ美神の下で働き始めてよりこちら、彼の主な仕事は『荷物持ち』なのである。 霊力に目覚め、並々ならぬ経験を積んだ今でも。
「いつものって…」
言い掛けて、タマモは黙り込んだ。
振り返って見れば、確かに彼はいつもコレくらいの大きさの荷物を背負っている。
彼女が持つ事は無いから全く気にならなかったが、今日の横島の動きを見る限り、その言葉が真実なのだと判った。
「よくやるわね…」
「何がだ?」
「判んなきゃいいのよ。
それより、これからどうするの?」
苦笑を洩らすと、タマモは話を変えた。
「なんか、ここに居続けてると、ヤバい様な気がすんだよな…」
「ふ〜ん、ヨコシマも。 じゃ、とにかく動いた方が良さそうね」
二人して頷き合う。
霊能の徒の……それも複数の勘だ。 侮る訳にはいかない。
「あの…」
「ナニ?」
恐る々々掛けられた声に、二人の視線が集まる。
「こう言う時は、動かず助けを待った方が…」
「単に道に迷ってるだけなら、その方がいいんだろうけどな。 美神さん達も動いてるだろうし」
「ミカミが?」
意外そうな顔に、横島は苦笑いを浮かべて答えた。
「俺一人はぐれたんなら来ないけどな。 今はこの子が居るからな」
そう言って頭を撫ぜられた紫穂が、軽く首を捻る。
「私が何なんですか?」
「GSも客商売なんだよな。 で、何より今回の話は3人を安全に送り、帰って来るのが最低条件なんだから、俺らに任せっきりで何かあったらあの人の信用に関るんだよ。
慰謝料を払うなんて事にでもなったら、俺なんか死んでても殺されかねん」
それを聞いてタマモも、ぽんと手を打った。
「ミカミだもんね」
「そうなんですか?」
「そうなんだよ」
ぶるぶるっと震えて、大仰に溜め息を吐く。
良くも悪くも読み切った彼のそんな様子に、ようやく二人の顔にも小さな笑みが浮かんだ。
【続く】
────────────────────
……ぽすとすくりぷつ……
今、ちょっち仕事が忙しいんですぅ…(泣)
って事で、次は来年になりそうな予感(^^; 冬用のもなかなか書いてる余裕が無いわ、ペルもまだまだ掛かりそうだわ… 風邪ひいてる所為でもありますが(苦笑)
折角、使える容量が増えてると言うのにこんな量なのも、そんな訳でして。 揚げ句、内容がないよぉ…(泣)
正月休みにどれだけ書き溜められるかが、勝利の鍵だな、うん。
と言う事で、また。
今までの
コメント:
- コメントが2回目のkuromimiです。逢川さんの書かれている横島の雰囲気が
良い感じで気に入っております。たしかに今回はあまり進展してないですが、
ファン票とゆうことで1票です。くれぐれもお体に気をつけられてお過ごしください。次回に期待しております。 (kuromimi)
- わ〜るいんだ・わ〜るいんだ、よ〜こちゃんがなかした(^^
思わずそうつっこみたくなりました(^^
横島君、なつかれていますね〜
がんばれ・横島のお兄ちゃん、将来の夢はお兄ちゃんのお嫁さんになることと書かれるその日まで(^^ (黒川)
- 次は正月明けてからですか・・・。
う〜ん、続きが待ち遠しい。でもおとなしく待っております。
タマモの大活躍を待っております!!!! (誠)
- 今回はインターミッションみたいな感じですね。
すっかり横島に懐いてる紫穂が可愛いです。でも……
でも、あああっ、顔がわからんのがかなりもどかしいっ!!
椎名先生のHPで3人の顔はわかるんですが、どのコが紫穂かわからんのです!
だいたい元ネタの話もわからんし……。
椎名先生の今度の短編集に入るんですよね? 待ち遠しいです。
その上であらためてこちらも読み直します。ごめんなさい。 (U. Woodfield)
- 今回はあんまり話が動いてなくて、これからの活躍の下地っぽい感じですね〜。
事務所組と可憐3人娘では、それぞれイチオシのタマモと紫穂というスバラシイチームな『落花組』に敬意を表して、賛成です。
タマモは”言うまでもないですが”、冒険の終わりに、紫穂のスタンスは「妹」なのでしょうか、それとも…?
次回も期待しております。 (YAM)
後からミスを発見(^^;
> 一瞬納得しかけて、タマモと紫穂の顔に疑問の声を上げた。
↓
一瞬納得しかけて、タマモと紫穂の顔に疑問が浮かぶ。
ちゃんと見直ししないからだわ(泣)
kuromimiさん
先まで入れようとしたら半端になりそうな気がしたって事もありますが、巧く纏まらなくて、時間も無くて、きりの良さそうなとこでばっさりしちゃいました、今回(苦笑) 次回はもう少し進展のある物になるよう頑張ります(__)
黒川さん
あ〜らら、こらら〜 み〜かみさんにいってやろ〜(爆) ってな事になったら、マジ半殺しに(笑) 将来の夢……名前が名前だし光源氏計画ってのもアリな気もするけど、横島だしなぁ(^^; (逢川 桐至)
- 誠さん
ときおり無性に書きたくなっていきなり筆が進む事もありますが… 次のはやはり、暮れを周りそうです、すいません。 タマモもですが、紫穂もちゃんと動かしてやりたいんですよね。 能力を絡めるのが大変なんですが(苦笑)
U. Woodfieldさん
絶チルは、表紙に載っていないんで、入らない様な気も… だから、次の連載は、とか目してしまう訳ですが(笑) ちなみに、帽子被って振り向いてる、紫のショートの娘です、紫穂(^^; 今のトップにあるタマモで膨らんだ妄想も、書き掛けてたりするんだけど、中々進まなくて(苦笑)
YAMさん
私にとっても、お気に入りの組み合わせです、やはり(笑) タマモは……まぁ、私ですし(^^; 紫穂は、それにりに微妙なトコで(笑) 『狐』の私の娘ではないけど、小学生なんですよ、紫穂は(苦笑) (逢川 桐至)
- お久しぶりです逢川さん〜相変わらず上手いです〜
よっ!!タマモ王!!(激爆)
それにしても、横島がかっこいいですね〜
この3人組がいっしょに行動する小説って本当にこの作品だけような気がします。
紫穂がかわいい(笑
先の展開が楽しみです。
風邪をひかれたんですね。お体を大事に、無理をしなでください〜
3日ぐらいまとまった休みをとると良くなると思うんですが・・
次回も楽しみにしております〜 (かぜあめ)
- はじめてコメントします。7thあいず と申します。以後お見知りおきのほど・・
逢川さんの作品、「ぺるそな」と「DwF」をいつも楽しみに読ませていただいてます。
実は、ここ(展開予測ショー)にこんなに沢山のSSがあることを最近知りまして(汗)
しかも中には逢川さんのものまでっ!!一ファンとして迂闊この上なしです。
一気に読ませて頂きました。
うーん、おもしろい! びみょーにタマモびいきなところも是!(笑)
続きは年越しだそうで、正月を楽しみにしてます。 (7thあいず)
- かぜあめさん
この組み合わせは、余程の事が無いと選択されない様な(笑) 紫穂は、子供達の中で一番の贔屓キャラなので、気が付くと可愛くなるように筆が…(苦笑) んでもって、この時勢に3日も休んだら生活がヤバいですって、マジに(^^; ともあれ、かぜあめさんも続き頑張って(^^/
7thあいずさん
はじめまして。 他の物も読んで頂いてる様で、ありがとうございます。 タマモなのは、微妙にと言うか、思いっきり私の色なので(笑) 少々更新間隔の長くなりそうな昨今ですが、宜しければ今後のも読んでやって下さい。 (逢川 桐至)
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